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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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パイリン・ザ・ドラッケンマスター?(3)

 そして週末、奉納闘竜祭・準決勝当日。
 この城塞都市、既に語ったように交易都市となってからさほど年月が経っておらず、住民は元から居た修道騎士と、商館を置いている大手の交易商たち、市場の者たち、そして彼らを相手に商売する歓楽街の者たち、裏社会の連中が定住者の大半を占める。

 もっと年月を経れば家族を連れて移り住んで来る者や、この地で結婚し子供を作る者も増えていくのだろうが、今のところ交易商の奥さん達や色町の女達くらいしかおらず、大半はおっさんという人口比率だ。
 しかも本日のおっさんたち、一様に眼が血走り異様にギラギラしている。というのも、彼らが闘竜祭に来る最大の理由が、その勝敗を賭けたギャンブルのためだから。流石に金がかかると場の空気が違うのだ。

 さて、準決勝一試合目。この街の裏社会で闘竜祭を仕切る有力な一家のボスでもある、ヴォルフ・ゲアリックの操る犀竜リノドラッケン・タービングの登場である。
 その姿は見るからに凶暴そう、というかこれを凶暴と言わずして他に何という?な顔つき、草食動物のくせに口からはみ出した尖った牙、悪役丸出しなイボイボ付きのプロテクター、悪の中ボスが使う怪物の具現化であると言える。

 「本当に、その死霊使い《ゴーストマスター》とやらに任せて大丈夫なのか?」
会場の貴賓席、修道教会のお偉いさん用の一番良い位置に腰掛けた、痩せぎすの中年男が、青ゲアリックことウドー・リッター・フォン・ゲアリック騎士長に訪ねた。
 彼の名はベンヤミン・ケンプフェン。ここの修道院長であり、騎士長である青ゲアリックの直接の上司である。

 「ハッ、驚くべき事にあの娘達、死して間もないアコヴァに仮初めの命を与え、本日の闘竜を可能にしたのでございます」
 青ゲアリックは思い出す。犀竜リノドラッケンアコヴァが死んだその日の夜のことを……



 深夜、パイリン達の元宿営地、改め犀竜リノドラッケンの死体が転がってる場所。さすがにこんなものが転がってる脇では寝泊まりできないと、近くで野営していた旅の商人たちは移動してしまっていた。
 「フハハハハ~!これよりドラッケン復活の儀式を執り行う~ッ!」
なにやらテンションの上がっているパイリンが、ポンチョをマントのように翻し、必要も無いのにその辺で拾った枝切れを魔女の杖のように振り回す。

 そして潰れた鎧からゴーレムの心臓ヘルツを取り外し、横たわる犀竜リノドラッケンの胸の辺りにすえ付けた。
「トコイ トコイ トコイ トコイ トコイ・・・まちがいまちがい、これは呪殺用の呪文」
 エンジェラがすかさずズルッ!と滑って姿勢を崩す「ズッコケ」を行ってから「いーかげんにしなさい」とツッコむ。天然ボケ担当かと思いきや、ツッコミもできるのか、偉いぞエッちゃん。

 「いや冗談はここまでにして……」そんなその場の誰にも元ネタのわからないであろう冗談に何の意味が?しかしパイリン、ここだけはマジだとばかりのシリアス顔で、新たなゴーレム創造の呪文詠唱を始めた。

 「『ツァカリアス』!『オットー』!『マアタ』!『ベアタ』!『イーダ』!『エーミール』!……報復の時は来たれり!汝!おのが仇をおのれ自身で討つ者!」
 「呪文確認パスワードチェック」竜の口からヘルツマンの機械的な声が漏れる。
 バシバシバシバシ!ヘルツから伸びた「触手」が犀竜の肉に侵入し、全身に広がっていく!それは四肢の神経に、筋肉に絡みつき、死んだ体をビクンビクンと動かし始めた!。

「ゾンビー!ゴーレム!」
GOOOOOOOMゴオオオオオム!!

 いつもの雄叫びよりだいぶ低いくぐもった、それこそ呪いの詠唱の如き不気味な響きが、竜の口から漏れる。大きく開けた口、喉の奥から覗き見える……それは目玉!パイリンのゴーレムの意匠たる、巨眼がこんなところに隠れていた!
 「フハハハハ!生きている!生きているぞ!」天才と紙一重きちがい博士みたいに狂笑するパイリン。マジでおかしくなっちゃたのかと思うくらいにノリノリだ。

 「いや~、試してみたかったんだが設計段階で止まっていた、作るのが初めてのタイプのゴーレム。しかしぶっつけ本番でも大成功!流石オレ様ゴーレム・ハイ・マスター!組合登録マスター序列第二位は伊達じゃねえですよ!」
 「え?師匠ってそんなに地位が上の人だったの?」
 「フハハハハ、頭が高い!オレより上は、宗家の長であるグランドマスター様しかいないのさっ!」

