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この作品には 〔ガールズラブ要素〕 が含まれています。

ダイヤの原石

作者:愛美
 「みつながめい」様主催「オトメゴコロ企画」小説です。
挿絵(By みてみん)「先生! バレンタインのチョコです! 受け取って下さい!」

 私は矢継ぎ早に言葉を発すると、先生の手にピンク色のリボンで包んだ箱を乗せた。……そして先生の顔を見る事も、声を聞く事もなく走り去った。
 全速力で廊下を走り抜ける。途中で誰かに注意された気がするけど私の耳には入って来ない。私はただひたすら走り続ける。
 階段までたどり着いた私はそのままの勢いで駆け降りて行った。一度に二段、三段とリズム良く飛ばして行き、私のポニーテールが左右に激しく揺れる。
 そして一階まで後少しというところまで達したところで……

「……あっ!?」


 ……脚を滑らしてしまった私は宙を舞い……激しく床に叩きつけられてしまった……



「……ううっ」

 咄嗟に身を捻って頭を打つ事は免れたけど、打撲した左肩から腰が激しく痛む。

「うわっ!? ちょっと、ちょっとー……」
「いろはちゃん! 大丈夫!?」

 うずくまる私に、クラスメートの「なっちゃん」と「めいちゃん」が駆けよって来た。……人見知りの私にとって、数少ないお友達……

「あははっ、ちょっと滑っちゃった……いろはドジだから……」
「何言ってんのー! ドジとかの問題じゃないでしょー」
「そうよ……全速力で階段を降りて来たら危ないに決まっているじゃない……」

 私は笑って誤魔化そうとしたけど、二人には隠せない。

「いろはちゃん、起き上がれる?」
「めい、そぉーっとだよー。何処か怪我しているかもしれないからなー」
「あ、有難う……」

 二人に身体を支えてもらいながら、徐々に身体を起こしてみた。……打ち付けた所が痛むけど、骨とかは大丈夫そう……

「いろはー、保健室行くー? アタシ達が連れて行くよー?」
「ううん、大丈夫。1人で歩けるから……なっちゃん達は部活があるでしょ? いろはに構わずに早く行った方が良いよ」
「でも……」
「おっ!? 青葉どったの? まさか階段で転けたとか? ははっ、お前とろいんだから気を付けろよー」

 めいちゃんの言葉を遮って、クラスの男子が話かけて来た。一階は一年の教室しかないので、顔見知りばかり……惨めだ。

「貴方! その言い方はちょっと酷いんじゃない! いろはちゃんに謝りなさいよ!」
「はぁっ? お前何言ってんの? 青葉がとろいのは今に始まった事じゃねーじゃん」

 彼は私の正面に回り込み、嘲笑いながら言葉を続けた。

「お前さー、もしかして誰かに告白して振られたとかー? それでショック受けて階段で転けてたりして……ぷっ! マジ受けるんだけどー?」
「……っ!?」



 ……図星だった……


 先生は分け隔てなく誰にでも優しいから、学年を問わず人気がある。そして真面目な人柄から、女子の間でファンクラブが結成されているとか……それに、ある事実に気が付いてしまったから……返事をもらった訳ではないけど、彼の言う通り失恋なのかも……

「……うっ……ぐすっ……ひっく……」

 ……心が悲しくなったら涙が出てきた。また、子供っぽいって笑われるかもしれないけど……感情が抑えられなくて止める事が出来ない……

「ああ、いろはちゃん泣かないで……」
「あんたサイテー! 女の子を傷つけて楽しいの!」
「あっ!? いや、冗談のつもりだったんだけど……マジ?」

 二人に非難の言葉を浴びせられて、彼が気まずそうな表情をしたのが分かった。

(……大真面目よ!)

 私は歯を食いしばって彼を睨んだ。涙で顔がぐしゃぐしゃだけど、悔しくて仕方がなかったから……

「あー、青葉わりぃ……別に俺はお前を傷つけるつもりじゃ……うわっ!?」

(……これ以上聞きたくない!)

 私は彼を突飛ばして校舎の出入口に向かって走り出した。……歩くのやっとだと思ったけど、意外に身体は動くものみたい……

「いろはちゃん!?」
「ちょっと待ってよ! 何処に行くつもりなのよー!」

 二人の言葉を背に受けながら、下履きのまま校庭に飛び出す。そして、1人になれる場所を探して、学園を走って後にした……



「はぁ、はぁ、あれ? ここは……」

 無我夢中で走っていたので気が付かなかったけど、私はいつの間にか公園の中に居た。……この公園は家から学園に向かう通り道にあり、私がよく黄昏ている場所。

「ははっ、よりによって、ここに来ちゃうなんてね……」

 私はいつもの様に、ブランコに乗り、1人自虐的な笑みを溢した。

「そう言えば、初めて先生とお話したのがこの公園だったなぁ」

 ブランコを漕ぐ事もなく、ただ日が沈んで行くのを眺めながら、先生との出逢いの切っ掛けを思い出してみる。


 ……それは、私が入学してまだ間もない頃の出来事。極度のあがり症で、人見知りの激しい私は、クラスメートと交流する事が出来ず、1人ぼっちでの学園生活を過ごしていた。そして、そんな日常に嫌気がさし、登校を拒否してこの公園のブランコに揺られていた。

「学校行きたくないなぁー!」

 何の気なしに叫んだのだけど、私の声が大き過ぎて散歩していた人達の視線の的になってしまった。

(……うわっ、気まずい! 早く立ち去らないと……えっ!?)

 私が慌ててブランコを降りると、いきなり腕を掴まれて引っ張られた。私は恐怖に声を上げそうになったが、相手の顔を見て安心した……。

「……日下部先生……」

 私がほっとした表情を見せると、先生も頬を緩めて頭を撫でてくれた。……私の両親は厳しかったので、抱きしめてもらった経験すらない。だから、先生の優しい気持ちが嬉しくて、私の凍り付いた心を溶かしてくれた……。
 その後、学校に向かうまでの間に先生と楽しくお喋りをする事が出来た。……何でも今日は寝坊をしてしまい、近道をする為にこの公園前の道を走っていた所で私の声が聞こえて……という事らしい。

「先生といろはは運命の赤い糸で結ばれているのかも知れませんね!」

 大はしゃぎで喜ぶ私を穏やかに見つめながら……年が二回り位違うよ……と笑い返す先生。

 ……この日を境に私の中に眠っていた「乙女心」が爆発した! 先生に褒められたい一心で勉学に励み、積極的にクラス活動を行う事で友達も出来た。成績が上がる度に先生は喜んでくれて、私は天にも昇る気持ちだった……
 でも私は、突然夢の世界から呼び戻される事になる。それは12月の2日……先生の誕生日。私は手編みのマフラーをプレゼントしようと、他の生徒が登校する一時間以上前に学校に行き、職員室に居るであろう先生を探していた時の事……

(先生何処かなー? ……職員室の中には……居た!)

「せんせ……っ!?」

 声を掛けようとした私が見たもの……それは、女性教諭と楽しく談笑している先生の姿。……そして、その首には私が編んだ物とは比較にならない程、とても綺麗なマフラーが巻かれていた。

(……あの人が先生の為に……)

 愕然として立ち尽くしていると、先生が私の方に目を向けた気がして、慌てて学園を飛び出して家に駆け戻り部屋に閉じ籠った。……先生が教え子である私を恋愛対象にする事はない。その現実に気が付いてしまった私は、その日再び登校する事はなかった。
 ……マフラーも何処かに落としてしまったみたいだったけど、もうどうでも良かった……



「……さん、いろはさん、私の声が聞こえている?」
「……はいっ!? あっ、絵麻先輩……」

 完全に自分の世界に入り込んでいた私は、先輩が声を掛けていた事に気が付かなかった。

「絵麻先輩、どうしてここに? ……あぁー! いろは生徒会の仕事をすっぽかしちゃったぁー!」

 積極的に行動する様になった私は、生徒会に入部して書記を任される様になった。そして、3年生が引退した今、私は副会長に選出された。……ちなみに生徒会長である絵麻先輩は非常にお淑やかで、何処かの社長令嬢だとか……とにかく、私の尊敬する先輩だ。

