ふぁいてぃんぐ☆うぉりあーず(9/14)PDFで表示縦書き表示RDF


ふぁいてぃんぐ☆うぉりあーず
作:つあぎ



#7


〜ヴェステア城下町・商店街



 ヴェステアはフィツール地方南部第一の都市である。多数の鉱山があるせいで、多くの労働者と、それを目当てに商人やサービス業の者が集まる形となって、今の大規模な都市となった。
 なお、フィツール地方では、城と城下町が分離している形が一般的だ。城壁の中に町がある、所謂「城塞都市」は、元首都のレグザミール、首都防衛の要であったフォルセナ、国境北部に位置するアルヴァレス。この3つのみである。
 そんな賑わいを見せる商店街に、アルスは一人退屈そうに立っていた。彼の前には女物の洋服店があり、彼の手にはいくつかの袋が提げられている。
 そう、彼は完全に荷物持ちとして、ここに居るのだった。
 彼女と知り合って以降、ずっとこのようなことをやっているため、慣れてはいるのだが。
 10年前に偶然知り合って以来、ずっと腐れ縁のような形で、一緒に行動している。よく知らない人からは、恋人同士かと勘違いされるのだが、アルスからしてみれば、断じてそんなことはないと言い切れる。
 言うならば、使い走りだ。
「よ、アルスさんよ」
 背後から肩を叩かれる。アルスが振り返った先には、少し前に見た顔が居た。
 ユリウスと、レオンである。
「何だ、ユリウスの旦那か」
「今日はどうしたんだ?」
「買い物の付き添いだよ」
 アルスが呆れた感じでため息をつく。
「ここ、女物の店だろ。どーしたんだ?」
「さては、デートだな?」
『買い物の付き添い』『女物の洋服店』という二つの要素から、デートという結果を見事に弾き出すユリウスとレオン。
「アルスー、ちょっと来なさーい」
 店の中から、レンファの声がした。彼女の声は、高くてよく通る声だ。いい声である。
「違うっつの。……っと、悪い、連れが呼んでる。またな」
 アルスが面倒臭そうに荷物を抱えて、店の中に消えていく。
「相手、多分あの人じゃねーか?」
「あの人って誰だ? レオン、お前、心当たりでも?」
「あの人だよ、あの人。ほら、こないだウォードさんの後ろにいた、あの人」
「あぁ、あのポニーテールのか?」
「いや、そこまでは知らねぇよ。何気にお前、よく見てるじゃねーか」
 レオンが呆れたように笑う。ユリウスとは幼馴染であり、昔からよく遊んでいる仲だ。ユリウスの遊び癖はよく知っているし、彼から何度か女性を紹介してもらったこともある。いずれも長続きしなかったのだが。
「相手があの人だったら羨ましいな。遠目にしか見てないが、美人だったぞ?」
「そっかぁ? 気ィ強そうじゃんか」
「そこがいいんだよ」
 ユリウスは勝気な女性が好みのようで、過去、結構深い関係まで達した相手はみんな勝気なタイプの女性であった。普段は勝気でも、自分の前ではしおらしくなるという姿が凄い好きらしい。
「ったく、お前は一回刺されて死ねよ」
「だが断る」
 普段と全く変わらない会話を交わしつつ、二人はユリウス宅へと足を進めた。
 別に戦勝休暇と言っても、たった五日では、特にやることなどないのだった。



〜ヴェステア城下町・ユリウス宅前



「頼むで、機嫌直してーなー」
 買い物袋を提げ、仏頂面を浮かべて早足で歩くカチュアの後を、メリーベルがすがるようについて歩いていた。
「何や、何で怒っとるん? ウチ何かした?」
 メリーベルの言葉にも、カチュアは言葉を返さない。ずっと仏頂面を浮かべたままだ。
「カチュアちゃんのシュークリーム食ったのは謝るで! すんまへん、腹減っとったさかい、つい!」
 カチュアは足を止め、メリーベルの方に呆れた顔で振り返る。
「……あれ、やっぱメリーだったんだ?」
「しまったーーーー!!!」
 つい墓穴を掘ってしまったメリーベル。カチュアは少し苦笑を浮かべ、再び自宅へと足を進めた。
 別に怒っている訳ではない。ただ、二日前のことが少し尾を引いているだけだ。
 なんとなく気まずいというか、なんというか。別にメリーベルも悪気があった訳じゃないだろうし、兄はもはや慣れてしまっている。いや、慣れられるのは良い事では無いか。
 ただ、ここしばらくメリーベルには素っ気なく応対している。謝るような機会があれば、謝っておきたい。なんだかんだで、友達と呼べる存在なのだから。
 というか、自分の機嫌が話題になった、今のうちに謝っておいたほうがいいかもしれない。
「ねぇ、メリー……」
「……カチュアちゃん、ちょい待ち。誰かおるで?」
 メリーベルがカチュアを制するかのように前に出る。自宅の前には、遠目にだが初老の男と、まだ若い娘が居た。初老の男の上着は、袖に太さが無い。腕を通していないのか、それとも腕が無いのか。
 ともあれ、見たことの無い人だというのは解る。
「ユリウスさんの知り合いなんかな?」
「いや、あたしも知らないけど……」
 ユリウスの自宅はよく飲み会の二次会・三次会の会場となる。そのため、ユリウスと縁の深い人の顔は一通り知っているつもりだ。でも、ドアの前に立っている初老の男の顔は見たことが無い。
「よっしゃ。じゃあウチが聞いてきたるわ」
「え? いいよ、それぐらいあたしが……」
「いや、悪い奴やったらどないすんねん。いっつもタダ飯食うとるさかい、こんぐらいはやったるわ」
 メリーベルは少し笑顔を見せて、ドアの前に立っている男の前へと足を進めた。
 近くで見てみれば、男は年こそ取っているものの、その眼光は鋭い。また、腕は袖に通していないのではなく、本当に根元から無いようだ。修羅場を何個もくぐってきた古強者か。メリーベルはそう判断した。
「あー、人ん家の前で何しとるん?」
 気軽な感じで話しかけてみる。メリーベルの問いかけで、男が彼女のほうを向いた。鋭い目つきと、白髪混じりの赤い髪。昔は男前やったのかなぁ。メリーベルは少し過去の姿を想像してみるも、すぐに挫折した。
 隣にいる女は、まだ二十歳にもなっていないような、長い黒髪の少女だ。娘にしては髪の色が違うし、男の世話係なのだろう。
「いや、ユリウス殿の自宅はここだと聞いたのだが……?」
「あぁ、ウチは居候や。ユリウスさんなら出かけてはるで?」
 ユリウスは昼前から同僚と出かけている。その間にメリーベルとカチュアは買出しに出ていた。
「うーむ……。用事があったのだが……」
「あの、兄に何か……?」
 遠目から見る限りでは大丈夫だと判断したのか、カチュアがメリーベルの真後ろまで足を進める。カチュアの接近に気付いたメリーベルが、体を少し横にずらした。メリーベルは長身であるため、彼女が前に出れば、カチュアは完全に隠れてしまうのだ。
「あ、ユリウス殿の妹殿か?」
「はぁ、そうですが……」
「それは失礼。ワシは、傭兵団『ブラックフェンリル』団長の、ウォード・シュヴァイツァーと申す。こちらはワシの身の周りの世話をしてくれている、エルザ」
「エルザです。よろしく……」
 ウォードとエルザが、それぞれ礼をする。
「それはどうも……。あたしは、カチュア・ギュンターです。よろしく」
「では、カチュア殿。ユリウス殿は外出中とのことだが、いつぐらいに帰ってくるか、わかりますかな?」
「うーん……。日が暮れるまでには帰ってくると思いますけど……。急用ならば、伝言を承りますよ?」
「いや、本人に直接伝えるべき用事なので……」
 しばらく思案に耽るウォード。エルザはその横で、退屈そうに周囲を見渡していた。
「……では、兄が帰るまで、しばらく……」
「お前等、家の前で何やってんだ?」
 丁度いいタイミングで、ユリウスが帰宅してきた。レオンも一緒だ。おおかた、レオンと一緒にグダグダと過ごすつもりだったのだろう。
「って、ウォードさんか。久しぶりだな。連絡くれれば、こっちから行ったのに」
「いえ、息子がこちらへ来たついでです。いい機会ですので」
「なんだ、アルスさんなら、さっき見たぜ。あのねーちゃんと一緒だった」
「レンファですかな? 彼女とアルスは、仲が良いですからな」
 しばらく話し込むユリウスとウォード。カチュアはその様子を怪訝そうに眺めながら、傍に居たレオンの裾を引っ張る。
「ねぇ、レオン。あの人、お兄ちゃんの知り合いなの?」
 ユリウスとレオンは幼馴染であるためか、カチュアとレオンも顔馴染みである。
「知り合いっつーか……」
 レオンがしばらく困った感じで頭をかく。
「こないだの戦で、戦った人だな。平たく言えば、敵だった人だ」
「え、て、敵!?」
「何や、仕返しに来たとかかいな?!」
 あからさまに驚くカチュアとメリーベル。
「落ち着けっ! あの人は傭兵だ。ほら、言うだろ? 昨日の敵は今日の友って。まぁ、今日、何の用で来てるのかは知らないけどよ」
「レオン、ちょっと来てくれ。あと、カチュアは茶を三つ淹れて」
 ふとユリウスを見てみると、家のドアを開け、ウォードを招き入れていた。どういう人かは知らないが、友人ではあるのだろう。カチュアは二つ返事をしながら、メリーベルと共に台所へ向かった。



