潰し魔(3/10)縦書き表示RDF


潰し魔
作:ハシルケンシロウ



転(早百合の抱いた疑惑と決意)


 また新たな犠牲者が出てしまった。矢沢蛍子(17)。やはり、見る影もなく顔がひしゃげ、生前の面影を生命諸共一切がっさい奪われてしまっている。

 着衣の腹部には茶色みがかった染みが広がり、遺体の腹部には広範囲に渡って青黒い鬱血が、あたし達をあざ笑うかのようにこれでもかと自己主張している。

 尻周りに非常識な程の広さを誇る黄色い染みが広がっていることもまた、前の被害者と同じだ。身に付けていた下着が、鮮やかなツートンカラーに染めらあげられている。かつて、古代人が黄色染料として用いていたと言われている尿という体液を大量に吸い取っているのである。

 それはそれは鮮やかに……、黄ばんでいた。

「マスコミには顔を殴られて死んだとしか言ってない……。なのにこんなに状況が似てるなんて……」
 それは、紛れもなく同一犯による犯行であることを物語っている。……みんなの前で誓いを立てたにも関わらず、また犠牲者を出してしまったことに、負の思考という無間地獄から沸き上がる、悲しみ、怒り、脱力感、無力感といったマイナスの感情があたしという存在の全てを埋め尽していく。

 知秋がやはり、怒りと憂いの入り混じった目付きで、肉塊と化したそれを見つめている。 今回の事件の、前回の事件との最大の違いは、事件発覚後すぐに被害者の身元が割れたことである。前回奪われていた被害者の手荷物が、今回は残されていたのだ。それは宛ら、日本警察への挑戦状であるかのようだ。そう、『捕まえられるものなら捕まえてみろ』とでも云わんばかりの……。








 あたしはこの被害者、矢沢蛍子を知っている。昨年の全日本空手選手権で手痛い敗戦を喫し、あたしの3連覇を阻んだ相手だ。それまではもはや、朝青龍状態だった。せいぜい千秋に負ける程度のものだったのだ。そこに現れた新星。その大会は、結局知秋にのされて準優勝に終わっているが、間違い無く蛍子は、オリンピック級の空手家だった。








 ディープインパクト。それは、見るもの全てにとてつもない衝撃を与えるものになってほしいとの願いを込めて名付けられた、青鹿毛牡馬。その、ナリタブライアン以来の3冠馬が、あたしの脳裏を地響きと共に駆け抜けた。この前は聞き捨ててしまったが、手掛りは、目の前に転がっていたのだ。

 まさに、ディープインパクトだった。ダイナマイトが爆発してもこれほどの衝撃にはならないだろう。

 あたしの考えた通りなら、間違い無くこの矢沢蛍子は死なずにすんだ筈だ。ほんとに申し訳なく思う。

 まだ物証はなかった。だが、犯人がほぼ確定している以上、無いならば、引っ張り出せば良いのである。

 あたしは、蛍子を見たとき以上の負のエナジーに存在の全てを蝕まれながらも、犯人【潰し魔】を追い詰めるための算段を整える。

〈続く〉












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう