ふぁいてぃんぐ☆うぉりあーず(5/14)PDFで表示縦書き表示RDF


ふぁいてぃんぐ☆うぉりあーず
作:つあぎ



#4


〜ヴェステア軍・最前線


「フィツール王国の血を継ぐ者だと……?」
 眼前のユリウスを、訝しげな表情で睨むアルス。美しい金色の髪と、整った顔立ち。そして、底知れぬ覇気を湛える、深い緑色の瞳。
 王家の世継ぎ。そう言われても、確かに違和感は感じない。だが、そのあまりにもありすぎる自信から、どこか詐欺師のような胡散臭さも感じられた。
「さて、どうする、アルスさん。いくら君達でも、この囲みは突破できないだろう?」
 ちら、とアルスは自分の周囲に目を遣る。確かに囲まれていた。十重二十重、そう言いたくなる。
 無我夢中で突っ込むことはできたのだが、ここまで包囲が完了しているとは思わなかった。おそらく、先ほどのやりとりの間に包囲を進めていたのだろう。無駄のない男というか。囲みの中に突っ込むよりも、囲みの中から抜け出すことのほうがはるかに難しい。
 やはり、少々早計に過ぎたか。アルスは今になって後悔する。いや、後悔ではない。ユリウスの話を聞く限りでは、シェイズ達の命を救うことができるかもしれないのだから。
 シェイズのことだ。このような状況に追い込まれたら、確実に死に花を咲かせることを選んだだろう。
「……」
 そして、シェイズはともかく、他の味方は皆、疲れきっている表情を浮かべていた。無理も無い。数倍の敵を相手に、ここまで戦い抜いたのだ。
「…………」
 アルスは己の得物を、地面に突き刺す。そのまま腕を組んで、あぐらをかいた。
「降伏だ。お前ら、武器を捨てろ!!」
「アルスっ!?」
 アルスの一言に、シェイズ達は狼狽する。が、それを押さえるかのように、アルスが大声で叫んだ。
「ブラックフェンリル、隊則一ッ!!」
「……」
「復唱ッ!!」
「……ブラックフェンリル、隊則一ッ!」
 アルスに続いて、ブラックフェンリルの生き残りが、隊則を復唱する。
「己の生還が第一ッ!! 戦友の生還が第二ッ!! 勝利が第三ッ!!」
「己の生還が第一ッ! 戦友の生還が第二ッ! 勝利が第三ッ!」
 副団長のアルス自らの行動に、他の者も躊躇を失くしたのだろう。言葉とともに、シェイズを除くブラックフェンリル隊員が、己の得物を地面へと突き刺した。シェイズも少しの躊躇の後、両手の得物を地面にそっと置く。
「さて。まずは飯を食わせてもらおうか、ユリウスさんよ」
 ユリウスは満足そうな笑みと共に、ゆっくりと頷いた。


