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30年目の偽同窓会
作:所出ひらむき



最終章


5月3日、俺は子供と一緒に実家に遊びに行った。
結局、家族旅行は明日からとなった。
妻は洗濯と部屋の掃除をやりたいといって
俺の実家には来たがらなかった。
昼飯を親父、お袋と一緒に食べた。
食べ終わると子供達がタロを散歩させたいと言い出した。
俺も犬の散歩は久しぶりだ。
ウンチ袋を用意してもらい
子供に手綱を握らせて散歩に出た。
まだ小さかったタロと顔合わせしていたこともあり
子供達にもなついていた。
お袋がきちんと躾をしていたのも功を奏している。
そのため人間を舐めた行動をしない。
犬は集団性が高いと聞く。
これくらいの子供達と散歩するのがうれしいようだ。
B市立東小学校までの片道10分を散歩する事にした。
このルートは小学校に通うための通学路だった。
俺が中学、高校と当時の飼い犬を散歩させていたルートでもある。
思い出深い道程だ。
杉山との思い出も若干だがある。
喜び勇んで先頭を行くタロ。
引っ張られる子供。
その後ろから俺が周囲を注意しながら歩いた。
昔はその通学路周辺は田んぼと畑ばかりだった。
今はすべて埋め立てられて住宅が立ち並んでいた。
変わってしまった。
そんなところを犬を散歩させていいのか。
何かが違うと感じた。
田んぼのアゼの土の匂いをかぎながら散歩する犬。
そんな昔のイメージが強すぎた。
小学校に着いたが様子が変わっていた。
通学路の突き当たりに「東門」があった。
その「東門」がなくなっていた。
その代わりにフェンスが校庭と校舎を取り囲んでいた。
不審者を不用意に侵入させないための措置だろう。
俺はフェンス越しにグランドを覗いた。
少年野球チームが練習していた。
「ここ、どこの学校?」
娘が聞いてきた。
「ここは、パパが通ってた小学校。」
「ウン。そう思った」
息子が大きく頷いた。本当に分かっているのか?
校庭外周の植え込みが変わったぐらいだ。
校舎は変わっていないようだ。
フェンス沿いに小学校を一周しよう。
子供達にそのことを伝え右に折れて歩き出した。
前方から自転車が来ていた。
この東側の通りは公道なのだが道幅が狭い。
通路と言ってもいい。
今の規格の軽自動車では通り抜けはできないだろう。
子供達にフェンス際に寄るように指示した。
犬の手綱は俺が引き寄せタロを足元に置いた。
俺はフェンス側に顔を向けて自転車の通過を待った。
通過したと思った自転車がいきなり止まった。
どうしたんだろうか。
俺は自転車を見た。
自転車からこちらに顔を向けていたのは女性だった。
髪は首筋までと短い。
スッピン顔だろうが肌に張りはある。
ほほがこけていた。
目じりのたるみも少しあった。
年齢は俺と同じだな。
卒業生名簿に載っていた顔写真、そして俺の頭の中に記憶している顔、
目の前のその女性の顔を照合した。
「木沢君でしょ?」
「杉山さん、おひさしぶり。」
メールでやり取りしていたからそう言うのも白々しかった。
やはりあの時のGジャンの女性だった。
顔立ちも雰囲気も中学生の時のままだった。
気が強そうで自信に満ち溢れた顔。
ほほのこけ方は生活環境と食習慣が影響していると感じた。
背が低いように思えた。
体も細く華奢に見える。
こうして明るいところで対面した女性は
俺の記憶している杉山とは別人のように思えた。
「帰ってきてたのか。」
「同窓会の事はゴメン。」
悪びれてはいないようだ。
「早めに仕事に決着が付いてやっと休みが取れたんだ。
昨日今日とのんびりできた。」
こうして杉山と会話をしていても落ち着いていた。
心が躍ることもない。
やはりもう醒めているんだ。
「親父さんは残念だったね。」
「余命一年といわれていたから覚悟はできてた。無理してたから。」
顔色一つ変えずに淡々としていた。
子供達が手持ち無沙汰になっていた。
「お子さん?」
「うん。俺の遺伝子を受け継いでいるから体は丈夫だ。頭は悪いけど。」
杉山は微笑んだ。若干、困惑ぎみにも見えた。
以前のメールで書いた事を思い出したのだろうか。
「こんにちは。」
杉山は子供達に笑顔を向けた。
「こんに・・ち、は。」
子供達はぎこちなく挨拶をした。
見知らぬ人物に話しかけられて困っているようだ。
「こんなところで何をしてるんだ?」
「私の居た場所をもう一度見ておこうと思って。」
照れくさそうだった。
杉山がかつて住んでいた家がこの近くだった。
そこは既に壊されて別の家が建っている。
「昔の家はなくなっちゃったけど、この辺りはまだまだ昔のままだから。
やっぱりわたしのスタートラインはこの辺なんだなって。」
そう言うと周囲を見渡した。
少年野球チームの掛け声だけがこだましている。
それ以外は静かな住宅街だ。
「以外だね。東京では仕事の仲間と部下がいてA高校のOBもいる。
こっちの大学で教鞭もとっている。
声をかければA高校のOBと楽しく過ごせる。
そんな君がホームシックか?」
攻めるつもりは無い。
俺も最近は感傷的になっている。
だから気持ちは分かる。
しかし、いいようにあしらわれた事を忘れたわけではない。
目の前にいる女性に対して何も思い描くことはなかった。
「ホームシック?違うと思うけど。」
杉山は苦笑いしていた。
間違ってたか?俺?
「もう一度スタートラインを見てから東京に戻りたいのよ。
こっちに帰ってきたらこうやって思い出の場所を走り回ってから戻るの。
これをやるとがんばろうって気になれるから。」
ただのセンチメンタルなのかな。
いや気持ちを切り替える為の行動なのだろう。
こうやって走り回ってるから俺の実家が立て替えたのを知っていたんだ。
子供の落ち着きがなくなりだした。
「立ち話もなんだから。子供と犬を実家に置いてくる。
どこかサテンでも行こうよ。」
「ごめんなさい。4時の新幹線で東京に戻るのよ。時間が無いわ。」
時計も見ずに杉山は返答をした。
これ以上、俺と話すことはないということだな。
「そうか。分かった。仕事、がんばれよ。」
「ありがとう。」
微笑みながら杉山は自転車を走らせた。
だがすぐさま止まって振り向いた。
「キサワァ!ありがとう。」
微笑んでいた。だがその目は悲しそうだった。
俺は黙って頷いた。
無表情とも微笑ともつかない顔で。
走り去る自転車を見送った。
そうだった。
中学の時はお互いに呼び捨てだった。
その呼び方をもう一度言ったのは親しみを込めたかったのだろう。
その自転車は俺達が来た道へ曲がっていった。
かつての自分の家があった場所へ向ったのだろう。
「だあれ?あの人?」
娘が聞いてきた。
「むかーし、この辺に住んでたおばさんだよ。」
俺は皮肉混じりにそう言った。
子供を促して犬の散歩を続ける事にした。


