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天童子~春編~
作:野田奈幹



第二話:それぞれの道


秋が部屋を飛び出し一瞬部屋の中は静まり返った。
「…すまん…。本当のところを言えば、四つ子の中で唯一男である冬が継ぐのが一番よいのかもしれぬが、先祖の意志を無視は出来ぬからな…」
少し眉を落しながら時馬は言った。
「…私は…後継者など望んでおりませんのでそれで結構です…」
冬は顔色を変えず静かにそう言った。
「…そうか…。それを聞いて安心した。あとは秋が問題だな…。あの子は人一倍負けず嫌いで向上心も旺盛だからな」
時馬は大きくため息を吐きながらそう言った。
「…お話が済んだのでしたら私はこれで…」
「冬!待ちなさい。話はまだ終わってはおらん」
部屋から立ち去ろうとする冬に時馬は叫んだ。
「父上!私は納得しておりません。いくら一番にこの世に生まれ出たからと言って、それでいきなり後継者などと…。秋の言った通り私には無理です」
今まで黙っていた春が耐えきれず、二人の話を割って叫んだ。
「春…秋の言葉など間に受けるな…。お前は自分では気付いていないだけですばらしい才能と大きな心を持っておる。心配せずにこの父に任せるがよい」
「…しっ…しかし……」
「反論は認めん…そう言ったはずだが」
時馬は強い目線で春を見つめた。その強い威圧感に耐えられなくなった春は太ももの上に両手をつき、頭を下げて黙り込んだ。
「春…覚悟を決めるのだ。お前なら出来る。…あと、夏、冬…そして秋もなのだが…今後お前達にはこの城を離れてもらう」
「…この城を出て行けとおっしゃるのですか…」
夏が顔を強張らせて尋ねた。
「そうだ。この城に跡継ぎでない者をずっと置いておくわけにはいかないからな。しかし私も鬼ではない。今まで育てて来た我が子を後継者にならなかったからと言って見捨てはしない。お前達三人には私が言う場所に行ってもらう。出来る限り住みやすく、天童子の名が浸透していない土地を選んだ。天童子の名で得をする分この世の中敵も多いからな、この先その名を捨てるか捨てないかはそれぞれの自由だが、捨てる気がないならそういう所へ行った方が安心して暮らせるだろう」
「…しかし…天童子の名を捨てるという事は…我々は親子そして…兄弟の縁を切るという事に…」
「それもいたしかたないだろう…。だからそれを決めるのは自分自身だ。もうお前達も十八だ。もう自分で判断してもいい頃だ」
少し薄暗い大きな部屋の中にはしばらく沈黙が流れて外の小鳥の鳴き声だけが妙に部屋の中に響き渡った。そんな沈黙を打ち破って時馬が再び口を開いた。
「出発は決心が鈍らんうちがいいだろう…。明日にも私がいう土地に行ってもらう。…よいな」
ずっと下を向いていた三人が時馬の方に頭をあげた。
「…二人とも…よいな…良ければ返事をしなさい」
「…はい…」
夏が喉の奥から必死に声を絞り出して答えた。それに続いて冬も頭を縦に振って答えた。
「春…お前もよいな」
「……わかりました……でも…悲しいです…。天童子に生まれた事今始めて悲しく思います…」
「それが力を持つという事なのだ」
「…」
春は目に涙を溜めながらじっと時馬を見つめた。
「…さて、そうと決まったら私はあのじゃじゃ馬娘でも説得してくるかな…。夏、冬…明日の朝出発だ。今日は早めに荷物をまとめてゆっくり休んでおけ」
そう言って時馬は部屋を出て行った。時馬が廊下をゆっくり歩いて行くのを確認して春と夏は緊張感が解れたのか足を崩して座った。冬はすぐに立ち上がり部屋を後にした。しばらく部屋の中に取り残された二人には沈黙が流れた。
「…さぁて、私も部屋に戻ろうかな…」
立ち上がり部屋を出て行こうとする夏を春は目で追った。
「なっ…夏…」
その声に夏は春の方を振り返った。
「春…ごめんね…。あんたにだけ重荷背負わせて…。でも今私はあんたの事よりこれから自分への不安でいっぱいみたい…。だからあんたの悩みとか泣き言に付き合える程心に余裕ないんだよね」
「夏…お願い少し話そう…」
春は泣きそうな顔で夏を見つめた。
「私は優しい人間じゃないの。……でもこれだけは言える…春…私達は普通の人間と違うんだから、天童子の名前を持ってるだけ以上に辛い事がきっとこれから待ってるわ。いつもその事だけは忘れないで。…以上。これが妹としての最後の言葉だから…」
そう言って夏は部屋を出て行ってしまった。誰もいなくなった部屋で春は一人溜めていた涙が一気に零れ出して抑えきれない思いを床に頭を付けながら肩を震わせて泣き崩れた。
その頃秋は庭で竹刀を持ち剣の練習をしていた。まるで自分の中の怒りを切り裂くかのように一心不乱に竹刀を振っていた。







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