挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

戦国時代に携帯電話があったなら

作者:かじゅぶ
この作品は『5分大祭』参加作品です。
 ――人間五十年 下天のうちを比ぶれば 夢幻の如くなり
 幸若舞「敦盛」の一節である。
 軍議もたけなわを過ぎた席上。ここ岐阜城大広間において、織田上総介信長の懐から不意にこの一節が鳴り響いた。信長はこの敦盛をいたく気に入っており、携帯の着信米露照ちゃくメロに設定していたのである。
「しばし待て」
 そう言い置いて携帯を開いた信長は「ムフフ」と小さく笑声を漏らし、しばし惚けたように表情筋をゆるめていた。 が、家臣達の視線に気づき「コホン」と威厳に満ちた、かどうかはかなり微妙な咳払いを連発すると、取り繕うように背筋を反り返らせて、良く通る凛とした声を張り上げた。
「では本日の評定はこれまで! だがその前に権六から何やら意見があるそうじゃ」
 信長がそう言って視線を据えたのは、戦場において『かかれ、かかれ』の大音声とその突撃力から、かかれ柴田との異名をとる、柴田権六勝家であった。
「意見に非ず、苦言にて候」
 堅苦しい物言いで信長に頭を下げ、満座に向き直った勝家が諸侯を見回して鋭い眼光を放つ。そしてかかれ柴田の本領を遺憾なく発揮してみせた。
「昨今、我が軍内に蔓延るけしからぬ慣習に対し、申したき儀これあり!」
 雄叫びに近いしわがれ声が大広間を席巻し、襖という襖をガタガタと震わせた。当然ながら居並ぶ諸侯の鼓膜がキンキンと悲鳴をあげていたのは言うまでもない。
「近年来、軍令、伝達等を米留メールで執り行うようになって幾久しからん。然りながらそれは良しとして、問題はその不届きなる内容である」
 勝家がそう言って合図を送ると、数名の家臣が進み出て諸侯に書状を渡して回った。
 手回しのよい事よ、と苦笑と共に書状を眺めていた諸侯ではあるが、表情が見る見るうちに変化していった。赤やら青に染まった色とりどりの顔が並び、大広間に花が咲いたようだったと、これは後に信長の近習が語る言である。ちなみに信長は赤だったそうな。
 が、それはともかく今、現在。
「敢えて名は記さず。なれど各々心当たりがあろう! 職務を遂行するにあたり、その通信に顔文字を使うなど言語道断! その書状、とくとご覧あれかし!」
 そこには数々の通信記録が記されていた。いくつか上げてみよう。


 【甲とその家来、某城城主、乙との通信文】

 敵の急襲により落城寸前(>_<)
 降伏もやむなしと存ず(涙

 アホかーっ!(ノ`△´)ノ ┻┻
 直ぐ救援に向かう! それまで持ちこたえよ!

 ブ、ブラジャー∠(T_T)


 【前線の甲と兵糧方、乙との通信文】

 兵糧はどうなっとる!\(*`∧´)/
 腹が減っては戦は出来ぬという諺を知らんのか(怒怒怒

 明日到着予定
 貴殿の好きな酒をたっぷりと添えておいたゆえ
 どうかお許しあれm(_ _)m

 ゆるす(o^-')b


 【攻城戦の最中、私用米留を送った甲と妻との通信文】

 かあちゃ~ん! 名馬がほしいよ~う ・゜゜(/□\*)゜゜・
 こんな馬じゃ手柄を立てられないよ~う(号泣

 仕方ないわねーρ(-ω-、)ヾ(゜ω゜;)ヨチヨチ
 へそくりで買ってあげるから生きて帰ってらっしゃい

 やったー \(゜▽゜=))/…\((=゜▽゜)/ワーイ



 確かに酷い。勝家が声を荒げるのも無理はない。
 気まずい沈黙の中、勝家の鼻息だけがふんふんと音を立てていた。
 なんとかこの場から逃れたいものよ……
 そう皆が思っていた矢先。その大義名分がドカドカと廊下を踏み鳴らしながらやって来た。
「近江の横山城より連絡! 木下藤吉郎秀吉殿負傷との由!」
 大広間に緊張が走った。
 すわ、戦なり! と、血相を変えた諸侯が刀を引っ提げて立ち上がるが、その表情にはホクホク顔が見え隠れしていた。皆、例外なくこの場を逃げ出したかったのである。それは信長とて然り。だが喜んでばかりもいられない。秀吉が守る横山城は浅井長政の居城である小谷城の喉元に突きつけた短刀も同然である。これが手折られる事あらば、近江攻略は一歩も二歩も後退する事になるのだ。
「子細を申せ!」
 信長の声に焦りが色濃く刻まれていたのは当然であろう。
 しかしてその歩く大義名分曰く。
「はっ! 昨日未明、木下藤吉郎秀吉殿、携帯から浮気が発覚。寧々殿に殴る蹴るの暴行を加えられたる由。さらには失神した秀吉殿が譫言でその女性の名を呟いたものだからさあ大変。その後の展開は語るに及び申さず。もって件の如し!」
「…………」
「…………」
「さ、さて……、もはやいぬるか」
「そ、そうじゃのう」
 ここぞとばかりに逃げ出す諸侯。
「あ……、おい!」
 間の抜けた勝家の声を背に受けながら諸侯は大広間をいそいそと後にする。この事に恩を感じた諸侯が後に秀吉を天下人たらしめるのである。のかどうかは定かではない。

 さて、その夜。 
「あの禿ねずみにも困ったものよ」
 一杯の盃を喉に流し込んで苦笑とため息を同時に吐きだした信長の横顔を眺め、正室の濃姫は新たな酒を盃に注ぎつつ美しい口元を微妙に歪めていた。
「殿方は皆同じようなものでしょう。殿は違うのでござりまするか?」
「わしを禿ねずみと一緒にするな」
 余裕の笑顔で返す信長。しかし次に発せられた濃姫の言にはややたじろぎを見せる。
「では携帯をお見せ遊ばしませ」
「な、なぜじゃ?」
 信長の額を一粒の汗が伝う。それを冷ややかに眺めつつ、濃姫は一首吟じて見せた。
「ああ、汝の肌は白雪のごとく、その瞳は……、南蛮風の詩ですわね。続きは何でしたかしら? 怒りのあまり忘れてしまいましたわ」
「な、なぜそれを!」
「で? 誰なのです?」
 焦る信長。そわそわと目を泳がせる信長。やがて彼は思い立ったように膝を叩いた。
「そ、そうじゃお濃、鼓を持て。久しぶりに敦盛を舞ってやろうほどに」
「殿!」
「舞わせてくれ! いや、舞わせてください!」
「誰なのです!?」
「め、米留友メルともじゃ! ただの米留友じゃーっ!」
 見苦しい言い訳が夜の稲葉山を迷走した。このような弁解が通用するのなら世界は平和。戦国の世など訪れはすまい。後ほど判明することではあるが、奇しくもこの言い訳は秀吉のそれと寸分違わぬものであったという。そして結果もまた然り。この後、長きに渡って信長と秀吉の負傷は秘匿されたが、それが公となった時、『米留友じゃ』は一種の流行語となるのであった。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
― 感想を書く ―

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項をご確認ください。

名前:

▼良い点
▼気になる点
▼一言
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