第十話:化け物
少女は口に手を当てたながら瀕死状態の春を見て震えていた。
「お願い…怖がらないで…。少し…少しでいい…町に行く手助けだけしてくれれば…」
そこまで話すと春は傷口の痛みに顔を歪ませた。それを見て女の子は手を差し伸べようとしたがまた怖がって体を一歩引いた。
「…なんか…もういいや…このまま死んでも。でも…せめて最後にあなたの声だけは聞いておきたいんだけど……私とお話してくれる」
諦めたような穏やかな顔で春は少女に話し掛けた。すると少女は急に落ち着いて首を少し縦に振った。それを見て春はにこっと笑った。
「あなたの名前はなんて言うの…」
「…さくら…」
「私は…春……なんで泣いてたの…」
「…」
するとさくらは再び啜り泣き始めた。
「…悲しい事が…あったんだね…。いっぱい…泣きなよ……泣いて…泣いて…泣き切った後は……一緒に…笑い合えると…いいね…………」
そう言って春の瞼は少しまた少しと細く閉じていった。
「………どうしたの…」
悲しそうに春を見つめながらさくらはそう言った。しかしその応答に春は微かに瞼を開くだけで何も答えなかった。
「…死んじゃうの…」
「……死んじゃ……うのかな……」
そう言って春の目から一筋の涙がゆっくりとこぼれ落ちた。
「待ってて」
そう言ってさくらは急に走り出し草むらの向こうへと消えて行った。
「父上……母上……親不孝で…ごめんなさい……所詮…天童子春の人生など……この程度なのです……」
春は胸に当てていた手を少しずつ体のしたの方へと下ろし、骨盤の真上に当てた。手から微かに感じる鼓動を感じとりながら春は細く閉じてしまいそうな瞼から青い空を眺めていた。
すると草むらが揺れる音が遠くの方から聞こえて来た。その音は徐々に春の元へと近付いて来てついに春の元へと姿を現した。
「なんだーこれ!死体が転がってるぞ」
姿を現したのは7、8才くらいの坊主の男の子だった。ボロボロの着物に手には木の枝を持っていた。春は驚いたがすでに反応する元気はなかった。
「とおちゃーん、いたよ」
男の子はさくらが走って行った草むらの方向に向かって叫んだ。するとまた草むらからかき分けるような音をさせて人がやって来た。
「おお、本当におったのか」
中年くらいの男性はそう言って春に近付いて来た。男性の後ろからはさくらがついて歩いて来た。二人をさくらが連れて来てくれたとわかった春はさくらに向かって微笑んだ。
「もう瀕死じゃねぇか。しかもどう言う事だ。こんなとこ刺されて即死じゃないなんて…」
「おとう、いいから早く治療してあげて」
さくらは泣きそうな顔をして父の裾を引っ張った。
「しかし…こいつの素性も知らずに助けるのは…」
「この人は………きっ、きっといい人だよ!」
「…しかし…この化け物的な生命力の持ち主がもし敵だとしたら厄介だ」
「そんな事言ってたら死んじゃうよー」
「お!お前さん刀持ってるな。どうだい少しは喋れるか」
春は力なさげに少し頷いた。
「お前さん剣の腕はあるのかい」
「…多少…」
「助けてやる代わりに少し頼みがあるんだが、この話のってみるか」
「…何を…するの」
「ある集団を退治してほしいんだ。出来そうか」
「…やってみる…」
「それをやったらうちの村に今後一切危害を加えない事を約束して出ていく、それでいいか」
その問いに春は頷いた。
「よし!そうと決まったらさくら!春侍!こいつを運ぶぞ。手伝え」
三人は春を動かさないように父が上半身をさくらと春侍が足を持って村の方へと向かった。川から村まではさほど距離はなく、すぐにさくらの家に辿り着いた。三人は家に入り布団に春を寝かせると早速さくらの父は治療にかかった。さくらの家の中には数々の医療道具が揃っていた。
「春お姉ちゃんしっかり!お父さんあれでも村のお医者さんなの。だからきっと助かるよ」
「こら!さくらどいていなさい。まずは止血せんと」
さくらの父は手際よく手当てを行っていった。
「しかし不思議だ。お前の体一体どうなって…」
そういいながらさくらの父が春の胸に手を翳そうとするとその手を春が掴んだ。
「おじさん言ったよね…」
「何て」
「私の事化け物的だって…」
「そっ、それは…」
「私…本当に化け物なんだよ…」
「なんだと」
「…でも…心配しないで……別に危害を加える気はないし…約束も…守る……だから今は…止血と傷口の手当てだけに集中して……私の体ついては…調べたりしないで…」
「…わっ、わかった。わかったからそれ以上喋るな。今から手当てに入るぞ」
そう言ってさくらの父は手際よく傷の手当てを済ませた。
「よし、これで一応手当ては完了した。あとは失った血をどうにかするかだが、とりあえずこの村特製の増血剤だ。何もないよりかはいいだろう。これを飲んでそれでもだめならあきらめるんだな」
それを春は一気に飲み干した。しかし味は思った以上にまずかったらしく余計顔色が悪くなった。
「まぁ、これでしばらく様子を見よう。私に出来るのはここまでだ。こんな薬だけでさっき流した血を補えるとは思えんが…あとは食い物で血を作るしかないがなんせうちの村は貧乏であんたに満足に食わせてやれるだけのもんがないんだ」
「ありがとう…十分です。しばらく眠ります」
「ああ、ゆっくり休め」
そう言って春は深い眠りに就いた。
「おとう、春お姉ちゃんは大丈夫なの」
「ああたぶんな。ここまで生きてた精神力があればもう大丈夫だろう。普通の人間だったら死んでるだろうが」
「おとう…本当に春お姉ちゃんにあいつらやっつけてもらうつもりなの」
「ああ、やってもらうさ。その為に助けたんだ。それにこいつはよそ者だ。死んだって俺の知ったこっちゃない。…それにうまくこいつが退治してくれりゃお前も助かるんだ」
「…うん」
「そう悲しい顔するな。とうちゃんはお前の為だからやるんだ。とうちゃんだって本当はこんな事したくないんだ。だからもうこんな事はこれっきりだ。約束だ」
そう言ってさくらの父はさくらの目の前に小指を出した。それにさくらも頷いて父の小指に自分の小指を結んだ。
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