天童子~春編~(8/15)縦書き表示RDF


天童子~春編~
作:野田奈幹



第八話:ありがとうとさようなら


門の前まで来た二人の目に門の左右で待機する門番の男二人が写った。門番は時馬から話を聞いているらしく箱の事を聞く事もなく御苦労さまでしたの一言の後二人に一礼して門を開けてくれた。それに二人もあえて何も言う事なく一礼して城を出た。城を出てからの二人はしばらく無言のまままっすぐに歩き続けた。歩いて歩いて歩き続けた後、森林が生い茂る小さな森の中に足を踏み入れた。道から人の視線が届かない所まで来た二人は立ち止まり箱を地面に降ろした。二人は人を入れた箱を持って歩き続けた疲れがどっときたらしく、箱を下ろすなりため息を吐いた。首を回したり腰を曲げたりして体をほぐした後、田島はそっと箱の蓋を開けた。箱を開けると春が体を横にして背中を丸めながら手で顔を覆っていた。
「春…待たせたな。もう出ていいぞ。ついでに叫んでもいいぞ、ある程度の声で」
しかし春は田島の言葉に反応せずに蹲ったまま動かなかった。
「春…生きてるか」
少し冗談めかした声を出しながら田島は春の体を揺すった。すると春が少し鼻をすすった。
「……泣いてんのか…」
揺すっていた手を止めて田島は聞いた。田島の問いに春は顔にかけていた手を少しどけて目線を田島に向けた。
「…ごめんね…」
「何が」
「本当は…伶達を信じてなかったわけじゃない…父上を信じていたかっただけなの……それなのに…」
そう言いながら春の目からまた一筋の涙が溢れた。その姿をそっと見ながら田島は春の頭をそっと撫でた。
「とりあえず外に出ろ。息苦しいだろう」
「…うん」
そう言って春はそっと箱の中から外に出て来た。外に出るなり涙でぐちゃぐちゃになった顔を手で擦った。
「春…しつこいけどもう一度聞くぜ。俺らに依頼を頼むよな」
「伶達のおかげで父上の本心が聞く事が出来ました。ありがとう…………でも……私は出来ない。伶達に依頼する事は出来ない」
春の言葉に田島は眉間に皺を寄せ、唇を噛みしめながら拳を強く握った。
「さすがの俺でもそう何度もお人好しに助けたりはしないぜ。春これを断るならお前を今ここで殺す。お前を生かしてはうちにとってあまりにもよくないんでね。時馬にお前を殺したと報告した以上殺さないわけにはいかないんでね。さぁ、これが最終警告だ。どうする」
鋭い視線で田島はそう言いながら春を見つめた。
「伶…準…本当にありがとう…。もう私はいいの…だから殺して。その刀でこの心臓を一突きして殺して…」
優しく微笑みながら春は二人を見つめてそう言った。
「……わかった…」
そう言って田島は静かに剣に手をかけた。
「それと…ひとつお願いがあるの…」
「なんだ」
「心臓を剣で貫いた後……近くに川あるでしょ。そこに流して欲しいの」
「なぜだ」
「土に埋められたり、燃やされたり、バラバラにされるのはやっぱり死んだ後でも嫌なの。せめて生きていた時の姿できれいに…」
「……わかった」
「おい!田島いいのかよ。時馬には研究の後跡形もなく始末するって約束したじゃねぇか」
「その点はたぶん大丈夫だろう。おそらく時馬が思っている程春は城から出た事がないから顔は名前を名乗ったりしなければ割れないだろうし、川に流されて万が一どこかに流れ着いて人に見つかっても死体が誰だかわからない状態に変化しているだろうから、見つけたやつも面倒だろうから調べる事もなく始末するだろう」
「…まぁ…お前がそういうなら俺は別にいいけど」
「ありがとう…伶」
「…じゃ…さよならだな…春…」
刀に手をかけた田島の目は少し潤んでいた。刀を鞘から抜いた田島はそれを一気に春の心臓目掛けて突き刺した。
「うっつ……」
刀を突き刺された反動で春は思わず声を出した。胸から血を出して串刺しになった春の目は次第に閉じていった。力つきた春は刺された状態のまま首や手が垂れた。それを確認した田島は春の体から刀を抜いた。春は地面に激しく体を打ち付けて倒れた。それを無言で二人は少し見つめた後、田島は春との約束を果たす為に春の体を抱き上げて近くの川へと向かった。川は幅が結構広めで深さもあった。人が流れるには十分な川だと確信した田島は肩にかけていた春を腕に抱え直し川に近付いた。寝ているような春の顔を無言で一瞥した田島は春を川にそっと流した。春は緩やかに川の流れに乗りながら流され始めた。その速度は田島を離れば離れるほど早くなり数十秒後には春の姿は全く田島達には見えなくなっていた。春の姿が見えなくなっても田島はしばらくその場所から動こうとはしなかった。遠く遠く春が流れていった方向を見つめ続ける田島に後方から湯旗が近付いた。
「田島隊長行きますよ」
「なっ、なんだよいきなり隊長って。最初の頃言えって言っても言わなかったやつが」
「なんとなくな。お前今自分の立場忘れかけてそうだったから」
「………そうだな。サンキュ、相棒」
「いいえ。さぁ、次の仕事に向かうぞ」
「ああ」
そう言って二人は踵を返して元来た道へと歩いて行った。







ネット小説ランキング>サスペンス部門>「天童子~春編~」に投票





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう