異空間戦記 救国の英雄たち(23/27)PDFで表示縦書き表示RDF


異空間戦記 救国の英雄たち
作:山口多聞



基地移動


 河口から機体を見せられた3日後、五十六は3機の零戦と2機の赤とんぼをつれて基地へと帰還した。

 零戦を5機の内3機しか持ってこられなかったのは、2機がいずれも機体不調を抱えていたためだ。

 実は太平洋戦争中の日本の工業力は現代に比べれば精度は低く、品質も遥かに劣っていた。しかも、熟練工員が作ってもそうであるのに勤労動員の学徒や女学生が作っているのだから、出来の悪い機体が多いのは当たり前であった。

 河口が持ってきた零戦はいずれも52型で、戦争後期に作られた機体である。そのため、エンジンや機体に致命的な問題を抱えている機体があっても不思議ではなかった。

 戦闘に耐えられないと判定された機体の内1機はエンジンの部品が粗雑な工作であったために、飛行中トラブルを起こす可能性が非常に高かった。もう一機は主翼の工作が不完全なために、空中分解を起こす可能性があった。

 結局、この2機はパーツ取り用にされてしまった。これは大きな戦力ダウンであるが、背に腹は変えられない。

 五十六たちは残った3機の整備に全力を尽くした。

 まずエンジンの部品で劣化または品質に劣る物を交換した。特に点火栓のプラグやパイプの継ぎ目部分は現代の部品で代用できる部分は全て交換した。こうすることで油漏れやエンジン起動時の不調などを防げるはずである。

 また、無線機や計器類も最新式の物に交換された。これで飛行時の操作がかなり改善されるはずであった。

 そして最後に燃料を現代の高オクタン価の物に入れ替える。

 オクタン価とは燃料の不純物が混ざっている割合を指す物で、数値が高いほど高品質である。旧日本海軍は92、旧陸軍は87オクタン価を標準に定めていたが、同時期の米軍機は120オクタン価だったことを考えるとかなり低いのがわかる。

 余談ではあるが、戦後旧日本軍機をテストした連合軍の数値は、日本時代の数値を遥かに上回っていたとされている。

 こうして整備された零戦は予想通り高い性能を引き出す事が出来た。そして五十六はこの零戦小隊の小隊長を命じられた。

 まだ3回しか実戦を経験しておらず、飛行時間も500時間とお世辞にも長くはないが、他に適任者がいなかったためにこの役職となった。

 部下は松内一飛曹と、児玉二飛曹であった。

 児玉二飛曹は五十六よりも2歳年上の20歳で、元飛行学校生である。金銭的な事情で退学を余儀なくされた所をスカウトされた口だ。中々明るく冗談も通じるために隊内でも評判の高い男だ。

 彼ら3人はこちらに移動すると直ちに慣熟訓練に入ったが、その期間は非常に短かった。まもなく新たな命令を受けたからである。

「東70kmにある神海基地に前進せよ!!」

 これが沢村司令から受け取った命令だった。五十六に渡された資料によると、神海という街は人口3万ほどの小規模都市で、最近になってアルメディア軍から取り返した街である。前線からは約50km。基地はその郊外に設けられたという。

「前線から近すぎやしませんか?」

 それが五十六の疑問であった。前線から50kmなら、大規模な侵攻があれば直ぐに敵軍が到達できる距離である。さらに、間諜(スパイ)が潜り込む可能性も非常に高い。そんな土地へ貴重な飛行機を持っていってよいのかと五十六は考えた。

 沢村もこの意見には賛成であったが、前線が基地から離れているのも事実であるし、折角作ってもらった飛行場を使わない手はない。

 結局説得された五十六は神海基地へ前進する事になった。前進するのは彼が率いる零戦隊と、T6型機2機からなる偵察小隊である。

 2日後彼らは神海基地へと前進することとなった。

 基地を離れるとき、五十六は名残惜しかった。1ヶ月もいなかったが、彼はこの基地に大分愛着を感じるようになっていた。そして、姫神真理奈と離れることになるのもその気持ちを大きくした。

 ほのかに恋心を抱いていたが、ここの所は中々会う事は出来なかった。お互い忙しかったのだ。

 そんなことを考えつつ、5機は新天地である神海基地へと向かった。もっとも、70kmという距離は巡航速度300kmのプロペラ機でも指呼の距離である。20分もあれば着いてしまう。

 神海基地を視界に納めたとき、五十六は絶句してしまった。

「これが飛行場だって?」

 無線から松内の驚きの声が入ってきた。それほどまでに簡素な基地であったのだ。簡単に整地された1000m級の滑走路に、吹流しと指揮所と思われる掘っ立て小屋が1棟だけ。格納庫や兵舎らしき物は見当たらなかった。

「これはとんでもない所に来てしまいましたね。」

 着陸後児玉が言った言葉に全員が頷いてしまった。元いた基地は草原の中にあったが、格納庫も兵舎もあったし、指揮所もプレハブとはいえそれなりの物が整備されていた。しかしここはそれに比べるとあまりにもお粗末な基地設備しかなかった。

 雨になったら滑走路は泥だらけに成るだろうし、機体もパイロットもびしょ濡れになってしまうだろう。

 五十六は沢村に騙された思った。

 もっとも、そう思ったのは最初の内だけであった。この後皇国軍の兵士から宿舎として案内されたのは、接収された旅館であった。そのため広い風呂に上手い飯、フカフカの布団にありつくことが出来た。さらに、街に近いために、これまでに出来なかった買い物やら人との交流が制限つきながら出来るようになった。

 五十六が街に出て驚いたのは、この国が本当に日本に近い文化を有している事であった。話す言葉は全く同じで、貨幣の単位も同じ、違う所といえば、やはり陸続きの国であるために、日本にはない植物や動物がいる程度であった。

 また基地機能の貧弱さも、その後新たにプレハブ式の建物や工作車両で整備され、1週間後には滑走路は完全に舗装され、機体を覆う屋根も完成した。

 そんなわけで、新基地への不満もいつのまにか自然消滅し、五十六たちはじっくりと零戦の慣熟飛行訓練を行う事が出来た。そして新基地移動から10日後のこと、五十六に戦艦撃沈の褒賞としての1階級特進の辞令と、命令書が届いた。

 


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