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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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パイリン・ザ・ドラッケンマスター?(4)

 上空から見下ろすと円形である城塞都市の中央にある、大空龍タイクーロン騎士修道会の建物。ここもまたそれ自体が円形の城塞となっており、都市内に侵攻を許した際の最後の砦として作られている。その広大な中庭は元は騎士の演習場でもあり、現在行われている闘竜祭の会場になっている。

 観客の多くは建物の二階・三階から中庭を見下ろす形で立ち見、教会関係者や有力商人、裏社会のボスや幹部たちは四階から上のテラスに座席を設えた、指定席や貴賓席から見物している。外からこの中庭に通じる、竜が出入りできる程の大扉は二つだけ、故に闘竜の選手達は東西それぞれの扉からの入場となる。

 準決勝第二試合。西からの入場は、三番人気の選手であり実際ここまで勝ち上がってきた、裏社会用心棒(元傭兵)のボーアと犀竜リノドラッケンザコザ。使い手も竜も揃って、見るからに実戦慣れした、顔や体に傷跡だらけのコンビである。対するは一番人気の犀竜リノドラッケンアコヴァと、代理の使い手ビャクレー(偽名)。

 アコヴァは前試合までとは大きく雰囲気が異なり、覇気が見られないというか咆吼もせずやけに静か、体色も全体にくすんだ感じ。しかも何故か腹に大きな傷を縫ったような跡があり、瞳も白濁しちゃんと見えているのかも定かではない。そもそも使い手が、何故かゲアリック騎士長ではなく謎の新人、しかも女の子に変わっているのだ。

 一番人気故にアコヴァに賭けていた者たちが、これを見て一様に不安を感じたのも当然である。賭けの締め切りは試合開始の五分前まで。寸前までアコヴァ人気だったのが、急にザコザ側に傾いてしまった。
 「クックックッ、愚民どもめが、こっちの倍率を上げてくれておるわい」当然自分自身に賭けているビャクレーことパイリンは、悪徳商人のごとくほくそ笑んだ。ポニーテールの髪をといているのと口元を覆う長いスカーフは、賞金首として知られている顔を隠すための、ささやかな変装である。

 「そして労働者諸君、モツ焼き売れてる~?」
セコンドとして何故か保安官が付いているのに仲間二人の姿が無いと思ったら、アントンは借りてきた屋台でひたすら串に刺したモツを焼いてるし、それをエンジェラが観客席を回って売ってる最中だ。何故か普段は言うことを聞かないエンジェラに憑く死霊たちまでが、かいがいしく配達や代金の受け取りを手伝っている。

 「忙しいようで何より。タレが調達できなかったんで塩焼きしかないけど、素材がいいので冷めても充分な美味さよな~」先に作らせた試作品を皿からとって、モグモグ喰らいながらご満悦のパイリン。「保安官、あんたも喰う?」
 「いたただくけど何で私がセコンド?」串焼きモツの載った皿を受け取りながら保安官が聞く。結局保安官助手として無理にパイリンを雇わされたのは初日だけ、翌日からは逆に、ゲアリック騎士長の口利きもあって、ドラッケンマスターとしての彼女の準備の手伝いに駆り出されていたのである。

 「また『汚い』ゲアリックが何か仕掛けてこないための用心。流石に二度も騎士長相手に仕掛けることは無いとは思うんだけど、オレに対してなら無くもないからな。騎士長の口利きで付いた官憲であるあんたが側にいれば、やりにくいだろうし」なかなかかみ切れないモツをクチャクチャやりながらパイリンが答える。
 「高額指名手配犯と組まされるとは、保安官としての私の立場が~」保安官もクチャックチャやりながら嘆く。「しかしたしかに美味いんだけど、なかなか噛み切れないね、このモツ」

 「材料がこの竜だから……ゲフンゲフン(咳)、噛むほどに旨味が出るからお得だと思いたまえ」……どうやらアコヴァの屍体から抜いた内臓の、キノコ毒にやられた第一胃ミノを除いた部位を肉屋に売って、カットしてもらった一部を使って商売を始めた模様。今回は賞金首狙いができない分、試合の懸賞金と賭け金、各種商売で稼ぐことにしたパイリンさん、マジ商いの鬼。