 あ、また誇大妄想が始まってるな、とアントンは思った。そんな偉い人がこんな所で、あり合わせのウッドーン鍋半分を台無しにされたのが原因で激怒するわけないじゃん。
 「これぞ『生き物をゴーレムにした悪い子は折檻』という、組合とグランドマスター様の規制をすり抜ける裏ワザ!動屍体魔像ゾンビーゴーレム!」パイリンの得意げな演説が続く。

 「屍、即ち単なる肉と骨!つまり苦痛を感じたりこれ以上死んだりすることの無い『物』!オッケー!オールオッケー!」よほど嬉しいのか、興奮気味にアピールするパイリン。
 この黄泉がえりの儀式じみたゴーレムという発想に、エンジェラと死霊たちは素直にすごいすごいと感心していたが、アントンはちょっと疑問を感じたようだ。
 「でも師匠、コレ倫理的にマズくなくない?人間の屍体でやったら大騒ぎだろうし」

 「それは組合でも、検討中の案件に付き今のところセーフ!……まてよ?オレがいないこの一年の間に新ルールが決まったかもしれんな?」
 ふと何かに気付き、パイリンの表情が俄に固く、少し青ざめる。
 「もしこれも既に違法、禁じ手扱いになっていたら、組合から除名、ア~ンド、グランドマスター様からの激い折檻が!やべえ!オレのおシリが!おシリが大変なことに!らめぇ~(悲鳴)!」

 いったいおシリに何をされるんというんだ、グランドマスター様もヤバい人なの?とアントンは思ったが、子供が聞いちゃいけない話のような気がしたので黙っていた。
 「いやしかしここまできたら止められない止まらない。オレの新ゴーレム研究開発の意志たるや不退転!決して報酬プラス賭け金でボロ儲けとかではなく!」
 後半のそれこそ本音でしょ、と皆思ったけど聞かなかったことにした。

 「おおッ!本当に!本当にアコヴァが蘇ったのか!」
いつの間にか近くに来ていた青ゲアリックことウドー騎士長が叫んだ。
 「ああ『きれいな』ゲアリックのおっさん、ちょっと早かったね・・・蘇るところ、見ちゃった?」
 「いや残念ながら、というか秘伝故に見せられないから、術式が終わった頃に来いという約束だったではないか」

 流石にパイリンも関係者以外にゴーレム製造とゴーレムマスターであることは教えたくなかったので、「これは死霊使い《ゴーストマスター》によって屍体に代わりの魂を封じ込め、一時的に屍体を動かすものだ」と偽っていたのだ。

 「しかしすごいものだな死霊使い《ゴーストマスター》殿!これで闘竜祭の間まではアコヴァは生きている時同様に戦える、ということだったな?」
 「エッちゃんよくわかんない」と、本物の死霊使い《ゴーストマスター》であるエンジェラさん。
 「ハッハッハッ、下っ端死霊使い《ゴーストマスター》の、おばかちゃんエルフが何か言ってますが、このオレ、ゴースト・ハイ・マスターの白零ビャクレーにお任せあれ、そして報酬の兼ヨロシク!」

 今回は彼女の名の、マイナーな方の読み方である「ビャクレー」を偽名として使い、自分も死霊使い《ゴーストマスター》ということにしたようだ。
 「しかし屍体に仮初めの命を与えて期間限定で動かしているんで、これは見た目はアコヴァだけど、中身は別物、オレじゃないと操れないぞ。」
 「ウム、そう聞いていたので、既にお主を代わりの竜使いとして申請済みだ」

 「屍体だから当然時間が経つと腐り始めるから、涼しい今の季節でも週末くらいがバレない限界だな。祭りが終わった頃にバラして肉屋さんに下ろすといい値が付くよ」
 「師匠、この竜食べちゃう気?!」アントンもびっくりである。
 「いや犀竜は草食性だから臭みが無くて美味しいよ?それも五日ほど寝かせたくらいが食べ頃」
 「ウム、実際戦死した犀竜は、軍の食料としていたぞ。皆泣きながら、美味い美味いと亡き竜に感謝して、ありがたく頂いたものよ」

 「エッ!いいんだそれで?大事な竜だったんでしょ?」
 「勇敢に戦って死んだ竜の魂を、血肉と共に我が身に宿さん……という宗教的な理由はおいといて、ぶっちゃけ勿体ないし、こんな大きい竜を穴掘って埋めるのは難儀だしのう」
 「ぶっちゃけすぎだよ!」なんかいろいろとヒドい話だ!
 「ああしまった、内臓は腐りやすいから先に抜いて売っておくべきだったな。モツ焼きとか巨大腸詰め《ソーセージ》とかできるし、今から腹開いて出しちまおうか」
 「グロいからそれだけは止めて~!」と抗議するアントンだったが……
 (なおその後おこった身の毛もよだつスプラッタ描写については割愛させて頂きます)



 「……というわけで、いかなる敵の攻めに対しても、怯むことなく痛みも感じることの無い、無敵のドラッケンができあがったとのことであります」
 「なんとも不気味ではあるが、勝って貰わなければ困るのだ」
 「いかにも、あくまでも儀式である祭を取り仕切る我ら修道会が勝たねばならぬは必定。決して賭け事を仕切るヴォルフ・ゲアリックめを優勝させてはならんのです」

 「アコヴァの暗殺を理由に失格にして、処罰はせぬのか?」
 「それをやってしまうと、決勝を待ちわびる観客が納得せぬでしょう。下手をすると我らが勝つために奴をハメたとか、噂にでもされたら事ですぞ。それに吾輩としても、闘竜で決着をつけたいのです」
 「調べたところ、あ奴め大逆転優勝をきっかけに発言力を増し、その後の祭の主導権を握ろうと、先頃よりあれこれ手を回していたようだが、とうとうドラッケン暗殺などとは!浅はかにも程がある!」
 「我が親類ながら汗顔の至り。そもそもアコヴァを殺してしまっては、賭ける対象が奴のドラッケンに寄ってしまい、オッズが下がって自分に賭けても儲からないだろうに……もしやあ奴、バカなのでわ?」



 場面は変わって、準決勝第一試合を控えた「汚い」ゲアリック、赤ゲアリックことヴォルフ・ゲアリックの控え室。
 「アコヴァが生き返りやがっただとォ!しかも選手が交代?どうなってんだそりゃあ!」
 あまりにも予想外のことに驚く赤ゲアリック。
 「ウヌレ、毎年毎年優勝者がウドーの兄さんなせいで、決勝戦の賭けがもり上がらねえのを何とかしようとしたのだが!」
 そこに修道教会の二人と同様の疑問を感じた部下が尋ねる。
 「いや殺しちまったら、有力なライバルがいなくなって優勝賞金は貰えても、賭けの払戻金が少なくなるんじゃないんですかい?」

 「いやいや、ホントは殺すつもりはなかったんだわ。毒キノコで体調不良にして、弱らせて決勝で勝つつもりだったんだが」
 「で、キノコの量を間違えた、と?」
 「その通りだよ、てやんでィ畜生ィバーロィ!」ドジッ子なゲアリックであった。
 結果、今までウドー・リッター・フォン・ゲアリック+アコヴァの優勝がド鉄板なせいで払戻金の倍率が低く、たとえ勝つ方に賭けても大して儲からなかったのが、今度はヴォルフ・ゲアリック+タービングの優勝確実と予想されてしまい、やはり払戻金の倍率が下がってしまったわけだ。

 「決勝で大逆転勝利するから大もうけできるのに……もしや親分、バカなのでは?」と、思わず口に出してしまう部下A。
 「ワッハッハッ、こいつぅ~」にこやかな顔のまま右フックを放つ赤ゲアリック、部下Aはきっちり三回転してから、糸が切れたマリオネットみたいに床に崩れ落ちた。
 「バカってゆー方がバかなんだよウエ~ン!」どっかのおばかちゃんエルフみたいな事を言う赤ゲアリック。
 「だがしかし、生き返ったのなら話は別よ!」
そう、アコヴァ死亡の報でタービングに傾いていたオッズが、ここにきて再びアコヴァ人気となったのだ。

 「ここでタービングに賭けて勝てば九倍の大儲け!生き返ったからって体調は万全なわけがない!最初の計算どおり、ってワケよな~!」
 結果オーライにはなったが、毒キノコの量の件と良い、いろいろな点で杜撰すぎたのではあるまいか?やっぱ赤ゲアリック、バカなのでわ?



 闘竜のルールは実にシンプル、基本は互いに体当たり。自分はサークル内から出ることなく相手を押し出すか、相手を転がして戦意を喪失させたと見なされれば勝利となる、要するに「竜相撲」である。
 ただし犀竜リノドラッケンの鼻先から伸びる一本角は、厚い外皮に覆われていてなお大きな外傷を与えかねないので、先を丸めて刺さらないようにした角カバーが義務づけられ、刺突ではなく打撃武器にされている。

 さて準決勝第一試合、赤ゲアリックとタービングは速攻で勝利を決めた。というか、タービングの凶暴すぎる顔だけで相手の竜が萎縮してしまい、最後まで積極的に攻めまくっての勝利であった。「わかりやすい」恐怖を演出した赤ゲアリックの作戦勝ちと言える。
 そしていよいよ準決勝第二試合。正規の選手であったウドー・リッター・フォン・ゲアリックの代理として、賞金稼ぎ兼、お尋ね者・パイリン……もとい、ゴースト・ハイ・マスター兼、竜使い《ドラッケンマスター》・ビャクレーの登場だ! (続く)
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