ふぁいてぃんぐ☆うぉりあーず(11/14)PDFで表示縦書き表示RDF


ふぁいてぃんぐ☆うぉりあーず
作:つあぎ



#8


〜ヴェステア城下町・ユリウス宅



「……お前、何言ってんだ……?」
 応接間の静寂を破ったのは、レオンの声だった。
 フィツール王国再興の兵を挙げる。
 あまりにも馬鹿げている事の反面、自分の中でユリウスのこれまでの言動が纏まった気がした。
「フィツール王国再興の兵を挙げる、って言ったんだよ。聞こえなかったか?」
「いや、聞こえてたけどよ……本気なのかよ!?」
「冗談でこんなこと言うか?
ユリウスが苦笑を浮かべながら、ティーカップの中の茶を少し飲む。いい塩梅だ。
「お前、こんな大事なこと、言ってよかったのか?」
「俺はレオンのことを信用してるからな。それに、俺の夢がお前に終わらせられるのなら、悪くはないさ」
 ユリウスとレオンの付き合いはかなり長い。近所同士という間柄で、昔から家族ぐるみで付き合いがあった。子供だった頃、士官学校の頃、そして現在。
「……」
 これが失敗したのなら、間違いなくユリウスは殺される。そして、協力していた場合、自分も死ぬだろう。
「……お前は昔から、大きなことばかり言ってやがるな。今回もそうだ」
 ユリウスの大言癖は今に始まったことではない。慣れているといえば慣れているのだが。
 どちらにせよ、ユリウスはやる気だ。この男は昔から、一度やると決めたことは、投げたことがなかった。
「もし失敗したら、カチュアちゃんがどうなるのか、わかってんのか?」
「解ってる。覚悟はできてるし、許してもらおうとも思わんさ」
「間違いなく戦になるぞ。それでも構わないのか?」
「……構わん」
 そう言うユリウスの顔には、何も曇りが無かった。
「平和なこの土地を、荒らすことになるってことは理解してる。……だけどな、俺が、俺が為すべきことなんだよ」
 レオンはユリウスの「フィツール王国の血を継ぐ者」という言葉を、今までただの大言壮語とばかり思っていた。
 しかし、こいつのこの表情はどうだ。曇りの全く無い、決意に満ち溢れた表情をしている。この顔を見ていると、先の言葉はただの大言壮語とは思えなくなってきた。
 大した説得力だ。
 こいつは詐欺師としても通用するかもすれない。レオンはそう思った。
「だからこそ、俺はウォードさんに協力を仰いだ」
「……ワシは」
 ウォードが重い口を開く。
「これほどはっきりと『フィツール王国再興』を口にした人は、初めて見ました」
 ウォード率いるブラックフェンリルは、かつて多くの反乱に参加している。だが、それらは全て、フィツール王国の名を借りただけの、己の権力欲を満たすためだけのものであった。
 だが、ユリウスの表情は、今までの反乱首魁とは違う顔をしている。
 かつて先代国王の瞳に見た、仕えるに足る、強い意志を感じた。
「……俺がガキの頃、フィツール王国は滅んだ。俺は、自分の父親―そう、フィツール王国最後の国王となった、カイオス・ギュンター。彼が、どんな景色を見ていたのか、全く知らない」
 ユリウスはヴェステアで生まれ、ヴェステアで育った。そして、現存している王室の資料の中に、ユリウスの名前は存在しない。ただ、12年前の戦争で資料の多くが焼き捨てられたのもまた事実である。 また、ユリウスの顔は先代国王に酷似している。そして何より、フィツール王家の血を引く者の特徴である、緑色の瞳。それは、ユリウスの話に説得力を持たせるのに十分であった。
「俺は知りたいんだよ。顔も知らない親父が、何をして、何を見て、何を思って、そして――」
 ユリウスが少しだけ言葉を詰まらせた。
「何で、国を失ったのか……。何で、何で……」
 顔も知らない父親。
 ユリウスは彼の事が知りたかった。
 そして、父の見た光景を、自分も見てみたい。
「……レオン」
「何だ?」
「……さっきも言ったが、お前が俺を止めようとするのなら、止めはしない」
「……」
 レオンが立ち上がり、腰に差している剣の柄に手を伸ばした。
「じゃあ、今ここで、俺が止めてやるよ」
 そのまま剣を抜き、振りかぶる。
 ウォードがそれを止めるべく立ち上がろうとするが、両腕のない彼に機敏な動作を求めることはできなかった。
「ユリウス殿ォッ!?」
 剣が閃いた。



「…………」
「…………」
 レオンの剣は、ユリウスの顔の手前で止まっていた。少しでもどちらかが動けば、顔に傷がつく。それぐらいの距離。
「……どうして、動かなかった?」
 レオンが剣を引く。
「知れたことだよ。俺は、自分の死に方を知っているからな」
 レオンは怪訝そうな表情を浮かべ、しばらくユリウスの顔を見た後、大声で短く笑った。
「そうだったな。ま、てめぇとは腐れ縁だかんな、最後の最後まで、付き合ってやるよ」
「……悪いな」
「気にすんなよ」
 ユリウスの肩を叩くレオンの横で、ウォードはほっとしたような表情で胸を撫で下ろしていた。
 これで自分の悲願が遂げられる。己の祖国の再興が。
「何や何や、何があったぁ!?」
 ドアが騒がしい音を立てて開き、メリーベルが駆け込んできた。その手には、独特の双頭剣が握られている。柄の先端にも短い刀身がついており、使いこなすのは難しそうだ。
「あーいや……劇の練習だよ。月末にやる予定でなぁ」
 苦し紛れの嘘をついたユリウスに、レオンは
「やっちゃった」といった視線を投げた。こんな嘘に引っかかる訳が無い。子供じゃないんだから。怪しまれると厄介な事になる。
「あー、さいでっか。何や何や、そんなことかいなー。楽しみにしとるでー」
 メリーベルが笑顔で剣を鞘に収めた。
 引っかかってるよ、オイ。
 レオンは心の中でそう思った。
「邪魔したらアカンなー。ほな、さいならー」
 メリーベルが部屋から出て行く。ユリウスはドアが閉まったのを確認してから、ほっと胸を撫で下ろす。
「なぁ、ユリウスよ。あの子……」
「確かに単純だな。ま、そこがいいとこなのかもしれねーが」
「で、だ。先輩やアルはどうすんだ?」
「あぁ、あの二人にも打ち明ける必要があるだろう。あの二人の協力を仰がないことには、やはり厳しいだろうな」
「リーンとユリアナは?」
 レオンとリーンは士官学校での同期のため、面識がある。それゆえ、リーンがこの地に赴任してきたことは知っているし、彼の能力も知っている。
「リーンはこの事を知ってるよ。アイツはアマセネル家の人間だ。だから俺は、最初にリーンに協力を頼んだんだ」
「アマセネル家の……成る程、アレン殿のご子息ですな」
 ウォードが納得したように頷いた。
 アマセネル家は旧フィツール王国の名家である。代々国王を補佐する重要な地位に就いた者を輩出しており、現当主のアレン・アマセネルはフィツール王国最後の名将として、その名を知られていた。
「ユリアナには知らせないほうがいいだろうな。あの子はこういうことには向いてなさそうだ」
「確かにな。お嬢さんはなんかうっかり喋っちまいそうだ」
「それでウォード殿、ブラックフェンリルは……」
「無論、貴方に従わせて頂きます。断る道理など、無いですからな」
「それを聞いて安心したよ。では改めて、ウォード殿、その力をお貸し願う」
 ユリウスが頭を下げた。
「この老人の力でよければ、いくらでもお貸ししましょうぞ」
「では、今日はここまでということで。詳細はまた、追って」
「わかりました。……我等が祖国のために、この力、存分に振るわせていただきましょう」
 ウォードは器用に膝を着き、恭しく頭を下げた。



〜三週間後



「どうしたの、お兄ちゃん。改まって」
「何や何や、どないしたん?」
 晩、居間にカチュアとメリーベルは呼び出されていた。二人とも寝巻きに着替えている。カチュアはサイズが合っているが、メリーベルはカチュアのものをそのまま使用しているため、かなり窮屈そうな印象を与える。
「ん、まぁ聞いてくれ」
 カチュアとメリーベルが椅子に座る。眠そうな顔を浮かべたメリーベルが欠伸をした。
「メリー、お前には感謝してるよ。カチュアのいい友達になってくれたみたいだからな」
「ん? 何や、どないしたん?」
「出会って一ヶ月も経ってないお前に頼むのも何だが、もし俺に何かあったら、カチュアを頼む」
「は!?」
「ふわ!? な、何や!?」
 メリーベルが欠伸を途中で止める。カチュアとメリーベル、二人とも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「俺達には親戚ってのが全く居ないからな。カチュアのことは……お前に任せたい」
「え? ま、まぁ、別に構へんけど……」
「何? また戦に出るの……?」
 カチュアが心配そうな表情を浮かべながら、ユリウスのもとへにじり寄る。そこから見える兄の表情は、出陣前の表情とは違った。兄は出陣前でも気楽そうな表情を崩していない。が、今はどこか思いつめたような表情を浮かべていた。
「……戦じゃ、ないよね」
「わかったか?」
「わかるよ……。いつもの表情と違うもん」
「ふぇー、カチュアちゃん、よぅ見とるんやなー」
「違うよ! もう何年もなるから、自然と覚えただけ!」
「いやいや、そういうのは普段から見てへんとわからんもんやないの?」
 メリーベルが悪戯っぽい表情を浮かべてカチュアの頭を撫でる。ユリウスはその光景を微笑で眺めた後、座っていた椅子から立ち上がり、部屋を出ようとする。
「カチュア」
「ん?」
「俺は明日、反乱を起こす」
「…………へ?」
 カチュアの気の抜けた返事を背に、ユリウスが部屋を出た。
「……どゆこと?」
「いや、ウチに聞かれても……」
「反乱、って言ってたよね?」
「やな」
「……」
「……」
 しばらくの間、沈黙が居間を包む。
「……ちょっと、どういう事!? 説明してよねーッ!!!」
「わ、ちょい待ち!?」
 カチュアが駆け足で居間を出る。その後をメリーベルが慌てながら追った。

「……震えてやがるな。ザマないよ」
 ユリウスはベッドに腰かけ、小刻みに震える膝を抑えるかのように握り締めていた。
 明日、彼は反逆者となる。上手くいくか全く解らない博打だ。
 無論、勝算はある。
 レオンにリーン、アルフレッドやライーザといった有力な武将は完全に取り込んでいるし、ヴェステアの近衛兵達も取り込んでいる。それに、ブラックフェンリルもいる。
 そうだ、勝てる確率のほうが大きい。
 なのに何故、こうも震えているのだ。
「ハハ、普段から大きいこと言ってるのに、情けないったらねぇな」
 恐怖の源は、失敗した時のことを考えてしまうからだ。
 もし失敗したら、自分は全てを失う。いや、自分だけではない。自分の呼びかけに応えてくれた者達全てが、持つ物の全てを失う。
 そして、カチュアにもその罪は及ぶだろう。
 ユリウスにとってはたった一人の家族だ。そんな彼女が――
 やめよう。こんなことを考えてちゃいけない。
 ユリウスは必死で己の思考を振り払うかのように首を横に振る。
「寝よう。うん、それが一番だ」
「お兄ちゃん、入っていい?」
 カチュアの声がした。
「……あぁ、いいぜ」
 はぐりかけた布団を元に戻すと同時に、部屋の扉が開く。
「……ねぇ、説明して。何をする気なの……?」
 カチュアは地べたに座り込み、上目遣いでユリウスを見る。
「……フィツール王国再興の兵を挙げる」
「…………ひょっとして、お母さんが言った一言、本気にしてるの?」
 ユリウス兄妹は、フィツール王国の血を継ぐ者。母が今際に残した一言。
「……してる、って言ったら?」
「馬鹿じゃないの!? そんな、ホントかウソかもわかんないこと、本気にしてたの!?」
「……ホントかウソかはどうでもいいんだ。その称号だけで、俺は人の上に立てる気がした」
「そんなのどうでもいいッ!! 何で、何で今のままでいようとしないの!? あたしはそれで十分なのに!!」
 カチュアの声は少し震えていた。頬は紅潮し、眼も少し潤んでいる。
 激している。
 この状態で、何を言っても、彼女は聞いてくれないだろう。
「……説明は明日、じっくりするよ。だから今日は、寝かせてくれ」
「せやで。カチュアちゃん、落ち着いてから聞いたほうがえぇわ」
 いつから居たのか、メリーベルがカチュアを抑えるかのように背中から抱いて、立ち上がらせる。何かまだ不服なようだったが、そこはあえて無視をした。
「なぁ、ユリウスさん。アンタが何やんのか、ウチはよぅわからへん。でもな」
 メリーベルが刺すような視線でユリウスを見る。
「カチュアちゃん一人にするような事あったら、ウチは一生アンタのことを許さへんからな」
 メリーベルの言葉に、ユリウスはただ頷きだけで返事をした。



〜翌日



 空はとてもよく晴れていた。幸先がいいと言えば、幸先がいい。
「じゃあ、行ってくるな」
「了解。無事でなー」
 メリーベルが笑顔を見せる。八重歯が見えた。
「カチュアは?」
「んー、部屋から出て来ぃへんからなー。難しい子やで」
 いや、それはお前が簡単すぎるだけじゃないだろうか。
 ユリウスはそう思ったが、あえて口には出さなかった。
「ちょいと心残りだが……行って」
「待ってッ!!」
 カチュアが大慌てで玄関から飛び出してきた。少し息を整えてから、ユリウスに握り拳を差し出す。
「……コレ、持って行って」
 握り拳の中には、小さな袋が入っていた。ハギレを縫い合わせて作られた、手製のお守り。
「まだ納得いかないけど……帰ってきたら、うんざりするぐらい問い詰めてやるからね」
「あぁ、了解」
 ユリウスはお守りを懐に入れて、カチュアを軽く抱く。
 俺は絶対に失敗しない。やってみせる。
 ユリウスはカチュアを離し、頭を少し撫でた。
「じゃあ、行ってくる」
 ユリウスの長い一日が始まった。


一ヶ月も間があくとか、ホントにないですね!
色々と私生活が忙しかったと言い訳してみます。

こんなザマなのに、見捨てずに訪れてくださっている方々には、本当に感謝です。
本当にありがとうございます。











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう