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THE MARVELOUS APES
作:比奈



第十七話「出だし好調」


「何はともあれ、まずは腹ごしらえでしょ」
聖はそう言って、手際よく料理を作り上げていった。
たった一つしかないコンロを駆使して、ものすごい数のご馳走を披露してみせた。
ハンバーグ。エビピラフ。チーズフォンデュ。シーザーサラダ。コーンポタージュ。クリームコロッケ・・・
聖と入れ替わりでぶっ倒れた私の為に、聖は私とは全く別の方法。
全部手作りでそんな豪勢な料理を用意してくれた。

「食材を買わなくていいってのは、何だか変な気分だね」
聖は笑いながら、小さなちゃぶ台の上にご馳走を並べた。

私の場合、聖と違い大きな外傷はなかったが、血を吸われた為、ひどい貧血状態に陥っていた。
そんな私の為に、聖はカロリーの高い、血を作れそうなものばかりを用意したのだ。

私は、ご馳走を頬張りながら、昨夜の戦闘やドラクラから仕入れた情報を話して聞かせた。
聖は静かに聞きながら、しきりに頷いていた。


ご馳走をたいらげた頃、私の話もちょうど終わりを迎えた。
「じゃあ、まずはあの時のあいつらを探せばいいんだね」
最後の一口を口に運び、私の話を総括した。
「うん、そう」
私は夢見心地で応えた。
満腹感に満たされ、私は急激な眠気に襲われていた。
「そっか。じゃあ・・・」
聖の言葉を全て聴き終わらないうちに、私の意識は深い眠りに引き込まれていったのだった。


私が目を覚ましたのは、それから数時間後の、午後一時の事だった。
大きく伸びをする私に、聖はお茶を入れてくれた。
「おはよう。よく寝てたなぁ」
「おはよ〜」
私の頭は起き抜けでも冴えきっていた。
血が戻っている感覚を充分に感じた。
めざましい回復力。
正直感動を覚えた。
私は起き上がると、すぐに出かける用意をした。
身だしなみを整え、外着に着替える。
つい昨日新調したばかりの、お気に入りブランドの服は、既にボロボロだった。
「うわ〜、ひどいな。これは」
私はボロボロになったジャケットを眺めてつい声を出した。
「ははは。ほんと、ひどいな。どこの不幸な子供だよ」
聖も笑って言った。
そんな聖は、私が用意してきた自分のお気に入りブランドの一式を身に纏い、ご満悦な表情を浮かべていた。
「人ごとだと思って〜。あーあ、気に入ってたのになぁ〜」
私は本気でへこんでいた。
真剣に選んで持ち帰った服なのだ。
もう少し着ていたかったのに。
「いいじゃん。また貰ってくれば」
聖があっけらかんと言ってのけた。
「いや、それはそうなんだけどさぁ」
正直、なんか抵抗があるのだ。勝手に貰ってくるっていうのは。
どうせ誰もいない世界だし、あの夢魔クロム・ネフューが作ったっていう世界なんだから、好きに着ていいとは思うけど。
何か罪悪感がある。
「ま、なんにしろその服じゃあみっともないよ。新しいの貰った方がいいって」
「ん?何か矛盾を感じるけど・・・・」
「そう?いいじゃん、別に。自己満足でしょ?洋服ってさ」
「それはそうだけどさぁ・・・」
「もういいじゃん。行くよ」
早々に話しを切り上げると、聖は既にエンジニアブーツに足を突っ込んでいた。
「早くぅ」
「わかったよ〜、もう。ってあー」
自分のウエスタンブーツを手にとって、爪先がスッパリ切れてることを思い出した。
「切れてたんだった・・・」
私はがっくしと膝をついた。
「うわっ、すっぱりだね。これはもう交換だな!」
聖はウエスタンブーツを手に、嬉しそうに言った。



私は再びショッピングモールへとやってきた。
例のブランド店へと入る。
「あんたいつもここだなぁ」
聖が頭の後ろで手を組みながら、ブラブラと店内を流している。
「いいじゃん!好きなんだから」
私はもうウキウキした気分で商品を物色していた。

