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天童子~春編~
作:野田奈幹



第六話:問う者と問われる者


春が部屋に入ると部屋の奥で時馬が春をじっと見つめながら座っていた。戸を閉めて時馬の前まで来た春はその場に正座した。
「…それで、何だ話とは…」
春が座ったのを見計らって時馬がゆっくりとした口調で話し始めた。
「…父上…今更だとはお思いになるでしょうが、私には一つ不安があります」
「不安…」
「子の問題です」
一瞬二人の間に沈黙が流れたがすぐにまた春が口を開いた。
「子孫を残す為に私には重要なものが欠けています。…私はずっと自分に性別のない事を恥ずかしく思い日々忘れようと努力して参りました。…しかし…後継者になった今、それは避けては通れぬ問題だと気付きました。…父上…私はどうやってこの天童子を次世代へと繋げて行けば良いのでしょうか…」
春は少し前屈みになって時馬に言葉をぶつけた。
「……その事か。その事なら私もちゃんと考えておる」
「本当ですか」
「お前は何も心配する必要はない。安心せい」
「…しかし、具体的にどう為さるおつもりですか。一体私は…」
「まぁ…これからわかっていく…そう焦る事はない」
「……そうですか……わかりました」
「話はそれだけだろう。私も朝から早かったのだ。少し横にならせてもらう、下がってくれ」
「…はい、失礼しました」
ふにおちぬままそう言って春は時馬の部屋を後にした。
中庭の方では今も田島と湯旗が話をしていた。
「………なぁ田島、今俺の聞いた言葉が間違いでないとするとお前とんでもない事を言ってるぞ」
「……ああ…そうかもな…」
「…本気か…」
「ああ…本気だよ。しかし…仕事はあくまでも依頼人の希望が第一優先だ。もしあの子がその事を望まないのなら当然権利は前依頼者に戻って……殺すしかない…」
「…お前最初からそれ目的で来たのか…」
「ここに来たのも依頼を受けたのも偶然だよ」
「…んで…俺はこれからどうすればいいわけ」
湯旗がため息を尽きながら聞いた。
「悪いけどお前の協力が必要だ。頼むぜ相棒」
にっこりと微笑みながら田島は言った。
「………なんか納得いかねぇけど……仕方ねぇか…」
「悪いな。でもお前の協力が本当に必要なのは城を出てから結構後になると思うけど。それまでは基本何もしなくていい。後は俺が上手い事やるから」
「…もし…あの子が断ったらすぐに殺すのか」
「…ああ…断ったと同時にお互い刀を抜いて切る…いいな」
「わかった…しかし断ったくらいでそんな簡単に気持ちを切り替えられるのか」
「俺を誰だと思ってるんだよ。だてに今まで殺し屋をやってきたわけじゃない。依頼人の命令とあれば大切な身内だって殺すさ、今ならな」
「…今その依頼人に楯突こうとしてるのはどこの誰だよ」
「俺だって人間なんだ。気に食わない殺しの一つや二つはあるさ」
「はー…勝手なやろうだぜ」
「ははははっ…さぁて、そろそろ戻るか…サボってると思われちゃこっちも心外だからな」
そう言って二人は城の方へと歩いて行った。縁側に近付いて行くとちょうど春が廊下から歩いて来た。春は二人に気付いていない様子でまっすぐ自分の部屋へと向かっていた。
「おい!春」
田島が呼び掛けると春は驚きながら勢い良く声のする方に振り返った。
「うわぁ…びっくりした」
春が目を丸くしてそう言うと田島はくすくすと笑った。
「お前驚き過ぎだから」
田島がそう言うと春は照れくさそうに頭を掻いた。
「そうだ春、ちょっと話があるんだけど」
「何」
「…とりあえずお前の部屋に行こう」
春の部屋に着き、三人は畳に座った。円になって座った三人の空気は少し重く、そのさっきまでと違う空気に春は息を呑んだ。
「…んで…話なんだけど」
田島が口を開くと春はそちらの方に視線を向けた。湯旗は視線を床に向けたまま手をいじっていた。
「時間もない事だし単刀直入に言うわ」
「……何…」
田島を見ながら眉を下げて春が不安そうに聞いた。
「お前は命を狙われてる…しかも実の父親にだ」
春はその言葉に反応する事が出来ずにしばらく固まった。
「春、言ってる意味わかるか」
放心状態の春に田島は肩に手をやりながら聞いた。
「……どういう事…」
今にも泣きそうな顔で春は尋ねた。
「そのまんまだよ。お前の父親天童子時馬はお前を殺そうとしてる」
「…どっ…どうして…」
「本当に何も知らないんだな…まぁ…そこがかわいいんだけど…」
「ちゃんと教えて!」
茶化して答える田島に春は強い口調で怒鳴った。
「ごめん、ごめん…ちゃんと話すから怒るなよ」
春の肩を抱きなだめるように田島はそう言った。
「お前の父親は天童子を守る事しか考えていない。天童子を守って行く為にはお前やお前の兄弟が邪魔だったんだ」
「何故…」
「…お前達は…天童子雪の血を引いてるからだよ」
「母上の血…」
「お前の母親の血は世間で言えば汚れた血だったんだ。その血が今まで由緒正しき血筋として築き上げて来た天童子を脅かすものとなった。だからこそお前の父親は一度リセットしようとした。お前達全てを消して…」
「………母上は病気で死んだと聞いたけど…もしかして父上に殺されたの…」
「ああ、まず間違いないと思うぜ」
「…そんな」
「そして俺らは呼ばれたんだ」
「………それって…一体…」
「俺らは殺し屋だ。お前を消す為に雇われてここに来た」
「……そんな…」
「悪いな。軽蔑したか…」
「……でもどうして私にそんな事を言うの…」
「そこでだ。俺はこの仕事が気に食ってない。だからお前を殺す気も本当はない。…でも…依頼主の要望は絶対。それがうちの掟だ」
「……私を殺すの…」
「いや…一つだけお前を殺さずに済む方法がある」
「何…」
「俺に依頼してくれ」
「えっ…何を」
「殺しの依頼。天童子時馬を殺して欲しいってお前が頼むんだ。うちでは両者同時に依頼があった場合はどちらか信用出来る方の依頼者を俺らが勝手に決めてその人の要望に答えていい事になっている。それならあっちの依頼を断っても問題はないんだ。俺らと依頼者の交わした契約書にもそう書いてあるからな。お前が依頼すれば俺らはお前を殺さずに時馬を全力をもって殺害する」
「………しっ…しかし……あなた達の話が本当か…わからないし……何より自分が助かる為に父上を殺すよう頼むなんて……私は…私は…」
春は声を震わせながらそういって膝についていた両腕の拳は強く握りしめられていた。そんな様子をただただ聞いていた湯旗の手がゆっくりと刀にかけられた。湯旗の微かな殺気を感じた春は湯旗から少し体を離した。
「…じゅっ…準…」
「信じる信じないはお前の勝手だ。…しかしなぁ春…もしこの提案を断るならその瞬間から俺らの依頼人は完全に天童子時馬だ。したがって俺らはお前を今この場で殺さなくてはならない。考えろ春…お前はどうしたいのか…お前の人生、お前の兄弟、母親、そして天童子の事……お前の答えを聞かせてくれ」
優しく強い田島の眼差しを受けながら春は緊張と焦りで額に汗が光り、つばを飲み込む音だけが妙に響いた。







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