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パイリン・ザ・ゴーレムマスター 作者:大滝よしえもん
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強盗見習い、ゴーレム使いに出会う(1)

 その岩は力尽き、完全にくたばっていた。

 鉱物が「くたばる」ってのは表現としてどうだろう?いやいや実際誰が見てもそうとしか思えないし、そもそもこれが自然の造形物にはとても見えないわけで。
一番下に直径五メートルはあろうかという丸い岩の二つ重ね。その上に天に向かって尖った小さな岩山みたいなのが、被さるように載っかっている。その左右には折れ曲がった石柱が、半ば崩れて寄りかかっていて……

 「とんがり帽子の巨人ギガントの行き倒れ?」
 少し離れた崖からそれを見下ろしながら小柄な少年が言う。なるほど言われてみれば、岩山に僅かばかりの緑を散らした一面の荒野を彷徨い、力尽きて息絶えた巨大な生き物に見えなくはない。
ポニーテールに結った長い髪を揺らし、ふりかえった少年は二人の連れに感想を求める。
 「そらそー見えるだろ、ありゃ岩じゃねえ、魔像ゴーレムの成れの果てだっつうの」
少年のすぐ後ろ、悪役顔の、いや実際犯罪者である男は呆れたように返す。
 「いやいや、岩だったのが魔像ゴーレムになって、また岩に戻った、これが正解」
もう一人、それより背の高い、これまたわかりやすい悪役顔の男が遠くを指差して続ける。
 「あっちの山裾やそこの谷底にも、ホラ、あの蔦だらけの藪みてえになっちまっているのもそうだ。どれもこれも、元魔像ゴーレムよ」

 なるほどなるほど、見渡してみれば似たような「巨人」たちが、谷間に沿うようにあちこちゴロゴロ。谷を抜け平原を突っ切る鉄道線路の脇でバラバラになり、単なる岩の塊と化したものが幾つも見えるのは、建設の邪魔だったので脇に寄せられてしまったのだろう。

 機関車という機械が実用化されたのはたったの十七年前、すなわち統一戦争終結から間も無い頃。しかし戦後復興の中その進化著しく、鉄路はこの地より東は辺境自治区最大の港町まで、西は都のある中央教区の入り口まで、実に延々数百里。

 そして岩の巨人のご一行が、これに沿って西への巡礼。なれど長旅艱難辛苦、途中次々力尽き、哀れ遭難この谷に、屍累々骸を曝す……と、そんな悲劇があったような無いような?少年がそんな状況を想像して述べると、二人の男はやれやれ、と説明を始める。

 「だーからアレは魔像ゴーレムだって言ったろーがよ!」
 「『ごおれむ』ってなあに?」
 「……ああ、そっか。おめえの歳じゃ、生きてるアレを見たこたぁねえわな」
背の低いほう、髑髏を思わせるバイザーに目元を隠し、ケープを纏った男が続ける。
 「十八年前の戦争が終わるまでは、ドラッケンとアレの天下だったんだぜ?」
 「生きてるって……動いたんだ、アレが!」
 なるほど、それなら「くたばっている」という表現も的外れではない。
 「谷間に沿って中央教区に向かったんじゃねえ。逆だ逆。ずっと東の港に逃れる途中、教区の方から押し寄せる敵を防いだのさ。一体また一体、仲間を逃がすため、盾になって壊れていって、あの有様よ」

 『ここは俺に任せてお前たちは先に行け!』……おお、なんという男らしくも燃える展開か!!
少年はそんな英雄伝説なんぞ聞いたこともなかったが、男たちがでっちあげた即興ウソ話にしては、この風景はちょっとできすぎ、説得力あるなあ、と考える。

 生き物でもない巨大なそれらが、群れを成し地を揺らし進む勇壮な姿……ひどく興味をひかれた少年は、詳しい話の続きを聞こうと思ったその時、遠く汽笛の響を聞いた。彼らの後ろの鷹竜アドラードラッケンが二匹も、ぬぅっと首をもたげ反応する。さらに向こうの山陰から、たなびく煙も見えてきた。
 「オラオラ、お話の時間は終わりだ坊主、仕事だ仕事!」
 覆面姿に鼻マスク、やはりケープを纏った背の高い方の男は、そう言いながら鷹竜アドラードラッケンの背の鞍に飛び乗った。

 鷹竜アドラードラッケン、それは頭の先から尻尾の先まで約七メートル、延ばした翼も六メートル幅はあろうかという、怪鳥のような「ドラッケン」。男の掛け声に従い崖から滑り出し、あっという間に気流に乗って高度を上げていく。もう一匹の竜に乗った二人も、慌ててそれに続いた。

 *

 今を去ること十八年前、まさに群雄割拠の最中さなかの時代。
 これを終わらせたるは勇士の一党。天のタイクーロンをば信望し、教団守りし教会騎士団。教義に忠実、平和を望み、理想に燃えし彼ら軍団、共に戦う地のドラッケン駆りて、その比類なき機動力、圧倒的なる打撃力、世を乱さんと暴れる敵を、蹴散らし懲らし、勝利した。
 
 「地のドラッケン
 
 伝説では神たる「天のタイクーロン」が地上に遣わしたとされる、卵生の哺乳類。爬虫類である「多頭亜竜ヒュドラ」などよりずっと賢く、人間に飼いならされた怪物モンスターたちは有効な戦力となった。長い年月をかけ、これを使いこなせるようになった「ドラッケンマスター」は技を体系化し、各種の竜の飼育にも力を入れたおかげで、この地にでの最強の武闘集団と成り得たのだ。

 しかし彼らだけではこの大陸、いや現在の中央教区ですら制することはできなかっただろう。それほどまでにこの地は広く、そして多種多様な「使いマスター」が跋扈する時代であったのだ。騎士団はいくつかの「使いマスター」の集団を引き入れて連合し、遂には「大空龍教国」を打ち立てたのである。
 
 「魔像ゴーレム
  
 それは、この地で生まれたものではなかった。それは東の海を越えてやって来た。それは最強の「使いマスター」たちと共にあった。しかし乱世を収めるのに尽力した彼らが、戦の終わる寸前、一転して追われる立場となった経緯いきさつを、この国で語ることは許されない。

 *

 谷の上空で大きく旋回しながら機会をうかがっていた二匹の鷹竜アドラードラッケンは、汽車が平原に出たところで翼を畳み、線路に軸線を合わせて急降下に入った。乗り手としては相手の逃げ場の無い谷間で事に及びたかったのだが、吹き上げる風が強くて危険だったからだ。

 単線を行く列車は十二輌編成。これを牽く機関車の、斜めに突き出た煙突の先は二つに分かれ、絶え間なく煙を噴出している。少年の目にはその様が、鉄で作られた巨大なカブト虫の突進を思わせる。

 「あの巨像ゴーレムもあんなふうに……?」
少年は背の低い方の男・タングシュテンの駆る鷹竜アドラードラッケンの、二人用の鞍の前の方にしがみついてる。爆走する機関車の力強い姿に先ほどの元魔像ゴーレムのイメージが重なったが、自分たちがシャレにならない速度で落ちているのを風圧で感じ、すぐ意識を現実に戻した。

 しかし高度二十メートル、鷹竜アドラードラッケンたちは同時に翼を広げて減速、緩降下に入って煙と熱気を避け、最後尾の車掌室の屋根めがけて舞い降りる。

 先に降りたのは覆面に鼻マスクの男・モリブデンの鷹竜アドラードラッケン。走行中の列車に舞い降りるのは高等技術だが、このドラッケンの尻尾の先に付いたアンカー状の角を天井に叩きつけて、削るように喰いこませて減速し、軟着陸してみせた。これにタングシュテンと少年の乗ったドラッケンが続いた。

 鷹竜アドラードラッケンたちを車上に待機させ、ごっつい五連発のペッパーボックス型拳銃を構えた男たちは列車の窓から飛び込んでいく。少年も中折れ式の単発擲弾銃グレネードピストルをつかんだが、風で列車から振り落とされないように四つんばいとなり、ソロソロと遅れて後を追った。

 まあここまで見ていれば懸命な読者諸兄にはお解りと思いますが……彼らは列車強盗一味なのである。ちなみに本日は、雑用係りで見習いである少年の実地研修を兼ねている。

 なんとか落っこちずに窓から滑り込んだ少年は、しかし窓枠にケープを引っ掛けたり、銃の中折れ部のロック機構が外れて弾をとり落としたりと、数刻ドタバタやっていたが、ふと気が付いてみると、車内は何やら微妙な空気になっている。