 さていよいよ試合開始である。パイリンは事前に騎士長に教えて貰ったとおりの作法で選手入場を終え、闘技場中央、互いに二十メートルほど離れた位置で向かい合い、そこで鷹竜アドラードラッケンに乗った行司役が選手の名前を読み上げる。
 「東の闘士!アコヴァとマスター・ビャクレー!西の闘士!ザコザとマスター・ボーア!」それと同時に観客に向かってアピールする二人。「オレに賭けなかったバカどもはみんな死む~ッ!」パイリンは悪役レスラーのごとく、挑発的なポーズで観客のブーイングを受けながらもノリノリだ。

 さらに対戦相手にも挑発を行うパイリン。「ハハーッ!てめえのケツはオレのモンだぜー!」言ってる意味がよくわからないが、挑発により相手を怒らせて隙を見いだすとかではなく、単に楽しくてやってるのだろうな、このヒトは。
 しかし対するボーアは、ただ無言で彼女を睨め付けるのみ。この敵の実力は全く不明だが、仮にも常勝のウドー・ゲアリックの代わりを任された者、舐めてはいけないと警戒しているのだ。

 「双方見合って!」舞い上がった鷹竜アドラードラッケンの背から、行司が声を上げ、マスターに連れられた二匹の犀竜リノドラッケンは、闘技場中央近くに引かれた白線のそれぞれの位置についた。

 実戦での犀竜リノドラッケンは、背中に鞍というか装甲付きの籠のような物を背負い、マスターはそこから竜の操作や擲弾発射器による砲撃を行う、四本脚の戦車のような戦い方をするのだが、ぶつかり合う格闘戦である闘竜では、人が乗った状態では危険すぎるため、巻き込まれないように離れた位置から竜に指示することになる。

 「よしヘルツマン、事前の指示コマンドどおりに戦うんだ。オレは離れて見てるからな」
GOOOOOMゴオオオオオム」竜の口の中に潜んだ「目玉」とチラリと見せながら、ゾンビーゴーレムが唸る。竜の屍体を使ったそれは、その体が岩や鋼から肉と骨に代わっただけで、パイリンの指示に応じて動く魔像ゴーレムに他ならない。

 「アントンくん、試合始まるから手を休めて一緒に観るデスよ」持って行ったモツ焼きを完売して帰ってきたエンジェラが声をかけた。二匹の死霊たちは仕事を手伝ったご褒美なのか、それぞれ小さなお手々に串を持って、美味そうにモツをクチャクチャやっている。
 いや待て、エクトプラズムの体のくせに何故肉を喰うのか君たち。胃腸も無いのにそれ食べて消化できるの?いろいろと謎の多い生き物……いや霊体である。

 「丁度お客さんも途切れたしね。」一息つけてやれやれといった感じでアントンは答えた。ちなみに彼、最初に焼け具合を確かめた時以外に、モツを全く口にしていない。
 「何しろあの血と内臓ドバー!なスプラッタ見ちゃったからなあ。モツなんか食べる気にならないよ」思い出し青ざめるアントン、流石にトラウマが深かったご様子。

 「ん?エッちゃんは全然平気デスよ~!お仕事柄、血まみれとか腐乱死体とか、慣れてるデスからクチャクチャ」自身もモツを噛みながらエンジェラが答える。流石は死霊ゴースト使い、屍体など見慣れて不感症なのだな。
 「エッちゃんさんはいっそ服を、もっとお葬式風というかゴシックな感じにしたら?なんか似合いそうだし」
 アントンはそう言おうと思ったが、すぐに考え直しやめにした。確かにキャラがより立ちそうな提案ではあるが、その格好でモツをクチャクチャってのはミスマッチすぎる。

 一方試合の場、使いマスターが充分に離れたのを見計らい、行司が叫んだ。「始めい!」
使いマスターが指示するまでもなく、全力で頭から突っ込んでいく二匹の犀竜リノドラッケン!重い肉の塊同士のぶつかる鈍い音が会場に響き渡る。その衝撃も竜たちは何ほどのダメージも与えず、両者は一旦離れ、また激突した。

