第一話:後継者
武士が栄えた弱肉強食のこの時代に由緒正しき血筋で世に知られていた”天童子”という名の一族がいた。この一族は常にこの国のトップの座を譲る事なく、強い武力と支配力で君臨し続けていた。遠い昔、初代はその類いまれなる容姿と頭の良さから天からの授かり物として人々は讃えた。そこからこの一族はいつしか天童子と呼ばれるようになった。そんな天童子もついに第十五代目の後継者を決める時期がやってきた。
「時馬様、一体どうなさるおつもりなのですか」
「…」
広く薄暗い部屋の中央で家来の質問に答えれず、何か一点を見つめてこの城の主人・天童子時馬は悩んでいた。代々天童子家は最初に生まれた長男・長女を跡取りとして来た。しかし今回はとても大きな問題にぶちあたっていた。
「四つ子様達が生まれてから十八年か最善の策を模索して参りましたが…」
「本当に困ったものだ…。同時に後継者が四人も出来るとは予想すらしていなかったからなぁ」
「やはり、春様が」
「…しかし、春は…」
「…いたしかたありませんね、こうなってしまってはやはりあの作戦を実行するしかこの天童子家を守る方法は…」
「実は私は五年程前からその計画について考えていた」
「なっ、なんと…そんなに前から」
「正直…雪の事がわかってから、私はあの子達に愛情を感じれんのだよ。もう一度取り戻すのだ”天童子”を…この手で…」
「取り戻す…」
「そうだよ。今のこの天童子は汚れている。私の代でなんとか浄化しなくては…。わかっているな高河。もしこの事を口外すればお前の命はないぞ」
「わかっております。私は時馬様のおっしゃる事に従うのみでございます」
「よし…早速四人をこの部屋に呼ぶのだ。もう迷っている暇はない。実行に移すぞ」
「はっ」
……ピヨピヨッ……ピヨピヨッ……
「あっ、桜の蕾が開いてる」
お城の庭に立ち並ぶ桜の木々はすでにたくさんの蕾を付けており、すでに開花時期に入っていた。そんな春の訪れを喜ぶように庭の桜の木にはたくさんの小鳥達が歌いながら飛び回っていた。そんな庭の縁側に一人佇む子がいた。少し伸ばしっぱなしのボサボサとした髪に首に巻き物、膝丈くらいの小袴を着た白く透き通るような肌をした子であった。その子の名は天童子春。春が佇んでいると廊下の端の方から急いだ足取りで何人かが歩いて来た。見るとその子の妹弟達の夏、秋、冬であった。
「どうしたの」
「春…父上がお呼びよ」
春が訪ねると夏がそう答えた。
「父上が…なんだろう」
「…わかってないのはあんただけよ」
秋が見下すように春を見てそう言った。すると夏と冬は何も言わずに父・時馬の待つ部屋へと進んで行き、秋と春もそれに付いて進んで行った。長い廊下を歩く中にとてつもない緊張感があったがただ一人わけもわからず突然呼びつけられた春だけにはその様子はなかった。
部屋の襖の前まで来た四人は横一列に並んだ。代表して夏が部屋の中へ声を掛けた。
「父上参りました」
「…入りなさい」
渋く落ち着きのある声が部屋の中から聞こえた。夏が襖を開けるとだだっ広い部屋の一番置くの中央に時馬が一人座っていた。しっかりと生えた口ひげと少し釣り上がった目もとに面長な輪郭で四十後半を向けた威圧感たっぷりのその男は部屋の奥に設置された腰かけに足を少し崩しながら四人の方を眺めていた。
「こちらに来なさい」
時馬に言われるがまま四人は部屋の奥の方へと進んで行った。
「そこに座りなさい」
時馬の前まで来た四人は横一列に正座した。
「…お前達もわかっていると思うが、この天童子家は子が十八を迎える歳に跡取りとして勉強し始める。一番に生まれた言わば長男・長女が生まれた時からその宿命を背負って生活してくるはずなのだが…お前達に限ってはとても異例な事なのだ。なんせ”四つ子”だからな…」
時馬は力なくそう言った。
「それで今日お前達を呼んだのは他でもない。十八を迎えたお前達に私から一つ結論があって呼んだわけだ」
「…なんでしょう」
それぞれが動揺を隠しきれない中、夏が口を開いた。少しの間沈黙が続き、ついに時馬が口を開いた。
「…それは……跡取りを春にしようと思う」
「なっ、何故ですか!!」
時馬の言葉に激しく反応した秋が叫んだ。
「やはり…一番に生まれた者を貢献者にする…その先祖代々の意志を無視する事はできなかったのだ…」
「しっ…しかし春は上に立つ人間の器ではありません!」
「それはこれからどうにかしていけばいいと私は考えている」
「……でっ、でも…」
秋は歯を食いしばりながら時馬を見つめた。
「私はその意見に二言はありません」
「…私も同じく…」
夏に続いて冬も答えた。
「なっ、何…」
秋は驚きながら何か言いたげに二人を見つめた。
「何にせよ。これはほぼ決定事項だ。反論は許さん」
「そんなの私は認めません」
秋はそう言って部屋を飛び出して行った。
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