「絵麻先輩、済みません! あわわっ、いろははどうすれば……」
「くすっ、今日は生徒会の仕事はありませんよ?」
「……えっ」

 パニックを起こし掛けた私に優しく微笑み、先輩は隣のブランコに座った。……じゃあ何故先輩がここに?
 疑問に首を傾げる私を可笑しそうに見ながら先輩が口を開いた。

「……先程、日下部先生にチョコを渡していたでしょう?」
「えっ!? 絵麻先輩、見ていたんですか?」
「ええ、驚いたわ。突然現れてチョコを渡したと思ったら、物凄い勢いで走って行ってしまったからね」
「あははっ、恥ずかしくてつい……」
「……涙を流していた様に見えたのだけど……私の見間違いかしら?」
「……えっ!?」

 そう言えば、先生にチョコを渡した後、誰かに声を掛けられた記憶があるけど……先輩だったんだ。……って、違う! 論点はそこじゃない!

「いろはは……泣いていたんですか?」

 ……我ながら馬鹿な質問だとは思うけど、聞かずにはいられなかった。だって、私自身気が付いていなかった事だったから……

「ええ……この世の終わりみたいな顔をしてね。……とても、告白をした後の女の子の表情には見えなかったわ……」
「そう……でしたか……」
「……いろはさん、私で良かったら相談に乗るわよ。貴女はとても可愛い後輩だから……」

 項垂れている私に、先輩は慈愛のこもった優しい言葉を掛けてくれた。

(……絵麻先輩に聞いて貰えれば、少しはスッキリするかな?)

 私は先輩に、今までの事を包み隠さず全て説明した。先輩は私のお話を神妙な面持ちで聞いていたが、私が最後まで説明し終わった所で表情を緩め、軽く笑みを浮かべた。

「ふふっ、今の説明である程度理解が出来たわ」
「ふぇっ!?」

 先輩はブランコから降りると私の頬を撫でながら、優しく語り始めた。

「いろはさんは、誕生日の時に先生への想いは捨てたのよね? それなら何故、バレンタインの告白をする気になったのかしら?」
「そ、それは……先生の事を諦めきれなかったから……」

 ……あれっ? 本当にそうなのだろうか? 自分の事なのに分からない……

「……あら、そうかしら? 先生にチョコを渡した時の貴女の姿は、まるでお別れの挨拶をしている様に見えたのだけど?」
「……っ!?」
「貴女は初めから諦めていたのではなくて? チョコを渡したのは他に理由がある……そうでなければ、貴女の行動に説明が付かないわ」
「……あ、ああ……」

 私の頭の中で、全ての全ての歯車が噛み合ったのを感じた。……そう、私が先生に伝えたかった事……

「絵麻先輩! いろははやっと自分の気持ちに気が付きました。確かに告白しても受け入れられない事は分かっていました。……それでも、先生のお陰でいろははここまで頑張って来れました。その感謝の気持ちを伝えたかったんです!」

 やっと心のもやもやが晴れた気がする。でも、ちょっと遅かったかな。

「絵麻先輩のお陰でスッキリしました! でも、もう少し早く気付いていれば笑顔で渡せていたのに……そうすれば、チャンスが有ったかも知れないと思うと残念ですねー」
「う〜ん……いろはさんは先生に夢中になり過ぎて、自分がとても魅力的な女の子になった事には気付かなかったみたいね」
「……絵麻先輩?」

 先輩は頬を撫でていた指を離し、そっと私の唇に沿ってなぞらせた。……根暗の私が魅力的? そんな話なんて聞いた事が無い。

「恋愛をすると女の子は可愛くなる……。いろはさんはね、先生に認めてもらう為に必死に努力をした。その結果、誰からも好かれるとっても素敵な女の子になったのよ」
「う、嘘!?」

 狼狽える私を楽しそうに見詰めながら先輩が話を続ける。

「今や貴女は学園でも1、2を争う位の人気者なの、男女問わずね」
「せ、先輩?」

 先輩の顔がじわじわと近づいてくる……これは現実なのだろうか? 私が人気者? しかも尊敬する先輩に迫られて……


「あー! 生徒会長がいろはを襲ってるー!」
「ち、ちょっと! なっちゃん、声が大き過ぎるって……」

 妙な雰囲気になりかけた所で、なっちゃんとめいちゃんが私達を見つけて駆け寄って来た。あっ、二人共に制服姿だ。部活はどうしたんだろう?

「生徒会長ともあろう方が、こんな所で後輩をたぶらかして良いんですかー? 悪い噂が広まりますよー」
「あら? 私はそんな不埒な考えは持っていないわ。純粋にいろはさんに好意を抱いているだけよ」
「ええー!? 生徒会長本気ですか? ……なっちゃん、私達も頑張らないといろはちゃんが取られてしまうかも……」
「よし! めい、いろはを確保するよー」
「ちょっと二人共何を……」

 ……私は強制的にブランコから降ろされて、なっちゃんに抱き上げられた。所謂お姫様抱っこだ。

「なっちゃん! 恥ずかしいから降ろしてよー!」
「やだー。いろははアタシ達の可愛いお姫様なんだから、離したくないのー」
「そうだね……いろはちゃんは大事な大事なプリンセス……」

 今度はめいちゃんに靴を履き替えさせられた。……子供じゃないんだけど……。

「……そっかー、いろはが知らない内に、みんなはいろはの事を認めてくれていたんだねー。全く気が付かなかったよー。あははっ、お姫様って……恥ずかしいけど嬉しいなー」

 元々は先生に褒められたくて頑張っていたのだけど、それが結果的に自分を磨く事になっていた。
 考えてみれば、今の私は以前の様に劣等感に苛まれる事もなく、こうしてみんなと楽しくやり取りが出来ている訳で……全部、先生のお陰だ。

「ふふっ、いろはさん楽しそうね。貴女が元気になってくれて嬉しいわ」
「あっ、生徒会長は近寄っちゃ駄目ですよ。いろはちゃんは私達のものなんですからね……」
「あら? めいさんは厳しいのね。……嫉妬深い女の子は嫌われてしまいますよ?」
「えー! 生徒会長がそれを言いますかー? アタシ達が来なかったら、今頃いろはは会長の毒牙にかかっていたかも知れないのに?」

 ……何だか話がおかしな方向に進んで来た気がするけど……でも、気持ちが楽になったのは事実。心が晴れて、今まで張り詰めてものが全部吹き飛んだ様な……

「あっ!? 肩が痛い!」

 緊張感がなくなった事で、肩を怪我していた事を思い出した。……しかも、かなりの激痛だ……

「いろはちゃん、大丈夫?」
「あ、あははっ、……あんまり大丈夫じゃないかも……」
「よーし! このまま近くの医者まで直行だー! めい、荷物持ち宜しくー」
「了解よ」
「ち、ちょっと二人共部活はどうするの?」
「はぁ? 何言ってんの? 部活なんかよりもいろはの方が大事に決まっているじゃん。……ぶつぶつ言ってないで行くよー」
「私がよくお世話になっている整形外科があるから、そこに案内するね」
「……分かりました〜。いろはは大人しくしてまーす」

 抵抗するのを諦めて、ふと横を見ると先輩が微笑んでいた。

(絵麻先輩にお世話になっちゃった。後でちゃんとお礼を言わないと……)

「めい、病院までどのくらいー?」
「うーんと、歩いて2〜30分って所かな?」
「け、結構距離あるねー。なっちゃん大丈夫?」
「任せてー! いろはの為ならアタシは何処までも頑張れる!」
「あははっ、お手柔らかにね……」



 ……そして、診断の結果「上腕骨」にひびが入っている事が判明。1ヶ月程度の固定が必要との事。腰は軽い捻挫で大した事は無いらしい。
 そこまでの大怪我だとは思っていなかったので正直驚いたけど、なっちゃんとめいちゃんとの絆は深まった気がする。二人共、積極的に私の面倒を見てくれるみたい。絵麻先輩も協力を惜しまないと言ってくれたし……怪我の巧名とはこう言う事を指すのだろうか?

 そして、私は早くこのギプスが取れて、リハビリが出来る日を待ち望んでいる。万が一、先生がホワイトデーのお返しをくれた時に両手で受け取りたいから。



 ……勿論、満面の笑みで……



 私の発案を纏めて下さった「みつながめい」様及び、企画に参加して下さった

 大橋 秀人 様
 齋藤 一明 様
 まつもと なつ 様 水無月 上総 様
 高千穂 絵麻 様
 日下部良介 様

 皆様、本当に有り難う御座いました。心より感謝致します。

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