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ラブカクテルス その62
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はギャンブル路線でございます。

ごゆっくりどうぞ。


私は頭を抱えた。
私は出世して、同じ系列の電車路線を運営する営業管理部所の所長となった。
言わば、一国一城の主である。
本当なら、いや、この書類を見るまでは、やはりさすがの私も浮かれ気味だった。
周りからも祝福の言葉で歓迎され、私はこれからの人生全てをこの仕事に注ぎ込む気でいた。
しかし何なんだ、この数字は。
これじゃまるで赤字路線、いや、前から聞いてはいたのだが、ここまでヒドイことになっているとは。
正直ガッカリくらいの言葉では済まない程の現実に、私はこの通りだ。

私は今まで出世街道を走ってきた一人だった。
確かに上の連中を気嫌いし、ミエミエのおべっかや、派閥争いなどにも参加せずにいたが、その報いとでも言うのだろうか?
私は前の所長の時からこの部所にいる部長を呼び出した。
部長はとても腰が低く、何を聞いても、
いや、調べておきます。
いや、それは分かり兼ねます。
と、歯切れの悪い政治家のように私の質問を交していく。
駄目だ。
私は部長にとりあえず、前の所長の事で知っている全てを話すように言ったが、何かマズイ事があるかのように顔を汗だくにしてモジモジし始めた。
全然良知が空かない。
仕方なく私は、その部長の部下である課長を呼んだ。
課長は意外とサバサバした性格で、なんだか今の仕事に開き直りを見せているようだった。
そんなことから彼は何でも話しをしてくれた。
元々の所長、つまりは私の前の所長は、就任以来、ほとんどこの事務所にはいないような存在で、売上や予算の使い道などの管理や処理は、部長がほとんどやっていたのが現状だそうだ。
しかしそんな部長も、何か良い事をやったとしても、報酬や昇給などの結果がある訳でもなく、また何か悪い結果に転がってしまった時などは、凄いけんまくで怒られたと思ったら、路線グループの重大会議などで散々ナジラれる始末。
なるほど、ヤケに腰が低いのには、そんな元所長の扱いがそうさせたに違いない。
私は部長を気の毒に思った。
当然、赤字に対しての策を色々考えた事もあったが、成るようにしかならない。
冒険するな。がスローガンの元所長にことごとく邪魔をされて、この状態だと、ため息混じりの呆れ顔は、吐き出すように笑いながら、そう語った。
確かにこれでは赤字になるだろう。
大都会や、住宅密集地に走る路線ならまだしも、ここは山か畑が広がる、言わばローカル線。
周囲の人口は少なく、しかも観光名所なども特に目立ってない。
一日走る本数も、一時間に多い時で三本。
少ない時間では三時間に一本なんて事にもなっている。
ひどい。本当にこれでお客は納得しているのだろうか?
私は仕方なく、自分で調査を始め、この路線の状況を把握しようと決めた。
次の日は、初電から電車に乗り込み、それから何往復も路線の端から端までを見て回り、自分なりのデータを作ってみた。
その結果、どうやらこの路線を利用するお客は、地域住民が大した割合を占めておらず、一番の客層とはなんと、路線沿いに幾つかある、競馬場と競艇場、それに競輪場への利用客だった。
とてもガラが悪く、一般の人はあまり関わりたくないといった雰囲気で、端の方で小さくなっている。
何だか路線のイメージが暗く悪いのは、この辺にも原因がありそうだった。
私は事務所に戻って、早速会議を始めた。
顔を揃えた部下達は、何の騒だとざわめくばかりでまるでやる気を感じられない。
それもそうだ。前の所長の方針がまだ深く根付いているのだろう。
仕方ない。まずはこの辺から変えていく必要がありそうだ。
私は机を思いっ切り叩いた。
それが全ての始まりの合図となった。


私はとりあえず、この路線のイメージを作ろうと決めた。
暗く、ダークなイメージを、当然明るく利用しやすいイメージに変えることが、一般のお客を獲得する一番近道だと考えたからだ。
しかし、かといって、各ギャンブル場へ利用しているいつものお客を乗せないようにするのは不可能だし、また、それを無くしてしまったなら売り上げはガタ落ちに間違いない。
そこで私は考えた。
これは一つの賭けだった。
もしハズレたとしたら、笑いが取れないギャグにしかならないなんて、オヤジギャグにもならない話だ。
しかし何もやらない訳が、私にある筈がなかった。
私は部下に命令し、電車の車両、一本に対して五両編成の内の二両に、テレビを付けさせた。そしてそのテレビには、ギャンブル情報番組を流して、そっち方面のお客をその二両に集まるようにした。
当然18歳以上しか乗れない車両だ。
そして改札の売店とキヨスクにはギャンブル新聞やギャンブルに関する本のコーナーを設けて置き、そちらの客をうまく利用しようと考えた。
会議で決めたその計画は、同路線グループの幹部には何の許可も仰がずに、私の独断で実行し、関係業者には始め、かなり厳しい予算で泣いてもらうことになったが、その代わりにこの計画が当たった日には、その先にまだ私の頭の中に隠している次なる計画の受注も発注し、その時は儲けさせてやると、なんとか説得してどうにか実現できた。
そしてその宣伝となる広報活動は、これまた無理を言って、各ギャンブル場でやって欲しいと、熱意で押して頼み、さすがは儲かっている各開催地は、意外にあっさり受け入れてくれた。
そしてそれは、だんだんと話題になっていったのだった。
時間を無駄にしたくないギャンブルの客は、まんまとそのテレビに釘付けになり、その上ほとんどのその客達は目玉の車両に集中して、私の作戦通りに一般客と彼らを二分することができた。
一般の客達の様子は以前と比べてみた感じでは、やはり皆表情が柔らかくなった気がする。
そしてしばらく、その電車を走らせて様子を見ていると、物珍しさに目がないマスコミがこれを話題にし始め、電車を利用するギャンブル目当ての客層が意外にも増えてきた。
私はそっちが増えたか、と予想を反する結果にまた、頭を抱えた。
しかし売り上げは徐々にではあったが増えつつあり、まんざら失敗ではないようだった。
私は思い切って、少し計画を変えることにした。
先までの計画では、一般客層の利用を増やした後に、上がった利益を使って各駅の改装を起こして、見た目のイメージから明るさを強調しようと思っていたが、考えてみればそれは都会の考えだったのかも知れない。
やはり、その土地にはその土地の特性を売りに出すべきなのが正解なのかも。
郷に来れば郷に従え、みたいなものか。
私はすかさず、部下に命令を下した。
車両の延長と増便。そして周りの度肝を抜いた行動。
それは目には目をギャンブルにはギャンブルをだった。
試しに一日三両走らせる事にしたその車内には、なんと十両中の内の六両にパチンコ台を備え付けてみた。
その車両には派手な電飾がなされ、ドアが開いた途端に、軍艦マーチにチンジャラジャラの騒がしい音。
最寄りの駅から、各地のギャンブル場に向かう間、その予想も大事だが、本番前の運試しと、ギャンブル客達へのウケは非常によく、売り上げは鰻登りとなっていった。
それがまた、マスコミメディアには大好評で、全国各地に情報が撒き散らされため、それが観光としてウケ始め、行列までできる始末だった。
それに便乗する形で、路線沿いの各駅では商店街などができはじめて、名物を名乗るギャンブル電車饅頭やギャンブル電車弁当、それならまだしも、タマゲたのは、どこにあったのか分からないような神社が、くじ運の神で有名。といきなり謡って、ギャンブルおみくじやギャンブルお守りなどを発売。
そちらもくだらないと言われながらも物珍しさが当たり、沿線名所の一つとなった。
その内に、路線沿い各地は何だか異様な盛り上がりを見せて、地域は活性し始めた。
あまりの反響の大きさに私を始め、社員一同は目を丸くしたが、結果的に一般のお客もその騒ぎのお陰で暗いイメージが一転し、メディアの力もあって、利用しやすい路線、いや、それを飛び越えて利用したい路線ナンバーワンに輝くなど、作戦は大成功と言える結果になった。
そして当然売り上げは赤字を解消して、大黒字。
税金を納めるのに、非常に顔が歪む想いだった。
来期からは、それを経費として修繕を行い、路線の各駅を派手派手な建物に改装しつつ、駅内でのカジノなんかはどうか?なんてことも構想中だ。



私は頭を抱えた。
まずい。
ちょっとだけ、こずかいを競馬につぎ込み過ぎたようだった。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














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