其の三
気付くと僕は此処に居た。何処から来たのかも分からない。自分の名前すらも分からない。僕を形作る大切な何かがごっそりと抜け落ちてしまったみたいだ。心の中は空っぽで何も感じるものは無かった。
そんな僕を人が避けて居ることは分かった。分かってはいたけど何とかしようとかは思わなかった。思うことは唯一つ。
このまま消えてしまいたい。
「何、呆けてるのよ?」
花纏の声で僕の回想は終了した。
今、僕は花纏の家に居候させて貰っている。
僕に暖かさを初めて教えてくれた場所。
僕の大切な場所の一つなんです。
「何?無視?」
花纏はそんな僕の思いと一緒に僕を踏みにじっている。
「痛っ!」
僕が声にならない悲鳴をあげていると不亜さんがお盆に料理を乗せて運んできた。
「!!!」
花纏が不亜さんに有り得ない反応を見せる。
僕の視界から一瞬で消えたのだ。
「あっ危ないよ!花纏」
僕がそう言うのと同時に不亜さんの手からお盆が離れた。
不亜さんの馬鹿!
花纏を抱き締める不亜さんを横目に僕は神速で飛び込む。
今夜のごはんの命運は僕の手に!
そうは思ったものの重力にはかなわない。
サヨナラー!!
あれ?
お盆は目の前で浮いている。
そういうことか。
これが不亜さんの『虎星雲』の力だ。
以前、花纏から聞いた話によるとこの世界に住む人は誰しも各自、何らかのチカラが備わっているそうだ。
それが『荒御霊』『和御霊』だ。
荒御霊は攻撃に特化したチカラ。花纏の
「蛮花」
とかがそうだ。
和御霊は非戦闘向きの特殊なチカラ。
「虎星雲」
がこれにあたる。
つまり、不亜さんはその特殊なチカラでお盆を浮かせているのだ。
虎星雲のチカラは
「浮力」
。万物に浮力を与えるチカラ。
ちなみに蛮花のチカラは『爆発』。
分かり易く花纏にお似合いのチカラだと思う。
破壊神。
「今・私のこと馬鹿にしなかった?」
え?心を読むとかは和御霊じゃないの?
何で分かるのさ!
「問答無用ー!!!」
ギャアアアアアアア!!!!! |