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天童子~春編~
作:野田奈幹



第十五話:共鳴


十蔵の問いかけに少し戸惑いを見せつつ、伶は答えた。
「…知っているが…それが何か関係あるのか?」
「前に少し話したが、春は自分の異常な身体構造に何か感じているらしく、自分の事を化け物だと言った。…実はだいぶ前にこの村から出ていった私の妻も少し変わっていたらしく、自分の事を化け物だと言っていた。その妻が以前ここにいる時に言っていた事があったんです」
「なんだ、それは」
伶は身を前に少し乗り出しながらそう言った。
「妻は、私の一族はとても強い生命力を持っているが、とても大きな傷を一度に何度も受けてしまうと、傷を治癒する力が極端におちて、傷の度合によっては驚く程あけなく死んでしまう事があると言っていた。しかし、自分と血の繋がっている人間の血を、少しでも体内に吸収すると、嘘のように良くなるのだと話していた。……しかしこれは妻の話で、春の場合は上手くいくかは保証はないのだが…」
それを聞いた伶は少しうつむき考え始めた。
「春は同じ場所に致命的な傷を、傷が完全に完治しない間に二度も負っていた。妻の話と通じるものがある…今の状況を考えると、それしか方法がないような気がするんです。春の家族のいる場所を教えて下さい。私が連れてきます」
十蔵は縋るように伶に話し掛けた。
「…あなたがそこまで言うなら、それでやってみましょう。家族の元へは、私達が行ってきます。」
「本当ですか?」
「ああ…ただ血の繋がっているというのは、親、兄弟以外の人間でも良いのでしょうか?」
「うーん……詳しくはわからないが…やはり親か兄弟が一番いいんじゃないでしょうか?」
「そうか…」
「おい、田島どうするんだ。まさか時馬に本当の事を言って、お願いするんじゃねぇだろうな」
「そんな事はしないさ。…しかしそうなると、他の三人の誰かにお願いするしかないんだよなぁ…」
「居場所知ってるのか?」
「ああ、時馬から大まかだが場所は聞いてる」
「誰のとこに行くんだ」
「性格的にも引き受けてくれそうで、尚かつ一番ここから近くにいるのが夏だ」
「じゃ、早速出発するか」
「ああ。十蔵さんあとはお願いします」
「はい…でも出来るだけ早くお戻り下さい。私にもわかりませんが、春がだいぶ衰弱しています。いつ危険な状態になってもおかしくないとお考え下さい」
「わかった。湯旗行くぞ」
そう言って伶と湯旗は家を出て行った。
二人が出て行った後も春の容態は良くならず、呼吸がどんどんか弱くなっていた。そんな春に十蔵は付きっきりで看病をし続けた。しかし、その翌日の朝を迎えても決して春の容態が良くなる事はなかった。見ていると春は、最初の頃苦しみにもがき苦しんでいたが、それすらもなくなり異常に落ち着き、息をしているのかしていないかわからない程、静かに眠っていた。顔色は青白く、手を握れば体温が徐々に下がり、冷たくなっていた。
「春……がんばれ」
十蔵は徐々に奪われ冷えていく春の手を、ぎゅっと握りながらそう呟いた。その日もそのまま夜になり、朝を迎えた。
ほとんど呼吸を自分で出来なくなってきた春を見て、十蔵は内心覚悟をし始めていた。瞳に薄らと滲む涙を打ち消すかのように、瞼を力一杯閉じた。悔しさと悲しさで歯を食いしばり、ちぎれんばかりに握りしめられた拳を、床に叩き付けた。
「くそっ……」
すると隣の部屋の戸がそっと開いた。隣の部屋から顔を出したのはさくらだった。
「おとう…春姉ちゃん大丈夫なの?」
十蔵はそれに答える事が出来ずに、何も答えずうつ向いた。
「おとう!なんで何も答えてくれないの!」
さくらは十蔵の服を掴みながらそう言った。
「…こんな事は言いたくないが…春は…もう…」
「そんな事言わないで!おとうがあきらめたら春姉ちゃんはどうなるの。私約束したもん。いつかお互いが幸せになって、笑い合おうって!だからあきらめないで」
「さくら…すまん…」
そう言って悲しそうにうなだれる十蔵を、さくらも悲しそうな目で見つめた。
「おとう……私の血、お姉ちゃんにあげたら良くならないかな…」
「え…」
十蔵は目を丸くしてさくらを見つめた。
「実は前、おとうとお兄ちゃん達が話してるのを聞いていたの。お母さんと春姉ちゃんって似てるんでしょ。だったら私の血がもしかしたら、お姉ちゃんに効くかもしれない」
強い眼差しでそう言うさくらを十蔵は、無言のまま見つめた。
十蔵は固まったまましばらく考えた。考えながら今にも息絶えそうな春を見て、十蔵は何かを決意したかのような、強い眼差しになった。
するとさくらの両肩に手を乗せて、こう言った。
「もう迷っている時間はないみたいだ。一か八かだが、さくらお前の血液を春に飲ませてみよう。少し痛いかもしれんが、我慢してくれな」
「うん、わかった」
十蔵は奥から小刀を持って来た。さくらは少し長い袖を腕まくりした。さくらが差し出した腕を少し斬った。
流れる血を小皿に受け止めた。十滴分程の血液が小皿に溜まったところで、さくらの腕を止血した。
十蔵は寝ている春の体を優しく起こし、小皿を春の口に持っていった。小皿を少しずつ傾けながらに飲ませてあげた。
春は力なくも一生懸命血液を飲み干した。春が飲み終わると十蔵は、そっと春を戻し布団をかけてあげた。
「ねぇおとう、春姉ちゃん良くなった?」
「さぁ、まだなんとも言えん。とりあえずこれで様子を見よう」
そしてその夜も十蔵は、春に付きっきりで看病をした。見ていると春の顔色が少しずつではあるが戻ってきているようで、呼吸も整ってきていた。
徐々に回復の兆しが見えてきた事に十蔵は、ほっと胸をなで下ろしていた。
そして十蔵は、安心した事からと、ここ数日まともに睡眠を取っていなかった事から、春の手を握ったまま眠りにおちてしまった。
十蔵が眠りについてから数時間後、日は徐々に昇り、空が明るくなってきた。
家の中に日が入り、十蔵の顔は照らされていた。
「十蔵、十蔵」
その声に十蔵は、眩しそうに瞼を薄らと開きながら目を覚ました。すると目の前に元気そうに微笑む春が居た。
「十蔵、おはよう」
「春!元気になったのか!まさかあんな方法が本当に効くとは…」
「十蔵本当にありがとう。心配かけてごめんね」
「そんな事気にするな。本当によかったな。さくらもだいぶ心配してたんだぞ」
「そうか、早く安心させてあげないとね。……そういえば…田島伶って人と、湯旗準って人もここに居たと思うんだけど…」
春はキョロキョロと辺りを見渡しながらそう言った。
「ああ、あの二人かい。あの二人はお前の兄弟に会いに出かけたよ。」
「え?なんで」
「春を助ける為にはお前の家族の血が必要だって事になって、大急ぎで出かけてったよ」
「本当?一体何処に…」
「たしか…夏って人のとこだって言ってたぜ」
「場所わかる?」
「ああ、聞いておいたよ」
「私行くよ」
「そうか…じゃ今から行きな。さくらが起きると行かないでって、ぐずりそうだし、それにあの二人に無事だって早く報告しに行ってやらないとな」
「うん、ありがとう十蔵。すごく感謝してる」
「礼を言うのはこっちさ。危険なまねさせて悪かった。よくわからんがあの二人の話だと、当分は生き残った黒原も、この辺りを離れてるらしいから安全らしい」
「そうか、よかった」
「春、行って来い!そして、またいつかここに顔出してくれよな」
「うん、必ず」
そう言って春は、十蔵達の暮らすこの村を離れ、伶達が目指す夏のいる村へと旅立って行った。


春編はこれで終了です。
次回からは『天童子~夏編~』となります。






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