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天童子~春編~
作:野田奈幹



第四話:新たなる風


夜は明け、朝の暖かな日ざしが差し込む城の一室で春は気持ち良さそうに寝返りを打ちながら眠っていた。眩しすぎる朝日に眉間の皺を寄せたり、小鳥のさえずる声にうなされていてもけして春は起きようとはしなかった。そんな頃時馬は春の部屋へ向かう為廊下を歩いていた。
「春!まだ寝ていたのか」
春の部屋の戸を勢い良く開けて時馬は勢い良くそう叫んだ。その声を聞いて春は飛び起きた。まだ寝ぼけ眼の春はゆっくりと辺りを一通り見回した後、戸の所に立っている時馬に視線を上げた。
「…父上…」
「春…お前も薄情なやつだ。十八年間一緒に生活を共にして来た妹弟達の旅立ちの日にまだ寝ているとは…」
時馬は腰に手を当てて少し呆れたような声で春にそう言った。
「すっ…すいません。つい寝過ごしました」
春は正座して下げた頭を掻きむしりながらそう言った。
「まぁよい。とにかくすぐに着替えて正面入り口の所に来い。もうすぐ三人とも出発する」
そういって時馬は春の部屋を後にしてまた廊下を歩いて行った。時馬が去った後春はすぐに着替えて正面の入り口へと走った。入り口の方に辿り着くと時馬と三人が春の方を向いて待っていた。
「…すいません。お待たせしました」
「よし!全員揃ったな。これでしばらく…いや、この先もしかしたら永久に会えなくなるかもしれんからな、せいぜい別れを惜しんで話し込むと良い。私はこれで失礼する。多くとも三十分後には三人ともこの城から旅立っておる事、よいな」
「はい」
夏が返事をすると時馬は踵を返して城の方へと帰って行った。
「なんか父上冷たいね…あっさり何も言わずに戻ってしまうなんて…」
「春が来る前に父上からお言葉はもらってる。もう話す事はないと思ったんじゃない」
「…そっか」
春はそれ以上何も言わずに城に戻って行く時馬の後姿を眺めていた。
「私春と語り合う事なんてないから、じゃ」
秋はそういうとすたすたと歩き始めた。
「えっ…秋…」
すると冬も秋の後について何も言わずに歩いて行ってしまった。するとそそくさと立ち去ってしまった二人を呆然と見つめる春に夏は口を開いた。
「春…私、天童子の名を捨てる」
「えっ…」
春は目を丸くして夏を見つめた。
「父上にもそう言った…。秋はそうじゃなさそうだけど、冬も捨てたみたい。だから私はここにももう戻ってくる気はないし…あんた達とも表面上はもう兄弟じゃないの」
「どっ…どうして」
「…どうしてかなぁ……面倒な事が嫌いなだけなのかも…」
「…」
「天童子は私にとって少し生きにくい場所のような気がするのよ…だからかな」
夏の言葉に春は答える事が出来ず、ただただ黙り込んでいた。
「でも、どんな場所へ言ったとしても私達は同じこの世界で生きてる。大地が繋がっているようにきっと私達も繋がってる…きっとまた会えるわ、春」
「…うん…きっと…」
春は溢れんばかりの涙を目に為ながら夏に向かって微笑んだ。
「それじゃ私も行くわね。じゃ…」
夏はそう言って春に向かって軽く手を振ると背を向けて歩き始めた。春は何も言わず小さくなっていく夏の背中をいつまでも見続けていた。夏が二人の後に続いて歩いていると秋が寄って来た。
「一体何の話をして来たの」
「別に大した事じゃないわ」
「そう…」
「ねぇ、秋…あんた気付いてた」
「…何が」
「春はもちろんの事、私達全員元から天童子の後継者になんてなれなかったって事…」
「どういう事…」
「……そういえば、あんたは天童子に戻ってくるみたいな事、父上に言ってたけど…どういう事」
「父上に言われたの。外の世界に出て城を一つ打ち取ってくれば私を後継者にしてくれるって」
「…そうなんだ」
「そういえばさっきの話どういう事」
「いや…父上がそう言ったんなら私の勘違いかも…忘れて」
「ふーん…まぁいいけど」
「あんたなんで母上が死んだか知ってる」
「もともと体が弱かったんだしょ。亡くなる半年程前から城の外どころか部屋するあんまり出る事なくなったじゃない」
「そんな理由で死んだんじゃない。私達の体が普通の人と少し違うのは母上が関係してるのよ」
「えっ…でもこれは天童子の血筋でじゃ…夏…一体あんたは何を知ってるの」
秋は強い眼差しで夏を見つめた。しかし夏はそれをかわすように視線を逸らした。
「…でもいずれ天童子に戻る気なら知らなくてもいい事かもね」
「なっ…何よそれー」
「じゃ、私はこっちの方だから、これでお別れね。元気で」
そう言って夏は左の方の道を歩いて行った。秋はしばらくその場に立ち尽くしたがすぐに気持ちを切り替えてそのまままっすぐに道を歩いて行った。
その頃春は庭の縁側で一人の時間に耽っていた。庭の桜の木を見ながら夏の言葉を思い出していた。
「きっとまた会えるか…その言葉を信じたいのに…どうしてももう会える気がしないなんて…」
春は項垂れながらそう呟いた。桜の花びらは風に乗ってゆらゆらと舞い散り、庭をピンク色に染め上げた。そんな花びらの雨の中を微かに遠くから人が歩いてくるのが見えた。人陰は徐々に春の方へと近付き、見た事のない男の人が春の目に写った。
「…どちら様ですか…」
春がそう訪ねるとニ十代前半くらいのふわふわの短髪の髪に少し面長な輪郭のその男は切れ長の目を更に細めて微笑んだ。
「天童子春さんですね」
「………はい」
「私は田島伶。こちらでしばらく働かせて頂く事になりました。どうぞよろしく」
男は更ににっこりと微笑みそう言った。春は言葉に詰まりしばらくその男を見つめていた。







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