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秘密会議
 会議室に残った5人は、ルイズが使用人に命じて持ってこさせたお茶を飲みながら、秘密の会議をスタートさせた。

「それじゃあ才人、あんたの意見を聞きたいんだけど。」

 先ほどまでの言葉遣いはどこへやら、以前のような口調で才人に尋ねるルイズ。

「いきなり俺にふるのかよ?」

 尋ねられた才人も、ルイズのことを代王としてではなく、以前の使い魔と主人の時のような口調で言い返した。顔見知りばかりの前だから良いが、他の大臣たちが見ていたら目をひん剥く光景だろう。

 しかしマザリーニが傍にいるのであるが、まったく気にしていない。だいたいマザリーニ自身がもうあきらめたような表情をしていた。

「だってあんた、会議中に声を上げたじゃない。何か言いたいことがあったんでしょ。表情だってずっと考え込むような感じだったじゃない。・・・それに自分の旦那のことなんだから気になるし。」

 彼女の指には、現在3つの指輪が嵌められている。『虚無』の担い手ということでアンリエッタとウェールズからもらった『風のルビー』と『水のルビー』。そしてもう一つはシンプルなデザインの銀の指輪だった。その指輪と同じような銀の指輪が才人の手にも嵌められていた。

「はいはい、わかったよ。ただ俺が感じたことは、亀山さんも感じてると思うよ。」

 そう言うと、彼は一瞬亀山のほうへ視線を向けた。だがすぐにルイズの方へ向き直ると、自分の感じていたことを話し始めた。ついでに、用意してきた地球の世界地図も机の上に広げた。

「まずこれが俺たちのいた世界の地図。ルイズには前にも話したことがあるんだけど、このハルケギニアは地形的にヨーロッパに似ている。で、そのヨーロッパの東にはロシアって言うバカデカイ国があるんだけど、それが今回見つかったロマノフ公国に似ているんだ。」

 そこで一端話を区切る。その間に他のメンバーが地図を覗き込んだ。ルイズもマザリーニも地球の言葉はほとんど読めないが、亀山とコルベールから説明を受けて納得した様子だった。

「話を続けるよ。それとまだまだ似ている点は多いんだ。まずこのロシアって国は俺たちの世界だと90年くらい前に、王制が倒されたんだ。その王朝の名前はロマノフ王朝だ。それに王朝が倒された時に起きたのが社会主義革命だったし、その時殺された王族の中にアナスタシアという王女もいた。ここまで来ると、話が上手すぎる。」

 そこまで才人が説明したところで、マザリーニが手を上げた。

「才人殿。その社会主義革命とはどのようなものですか?アルビオンで起きた革命とはまた違うものなのですか?」

 現在ハルケギニアでは、大分資本主義が発達しつつある。しかし、発達しつつあるものの後の世で言うようなそれによる格差などはまだ表立って発生するほどではない。加えてまだまだ身分格差のほうが大きい。だから、本来資本主義が発達した上で表れる社会主義という考えも、当然生まれてはいない。

「うーん・・・俺はそんな専門家じゃないからそこまで詳しくはわかりませんけど。まあ簡単に言っちゃえば、貴族や王を排除して、労働者と市民による政府を作るっていう考えです。」

 さすがにそれを聞いて、ルイズもマザリーニも眉を潜めた。ただでさえ王権の否定は、ハルケギニアにおいては始祖に対する反逆となるからだ。それに加えて貴族制度の否定などレコン・キスタ以上に過激と言える。

 ちなみに、よく冷戦中の社会主義をソ連型社会主義と呼ばれることがあるが、これはレーニンが提唱した強い中央政府指導型の政府体制のことを指す。この形態だと、中央で決めたことを末端にまで徹底させられるというメリットがある反面、政府自体が独裁型になる危険性もあった。そして事実スターリンのようなことが起きた。また政府が硬直した思考しか出来ないものとなると、社会的、文化的な発展も阻害される。

 そしてその結果ソ連は崩壊し、この形態の限界が露呈された。そのため、中国やベトナムなどの後発の社会主義国家は経済面で大々的に資本主義を導入し、政府による統制を緩和するなど、大幅な路線転換を余儀なくされた。

 ともかく、その社会主義革命が失敗したとはいえこの世界でも起きているのだから、才人や亀山の驚きは当然大きい。

「実は私にも才人君同様大いに気になる点があるんです。」

 亀山が手を上げた。

「気になる点とは何ですか?」

 ルイズが尋ねる。

「はい代王殿下。実はこれは既にコルベール所長に言ったことなのですが、現地の人に簡単な国の歴史を聞いてきたんですが、どうもその社会主義革命は、自発的に起きたものではないようなのです。」

「それは一体どういう意味ですか?」

 マザリーニが首を傾げる。

「まだ詳しく調べておりませんので何とも言えませんが、その革命はどうやら外部からなんらかの干渉を受けて起きたようです。・・・私としてはその点も是非調べたいところです。」

 亀山は物理学者であるが、こちらの世界に来てからは地球との類似性や魔法についての研究を進めるなど、かなり研究対象を広げている。その対象がこれでもう一つ増えたようだ。

「それと俺から、もう一つ言いたいことがある。」

「何よ?」

 才人の言葉にルイズが反応した。

「実はさ、スライドの中で軍港に停泊している軍艦を写している写真があったじゃん。その中に、地球の軍艦がいた。」

 その言葉に、その場にいた全員が彼の方へ顔を向けた。

「それ本当?」

「ああ。間違いなくあれは地球の軍艦だった。写真で見たことあったから。俺が思うに、亀山先生の言う外部の干渉はもしかしたら・・・地球からやってきた人間によるものかもしれない。」

 その場を一瞬沈黙が支配した。

「・・・それで、あんたはどうしたいわけ?」

「そんなこと、言わなくてもわかるだろ?調べたいに決まっているじゃないか。」

 才人が笑いながら言うと、ルイズも表情を崩した。

「そう言うと思ったわ。コルベール先生。」

 それまでずっと話を聞く側に回っていたコルベールを、ルイズが呼んだ。

「はい。」

「恐らく明日の御前会議で決定することになるでしょうが、使節団派遣の際の全権大使として先生を任命することになると思いますので、よろしくお願いします。」

「は、全身全霊を尽くしてやらせていただきます。」

 コルベールがルイズに頭を下げた所で、マザリーニが横から口を挟む。

「それと、コルベール殿は爵位の授与をずっと固辞なされてきましたが、外交をする上で爵位なしは問題があると思いますので。是非とも今回爵位を受け取って頂きたい。」

「は?いえ、しかし。」

 コルベールが俯いた。彼は科学技術研究所の所長に就任して以降の功績を認められ、伯爵に任命されることになったのであるが、ずっと固辞していた。やはり過去に犯した過ちを気にしているようだ。

「コルベール先生。あの事件は当時王宮で権威を振るっていたリッシュモン氏の行った陰謀でした。彼はすでに逆賊として裁かれています。あなたに罪はありません。」

 ルイズが言う。

「ですが、私が、多くの罪のない人間を焼き殺した事実は消えますまい。」

 コルベールは頑なだったが、マザリーニも食い下がった。

「コルベール殿!!これは国の未来を左右するかもしれないことなのです。それに爵位なしでは、あなたを使節団の団長として推薦できない可能性があります。私や代王殿下としては、是非ともあなたにこの任に就いていただきたい。」

 そこで才人も彼の意見を援護した。

「そうですよ先生。先生は見識も広いし、他の貴族にはない公平に物を見る目があります。先生こそ適任ですよ。それに人のためにたくさんのことをしてきたじゃないですか。だから俺も先生が爵位を貰うのは賛成だし、当然だと思います。」

 それからしばらくコルベールは考え込んでいたが。

「わかりました。爵位を謹んで頂戴いたします。ただし、それによる貴族年金や褒章は固辞させて頂きます。」

 彼は強い口調でそう言い切った。それが彼の意志であったのだ。

 その後、2,3の打ち合わせをし後、秘密の会議も解散となった。
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