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作者: 吾井 植緒

勢いで書き上げたので反省しているが、広い心で呼んで欲しいなどと作者は供述しており・・・当局は余罪についても追及していくとのこと。

俺は教え子としては愛しているが、教え子に恋愛感情なぞ一ミリも持った事は無い。

年下は概ね範囲外だ。

もちろん、JKなんてブランドにも興味がない。

女子は、生徒としてはカワイイと思っても、女としてはカワイイと思えないのだ。


そんな真っ当な教師である俺が、放課後人気のない美術室で女子生徒から愛を告白された。


もちろん、嬉しいなどと言う感情は沸かない。むしろ、食い気味で『だが断る』と返させてもらった。乙女心を傷つけるとは何事かとフェミニストに怒られそうだが、俺は自分の身がかわいい。曖昧な返答で思わせぶりに生徒の心を弄んだ等といわれたら、俺の教師生命は終る。PTAも教育委員会も恐ろしい存在なのだ。更に、下手すると人生も終る。未成年淫行なんて、邪推されたら逮捕だぞ。男の俺の方が立場は弱い。

そんなわけで、俺はハッキリ・キッパリ・クッキリ断った。


「そんな、センセイは優しいのにそんな言い方・・・好感度MAXなのに、なんで。」


俺が担任しているクラスの優等生でもある高輪は、振られたにしては可笑しな言動を繰り返していた。


「振るにしても、攻略対象がイベントに無い事言うなんて・・・おかしいよ。」


何時までもそんな状態で立ち去らない高輪を見て、俺は美術準備室と言う名の倉庫にいた風紀顧問の吉川先生に声をかけた。これは俺一人で当たるべき問題じゃないと思ったのだ。


「あー、これは困ったね。」


流石は風紀顧問で生徒指導もお手の物な吉川先生だ。すぐに高輪の尋常じゃない様子に気付いて、理解を示してくれる。


「断ったにしては言動がおかしいんですよ。」


「うん。これはそういった問題じゃないんだろうね。」


俺と吉川先生が小声で話していると、人気が無いと思っていた隣から、それも教師が出てきたと気付いた高輪は正気に戻ったようだ。


「なんで、ヨシやんが?センセイは放課後一人で美術室に居る筈なのに!?」


いや、高輪はやはりそうカンタンに正気という訳にもいかないようだ。


「俺は一人で居るなんて言った覚えは無いぞ。それに吉川先生は美術教師だから、倉庫には大抵居るぞ。」


「なんで?センセイは数学教師だけど、絵画への想いが断ち切れずに一人で放課後絵を描いてる筈でしょう?」


「はー?俺は今年美化委員当番だから、ポスター作成で放課後作業してただけなんだけど。」


「ハハハ、そうだよね。校内は禁煙ポスター、風刺が効いてて中々良かったよ。モチーフはヘビースモーカーの教頭でしょ。」


「あ、分かります?あそこで隠れて吸うのはいいけど、吸殻残してくからイラッとしてつい。」


和やかに笑い合う俺ら教師に高輪はキッと目を吊り上げた。


「センセイもしかして転生者なの?それで、そんな風にシナリオに無い事してるんでしょう!」


「転生?」


首をかしげた吉川先生に俺は痛ましい気持ちで首を振る。優秀な生徒がこんな事になってしまったのは残念だが、尊敬する先輩教師に妄想仲間だと思われたくない。


「前世で話題になった『学☆トキ』よ!乙女ゲームの攻略対象になった絶望は分かるけど、とぼけるのはやめてよ!」


前世に乙女ゲーム。振られたにしては可笑しな妄想に、いよいよ俺は高輪が心配になった。病院に行け的な意味で。


「乙女ゲーム?」


痛ましい表情で俺に首をかしげた吉川先生だったが


「乙女ゲームって何?」


知らない単語に戸惑ってショボーン顔になっていただけだったようだ。


「吉川先生、アレですよ。昔流行ったじゃないですか。『ときどきメモリアル』あれの女版で、女子が男子高校生を攻略するTVゲームですよ。」


「ああ~、ファミコン!懐かしいねぇ。アレ、弟が嵌って大変だったんだよなぁ。それの女版を乙女ゲームって言うのか。色々あるんだねぇ。」


年代的に吉川先生はゲームには興味が無いタイプのようだ。かくいう、俺もそんなに詳しくはない。


「センセイ、とぼけないで!転生者なんでしょう?」


高輪は未だ俺が妄想仲間だと思っているようだ。


「前世に転生か。それも懐かしいなぁ。」


吉川先生は高輪が興奮しているのを見て、厳しく指導しない方針にしたようだ。俺もそれに乗ることにした。


「もしかして吉川先生も『ムー』とか嵌ったくちですか?」


「良く知ってるねー、君塚先生。君の年代だともう下火になってたんじゃない?」


「いや、俺の姉が嵌ってて『なんたらキングタムに覚えがある子は文通して』とか投稿しちゃって大変だったもんですから。」


「あー、前世の記憶ね。色々あったよねー。『わたしはなんちゃら姫です。なんちゃら王子を探してます』とか、『どこそこに痣がある仲間を探してます。すでに何人集まりました』とかさ。」


「ハハ、姉も油性ペンで星の痣だとか言って書いちゃってましたよ。今じゃ黒歴史ってヤツで、実家でそれを口にするのはタブーになってます。」


「だろうね。しかし痣かぁ。そういえば胸に星書いた子がいてさ、興味無いくせに覗かして貰った覚えがあるよ。」


カワイイ子だったのだろう。吉川先生のいつもは厳しい目元が緩んでいる。


「前世の記憶があるとか言って?」


「そう、前世の記憶があるとか言って!」


「「アハハハハ」」


「ちょっと!」


つい盛り上がってしまった男性陣に、置いてけぼりの高輪が噛み付いてくる。まあ女には理解できんだろう。カワイイ子の白い胸元を覗き込みたい男子中高生のロマンなんて。


「ところで高輪、お前の前世とやらはどれ位覚えてるんだ?」


吉川先生の尋問が開始された。雑談で気が緩んだところに切り込む技術は俺も見習いたいと思う。


「あた、私は高校生で『学☆トキ』に夢中だったって位しか・・・どうやって死んだかも覚えてなくて。」


興奮していた筈の高輪がシュンと下を向いた。神妙な顔で俺と吉川先生も頷く。


「うんうん。この歳になるまでそんな事を覚えていたんじゃ、辛いだろう。」


「あ、いえ。私は最近思い出したんで。」


「え?そうなの?」


「はい。入学式の時に、母にこの学園には王子がいるって聞いて。」


まさかの家族ぐるみかと、つい疑った吉川先生と俺は厳しい表情になってしまった。


「この学園で、ステキな王子様を見つけなさいって・・・青春を謳歌しなさいって。」


つい出てしまった深刻な表情の俺たちを見て、落ち着きを取り戻しつつある高輪が不安そうな顔をした。もう時間も遅いし、妄想にとらわれた生徒に相応しい対応をしなくてはならない。


「高輪。知ってると思うが、この学園に王子なんて居ない。」


「えっ?」


「学園には留学生も居ないし、ましてや現代日本に王子なんて身分はない。」


断定した俺に高輪は困った顔を向けてくる。


「えっ、でもそれはイケメンに対しての例えだから。」


例えと分かっていても、現実を認めない高輪に眩暈がした俺に代わって吉川先生が後を引き受けてくれた。まだまだ俺は教師として未熟だと思わざるを得ない。


「昔の皇子の事なら、日本史の荒川先生が教えてくれるだろうけど。今のお前に必要なのは、野際先生なんだろうなぁ。」


「ちょっ、それってスクールカウンセラーのオニババじゃない!」


「ヒドイ事言うんじゃないよ。野際女史ほど、生徒に親身な先生は居ないよ。高輪の悩みもじっくり聞いてくれるだろう。優秀なお前なら、妄想に区切りをつけ現実に生きてくれると先生は信じているよ。」


流石は吉川先生、話の運び方も時間もピッタリである。

ガラッと美術室の扉を開けたのは、話題のスクールカウンセラー野際先生。眼鏡の奥の三白眼が夕日を反射して恐ろしい光を放っていた。


「さあ、このオニババが話を聞いてやろうじゃないか。」


「ヒイィッ!」


ちょっとかわいそうな悲鳴をあげるが、野際先生は優秀なカウンセラーである事は間違いない。これまで何人もの迷える生徒(こひつじ)を救ってきた実績がある。高輪も救ってくれるだろう。最悪病院のお世話になるかもしれんが。

グッタリした高輪を抱える野際先生はカウンセリングの前に要らぬ予備知識を必要としない主義なので、俺たちは無言で見送る。


「既婚ばかりの学園に、若い男性教師がいればこんな事もあるかと思ってたけど。これは、初めてのケースだったねぇ。」


「前世に転生、乙女ゲームの世界ですか?野際先生がいたからいいものの、そうそうあったら困りますよ。即病院に通報します。」


「まあまあ、黒歴史じゃないけどさ。軽度なら話して引き返せるかもしれないじゃないか。」


「まあそうですね。」


「それに前世って昔にも流行ったし。これからまた流行るかもしれないよ。」


「いやいや、吉川先生。そんなファッションみたいに、一周回って新しいみたいな事言わないでくださいよ。」


「上手いこと言うね、君塚先生。まあ未婚の教師は君一人だし、がんばって対応してよ。僕も生徒指導として、野際先生とバックアップするからさ。」


「はあ・・・頑張ります。」


次の日、高輪は病欠した。野際先生によると高輪は薄々ここが現実だと把握していたようなので、心配は要らないとの事。数回野際先生の所に通えば、問題ないだろう。


「君塚先生、久しぶりに弟に会って聞いたんだけど、乙女ゲームにはBLゲームってのもあるんだって?」


「BL?ナンですか、それ。」


「あ、若い君塚先生でも知らないんだ。BLって男同士の恋愛ゲームみたいだよ。多感な思春期だし、高輪みたいに妄想に嵌る男子生徒が居ないとも限らないじゃない?世はグローバルって言うか、とにかくマイノリティーについても勉強しといた方がいいんじゃないかな。」


朗らかに笑う尊敬する教師に見送られ帰宅したその夜、俺は実家の母に見合いの手配を頼んで結婚相談所に登録をしたのだった。


実際はもっと先生たちに、前世について突っ込ませる予定でしたが力量不足で断念。


高輪:君塚先生に告白した女子高生。優等生だった自称転生ヒロイン。容姿について作中触れられもしないのは、君塚先生は生徒が対象外の為興味がないから。彼女が本当に転生者なのかは神のみぞ知る。

君塚先生:若くてイケメンな数学教師。絵は昔から得意。黒歴史のある姉がいる。基本優しいが、現実的なので対応が冷たい事もある。JK、年下はまったくもって対象外。吉川先生を尊敬している。

吉川先生:美術教師。風紀顧問で生徒指導の鬼。厳しいだけじゃなく柔軟な考えも持つベテラン中年教師。ゲームに詳しい弟がいる。君塚先生に呼ばれた際にこっそり野際先生に連絡を取っていた。

野際先生:ベテランスクールカウンセラー。生徒には容姿からオニババと恐れられているが、生徒思いのベテランカウンセラー。吉川先生の要請を受け、美術室に急行する。

学☆トキ:高輪が前世にあったと主張する乙女ゲーム。正式名称は『学園王子☆トキメケ青春』実に売れそうにないタイトルだが、流行っていたと高輪は主張。

ときどきメモリアル:吉川先生の弟が嵌ったギャルゲー。ファミコン版からスーファミ版と人気があったので続編もいっぱいあった。

ムー:超常現象系雑誌。文通募集欄があり、前世に関するキーワードで相手を募集するのが流行った。君塚先生の姉の黒歴史はココから始まる。

学園:先生たちは知らないが、なぜか毎年金持ちや美形な男子生徒が入学するので玉の輿的な意味で王子がいると評判になってたりする。

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― 新着の感想 ―
[一言] ムーとか超なつかしいです。転生全盛期は小学生でしたが、高校の頃の先輩に黒歴史的な意味でひそかに有名な方がいました。本人はお花畑真っ只中だったので校内で有名だとは知らなかったかもしれません。も…
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