その日の夜、杉山からメールが来ていた。

送信者、ショウコ スギヤマ  件名、ごめんなさい
「今日は偶然ですが会えてうれしかったです。
健康そうなお子さんですね。
ごめんなさい。
木沢君の喫茶店に行こうとの誘いを受ける事も出来ました。
時間がないと口実をつけました。
これには訳があります。
木沢君には独特の優しさがあるのです。
犬を可愛がっている人特有の優しさと言ってもいいかもしれません。
私がその優しさに触れると東京に戻れなくなったでしょう。
会社の責任者としてそれは出来ませんから。

木沢君は昔のままの木沢君でした。
うれしかった。
ありがとう。
ごめんなさい。
仕事、がんばります。」

A高校同窓会掲示板は今も時々覗いている。
杉山は相変わらず忙しく賑やかに生活しているようだった。
それでも時々、昔の杉山昌子に戻る時があるんだ。
俺が知っている杉山昌子に。
今も東小学校の周りを自転車で走り回る事があるのだろう。
一つ一つ積み上げてきた自分自身を確認するために。
今ある実家は高校3年間を過ごしただけだから
思い入れが少ないのだろう。
B市での思い出の場所はやはりかつて住んでいた家なのだ。
俺は時々、杉山にメールをしている。
たいしたことは書かない。
ただ単純に「元気か?」これだけだ。
初めのうちは無視されていた。
だがそのうちに「元気だよ。」とだけ返事が来るようになった。


今、ある計画を実行に移そうとしている。
すでにヒロカズには宣伝部長として動いてもらってる。

送信先、杉山 昌子  件名、同窓会+しのぶ会
「こんばんは。
今日は杉山さんにお知らせとお願いのメールを送ります。
今年9月に同窓会を兼ねた{荒川先生をしのぶ11組の会}を
開催しようと考えてます。
詳細はまだこれからです。
決まっているのは木沢善行が監事をやることだけです。
忘年会の監事すらやったことがないのにうまくいきますかどうか。
宴会が滞りなく運ぶようただいま勉強中です。
杉山さんにはぬかりなくご出席いただきたい。
お願いします。
なお参加者が一桁でも開催します。
詳細が決まり次第メールでお知らせします。
旧11組のメンバー41人には案内状でお知らせします。

とにかくやる。やるといったらやります。
これだけはお知らせしておきます。

PS、私は今でも30年前の杉山昌子が好きです。」


どんな返事が来るか楽しみだ。
ただし問題がある。
杉山は荒川先生の事を良く思っていなかったことだ。
ヒロカズも同じ意見だった。
偲ぶ会に出席してくれるかどうかは微妙だ。
出席を渋るようなら「あの騒動の始末をつけろ」と無理強いするつもりだ。
目下、音信不通者や住所の変わってしまった者への連絡方法で頭を悩ませている。
とにかく人が集まりやすくしたい。
宴会の監事が読むような本を買ってきて勉強中だ
荒川先生のご遺族には既に挨拶を済ませてある。
遺影をお借りする事も承諾していただいた。
「偲ぶ11組の会」としたが
故人を偲ぶとか
かつてのクラスメートと旧交を深めるとかが目的ではない。
杉山の為。
もちろんこのことは誰にも言えない。
杉山のことを誰も忘れてはいない、そういう会合にしたい。
そして帰って来易くなるきっかけだけは作ってあげようと思う。
きっかけになるかどうかは杉山次第だし
それが吉と出るか凶と出るかは神様でも分かるまい。
きっかけを作ってあげる事、
それがかつて好きだった彼女へのせめてもの心づくしだと思っている。

このこと妻には内緒だよ。






終わらせました。
こういったほうが正しいです。
前作の「森本陽子」は男にとって都合の良いキャラ設定にしてしまった。
その反省から「男に異存しない鉄の女」を想像してみたくなりました。
女性として確固たるものを持ちつつも男に依存してしまう。
そんな「森本陽子」は書いていて楽しかったです。
正反対の「杉山昌子」はどんな動きを見せてくれるのか、
自分でもよく考えないうちにキーを叩いてました。
今作のラストシーンを構想中にちょっとした迷いが出ました。
木沢の前で泣き言を言ってしまう鉄の女、天才女性、と当初の構想では考えてました。
しかし「鉄の女が中学の同級生の前で泣くのか?」という疑問がわいてきました。
もう一度「杉山昌子」の人物像を考え直しました。
父親の死に直面しても涙を見せないような女、そうでなければならないと。
そこで私の中での「杉山昌子」は終わりました。
ストーリーもそこまでになりました。
ちょっとからかっただけだよ、そんな結末です。
少し不本意ですけどね。

今作の「杉山昌子」と「木沢」はほとんどがPC画面上でのやり取りです。
動きがないだけ書いていて退屈でした。
読まれた方も退屈だったでしょ?
「杉山昌子」は最高学府で博士号を取得しているという設定ですから
私(高卒)の想像力を遥かに超えてます。飛びすぎ!

作中、「木沢善行」が中学時代の出来事を回想してますが、
それらは私が実際に体験したり仕出かした事をそのまま盛り込みました。
つまり事実です。
フィクションであってフィクションでない。
「杉山昌子」のような女性も実は実在したりして?
それもこれも準備期間をおかずに
気の向くままに書きだしたが為、仕込みもネタも不足したためです。
反省。

この作品は中学の同級生だったMMに捧げます。
お互い元気で仕事にがんばろう!!



告(10月17日):
前書きにも記載しましたが
本作品は2008年12月末を持って削除させていただきます。
この後書きにも書いたとおりに現実に起こった出来事を一部に使っています。
私以外にも関係する当事者がおられます。
その方にそのエピソードの使用許諾をいただいておりません。
30年前のことですから時効と高をくくっていましたが
どうにも気持ちがよくありません。
本作を総合的に見ましても「駄作」以外の何物でもなく
当事者の許諾を改めて取りつけるまでもないと判断しました。
あしからずご了承ください。













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