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天童子~春編~
作:野田奈幹



第九話:必然と偶然


「不思議だな…」
草の生い茂る森を歩きながら落ち着いた声で田島が湯旗に話し掛けた。
「何が」
「涙…出ないもんだな…」
「そうか…俺は涙流した事ないから普通だと思うけど」
「……心はどこか悲しいのに…。俺にもわからねぇなぁ」
「湿っぽい話はやめようぜ。んで次はちゃんと稼げる場所なんだろうな。今のは全くの無収入だ。これで次もへましたらしめられるぞ」
「実は次のはおやじに相談無しで俺が決めて来た仕事なんだ」
「…おいおい、なんだよその話の始まり方は。すっげぇ嫌な予感…」
「感いいなお前。たしかに金銭的な儲けはないがちゃんとそれに見合ったものはもらう事になってるから安心しろ」
「本当か」
「ああ…本当は春と行きたかったんだけどな…」
「おい田島、今度その名前口にしたら俺はお前とはもう組まないぞ」
「わかったわかった。もう言わないよ。あー春の季節はいいねぇ」
「お前死ね!」
「あはは、冗談だよ湯旗。さぁ行くぞ」
こうして二人は森から道に出て遠く村に続く道へと消えて行った。
一方川に流された春はまだ北に向かって流されていた。流される途中にあった大きな岩に少し肩を翳めた。その瞬間春の目が開いた。水面に口まで浸かっていた春は息をしようと水面から顔を出しもがいた。
「うわぁー、わっ、私…生きてる」
痛む胸を押さえながらもう一方の手で必死に水をかき、水面の出来るだけうえにあがろうとした。
「うっつ…やばい少し血を流し過ぎたか…。とにかくどこか陸に上がらなくちゃ」
春は必死に陸の方へと泳ごうともがいたが川の流れが早くなかなか陸に近付く事が出来なかった。
「やばいこのままじゃ…せっかく生きてた意味がない」
その後も春は必死に泳いだがなかなか陸に近付くものの上がれるまでの所まで辿り着かなかった。すると前方に陸から伸びる大きな木の枝があった。
「あれだ!」
春は一か八かその木を蔦って陸に行く事にした。最後のチャンスと思い胸を押さえていた手も伸ばし両手でがっしりと木の枝を掴んだ。ゆっくりと川の流れに負けそうになりながらも春は一歩づつ陸に近付いて行った。陸まできた春は一気に川からよじ登って陸の上に上がった。しかしその時に力を全身に入れたせいで胸の傷から更に出血した。苦しそうに春は眉間に皺を寄せた。そして力尽きた春は陸の上に大の字に倒れた。青々とした空と雲を見つめながら春は薄れ行く意識の中思いに耽っていた。
「やっぱりそうだったんだ…」
田島に刺された胸を押さえながら春は呟いた。
「あの瞬間は賭けだったなぁ。もしかしたら今私はここにいなかったかもしれないもんな」
春はそう言いながら昔の事を思い出していた。春がまだ十歳の頃まだあの頃城にいた世話役の女性マチと二人で遊んでいた時の事だった。春が初めてマチから鬼ごっこという遊びを教えてもらった時あまりの楽しさに夢中になって遊んだいた。とにかく足の早かった春がずっと鬼ばかりやっていたせいで追い掛けていたマチは疲れ切っていた。
「はっ、春。ちょっと待って」
「どうしたの、マチ」
春は息を切らし倒れ込んでいるマチを不思議そうに見て言った。
「あんた元気よすぎ出し、足早いしもう私だめ」
「たしかに私もちょっと疲れたかも」
「心臓がバクバクいってる」
「私もちょっといってる」
「あんたのなんて小鳥の鳴き声程度でしょ。ほら私の胸触ってみぃ」
マチは春の手を掴んで自分の胸に当てた。春は手から感じるマチの心臓の鼓動に驚いた。
「ほーらすごいやろう。全部あんたのせいなんよ」
「そうだねぇ…ごめん」
「さぁ、もうすぐご飯の時間やし城の中戻ろう」
「うん…」
春はそれからしばらくマチの胸を触った手をずっと見つめていた。そして春はずっと思っていた。”私の鼓動は胸じゃない…もっと下…骨盤の中から感じるの…”しかし元から自分が普通の人間と違う事をわかっていた春は幼い長柄にしてマチにその事をどうしてもいう事が出来なかった。その後春は誰にもその事を打ち明ける事なく今に至った。心臓が胸にないのはわかっていた。しかし確信もなかった春は田島に胸を刺せと言ったあの瞬間はまさに賭けだった。そして春は賭けに勝って即死状態から間逃れた。しかし今大量に出血してしまっている春はピンチだった。目も霞んで来て春は風を感じながらゆっくりと瞼を閉じた。
すると静まり返った土地に微かに誰かの啜り泣く声が聞こえた。春はゆっくりと目を開けて辺りを見た。
「…誰か…居るの…」
今にも消え入りそうな声で春は語りかけた。春の問いかけしばらく何の反応もなかったが少しして草むらから女の子が出て来た。十五歳くらいのおかっぱの女の子だった。
「…どうしたんですか。寝てるんですか」
目を擦りながら女の子は春に問いかけた。
「これがただ寝てるだけに見える」
顔を真っ青にして汗を掻きながら春はその子を見て言った。
「あっ!!血っ!」
女の子はびっくりして口に手を当てた。
「悪いねぇ…ここで会ったのもなんかの縁だちょっと助けてくんない」
女の子は呆気に取られながら春を見つめた。







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