〜反乱軍本拠


「ブラックフェンリル帰還ッ! ブラックフェンリル、帰還だッ!!」
 反乱軍本拠へと逃げ帰ったブラックフェンリルのもとに、反乱軍の雑兵が駆け寄る。出撃前よりも明らかに減った彼らに、雑兵たちは驚きを隠せないようだった。ブラックフェンリルはこの戦に巻き込まれた雑兵達の、精神的な支柱である。
「ほらほら、邪魔よ邪魔、邪魔! どきなさいっ!」
 レンファが周囲の雑兵たちをかきわけながら、帰還したブラックフェンリルの元へと歩み寄る。パッと見、数は300そこらか。
 結構やられたわね。レンファは少しため息をつきながら、アルスとシェイズの姿を探していた。敵のはっきりとした力量を知る必要がある。もっとも、この損害だと、今まで相手にしてきていた腰抜けの正規軍とは違う気がするが。
 だが、二人の姿は見当たらなかった。
「……アルスとシェイズは?」
「……副団長は、包囲されたシェイズさんを救出に、敵中へと突入を……」
「……あんのバカッ!!」
 レンファが手にしていた扇子を勢いよく掌に打ち付ける。乾いた音とともに、掌に微かな痛みが走った。
 部下と部隊をほったらかして敵のど真ん中に突っ込むなんて、馬鹿げてる。自分に課せられた役職の重さを知らないの? 一体何年ブラックフェンリルの指揮をやっているのよ。
「そう……! わかったわ、お疲れさま。とりあえず、アンタらは休みなさい。ほらほら、他の連中は持ち場に帰りなさい! さっさとしないと焼き殺すわよっ!!」
 言葉の端に苛立ちを感じさせながら、レンファが扇子を振る。慌てて関係者以外の連中は持ち場へと戻っていった。
「こりゃ、ウォードさん達にどう報告しようかしら……。……っとにもう!」
 レンファは扇子を振り回しながら、づかづかと大きな足音を立てて城内へと足を進める。反乱軍の雑兵たちは、だいぶざわついているようだ。
 ブラックフェンリルだけじゃなく、もう少し兵力を借りれれば結果は違ったのにね。というかまぁ、あの攻撃命令そのものが軽率過ぎた。威力偵察程度なら軽くこなせたのに。
「ったく、あのバカオヤジ……。自分達の兵力を当てにしないで勝てるとでも思っているの?」
 思わず悪態が漏れた。まぁ、傭兵団という立場柄、彼女達ばかりが危ない橋を渡らせられるのは、しょうがないことであるのだが。
「レンファよ。入るわ」
 ノックをしながら扉を開ける。そこには、ウォードと反乱軍首魁のモーリッツが居た。彼は元々この地方の領主だったのだが、無能さ故に更迭され、さらに過去の背信事件までも判明している。罪人には厳しいディアスのことだ。もはや罪は免れない。
 ならば、この地方を手土産に、他国へと寝返るのが自分に残された道だと思い込んだ彼は、こうやって反乱を起こしたのだった。
「アルス達のこと……聞いた?」
「いや、まだだ」
「どうも敵さんにしてやられたみたいね。ま、そもそも最初に与えられた兵力が少なすぎた訳なんだけど?」
 モーリッツのほうに一瞥をくれながら、レンファは皮肉を込めて喋る。
「何だ、名高いブラックフェンリルでも、そのようなものか」
「……言っとくけど、アルス達はあの状況下で出来る限りのことをやったと思うわ。あれだけの兵力差。いくらアイツ等でも、覆すのは難しいわよ」
 モーリッツの小馬鹿にしたような言葉を聞いて、レンファが一歩足を進める。扇子を小刻みにスカートへ打ち付けていた。凄みのある表情に、モーリッツが少し怯えたような仕草を見せる。
「自分の兵力も貸してみたらよかったじゃない。本当に勝ちたいのならね。いくらアンタでも、それぐらいは解るでしょう? あと、そんなことを期待していなかった、ってのは言い訳にならないわよ。任務の説明ぐらい、ちゃんとして欲しいものね。それぐらい、子供の使いでもできる仕事よ?」
 レンファが扇子をスカートへ打ち付ける速度が次第に早くなっていく。それと同時にモーリッツの顔が次第に険しくなっていった。反乱軍の首魁である彼に、たかが傭兵団の一員に過ぎないレンファがあからさまに指示の批判をしているのだ。頭に来ないほうが不思議であろう。 
「レンファ、慎め」
 ウォードがレンファの言葉を遮るかのように、力強く喋る。
「モーリッツ殿、失礼した。彼女には後で私のほうから強く言っておく。戦友の行方が知れず、激しているのだ。察して欲しい」
 ウォードが一礼した。それがモーリッツに釘を刺すような形になったのか、レンファに一瞥をくれただけで終わった。
「おそらく敵は勢いに乗っている。対策等、考えてくるので、これにて失礼する。レンファ、行くぞ」
 両腕の無いウォードは、レンファに助けてもらいつつ、立ち上がって一礼をする。レンファもそれに続いて不機嫌そうに礼をした。
「……ったく、本当に何にも知らないんだから、あのバカオヤジッ!!!」
 部屋から出た瞬間に、レンファが悪態をついた。部屋の中にまで聞こえているようだ。だが、彼女は全く気にしない。
「あと、ウォードさん。さっきのことで一つ訂正しておきたいことがあるわ。別にあたしは、あいつ等のことなんか特に気にしてないんだから。ただ、何もかもコッチに押し付けようとする奴に腹が立っただけ」
「何だ、違うのか? ……まぁ、そういうことにしておくか」
 ウォードが静かに笑った。別に訂正などしなくても、笑わないのに。妙な見栄を張るものだ。
「話を変えるが、術の先制攻撃は成功していたな。しかし、敵の立ち直りが予想以上に早かった」
「そうね。どうも先鋒の指揮官は良い腕してたみたい。それに、本隊の援軍が来るまで、アルス達の攻撃をずっと受けてたってのは普通に感心できるわ。結局はあの先鋒に全部やられたわね」
「やはり、敵の力量はこちらの予想以上というところだな。全く、厄介な事になったものだ」
 ウォードは憂鬱そうにため息をついた。恐らく篭城ということになるだろう。だが、この小城では長くは持つまい。援軍のない状況で篭城など、死期を遅らせる程度のことしかできないだろう。
 かといって、迎撃するにも、ブラックフェンリルは疲労、反乱軍のほうは力量が不足している。それに、優秀な前線指揮官が居ない。敵の指揮官がアルスやシェイズレベルであることは、先の戦闘で判明した。ウォード自身の能力はアルス以上であるのだが、長く実戦から離れている。レンファも前線指揮といった点ではアルスやシェイズに一歩劣る。
 久々に、手詰まりの感が見えてきた。



「うん、不味いッ!」
 アルスが捕虜にあてがわれる食事を勢いよくかき込みながら喋る。
「不味いが文句を言うな! 礼儀を失うことなく食うぞ! おかわりだ!」
 アルスと同様、捕虜となっているブラックフェンリルは開き直ったのか、ひたすらに食いまくっている。捕虜にあてがわれる食事だけあって、ジャガイモを煮ただけの粗末なものだ。
「しぇ、シェイズさん、俺もう食えないですよ……」
「何だい、弱音を吐くんじゃないよ。俺達だって戦っているんだ。俺達で敵さんの兵站をぶっ壊すよ」
 シェイズが冗談っぽく笑って、隣の兵士の肩を叩く。大柄なシェイズだけあって、その食事量はかなりのものだ。
「食事中のところ、失礼する」
 一人の男の声がした。ブラックフェンリル全員が、一旦食事を止める。その目線の先には、中肉中背のパッとしない男、アルフレッドがいた。
「私は、指揮官をやっている、アルフレッドだ。アルス殿とシェイズ殿。ユリウスが呼んでいる。少し来てもらいたい」
「俺達に? 何の用だ?」
「さぁ。私もよく聞いていない。とりあえず、来てくれ」
「了ー解。お前ら、最低でもその鍋の中身は空けとけよ」
 アルフレッドに先導されて、アルスとシェイズはその場を後にした。
「シェイズ殿といったな。レオンと良い勝負を演じたそうじゃないか。私は後詰めに居たから、見れなかったのが残念だよ」
「あぁ、そりゃありがとさん。確かにアイツとは面白い勝負ができたよ。……で、アンタも結構出来るんじゃないのかい?」
 シェイズはアルフレッドの腰に下げてある刀を睨む。刀という武器は何度か見たことがあるが、士官クラスに見える者が遣っているところは見たことが無い。やはり、よほどの拘りがあるのだろう。
「何、私が君のような人とやりあえば、一瞬で終わるのがオチさ。私の体を見れば解るだろう?」
 アルフレッドが意味深に笑った。確かに彼の体つきは、一般の青年とほとんど変わりない。
「ところで、あの先鋒の指揮官は?」
「あぁ、ライーザ先輩か。流石に疲れているみたいでね。今は休憩中だよ」
「ライーザってのか。……待てよ、ってことは、女か?」
 アルスが唖然とした表情を浮かべた。女性武将という存在は珍しいし、それも前線指揮官で、大した腕前。
「あぁ、女性だよ。こう言うのもなんだが、美人だぞ?」
 アルフレッドが少し笑った。
「……っと。ここがユリウスの幕舎だ。私はここで待っているよ」
「そりゃまた、何のためだ?」
「君達を疑う訳ではないが、まぁ配下武将としての気遣いだよ」
「いい気はしねぇなぁ」
 アルスはぶつぶつと文句を言いながら、ユリウスのいるテントに入った。ユリウスは鎧を脱いでおり、普通の良い男のように見える。
「食事はどうだ?」
「不味ぃ」
「実に率直な意見だな。まぁ勘弁してくれ。捕虜に与える食事はあれが限界だ」
 ユリウスが少し笑った。アルス達からすれば、笑い事ではないのだが。
「さて。アンタ達を呼んだのにはそれなりに理由がある。回りくどい言い方は好きじゃないから、単刀直入に言おう」
「あぁ、そっちのほうが助かる」
「ブラックフェンリルの士気は見せてもらった。だが、他の連中の士気はどうなんだ? アンタ達と同じようにやる気満々なのか、それとも嫌々なのか」
「……」
 捕虜になっているとはいえ、これは反乱軍の内情になる。言っていいものなのか。アルスはしばし逡巡する。
「頼む。アンタ達と同じように士気が高いのなら、こちらもそれ相応の出血をしなければならない。しかし、士気が低いのなら、無血でこの戦を終わらせることができるかもしれない」
 無血で終わらせるということは、降伏させるということか。この男はどのような事を言うのやら。詐欺師のような、とは初対面の印象である。
「これ以上、この戦を長引かせる気は無い。俺の口で終わらせる。頼む。教えてもらおうか」
「……」
 どんなことをやるのかは知らないが、ユリウスはどうやら本気で口先三寸でこの戦を終わらせる気らしい。
「……あぁ。他の連中は、殆どが大将に巻き込まれて、なし崩しって感じで参加した連中だ。そんなにやる気は無い上に、俺達の負け戦で余計に士気は下がってるだろうな」
「アルス……」
「言うな。コイツがやることを、ちょっと見たくなったんだよ。それに、無血でこの戦が終わるのなら、いいことじゃないか」
「そうか。いや、感謝する」
 ユリウスはアルス達の前に歩み寄り、手を差し出した。少しの沈黙の後、アルスはユリウスに背を向ける。
「まだその手を握る気は無い。……貴様が、どのようなことをやるのか、それを見てからだ」


〜翌日・反乱軍本拠


 ヴェステア軍は、反乱軍本拠の小城の前に布陣している。後詰めであったアルフレッドの部隊も、本隊に加わっていた。意気揚々である。
 その様子を、反乱軍の兵士達は城壁から不安そうな目で眺めていた。
「あちゃー。完全に勢いづいてるわねぇ……」
 城壁に立っているレンファは、憂鬱そうなため息を吐きつつ、扇子を掌に、軽く打ち付けていた。昨日の勝利で、連中は完全に勢いに乗っている。ウォードも上手い考えがまとまらないようで、難しい顔をしていた。モーリッツは出てこようともしない。ウォードは呆れるを通り越して、気の毒とすら思えている。
「……レンファ、あれは誰だ? 前に出て来ている奴が二人居るぞ?」
「はい? ……相変わらず目いいわね……。どれどれ……」
 レンファは懐より双眼鏡を取り出し、前に出て来ている奴の顔を確認する。金髪の男と、もう一人は黒髪の大男だ。ユリウスとレオンであるが、二人は彼らの顔を知らない。
「……降伏勧告かしら?」
「かもしれないな」
「冷静ねぇ……」
「いや、内心は動揺しているよ。さて、何を言ってくるのやら」
 城壁の反乱軍全ての視線が、前に出て来ている男に集中する。
 これだけの視線を浴びるのは、あまりいい気分ではないな。少し緊張する。だが、いつも通りの調子で行くだけだ。
 ユリウスは息を吸い込んで、それを言葉にして吐き出した。

「降伏しろッ!! さもなくば皆殺しだッ!!!!」












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