 一度目は互角に見えたが、二度目ではアコヴァがやや押された感じに見える。
 「まあ、内臓抜いたところに、代わりに軽い藁を詰めてあるからウエイトでは負けていて仕方ないんだけどな」
 パイリンが一人愚痴る。かと言って石など積めたら今度は重すぎるし、衝突の衝撃で腹の縫い目が裂けて石が飛び出して、相手や観客にゾンビーであることがバレたら、大騒ぎで試合どころではなくなってなってしまうだろうから、これは仕方がない。

 「代わりに軽量化されてフットワークはよくなったがな」再び離れた二匹だが、今度はアコヴァがザコザの突撃をヒラリと回避、それが何度か繰り返されたのを見て、観客が揃ってブーイングを始める。
「騒げ騒げ愚民ども、せいぜいヘルツマンもといアコヴァが、苦戦してるように騙されるがいいいわ~」頻繁に指示の声を上げるボーアとは対称的に、何の指示もせずに見ているだけのパイリンはほくそ笑む。

 「双方組み合って!」行司からも教育的指導が入ったのを見計らい、パイリンは初めて指示を出し、アコヴァをザコザに組み付かせた。体重差故にズルズルと押されるアコヴァ。しかし
 「ヘルツマン!壕打杭バンカーパイル!」その叫びに応じ、ゾンビーゴーレムは姿勢を変え、犀竜リノドラッケンの腹部に鼻面を密着させる。そしてズシン!と響く何かの音!

 それと同時に、優勢だったザコザが悲鳴をあげ、悶えながら地面に転がった!原因不明でいきなりの逆転にとまどうボーア。ザコザは苦悶し、立ち上がることができないようだ。よく見ればその腹、アコヴァが頭を密着させたあたりにアザができている。
そのまま転がったまま、苦しそうに悶えるザコザを認め、行司が宣告した。「勝者!アコヴァとマスター・ビャクレー!」

 何が起こったのか?完全に密着した状態での強烈な打撃、それは犀竜リノドラッケンの鼻先の角、刺さらないようにカバーが掛けられたそれの仕業であった。本来、体重を乗せての突撃で刺突するそれでどうやって?
 答えは心臓ヘルツから発生する触手状の物にあった。屍体の筋肉に絡みつき、ゾンビーゴーレムとして動かしているそれが、鼻先の角にまで浸食し、動かしていたのである。

 頭骨から切り離された角の根本に触手状神経索が集まり、バネの如き筋肉と化して収縮、爆発的にカバーごと捻りまで加えて突出、腹を突き相手の内臓にダメージを与える、強烈なボディブローを喰らわせたのだ。
ザコザの体の陰となり、観客や行司、対戦相手からはこの一撃がどんなものだったのかは、全く見えない。

 いきなりの、全く予想外の決着に呆然のボーアと観客たち。しかし一応、アコヴァに賭けていた少数の者たちは、大穴の高額配当に大歓喜。闘竜会場に、多数の怒号と少数の歓声に溢れた。
 「ハハ~ッ!オレに賭けなかった奴らは首をくくりやがれ~ッ!」憎たらしげに悪役アピールのパイリン。逆転はしたものの全般的に苦戦するフリに加え、ここで一層嫌われて、次の対戦相手・タービングを応援させ賭けさせ、また自分が勝った時の儲けを増やすための演出だ。

 「いやはや、どうやったのかわかりにくいのは感心できませんが、見事にやってくれましたな」貴賓席の青ゲアリックことウドー・ゲアリック騎士長、先ほどまでハラハラしながら観ていたのが、すっかり安心したようにベンヤミン院長に語りかけた。
 「ウム、この調子で優勝して貰いたいものだな」そう答えたベンヤミンだったが、試合でのアコヴァの動き方に、何かひっかかる物を感じていた。果たして、あのゾンビーは本当に死霊ゴースト使いの技なのか?と。 (続く)
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