昨日はもうちょっと寒かったからなぁ〜。
今回はもう少し暖かいやつにしとくかなぁ。

私はちょっと薄手のトレンチコートに目を留めた。
金ボタンが綺麗な、ベロア素材の黒いコート。
襟や袖に白いベロアで縁取りがしてあるのがなんともキュート。

「ねね、聖!これどう!?」
私はそのコートを引っつかむと、パンツコーナーにいた聖のもとへ駆け寄っていった。
「ん〜?」
聖は形がいいと評判のデニムを鏡で合わせていたところだった。
「良くない?これ!すごいカッコイイよね」
「おお、それいいじゃん!かっこいいよ。羽織ってみて」
聖の合わせているパンツは、明らかに聖には大きかった。
基本、聖の腰周りはXSサイズなのだ。
私はベルベットのコートを羽織ると、壁一面を使った特大の鏡。いや、鏡で出来た壁の前に立った。

すごいカッコイイ!
私は一発でそいつが気に入った。
「いいね、似合ってるよ。最高」
聖が私の肩に手を置き、鏡を覗き込みながら言った。
私は、念の為に値札に目をやった。
「うわ、0が一個多いな。やっぱ」
「そりゃ、そうだろ。良さそうだもん、これ」
聖は襟のミシン目を確認している。
「これにしよ〜っと」
私は、さっそく値札を取り外しにかかっていた。
「なぁ要、せっかくだから他の服も取り替えとけば?」
聖の手には、先ほど聖が合わせていたデニムパンツが握られていた。

結局私は、
レースのヘアバンド風ターバン、新しい白いキャミソール。
例のベルベットのロングコートにタイトなデニム、ラインストーンの散りばめられたゴールドの太いベルトをつけて、こげ茶の乗馬ブーツに決めた。

「へへへ、もう完全にギャルだね。こりゃ」
聖がニヤニヤしていた。
「なに?なんか文句ある?」
「別に〜。いいんじゃん?要って、本当はこういう趣味だったんだ〜、と思って」
「仕方ないよ。普段はお金ないから、こういうの手も足もでないし」
「そりゃそうだな」

聖は私のお尻をパシッと叩いた。
「痛っ!」
「ほら、行くよ!」

私達は颯爽と外へと踏み出して行った。





数十分後、私達は駅前通りのオフィス街方面。
先日、聖とクロム・ネフューが激突した場所へと舞い戻っていた。

八神、海、桜の精神体だという騎士たちが放り込まれた喫茶店の残骸が、戦闘の跡を生々しく記録していた。
「ここがあいつらを最後に見た場所だよな」
聖が、瓦礫の一部に足を乗せて言った。
「うん。もしかしたら、まだこの中に埋まっているかも」
私は、瓦礫の隙間をじっくりと覗き込んだ。
「どうしよう、私達の力じゃあ、こんな大きな角材やコンクリート片をどかすなんてできないし・・・」
「ああ。・・・・要、何か聞こえないのか?」
私は耳を澄ましてみた。
聞こえるのは、遠くで風の鳴く音だけ。
「何も聞こえないよ?」
「そうじゃないよ。心の声は聞こえないのか?って意味」
「ああ!そおか!」
私は照れながら頭を掻いた。
「ちょっと待って・・・」
私は再び耳を澄ませた。




「ん〜・・・・・」



「んん〜〜・・・・・」



「ダメだね。特にこれと言って何も聞こえない」

「そっか」
聖はゆっくりと瓦礫を持ち上げた。
「え?まさか、地道にこの瓦礫をどかすの?」
「それしかないっしょ。よい・・・しょ」
聖は手近な角材をゆっくり持ち上げると、歩道の方へと転がした。
「う〜ん、それしかないね。よし!頑張ろう!」
私も持ちやすそうなコンクリート片に手をかけた。
「うわ!重、だい!」
「そりゃ一人じゃ無理だよ。一緒に持とう」
私達はゆっくりと喫茶店の瓦礫をどかしていった。




それから何時間たったろう?
喫茶店の残骸は、なんとか半分程度は片付いてきていた。
それでも店の奥、三人が投げ込まれたであろう場所にたどり着くまでは、まだまだ遥か遠かった。
「全然だめだ」
私は額に浮かんだ汗の玉を腕で拭った。
二人とも、既に上着は脱ぎ、キャミソールだけで作業に没頭していた。
「ったく。せっかくの服が汚れちゃうよ」
聖が途切れ途切れに呟いた。
「ホントだね」
私もその意見に激しく同意した。

私はその場に腰を降ろした。
「ちょっと休憩しようか」
聖もそう言って私の隣に座り込んだ。

「それにしてもさぁ」
「ん?」
私は、兼ねてから疑問に思っていた事があった。
「いや、ちょっと思ったことがあったんだけど・・・」
「何?」
「ん〜・・・・」
「何よ?早く言いなって」