 車掌室のすぐ前の客車は特等室で、本日の第一目標・宝石商さんがそこにいるはず…いや実際奥のほうに見えている。ひざまずいて両手を頭の後ろに組んだ姿勢は、先日少年が団の親分に読まされた『あなたにもできる!最新強盗マニュアル』にあった挿絵のまんま。理想的な犯人と被害者の図ができあがっているが……表情は恐怖というより困惑のご様子である。なぜなら

 彼に銃を突きつけているのは仲間の男二人ではなく、一人の少女だったから。

 よくよく見れば宝石商の他、車掌と近隣の保安官らしき二人もひざまずき、やっぱし困惑の表情。タングシュテンとモリブデンは、車掌室から特等車輌に入ったところで唖然として固まってしまっている。

 「え~っと……」
もしかして列車強盗のバッティング?同じ獲物を狙った同業者の方ですか?
 「失礼なコトをゆ~な~ッ!」
 いや、まだ何も言ってませんが。いきなり叫んだその少女、後ろに跳ねあがった黒髪は短いポニーテール、レザーの上下も艶ありの黒、両腕の篭手ガントレットだけが微妙な金属色と、見慣ぬ風体の黒づくめ。

 強いて言えば芝居の悪役ガンマン風に見えなくもない。背丈は一五○センチ強、顔は……美人と呼ぶには幼い風貌だが、まあ可愛い方だ。少々ワイルドすぎるというか、猛獣の子供を連想させるが。東方自治区に多い獣人系ライカノイドの血が濃い人種なのだろう。

 「テメエらが言うべき台詞は『お前も強盗か?』だろ!」
いや実際言おうと思ってたけど、あえてそう言われると、どう答えるべきか迷う迷うところですが。
 「ハッキリしろ~ッ!」
 なにこのキれかた。
 「なんなんだてめえはっ!」
 「『お前も強盗か?』……ああ言っちゃった!」
 ベタな訊き方になってしまったのは気にいらないが、訊かないことには話が進まないので仕方が無い。ニヤリとして少女が答える。
 「間違っているゾ!オレは賞金稼ぎだ~ッ!」

 ………………。

 またまた沈黙と微妙な間が生まれる。言ってる事と今やってることがかみ合ってない!ちなみに女の子なのに主語が「オレ」なのは、彼女が東夷方言で話してるからだろうけど。変な空気と緊張感にたまらなくなったのか、ひざまずいたままの宝石商がオドオドと訊いてみる。

 「なんで私らまで拘束するんですか?」
 「テメエらが逃げたり、強盗捕まえたりしたらオレがもうからないダロが~ッ!」

 ………………。

 なんというオレ様理論。こんなに我侭なやつは見たことがねえ!少年もひざまずいた三人も唖然としてまた固まったが、流石にタングシュテンとモリブデンはキれたようだ。
 「なめんとんのか~ッ!」

 考えてみればひざまずいた三人は人質でも何でもないのだから、さっさとこのバカを片付けて交代すればいいだけのことだ。二人の強盗がペッパーボックス型拳銃を構えた瞬間、

 「ヘルツマン!」
少女の呼び声に応え、反対側の入り口から巨漢が飛び出した。それは二メートルはあろうかという、全身鎧にコート姿、いまどき珍しい格好の、巡礼修行中の教団騎士風の男である。背にはなぜか大きな箱を背負ったまま、手にはこれまた二メートル長の古臭い銃槍ランツェンゲヴェーア、即ち槍と一体化した単発後填式滑腔銃。

 少女と三人の間を割って突進してくるのを見て、強盗たちは反射的に発砲するが、
 「なっ、なんだこいつ!」
 黒色火薬の過剰な白煙の中、鉛球が何発か鎧を貫いているのが見えるのに巨漢は倒れない。強盗たちの目前に迫ったそいつは、槍銃を反転させ、刺又さすまた状になった銃床でいきなり突いた。

 胴に一撃喰らったタングシュテンは真後ろに吹き飛ばされ、直後横に薙ぐ一撃にモリブデンが座席に叩きつけられる。
 「強ぇ~っ!」「何者~ッ!」
 狭い客車に合わない長い得物にもかかわらず、これを自在に操り大暴れする巨漢。銃が通じないのでは強盗たちには成すすべもなし、こんな近くで擲弾グレネードを使ったら自分たちも危ない。

