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静天遠く
作:カジキ



通り過ぎる風 二


 始めは何が起こったのかが解らず馬に乗ったが、次第に見えてきた。
 城内に兵が入ってくることは良くあるが、この兵の雰囲気は異常としか言いようがなかった。城内は乱れに乱れている。あちこちから、叫びや鳴き声、怒声が飛び交っている。
 騒ぎが始まったと同時に飛び出し、大通り駆けた。ここから宮城までは、すぐだった。
 宮城の入り口を、兵が固めていた。
 剣を抜き、馬から飛び降りた。その勢いを利用して、敵を斬る。これは明らかに、皇国の兵だった。
 剣を一振りするごとに、二、三人が次々と倒れていく。宮城の中へと、走った。馬が付いてくる。
 第二王女を救わなければならないと考えたのは職柄で、王族に忠誠など無かった。だから軍を蹴ったのかもしれないな。そう思いながら、敵の斬り倒していく。
「スレイ。こっちだ」
 声は、敵に囲まれていた。囲みを破ると、そこには王女セプリキアとその妹フィフ、護衛隊長のネイト、さらには給仕長のラプノルトまでが槍をふるっていた。
「おやおや、給仕長が槍を振るって話は聞いたことがない」
「そのようなことを言ってる場合ではありませんよ」
 敵がまた、囲み始めた。
「スレイ」
 フィフが目に涙を溜め、名を呼んだ。
「大丈夫ですよ。安心してください。入り口に私の馬があります。ネイトさん、ラプノルトさんどっちでもいいんだがそれに乗ってください」
「解った。後ろは任せろ、スレイ」
 安心して一歩、進んだ。敵が、一歩下がった。また進むと、また下がった。
「どうした?怖じ気付いたか」
 構えを解く。後ろで将らしき人物が騒いでいた。その将らしき人物は剣を抜くと、自らスレイによって来た。が、スレイの拳を顔面に食らうと、将はよろけ、兵の中に倒れた。誰も支えようとはしない。 その瞬間、スレイはフィフの体を抱き上げ、囲みを斬り抜けた。他の三人も付いてくる。
 馬にはネイトと王女とその妹が乗った。ラプノルトは、給仕服のため乗れない。
 走る。良い馬であり、日頃から乗っているので、女三人乗せたところで潰れはしないだろう。
 他の護衛達はもうやられただろう。スレイが非番で宮城を離れていたことが、不幸中の幸いだった。
 また、敵の壁。しかも今度のは分厚い。
 舌打ち。剣を振る。ほとんどの兵が何もできないまま、倒れていく。しかし数が多い。腕を上げるのが辛くなってきたが、まだ振れる。
 気が付けば、前にも後ろにも兵がいた。
 囲まれた。完全に。どうする。敵の、一角が崩れた。
 普通の戦い方ではないことは、見れば解る。敵の中を掻い潜り、確実に急所をその短剣で斬る。何も考えずに、そこから斬り抜けた。
 長らしき、一人の黒髪の女が近づいてきた。
「南門は私たちが確保いたしました。あなた方はそこから逃げてください」
「どこへ?」
「トレスゴ公国へ」
 そこからは、何も考えずにがむしゃらに走った。
 気が付けば、夜だった。
「この辺で、しばらく休みましょう。少しだけですが」
 一息つき、木の根に腰を掛けた。今現在の位置は、解らない。
 軍は、救援に来るのか。しかしあの女は公国へ行けと言った。それは一時的に避難せよということか。それとも、グリナッドは終わったからということか。
 自分が今なぜここにいるのかが、不思議になった。後者なら、国が潰れたのなら、自分はここにいる必要は無いのではないか。ネイルなどは王族に対する忠誠が厚いが、自分は無に等しい。ならなぜ、あの時助けに行ったのか。なぜだろう。
 太陽が昇るよりも早く、出発した。急げば、一日で国境を越えることが出来るだろう。 途中、グリナッドからトレスゴに移動している難民に合流した。
 こうなれば、王族も哀れだな。今までずっとぬるま湯に浸かってきた王族だから、一層哀れに見えた。
 次の日、すぐに国境に差し掛かったが、公国の軍が国境を固めていた。
 先頭では、揉め事がおきている。
 難民は増え、一日で八万人を越えた。少しばかり食料が送られてきてはいるが、少なすぎた。この数の難民が、一斉に公国内に雪崩込んだらどうなるか。混乱が極まることには間違いないだろう。
 そろそろ、行くか。どこへ。どこかへ。
「どこかへ。いくおつもりですか」
 ラプノルトだった。
 心臓が跳ねた。溜め息をついて、答えた。
「正直に言えば」
「そうですか。いえ、止めはしません。国は滅んだのですから。私としては、残っていただきたかったのですが」
 無理にでも止めようとしてくるかと思っていたから、少し、驚いた。
「変な意味はありませんよ。唯一の男手がいなくなるのは厳しいと申しているのです。それに、フィフ様は」
「あんたらはまだ若いだろ。それに、男みたいな女が一人いますよ」
 無理矢理、ラプノルトの話を切った。その話題は、話したくなかった。
 翌朝、まだ難民達が静まり返っている頃、馬に乗った。
 馬に乗りながら、あのとき助けてくれた女は、誰なのか。そんなことを考えていた。












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