「二日もこんな瓦礫の下に埋もれていて、生きてるのかな?」


二人の時が止まった。


「・・・・いや。それは・・・」
聖が口籠もった。
「あ、うん。いや、多分大丈夫だよね?」
私は焦った。
「ドラクラは、クロム・ネフューがもう捕らえる準備は出来てるみたいなことを言っていたし、多分大丈夫だよ!」
「・・・・だといいんだけど」
聖が元気なく呟いた。
八神は仮にも聖の恋人だ。
不安になって当然だ。
しかも聖にとっては、八神はこの街で唯一の家族も同然な人物。
心の拠り所がもしかしたら死んでしまったなんて、仮定でも考えたくないはずだ。

「ごめん・・・・・」
私は、力なく謝るしかなかった。

「いいよ。きっと大丈夫だ。きっとあいつらは生きている」
「そうだね。そうだよね!」
「ああ。それに、あの騎士はあいつらの精神体なんだろ?じゃあ、きっと瓦礫に埋もれて死んだりはしないでしょ」
聖は私の目を見ながら言った。
その目には言葉とは裏腹に、力も輝きもなかった。
「うん、きっとそうだよ!」
私は、出来る限り元気な風を装って、聖に返した。
「でも・・・・」
聖が急に口籠もった。
「精神体って・・・・・なに?」



風が吹きすさんだ。


「いや・・・」
私も口籠もった。
「なん・・・だろーね?」

私の目は点になったと思う。
聖の目も点になっていた。

「ドラクラがそう言っただけで、私も具体的には知らないんだよね」
私は頭をフル回転しながら、聖に答えた。
精神体ってなんだ?
ファンタジー小説やマンガ、ゲームではよく見るけど、具体的にはなんだ?
要は、身体から精神っていうか、心だけが離れている状態なんだろ?
幽体離脱みたいなものなのかな。
きっとそうだな。
そうに違いない。

「多分、幽体離脱みたいなものなんじゃないかな?ゲームとかではそうだよ」
私は別の意味で汗をかきながら聖に向かって拳を握り締めた。
正直なところ、自分を納得させる為にも拳を握り締めた。
「ゲームねぇ。あたし、あんまりゲームとかやったことないんだよね。そんなもんなの?」
「う、うん。大体は」
「そっかぁ〜」
私は立ち上がった。
「さぁ、グダグダ言ってないで、さっさと仕事に戻ろう!」
「いつから仕事になったんだよ」
聖が冷静に突っ込んだ。



「もうその必要はない」

私達の背後で、聞き覚えのある声がした。


!!!!


私達は、思い切り振り返った。


そこに立っていたのは、他でもない、和宮八神そのものだった。


「八神!!!!」
「八神君!!!!」
私達は同時に悲鳴を上げた。

よく見るとその隣には、海、桜の顔も。
しかし格好だけは、あの時のまま、色とりどりの鎧を身に纏ったままであったが。
私達は急いで三人に駆け寄った。
「八神!どこにいたんだよ!」
聖が八神に抱きついた。
私は、その後ろで立ち止まり、それ以上前には出られなかった。
聖はしきりに八神の胸板に顔をこすり付けていた。

「や、やめたまえ!君!」

八神の意外な反応に、聖は顔を上げた。
「え?」

「ふ、婦女子が他の人間の目の前で・・・」
八神は聖の肩に手をかけ、自分の身体から聖を引き剥がした。
その顔は、真っ赤に染め上がっていた。
「八神君・・・?」
私は、八神の顔を覗き込んだ。

「わ、わたしの名は八神などではない!我が名はハデス。偉大なる皇帝、ゼウスの騎士なるぞ」
しきりに咳払いをしながら、八神は平静を取り戻そうと必死な様子だった。

「ぷっ・・・・」
その仕草があまりにも可愛らしく、私は思わず吹き出してしまった。
「くすっ・・・」
聖の肩も小さく動いた。

「あははははははは!!!」
「はははははは!!!!」

私達は大きな声で笑った。
「なっ、何がおかしい!?」
八神が慌てふためいている。



「ははははははは!!!!はー、はー」
「はぁ、はぁ、はぁー」

私達はさんざん笑った。
唖然とする三人を尻目に、私達はしばらく笑い転げてた。

もういいや。
こうやって笑っていたい。
なんとなく緊張の糸が途切れて、私達は気の済むまで笑う事にした。



続く!












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