「メリーベル、カップ出してー」
「あいよー」
 台所ではカチュアが湯を沸かしながら、茶の段取りをしていた。茶菓子も残っている。普段は買うか貰うかした二日後ぐらいに、カチュアとメリーベルの腹の中に消えているのだが、今回は珍しく残っていた。別に不味かったとかいう訳ではない。本当に偶然だ。
「あの、何か手伝うことありませんか?」
 台所にエルザが顔を出す。近くで見れば、容姿はまぁ十人並みといったところか。
「あ、エルザさんやね? えぇわ、お客さんにやらせることちゃうしな」
「いえ、少し、暇なので……」
 エルザがはにかんだ。笑顔になると、可愛らしい。笑顔の似合う娘だ。
「んー、でもお茶を淹れるだけだし……。あ、そうだ。そこのお菓子、盛り付けてもらえます?」
「あ、はい!」
 エルザがいそいそと茶菓子を皿に盛り付ける。手馴れたものだ。
「エルザさん、ウォードさんの娘さんなん?」
 メリーベルが退屈そうに椅子にもたれかかりながら相変わらずの早口で喋る。慣れてない者は聞き取りにくいのではないのだろうか。
「いえ、違います。何でしょう……。命の恩人、といったところでしょうか?」
「命の恩人? はぁー、何や、訳アリなんやなー」
「メリー、暇ならコレ、部屋のほうに持ってってよ。あたしはお昼の分の洗い物するから」
「わ、あいよー」
 メリーベルがひょい、と立ち上がり、ティーカップと茶菓子の乗ったお盆を持って、応接間のほうへ足を進めた。
「……あれ、エルザさんは?」
「いえ、仕事の話らしいので、私は入れませんよ。ウォード様からきつく言われていますので……」
「ふーん、そうなんですか」
 石鹸を布に擦りつけながら、カチュアはウォードとエルザの関係を模索する。
 おそらく、孤児のエルザをウォードが拾った、ってところだろうか。そのまま、両腕のないウォードの世話役になった、と。
 あくまでも推測だが、それでもカチュアは、自分のカンに割と自信があった。
「……そうだ。エルザさん、あたしって何歳に見えます?」
 カチュアが手を止めて、エルザの方へと振り向く。エルザは驚いたような表情を浮かべ、しばらく首を捻った。
「……15歳ぐらい、ですか?」
 予想できていた答えとはいえ、やはりショックなのはショックだ。カチュアは落胆のため息を吐いて、作業に戻った。



「はいよ、お茶やでー。お菓子つきや」
「ん、すまんな」
「ごゆっくりー」
 メリーベルがお盆をテーブルに置いて、応接間から出て行く。応接間にはユリウスとレオン、そしてウォードが居た。
「あ、ワシは結構です。見ての通りですのでな」
「さっきの子は?」
「確かにエルザはワシの身の周りの世話をしてくれておりますが、仕事の話の時は別です」
「そっか」
 レオンはふと、風呂はどうしているんだろう、という疑問を浮かべた。まさかさっきの子に手伝ってもらっているんじゃないだろうか。
 疑問は疑問だが、聞くのも悪い気がする。心の中に留めておくことにした。どうせ何日か後には忘れているだろう。
「……それでだ。俺はレオンのことを信用して、この話を聞かせる。いいな?」
「どうしたよ、改まって」


 ユリウスの脳裏に浮かぶ、8年前の光景。
 今際の母が残した、あの言葉。


『ユリウス、アナタの父親はね……』


「俺は、近いうちに……」


 あの言葉を聞いてから抱いた、夢。いや、野望。
『フィツール王国国王の……カイオス・ギュンターよ……』


「フィツール王国再興の、兵を挙げる……!」
 応接間の中から、人の声が消えた。


読んでいただき、有難う御座いましたー!

随分と間が空いてしまいました!
また気合を入れなおします!w











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう