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赤い瞳の天(そら)
作:弥招 栄



再会




 グルオンが、左翼殿の一室、いつも短時間の会談に使われる飾り気のない部屋へ足を踏みいれると、四人の男女が床の敷物の上に腰を下ろしていた。グルオンに気づき、慌てて立ち上がる。まだ若い二人の男女が、緊張の面持ちで、頭を下げた。残る二人も、それに従う。
「お前達は……」
 グルオンには、見覚えがあった。
「一別以来だな。レイクロウヴに帰ったのではないのか?」
「はい、おかげをもちまして、無事帰郷を果たすことが出来ました。その御恩と御縁を無駄にせぬよう、この地で新しく商いを始めようと、今日はそのご挨拶に――」
 少し癖のある赤茶色の髪の女が、顔を上げた。グルオンの記憶の中の、僅か二百日足らず前の姿と比べて、ずいぶん大人びて見える。その頃は、本当に少女じみていたのだが。
 髪を下ろしたせいか?そう思ってみれば、うっすらと化粧もしている。だが、堅苦しい口調にも表われている緊張までは、隠しきれていない。
「ラミアル、といったな。恩というのなら、こちらのほうがある。気にするな」
 彼女達は、マーゴを助け、そしてミューザの思惑を見破って、ランデレイルの民を救ってくれた。その者達の顔を、ひとりずつ見回す。
 金茶の髪の少年は――こっちはまだ少年に見える――トリウィといったか。今は戦士の形ではなく、ヒシュらしい、上品な身形をしている。なぜかはわからないが、目を輝かせてグルオンを見ている。
 その斜め後に控えているのは、コクアという名の年配の女戦士。野盗上がりで、カムリの裏切りに加担したあと、再びグルオンの指揮下に入り、ラミアルらの護衛に願いでて、レイクロウヴへと旅立った。グルオンにとって好意を持たなくてはならない理由などないから、残るひとりに目を移す。
 黒く艶やかな髪と白い肌、赤く染められた異国風の長衣を身に纏った女。確かトワロという名のはずだ。漆黒の瞳と目があった瞬間、濃い紅を点した唇がほころび、軽く会釈をしてくる。
 この女はミューザ勢の追撃を、ひとりで受けとめたというが。その時一緒にいたはずのシージ達に問い質しても、青くなって首を振るだけで、決して口を開こうとしない。ランデレイル城下での戦いの跡を見れば、只者ではないことはわかるが、それにしても……。最初に会ったときにも思ったが、こんななよっとした、色気だけの女が、そんなに強いのか?
 その睨みつけるような視線に、トワロは、首を傾げて見返してくる。そう言えば、ラミアルはこの女がマーゴの生みの親だと言っていなかっただろうか。なるほど、毛髪や瞳の色がまったく違うからすぐにはわからないが、顔つきやしぐさがよく似ている。マーゴがなぜか嫌がるから、この女については深く追求しなかったが、間違いないらしい。
「あの戦いのおりには、ずいぶんと助けていただいたようだ。その後行方が知れないと聞いて、心配していた。無事だったようだな」
「はい。ありがとうございます」
「あなたは、どうしてこの町へ?」
「彼らが治療院を開くように勧めてくれまして、それで彼らとともに、わたしも――」
 彼女はケンシュだったか。ならば癒しも使えるだろう。
 剣をよく使い、癒しも行なえるのであれば、戦場で役に立つ。ロウゼンとの契約を勧めようかと考え、すぐに思いなおした。この女が強いというのが、どうしても信じられない。それと、この女をロウゼンの側に置きたくない、初めて会ったときのそんな思いを、改めて感じたのだ。
――ロウゼンの申し出を断るつもりなら、もうどうでもいいことのはずなのにな。
 思わず苦笑してしまい、客の視線を感じて、彼らに座って楽にするように勧める。そして部屋の外に控えているメイフィを呼んだ。
「マーゴを呼んできてくれ」
 そう命じてから、もう一度トワロに向き直る。
「あなたのことは、二人から聞いている。会いたいだろう」
 トワロは、少し困ったように、ラミアルを見た。
「あたしもそう思うんですけど。わざわざ娘さんを探して旅をしてきたのに、いざとなったら名乗りもしないで」
 天井を見上げるトワロにはかまわず、そしらぬ顔でラミアルが言う。
「会いたくないのか?」
「いえ、そういうわけでは……。ただ、あの子が片言も喋れないうちに別れましたから――」
 何を話せばいいのか。トワロの長いまつ毛が伏せられる。
「そうか……」
 グルオンは、もちろんまだ子を産んだことがないから、我が子というものがどういうものなのかはわからないが、両親は、故郷で今でも健在のはずだ。錬成館を出てアデミア王に仕えてからは、わずかに二度会ったことがあるだけだが、いやそれどころか、三歳になって錬成館に入ってからでも、数えるほどしか会っていないが、だからといって、会ってどんな態度を取ればいいのかなどと困ることはない。
 血が繋がっていれば、自然と親子になれるものではないのだろうか。だが、ロウゼンとペグは血が繋がっていなくとも、たしかに親子だし。フィガンとマーゴは……。
 よくわからない。グルオンは首を振った。本人達に任せるしかないか。
「まあ、この町に腰を落ち着かせるのなら、いつでも会いにくればいい」
 はい、とトワロが頭を軽く下げたときに、マーゴが部屋に入ってきた。


いつもありがとうございます。
今日は趣向を変えて、ほっとする話を。

「あの。これ……

 チンしてください」

hotする話……

じ、次回予告!!!!!

「森の民との取引を、お許しいただきたいのです」
商人の顔をした少女が、グルオンの前にいた。

二幕第五話「商談」
9/8更新予定

あ、秋だなぁ(泣)
おやじって言うな〜!






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