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喫茶アトリ - COFFEE & CAFE Atori - 作者:sungen

☆コラボレーション番外編☆

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【コラボ番外編】『喫茶アトリ×Darkness spirits Online』

舞台は近未来(2037年)。※喫茶アトリ本編の約21年後です。
小雪ちゃんに似ている謎の女の子が出て来ます。

コラボ作品の『Darkness spirits Online』(作者 オリーブドラブ様)は小説家になろうにある、バーチャルゲーム世界を舞台にしたヒーロー物です。
VRMMO×ヒーロー物と言った方が良いかな。
http://ncode.syosetu.com/n7826dw/

【コラボ作品、『Darkness spirits Online』ざっくり用語説明】

■アーヴィングコーポレーション…VRMMOゲームの制作会社。

■入犂江グループ(いりえぐるーぷ)…アーヴィングコーポレーション日本支部のスポンサーをやっている日本有数の大企業。優璃の父はここの社長。

五野寺学園高校ごのでらがくえんこうこう…炫、優璃たちが通う高校。ハピホプ(Happy Hope Online)という世界的な人気ゲームが類に漏れず流行っている。

【登場人物紹介】
飛鳥炫あすか ひかる…なんの変哲も無い、バーチャルゲーム好きのオタク高校生……と思うでしょう?
でも実はアメリカ帰国子女で英語ペラペラ。学力テストでは常に上位。帰宅部だけど体力テストは超上位。運動というかバトルもできる。
しかも見た目は中性的な美少年。
…なんのチートだ!
美化委員を務めていて、花壇の手入れをマメにこなす。

入犂江優璃いりえ ゆり…日本を代表する大企業、「入犂江グループ」の社長令嬢。
16歳で、肌は白くて胸は大きい。目鼻立ちは超ものすごく整っていて、とても可愛い。やや美人系寄りかも。黒髪ボブカット。成績優秀だが運動は苦手。人当たりも良い。
炫のことが好き。 全校生徒の憧れ。

■アレクサンダー・パーネル…元・FBI捜査官。 超イケメン。俳優か!?奇跡か!?というくらい。ブラウンの髪でオールバック、目つきはするどい系。青目。背も高い。

蟻田利佐子ありた りさこ…栗色のセミロング。小柄で可愛らしい。優璃の幼なじみでクラスメイト。優璃の侍女メイドのような立ち位置。

真殿大雅まどの たいが…クラス委員長。扱いはあまり良くないけど、成績良いしスポーツは万能。事件の後は炫とも話すようになった。一応友達?優璃の事が好き。
黒髪を短く切りそろえた美男子。

以上を踏まえてどうぞ。


――テレビ・雑誌でよく取り上げられる喫茶店。
『COFFEE&CAFEアトリ』

その支店は、実は五野寺ごのでら学園高校の近くにもあるらしい。


■ ■ ■


『割引チケットを貰ったから、今日の放課後、もっ、もし良かったら一緒に行かない?』

クラスメイトの入犂江優璃いりえ ゆりに誘われ、彼女の親友兼付き人の蟻田利佐子ありた りさこに背中を押され。
飛鳥炫あすか ひかるは何故か彼女と二人きりで喫茶アトリに行く事になった。

入犂江優璃いりえ ゆり……彼女はとてつもない美人だった。
ボブカットの黒髪がサラサラと風に揺れる。
夏服のスカートからのぞくスラリとした長い足。引き締まった細いウエスト、肩が凝りそうなバスト。

彼女は日本で知らぬ者は居ない程の大企業『入犂江グループ』の社長令嬢だった。
誕生日記念パーティでは求婚の嵐。
あまりに美しいので、クラスの男子の大半が彼女に好意を抱いている。

炫は冷や汗を流した。

もし二人きりで喫茶店に行ったのがバレたら、クラスメイトに殺される…!

