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天童子~春編~
作:野田奈幹



第五話:秘密


目を丸くしたまま春がその謎の男をじーっと見つめていると田島は更に一歩春に近付いた。
「どうしたんですか」
春一つ息をのんだ。そして一旦視線を下に落してからまた田島の方に視線を戻した。
「……ごめんなさい…この城で小さい頃から知ってる人以外に会う事なかったから…どっ…どう接していいのか、わからなくて…」
春は話しはじめると再び視線を下に落して頭を掻きながらそう答えた。
「あはは、そうでしたね」
そう言いながら田島はやさしく笑って春の横に座った。すると春は隣に座った田島から少し体を離した。
「怖がる事はないですよ。それに…これからは私もあなたの身内になるのですから」
田島がそう言うと春は照れ笑いしながら更に頭を掻きむしった。
「こちらに来ていろいろとこの城の事や内部の事をいろいろと伺いまいた……一つあなたのお父様から聞いて気になった事があるのですが…」
「…なんでしょう…」
春はじっと田島を見つめながらそう言った。
「あなたには…性別がないんですってね」
「…」
春はその言葉に詰まり、固まったまま黙り込んでしまった。
「…しかし、話に聞かなければ全くわからないですけどねぇ。本当に性別がないのですか」
「…………どっ……どうやらそうらしいです。生まれて来た時、男性の性器のない私は女だと思われていました。…しかし、歳を重ねるに連れ女性の性器も体内にない事が判明して一時城の中で大問題になりました。この事を受けて父上や上役はいろんな説を発表しました。まず、生まれてくるのが四人の中で一番早かった事からの発育不足によるという事や、へその緒からの栄養が一人だけ不十分だったや、体内で体が出来上がった時からすでに性別のない状態だったなどです。しかし…その説のどれもなんの根拠もなく今だ原因不明とさられています。だからこの先この体のままなのかすらも不明です…」
「…そんな状態で十八年間も過ごして来てさぞ辛かっただろう…」
「仕方ありません…これが天童子に生まれた宿命なのです…」
「天童子の…?」
「ええ…どうやらこの血筋が多少なりと影響を及ぼしていると考えられています…。現に私の兄弟も私程ではないものの体が特殊なのです」
「………天童子は厄介ですね…いろいろと…」
「しかし…その厄介なものもこれからは私が背負って行かなくてはいけないのです…愚痴ばかりこぼしているわけにはいかないのです」
「後継者の勤めですか…あの一つ提案なのですが、私はあなたのお世話係を時馬様から申し付けられています。しかし堅苦しいのもあれなのでお互い敬語はなしにしませんか」
田島はにっこりと微笑んで春にそう言った。
「…はぁー…まぁー…私は別にかまいませんが…」
「よし!決まり。それじゃ春これからよろしく!俺の事は田島とでも伶とでも好きに呼んでくれ。やっぱり堅苦しいものから解放されると気分がいいな」
「…」
はしゃぐ田島を春はじーっと見つめた。
「…どうした…」
「なんか…さっきまでの…れっ……伶じゃない気がして…」
「これがいつもの俺さ」
そう言って田島はまたにっこりと微笑んだ。
「どこがいつもの俺なんだよ」
さっき田島が歩いて来た方向からまた別の男が現れた。今度の男は顔が面長の少しこけぎみで目が鋭く釣り上がり、髪はストレートで肩ぐらいまであった。
「よぉ、湯旗。部屋で待ってるって言ったのに。どうした俺が恋しくなったか」
「馬鹿言え。その子に一言挨拶して来るって言ってどんだけたってるんだ。もう待ちくたびれたぜ」
「すまん、すまん。なかなか春がどこにいるのかわからなくて。…あっ、そうだ。春に紹介するな。俺と一緒でおまえのお世話をする湯旗準ゆばたじゅんだ。こいつにも気兼ねなくため口きいていいから」
「まぁ…そういう事なんでよろしく……えーっと名前なんだっけ」
「天童子春…春って呼んでね、準」
春はにっこりと笑って湯旗にそう言った。
「ああ……田島ちょっと…」
湯旗は少し深刻そうな顔をして田島を呼んだ。
「春ごめん…また後で」
そう言って田島と湯旗はその場を去って行った。春はその場に寝そべり田島との会話を思い返していた。そんな時一つの疑問にぶちあたった春は起き上がり時馬の部屋へと向かって歩き始めた。
その頃春のもとから立ち去った田島と湯旗は木のかげで話をしていた。
「どういうつもりだ」
「どういうって」
「何これから殺そうとしてる相手と仲良くなってんだよ」
「これが俺のやり方だ。お前だってわかってるだろう」
「…俺はお前の腕はすごいと思ってる。しかしそのやり方はやっぱり納得いかない」
「俺は嫌なんだよ…これから殺そうとしている相手がどんな人間かも知らないのに殺してしまうのは…。ちゃんと俺の中では生かしておいてやりたいんだ」
「…それが殺し屋の言う台詞かよ」
「まぁなぁ…矛盾してる…」
「まぁ…お前の生い立ちとか俺知ってるからなんだけど、殺し屋として生きて行くって腹決めたならもうそんな考え捨てる事だ」
「…でも…今回の相手はもっと特別な意味を持つ相手なんだ。どうしても話しておきたかった」
「春か…でもどうせ今日中に殺す約束だろう。仲良くしてもしょうがねぇだろう…どうせ最終的には俺達は恨まれるんだからよ」
「…」
「何黙り込んでんだよ。わかんてんのか田島。お前の引き受けた仕事だろう」
「……わかってる…俺は殺すよ」
そう言って田島は湯旗を見つめた。
その頃時馬の部屋の前に春は訪れていた。
「父上おられますか…」
部屋の方へ向かって春は声を掛けた。
「春か…何用だ」
「少し…お話があります」
「…そうか…入れ」
「はい、失礼します」
そう言って春は時馬の部屋へと入って行った。







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