 しかしいち早く車掌室に逃げ込んだ強盗見習い少年は、天井に向かって絶叫した。
 「ドラッケン!たぁすけて~っ!」
 SKREEKスクリイイク!金切り声と共に、窓を突き破って鞭のようなものが飛び込んできた。
 鷹竜アドラードラッケンのアンカーのような角付きの尾は、地を走る得物を引っ掛けて捕らえる道具でもあるが、武器としてもかなりの破壊力を持つ。

 左右の窓から二本の尻尾がメチャクチャに振り回され、木と布の客席をバラバラに打ち砕き、倒れている強盗たちをも危うくかすめ、ついには鎧の巨漢を直撃した!
 「GOOOOOOOOMゴオオオオオオオオム!」
 唸り声をあげ、しかしよろめいただけのその巨漢。そこに続いて二撃、三撃。胸甲が凹み、コートは角に裂かれたが、まだまだ彼は倒れない。

 「なんだこの化け物~!」「絶対人間じゃねえ!」
 いくらなんでも異常に丈夫すぎる。並の人間なら間違いなく、一撃必殺、背骨が砕ける打撃である。鎧の中身は悪鬼オーガか何か?
 たまらず二人の強盗は、攻撃が止まった一瞬に、竜に声をかけ尾につかまって窓の外へと逃れ出る。ほうほうの体でドラッケンに跨り、捨て台詞の一つも無し。そしてドラッケンたちが一気に向かい風で凧のように舞い上がる。そしてあっという間に視界から消えていった。

 まんまと逃げられてしまった……黒づくめ少女は、窓から身を乗り出して絶叫する。
 「誰が逃げていいと言ったか~ッ!」
 いや、あんたの許可がいるのか?そして今度は床に伏せていた保安官を指差し叫ぶ。
 「オレ思うに、おそらくテメエが悪いと認識ッ!」
 「どんな理屈でだ~ッ!」
 流石に保安官が怒って返すと
 「実はやつあたりにつき、御免ッ!」
 ペコリと頭を下げる少女。なにこいつ、傲慢なんだ素直なんだか。

 「あんたねえ、こっちの保安官事務所で話には聞いていたけど……もう少しまっとうに賞金稼ぎらしくやれないのかい、白零パイリンさん。」
 どうやら、保安官はこのパイリンとかいう少女を知っているようだ。
 「賞金稼ぎに『まっとう』もへったくれもねえんでぇ~ッ!……へったくれ……『へったくれ』ってナニ?」
 自分の言葉にむう?と首を傾げるパイリン。どこぞの軍師様のようにあごに指を添える。

 「知らんよ!あんたん所の故郷くにの独特の言い回しか?」
 嗚呼もう、さっきから普通の会話ってものができないのだろうか、この娘?この地方の言葉に慣れてないとかではなく、根本的に性格か脳の言語野にに問題があるに違いない、と保安官は思考する。

 「それはさておき!」
 「へったくれ」の謎については将来の課題にすることにしたらしく、踵を返して右斜め上を見上げて語り始めるパイリン。
 「かくして、乗客たちの生命と財産はオレの大活躍によって守られたのであった」
 なぜだか芝居のモノローグ風になってますが?

「強盗の逮捕は重要なことではあったが、しかし己の身が救われたことに一番の喜びを感じる皆の衆」
 そこで両腕を広げ、ふりかえり気味に一人芝居を続ける。
 「しかしそれにより命の恩人たるこのオレが、賞金を逃したという事実は悲しい現実であった……彼らは、せめてお礼をさせていただきたいと言ってきたのさっ」

 そんなことは言ってない、と誰もが思ったが、ワンマンショーは終わっていない。
 「『どうでしょう、商売物ですが、この中からお一つ……』」
 声色まで変えて誰かを演じている。誰か?宝石?いつの間にか背後に大男・ヘルツマンが黒いケースを手に立っている。そして彼が力を込めると、錠と蝶番ちょうつがいがミシリと砕けてケースが開いた。中には宝石商がセールスに使う、サンプルの宝石がずらり。

 「『いやいやとんでもない、礼には……およびますので、ひとつこのルビーなんかいただけますかな?』……いいですか……いいですね!……い~とも!」
 ひょいと赤い宝石をつまみ上げたパイリン、後半は急に早口である。
 「ありがとう!そしてさようなら!」

 あまりに一方的な展開に、唖然として反応の遅れた保安官や宝石商。返事を待つ気もないらしく、パイリンとヘルツマンは破られた窓から乗り出す。ちょうどカーブに差し掛かり、列車が速度を落としていたのを幸い、ひらりと飛び降りて消えていった。

 「ドロボ~ッ!」
 保安官と宝石商と車掌の絶叫が見事にハーモナイズ。
 「保安官!なんなんですかあの娘は、ご存じのようでしたが?」
 「ここら辺では『パイリン』の呼び名で通ってるという、女賞金稼ぎですが」
 「いやドロボーでしょ実際どお見ても!どこが賞金稼ぎなんですか!」

 ……一息間をおいて、保安官は脇に落ちていた自分のブリーフケースを取り上げ、紙束を抜き出す。パラパラめくると、人相の悪い男たちの顔写真や似顔絵ばかり。どうやら中央教区から自治区の保安官事務所向けに発行した、指名手配犯のリストのようだ。保安官は中でもくたびれた一枚を抜き出し、宝石商に手渡した。それには……

 ※

名・白零 Pai-ringパイリン またはParck-rengパークレン あるいはbyakureiびゃくれいhakureiはくれいとも。
(正確な読み方は不明、出現した地方により幾つかの異なる呼び名を持つ)
性別・女 年齢・不詳 常に鎧にケープ姿の大男と共にあり
容疑・宝石泥棒及び暴行傷害及び不法侵入及び詐欺及び、その他軽犯罪の容疑無数
……その下には、なにやら指を突き出しポーズを決めて笑顔で写る、セピア色の彼女の写真。さらにその下には……
賞金・一千万コーカ(ただし、生きて捕らえた場合に限る)

 ※

 「正確には賞金稼ぎ兼、お尋ね者でして」
 「なんとゆ~デタラメ!しかも一千万ですと?大手の凶悪強盗団一党を捕らえるのに匹敵する額ではないですか!」
 「それが不思議なのですわ。しかも中央から特別手配ですからなあ……何やったんだろ、この娘。一緒に居る『ヘルツマン』って男には賞金かかってないのも不思議だし」
 「どおでもいいから!さっさと捕まえたらいいでしょ~が!」
 まったくである。職務怠慢である。やめちまえ、保安官。
 「うちの管轄でもないのに命なんざ賭けられません!私に死ねと言いますか貴方は!」
 逆切れかよ。

 「それに、なんだかんだ言っても賞金稼ぎとして有能だし。彼女一人見逃してるだけで、凶悪犯を次々に捕らえてきてくれるから、ほっといたほうが合理的なのですよ。それに私、出張を終えて本来の任地への帰りでして。あとはもう知~らない」

 ヒドい話なんだか、上手い対応なんだか。いやまあ中央ならともかくここは辺境自治区。教団騎士や警邏隊が出向いてくることは稀だし、土地がやたら広大な割りに少人数の辺境自治区連合保安官のやれることには限度がある。
 犯罪根絶という「ベスト」が不可能なら、一部の犯罪者を利用して、犯罪数を減らす「ベター」の方が、現実的な選択というわけだ。この地方で生きている者なら、保安官の判断を否定はしないだろう。

 「見本のルビー一個で済んで幸いと考えてくださいよ。強盗が勝ったら、根こそぎ持っていかれたところですよ。」
 「ハア……しかし、私がこの列車に乗ることを知ってて狙ったみたいですが?あの強盗にしろ、パイリンとかいう娘も」

 保安官は肩をすくめ、わからないというそぶりをしたが、帽子に付いたバイザーに隠れた表情は微妙だった。実は彼がパイリンと強盗団双方にわざと情報を漏らし、噛み合わせて相打ちを狙ったと考えたとしても、さほど不思議ではないのだし。 

 ところで……我々は登場人物の一人ことを忘れちゃいないだろうか?

 …少年は途方にくれていた。先輩たちに置いてきぼりにされるわ、仕方ないので列車の減速に合わせて飛び降りて、転がって起きて顔を上げてみたら、少女と巨漢が目の前に立っているわで。
 「や~あ貴様!お名前は?お歳はいくちゅ~?」
 瞳以外はにこやかな顔、無意味に明るく問いかけるパイリンの声に、固まりかけながらも少年は応えた。
 「アントン。アントン・メッサー……十三歳」  (続く)
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