炫は周囲を警戒しながら、この任務を果たそうと、少し身構えていた。
利佐子に押し切られる形で、了承してしまったけど。危険じゃないのか……。

そう言う飛鳥炫。
彼も実はかなりの美少年だった。

飛鳥炫 (あすか ひかる)。
彼はその中性的な容姿に加え、成績上位、学力テストも上位。おまけに帰国子女で英語も得意。
スペックは凄いが……本人にはその自覚が全く無かったりする。

炫の友人は皆、重傷なゲームオタクばかり。炫ももちろん、重度のゲームオタク。
オタク同士でいつもつるんで、オタクっぽい話しばかりしている為、炫のクラスでの評価はかなり低い。

「行こう、飛鳥君」
そんな炫に、なぜか優璃はいつも気安く接してくれる。
彼女はお嬢様だけど、人当たりもよくて威張ったところがない。
そういう気質だからより一等人気なのだろう。
優璃もゲームが好きで、優璃と炫は学校で良くその話をする。

「利佐子…上手くごましてくれるかしら…」
優璃が呟いて、周囲を見回した。
「よし、こっちは誰もいない」
炫は曲がり角の先や背後を確認した。

――。炫は地図を見る。
「この先だけど」
炫が言った。この先、少し森、と言った様子だ。
小道は車が通れるようになっているが、舗装されていない。
「感じの良い森」
花が咲く小道を歩きながら、優璃がつぶやいた。
「そうだね。あ、看板だ」
言いながら炫は微笑んだ。
優璃は意外に自然とか、そう言う物が好きみたいだ。

すぐにお店が見えてきた。
少し奥まった場所にある小さな喫茶店。

「ここじゃ気が付かないよな」
炫は言った。
この森があるのは知っていたけど、わざわざ入ってみようとは思わなかった。

ひかるは扉を開けた。

■ ■ ■

カランカラン。

「……えっ?」
店に入ってすぐに炫は声を上げた。

優璃は炫が立ち止まったので、入り口で首を傾げた。
「どうかした?」
さらりとした黒髪が風に揺れる。

「アレクサンダー…さん?」
「おや?……!飛鳥炫、…君」
炫が見ていたのは、カウンターに立つ外人だった。
濃いブラウンの髪をオールバックにしている。青い瞳。黒いベストにネクタイ、黒のエプロン。
とても背が高く、街中で見かけたらモデルかと思い振り返ってしまいそうな……整った容姿。

「知り合い?」
若干驚きながら優璃が尋ねた。
この外人と炫、二人の接点が見えない。

「二名様ですか?」
ポニーテールのウェイターに聞かれた。
「は――、」
返事をしようとして、あれ?と炫は思った。何か変な感じがする。

一拍おいて、頰が赤くなった――このウェイターの少女は、とても可愛らしい。
十四、五歳、いや、同い年くらいだろうか。
あと一、二年したら、…現代で言うのもおかしな話だが、求婚者が殺到しそうな美少女だった。
高い位置で綺麗にまとめられた亜麻色の髪は、かなり長くて腰まである。
このポニーテールに憧れる女子や男子はきっと大勢いる事だろう……。
……こんな所に、奇跡という物があるんだ……。と炫は思った。
隣で優璃も驚いている。同じ事を考えたようだ。

「あの…?」
返事が無いので少女が首を傾げて、アレクサンダーが苦笑する。

「あっ。はい、二人です。ええと優璃さん、……この人はアレクサンダー・パーネルさんって言って……」
炫は我に返って答えて、少し考えた。

自分と、目の前の外人、アレクサンダーの関係をどう説明すれば良い?
下手なことは言えない――。
炫はアレクサンダーに目配せをした。

「一応知り合いなんだ」
炫はぼかして言った。

「こちらのお席へどうぞ」
二人が案内された席は、カウンター席の近く、少し奥まった席。
これはアレクサンダーと気兼ねなく話せるようにとの、ウェイターの少女の配慮のようだ…。

「久しぶりだな」
アレクサンダーからメニューを渡された。

「どうも。あれ?アレクサンダーさん。お仕事はどうしたんですか?」
炫はてっきり、あの事件の後、アレクサンダーは帰国して、FBIに復帰したのだろうと思っていた。
それがどうしてここに?

「結局、前の仕事は辞めてね。ここで働いているんだ」
「そうなんですか?意外です」
炫が言った。まさか凄腕のFBI捜査官が、日本の喫茶店に再就職するとは。

「まあ、ゆっくりしていってくれ」
アレクサンダーは苦笑し、炫と優璃に言った。
口調には嫌みが無かった。
「は、はい」
炫は若干緊張しつつ頷いた。

「外人さん……?飛鳥君、どこで知り合ったの?」
優璃が不思議そうに首を傾げた。
「ちょっとね」
……死闘を繰り広げた仲だとは、さすがに言えない。

「あ。アメリカ?」
「いや、こっちに来てから。…かな?向こうで出来たの友達のお兄さんで、ゲーム仲間?みたいな感じかな」
「そうなんだ。飛鳥君って、やっぱりゲーム、凄いよね。ハピホプ、私、もう追い越されちゃった」
「オタクだから…」
炫は苦笑した。
自分はゲームしか取り柄が無い。彼はそう思っていた。

「でも、ゲーム好きだから。楽しいよ。入犂江さんもかなりハイランクで、超えるの大変だった――あ、何頼む?」
「え、ええっと……」
炫が手渡すと、優璃が少し照れた様子でデザートメニューを受け取る。

炫は二人きり、という事を思い出したら気恥ずかしくなってきた。
まるでデートみたいだ、と思いながらカフェメニューをめくる。

優璃が鞄から、小さなチケットを取り出した。
お会計の時に提示して下さい、と書かれたチケットが二枚。
「割引券は二枚あるから、一枚ずつね。お会計は別々で良い?」
「うん。――俺がおごらなくてもいいの?」
「だって、無理に誘ったの、私だから。本当は私が払いたいけど、このチケット、凄くお得すぎて」
割引券にはお好きなコーヒー1杯無料、ケーキ50円引き、と書かれていた。
「うわ。ホントだ」
ケーキ無料ならともかく、コーヒーを無料にしていいのだろうか。
……それだけ味に自信があるのかもしれない。
「利佐子が前に来たときにクジで当てたって言ってたから、ね?」
「うん」
炫は笑って頷いた。
学校では優璃とはあまり二人きりで話せない。二人はやっと友達、という程度の関係だ。

お互いに真剣にメニューを眺め、注文を決めて、ウェイターの少女に伝えた。

「はい、かしこまりました。珈琲とデザートはご一緒でよろしいでしょうか?」
「一緒で!」「あ、はい」
優璃が即決し、炫が同意した。
「ラテアートは、お任せの他に、こちらの見本や、お好きな絵柄にも出来ますが、どうなさいますか?」

『ラテアート見本帳』と可愛らしい文字で書かれたフォトブックを見る。

「じゃあ、私はこのウサギ…、あっ、カラス…、えっと、やっぱりこちらでお願いします。ひか…、飛鳥君は?」
優璃が注文して、炫に尋ねる。
「ええと…じゃあ、これで」
炫は見本の初めのページにあったラテアートを適当に指さした。
「かしこまりました」
ウェイトレスが笑顔で返事をする。

「そうだ。聞こうと思ってたんだけど。飛鳥君はハピホプの、新実装されたウルレアアイテムってどうやって集めてる?課金してる?」
優璃が思い出したように言った。
「ああ。あれなら課金しなくても、ほら、センチュリーの五六一七マップってあるだろ、そこの隠しイベントはクリアした?教会の裏のあの壁があって通れないところ」

「あ、あそこどうやって進むの?色々試したけど。全然。利佐子も真殿君も匙を投げてたしネットにも情報無かったけど……」

「あれは――」
尋ねられた炫は饒舌に語った。
「ええっ、あれだったの!?」
「まだ一部でやっと、入手者が出始めた感じらしいけど、たまたま見て」


「――仲よさそうですね」
その様子を見て、ウェイトレスの少女が微笑む。
「ああ。さすが飛鳥君。もうあの情報を手に入れたか」
「……えっと」
少女は苦笑した。
手元のパンケーキが膨らんできた。
ふわっと、よい香りがただよう。

「あ、いい匂い……」
優璃が呟いた。

「あれ。そういえば。ラテアートって誰がやるんですか?」
炫がアレクサンダーに尋ねた。
お店には、アレクサンダーと、ウェイターの女の子しかいない。

「もちろん俺だ」
カウンターの中でアレクサンダーが言った。
「って?アレクサンダーさん、働き始めたばかりじゃ…?」
「今は店長が不在でな……俺達が留守を預かっているんだ」

「アレクサンダーさんは、ラテアートが凄くお上手なんですよ」
ウェイターの少女が、食器を準備しながら言った。

「元々、コーヒーは好きでね。色々凝っていたんだ。……この店の珈琲は特に美味い」

――と会話する間に、カプチーノが出来上がった。
出来上がった……つまりラテアートも完成したという事。
アレクサンダーの見せた鮮やかな手つきに、炫は目を見張った。

「どうぞ」
アレクサンダーが言って、ウェイターが運ぶ。
炫のテーブルにケーキとカプチーノが置かれた。
「…はい…!すごい」
描かれていたのは、見事な四枚のリーフ。見るからに難しそうだ。

アレクサンダーは、次のカップに取りかかっている。
カップを揺らしながらミルクを注ぎ、爪楊枝のような物で、難の無い様子で何かを描く。
けれど実際すごい技術なんだろう、と炫は思った。
優璃もその動作を感心した様子で見ていた。

丁度、彼女のケーキも出来たらしい。ウェイターさんが運んで来る。
「お待たせいたしました!カプチーノと、ビッグビッグパンケーキカラメルナッツチョコレートスペシャルアイスクリーム乗せです」

「ど、どうも」
……凄いのが来た。
炫は『入犂江さん、それ食べるの?』と一瞬思った。

続いて優璃のカップが置かれる。
「お待たせいたしました。熱いので気を付けて下さいね」

ラテアートは可愛い小鳥――アトリだった。

■ ■ ■

「ごちそう様でした。美味しかったです……。コーヒーってこんなに美味しいんですね」
あっと言う間に食べ終えて、炫はそれだけしか言えなかった。
「ケーキも美味しかったです」
そう続ける。
もっと褒めたいのに、美味しすぎて。

「ええ。本当に美味しかったです…!量が多いかなって思ったけど、あっと言う間に。噂になるだけありますね」
優璃も目を輝かせている。

「良かった!また来て下さいね」
少女に笑顔で言われて――炫はまた来たいと思った。

「はい、そうします」
優璃が言った。
「入犂江さん、また皆も連れてこよう」

「クジを二枚どうぞ」
「あ、これ、利佐子が引いた…」
財布を取り出そうとしていた優璃は、絶妙のタイミングで少女に言われて、戸惑ったようだ。

――お金持ちなのに、きまじめだよな。
微笑ましく思いつつ、炫が財布を取り出す。丁度小銭があった。
「あ、丁度ある。じゃあ安いし、僕が払うよ」
炫は会計を済ませた。二人合わせても、コーヒーが無料なので千円行かなかった。
「えっ、そんな」
「いいよ、大当たりだし」
炫は言った。この券は大当たりらしい。

「一人一枚引けますよ」
「入犂江さん、じゃあ二枚引いて――」
炫が優璃に言いかけた時。

コン!!コツッ!!
と背後で鋭い音がした。窓を叩く音だ。
炫と、アレクサンダーがバッと振り返った。

ガーガー!!とカラスが窓の縁につかまって、コツコツと窓枠を叩いている。

「!アレクサンダーさんっ!」
少女がアレクサンダーを見る。
「ああ」
アレクサンダーが頷いて、すぐに店の外に出た。

「あのカラスは?」
「店長が飼っているんです。お店の看板カラスなんですよ」
少女は炫に微笑んだが、少し心配そうだ。

「どうしたのかしら…?」
優璃が呟いた。

窓の外では、アレクサンダーが……カラスの足に括りつけられていた紙…らしきものを広げている。
「っ!!不味い。――すまない!急に行く事になった。後を頼めるか」
店の扉を半分開けて、アレクサンダーが言った。
「えっ!?は、はい…!」
少女が言った。

「――何、そこの飛鳥君に店を手伝って貰えば良い。飛鳥君、彼女を頼む!」

アレクサンダーは、そんな事を言い残した。

■ ■ ■

「――って、ええっ?アレクサンダーさん!?」
炫が追って店から出たが、アレクサンダーはバイクに乗り「六時までには戻る」と言い残し、カラスの先導で走り去ってしまった。

「えええ?!」
いきなりの事に優璃も驚いている。

「い、いつものことです…」
ぎこちない様子で少女が言った。
時刻は午後四時半すぎ。
学校から歩いて十分ほどと近かったため、まだその程度の時間だ。
六時まで、二時間ほど。

炫と優璃と謎の美少女。

「えっと、一人で大丈夫?……そうでもないね」
炫は言った。
少女はカチコチに固まっている。
「え、ええと、い、いえ。だっ大丈夫です、こっ、コーヒーは煎れられます」
少女が言った。
……暇ならともかく。調理とホールは別で無いとこなせない。

「アレクサンダーさんは何処に行ったんだろう?――まあ、いいか。制服ある?ファミレスでバイトしたことあるから、多分ホールと、食器洗いくらいなら手伝えるけど……お客さん来そう?」
「そろそろ混む時間です……あの、でもやっぱり」
少女が言った。困惑しているようだ。
困ってはいるけど、アレクサンダーはああ言ったけど、アルバイトでない人に頼むのは気が引けるのだろう。

「じゃあ、私も、手伝う」
唐突に優璃が言った。

「え?」
優璃はレジの横の手書きチラシを指さした。
「……、だってほら、ここにアルバイト超超絶急募、面接→即日採用アリって……良かったら、私を雇って貰えないですか…?実は、お店で働いてみたいと思ってたけど、アルバイト初めてで……」

「入犂江さん……?」
炫は意外な事を言い出した優璃に驚いた。
彼女は箱入りのお嬢様で、アルバイトの必要なんて無いはずだ。
「お父さんは?」
炫は言った。
「大丈夫、高校の間だけって言うから、土日だけになっちゃうけど、駄目かな?今日はお試しで……」
すでに決めたらしい。

「は、はい!そういう事なら」
少女が、ぱっと笑顔になった。

■ ■ ■

人数が居るとそれだけで心強い物らしい。
少女はてきぱきと指示を出し始めた。

優璃より先に、炫が一分ほどで着替え終えて、ひとまずホールで注文を取る事になった。
炫はカッターシャツに、黒のスラックス、黒の靴、お店のエプロン。バリスタでは無いウェイターの格好。サイズはピッタリだ。

「喫茶アトリでは、いつどんな従業員が来ても良いように、各サイズ制服の常備しています!」
少女が言った。

「端末はこちらですけど、大丈夫ですか?メモもありますけど」
少女が端末を渡して言った。炫は開いて少しさわる。
「あ、これなら大丈夫。メニューはさっき全部覚えたし。えっとそう言えば、君の名前は…」

カランカラン…。

言っている間にお客が二名来た。
「あ、チーフで良いです。お願いします」「じゃあ、チーフ、よろしくお願いします」

炫はそつなく案内をこなして、注文を取ってきた。
「チーフ、デザインカプチーノ二つ、ラテアートは雪とカラス、ザッハトルテにロールケーキ、雪の方がザッハトルテです。両方ともデザートと一緒にお願いします」
「カプチーノですね。はいっ」
カウンターの中で少女が動き始める。

エスプレッソマシンを使うようだ。
「――」
炫は驚きながらそれを見た。

彼女は小さな、確かバスケットと言ったはず――抽出の為の専用カップにコーヒーの粉を入れて計量し、体重をかけてタンピング、マシンに取り付けて、タイマーで時間を計り、無駄の無い動きで抽出を開始。
ミルクを取り出して、蒸気を使って泡立てる。

「できるんだ」
炫も知識としては知っていたが、出来る自信は無かった。
「ええ、一通りは、……実は今私と、アレクサンダーさんしかいないんです」
「ええっ?それは――お店回すの無理じゃない?」
言いながら、炫はさっき少女がやっていたように盆の上にセッティングする。

「チーフ、間違ってたら直して下さい」
「ええと――!大丈夫です。すごい」
少女が確認して丸くして、炫は笑顔になった。
そこから……さらに驚いたのは、少女が慣れた手つきで、ラテアートを施したことだ。
雪の結晶の模様と、大人気のカラス。

少女は手際よく、デザートを皿に並べる。スイーツもマスターしているようだ。
「ショーケースにあるデザートの並べ方はこのメニュー写真通りです。材料はここに。お願い出来ますか?」「大丈夫」
さりげなく作業台下の定位置にあるメニューを取り出して、炫への説明もこなす。

「飛鳥さん、三番様にお願いします」
「はい!」
炫は三番テーブルに運んだ。珈琲は全く冷めていない。
お客さんもまだ次は来ないし、この分なら大丈夫かもしれない…。

「お待たせいたしました。雪と、カラスです。まだ熱いので気を付けて下さい」
「どうも~」「うわ、カラスだ~!」
「ご注文は以上でよろしかったですか」「はい」「ごゆっくりどうぞ」
ほっとして、伝票を置いて戻る。

炫は思わず立ち止まった。

エンジ色のベスト。リボン。広がったスカート。フリルの付いたエプロン。ローファー。

「あのチーフさん、ちゃんと着られてますか?」
アトリの制服を着た優璃がいた。
「ええと後ろ、見せて下さい」
「はい」
「バッチリです。サイズが……少し小さいかな、胸とか……特注?かな。またご用意します」

――似合う。

炫はそう思った。
まさかこんなに似合うとは。奇跡ってあるんだ……。

「あ、ここか!」「ちょっと」
急に表が騒がしくなった。

「――飛鳥君!抜け駆けは――」
聞き覚えのある声に、炫はぎょっとした。カラン!と扉が開く。
真殿大雅、利佐子、それにクラスメイト達だ。

■ ■ ■

「ありがとうございましたー。ふう…」
炫は溜息を付いた。
あれから急に客足が増えて、ようやくラッシュが一段落して、注文をしまくっていたクラスメイト達も大半が去った。少女はよく乗り切ったと思う。
「……今日は特に凄かったです……」
灰になりかけているようだ。瑠璃は慣れて来た手つきでテーブルを片づけている。
残ったのは利佐子と大雅だけだった。
ちなみにデート?の件は優璃が事情を上手く説明して事なきを得た。

――優璃が『アトリ』でアルバイトするのが不安で、下見に付き合った――。
苦しい気のする言い訳だったが、実際に手伝っているところを見て皆信じたらしい。
これなら、学校で深く追求されずに済みそうだ。

「入犂江さん、何とか乗り切れたね」
炫は言った。
優璃は片付けなどを中心に手伝った。次第に余裕が出来て、てきぱきとこなして、盛りつけも少し教わりながらやっていた。初回としては上々だと思う。
「ううん。チーフ、私…あまり役に立てなくて。ごめんなさい」
「いいえ。すごく助かりました!それで……あの、本当に来て下さいますか?」

この少女の困り顔に言われて、断れる人はそういないと思う。

「もちろん、私で良かったら。ぜひお願いします。けど、父に話してからでも良いですか?」
優璃が言った。
「はい、学業との兼ね合いもありますし、急ぎませんから……、いえ、来て頂けると助かりますが……」
余程困っているのだろう。
それもそのはず。炫が途中聞いた所、二人いたアルバイトは進学、親の転勤で、元店長は、いきなり渡米。
そしてそれから急ぎ再求人をかけても電話無し。人無し。
アレクサンダーが来るまで、店員はこの若い女の子が一人。

……別店舗からの応援はあったらしいけど、あり得ない。

「もし入犂江さんが駄目だったら、僕が代わりにここでバイトするから、安心して」
炫は言った。
優璃は嘘をついたりしないけれど、お嬢様だから、父親が反対するかもしれない。そうなったら気まずいだろう。
「お嬢様、私は応援します!」
利佐子が言った。

「うん。話してみる。私達、成績は悪く無いし。――ねえ飛鳥君、どうしてかな…。私、前は運動とか苦手だったけど……、あの事件があってから、無性に、体を動かしたいって気分になるの。不思議よね」
「へ、へぇ……」
炫は少し顔を引きつらせた。クラスメイトはあの事件を覚えていないし、優璃もそのようだが……やはり何らかの変化があるのだろう。

「それで、もしよ、よければ、飛鳥君も……」
優璃が頰を染めて何かを言いかけた時、利佐子がパン、と手を打った。
「そうです!いっそのこと、飛鳥さんも一緒にここで働いたらどうでしょう?」
「えっ?」
炫があっけにとられる。
「ちょっと待て、飛鳥炫、それは――」
クラスメイトの真殿大雅が異議を申し立てようとしたときに。

「――申し訳無い、チーフ。遅くなった……。全く、オーナーもあんな物と闘うのは大変だな……」
等と言いつつ。
優璃にすれば助け船、アレクサンダーが帰ってきた。

――その後、お店はさらに大繁盛になったとか。

〈おわり〉

■ ■ ■ ■ ■



【おまけ カラスとイチャイチャ】

「今日は本当にありがとうございました」
少女が言った。

「また聞いてみて、電話します」「はい!」
優璃が笑って言った。真殿大雅は利佐子の先導で先に帰っていた。

がー、と鳴き声がして、優璃が見ると、ウッドデッキの欄干にカラスがとまっていた。
アレクサンダーを先導していたカラスだ。
「あ、良かったら、その子と遊んで行って下さいね」
少女が言って、カラン、と扉がそっと閉まる。ベルの音は耳に心地良い。

「ここでバイト出来たら良いなぁ。学校からも近いし」
優璃が呟いた。

炫と優璃は夕暮れに染まる、アトリの外観を見た。

「どうだろう。入犂江さんの家って厳しいの?……アレクサンダーさんは、この店はボディーガードには寛容だとか言ってたけど」
炫が『入犂江さんは、入犂江グループの社長令嬢なんですけど……』と控えめに言うと、アレクサンダーは『ああ、なるほど。大丈夫だ、とにかく今は人手不足なんだ、飛鳥君もどうかな?』と言った。

「アトリグループのオーナーってやり手だって聞くから、もしかしたら大丈夫かも。実は……私も一度会った事あるし、お父さんとも知り合いみたいだったから。ふふ」
優璃は少し俯いて微笑した。
たまに見せる、何かこっそり企んでいる顔だ。
「そっか、入犂江さんがそう言うなら大丈夫かもね」
炫は言った。
おそらく、アトリのオーナーに対する優璃の心象は悪くないのだろう。

彼女は意外に好き嫌いがハッキリしていて、容姿にや財産に惹かれて言い寄って来る金持ち御曹司達はことごとく振られている。
そうで無い人には――利佐子曰く、ものすごく少ないらしいが、きちんと接する。
……それが彼女の男性、女性人気に拍車を掛けている気もするけど。
炫も彼女の親しみ易さは嫌いでは無い。彼女は炫が驚くくらいに、威張ったところが無い。

逆にそこが危なっかしい気もして、ちょっと放っておけない気がする――のは内緒だ。
自分はオタクだから、彼女の友達であれば良い。
……もっと仲良くなれたらいいけど……。

優璃が炫を見て笑った。
「あのね、飛鳥君、今日はありがとう。飛鳥君のおかげで、何とかなったし、私も一歩踏み出せそう。もし駄目でも、ううん、頑張りたいの――、だからっ、飛鳥君、わたしと……」

ガー!!
といきなりカラスが優璃を見て、欄干の上で鳴いた。
このカラス……、少し胸を張った?炫は気のせいかなと思った。

「あ…かわいい」
カラスの突然の猛アピールに、優璃が注意を向ける。彼女が言いかけた言葉は聞けなかった。
「――黒い、かわいい」
炫がそう言ったので、優璃が少し首を傾げた。

「飛鳥君って、動物も好き?」
「うん。あ」

炫は、欄干にぶら下げられた注意書きを読んだ。
「さわって良いらしいよ」
そう言って撫でる。

炫はあっと言う間に慣れて、カラスはご機嫌な様子で、目を細め小首を傾げている。
カラスはひょいと炫の手の甲に乗った。

〈おわり〉
【おまけ】
謎の少女……誰かにそっくり。実は闘うウェイトレス。スカートの下には拳銃を隠し持ってバリバリ。英語もペラペラ。とかどうでしょう?
彼女が誰なのかは私にも分かりません。
小雪ちゃんの娘かもしれないし、隼人さんの親戚かもしれないし。
他人のそら似であまりに似てるのでオーナーにスカウトされた娘かもしれない(苦笑)
ん?これも良いですね。

例の事件とは?飛鳥炫とアレクサンダーは何者?
気になった方は『Darkness spirits Online』をどうぞ☆結構コラボってます。
+注意+
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