驚愕の御前会議
ハシラ島を出発した「オストラント」号は、予定通り1ヶ月後に調査航海を終えてトリステインに帰ってきた。そして同船の持ち帰った情報は、トリステイン政府を驚愕させるに充分なものだった。
これまで未開の土地とされていた東の地における大国の発見というニュースに、多くの人間は最初半信半疑であった。そこでただちに調査団長のコルベール、さらに状況の一部を映像に納めていた亀山教授が、トリスタニアの王宮に召喚された。そして彼らが見せた映像や写真によってそれが事実であると確認された。
ただちに緊急の会議が開かれ、代王であるルイズや枢機卿のマザリー二をはじめとするトリステイン政府の重臣たちが参加した。また、先月から王室つき連絡士官に任命された平賀才人義勇軍中佐も、末席にではあるが参加していた。
ちなみに、最近になって各国との外交を専門にする外務省が立ち上げられ、そのトップである外務大臣はマザリーニが兼務することとなった。
会議はまず、今回コルベールたちが出会ったロマノフ公国がいかなる国であるか、彼らからの報告が行われた。なお、ロマノフ公国女王より親書が渡されていたが、それは事前にルイズの手元に渡っていた。
「我々が今回訪れたロマノフ公国は、人口約2億を誇り、面積もハルケギニア全てを併せても及ばないほどの巨大な国です。」
その一言で、会場内にいた人間は一斉にどよめいた。ハルケギニアの人口は各国併せても6000万人程度だ。その3倍もの人間を擁する国があるというのだから、驚いて当然だった。
さらに、彼が持ち帰った地図のコピー(もちろんこれは才吉らが持ち込んだ地球製のカラーコピー機でコピーした)が配られると、その驚きも2倍となった。みたこともない海や大陸が描きこまれており、さらにそのロマノフ公国の大きさも、縮尺がないから詳しくはわからないが、ハルケギニアの何倍もありそうなことはわかった。
「それで、コルベール先生・・・失礼。コルベール所長、そのロマノフ公国についてはどれほどのことがわかりましたか?」
「は、代王殿下。お手元の資料を御覧下さい。」
会議参加者には、先ほどの地図同様、数枚ほどにまとめられた報告集が配られていた。ルイズたちはそれを手元に持ち上げて見始めた。
「ロマノフ公国はなんでも、立憲君主制制度を採っているそうで、一応現在女王陛下がいらっしゃるそうですが、政治は主に内閣がとり行っているそうです。」
「立憲君主制?それは確か今アルビオンで試験的に取り入れらているあの制度かね?」
新任の法務大臣であるウェルキンス伯爵がコルベールに尋ねた。
「はい。その制度をロマノフ公国では40年前から採用しているそうです。ただ聞いた限りでは、アルビオン王国で採っている制度よりも、だいぶ王にたいする権利に制限を加えているそうです。」
その言葉に、再び場はどよめいた。
「なんと!」
「自分の国の王に足かせをするなんて!現在アルビオンで行われている物でさえ、始祖が与えられた王権に対する侮辱と非難されることがあるのに。」
アルビオンで行われている限定的な立憲君主制度の取り入れは、表向き順調であった。特に平民を含む全国民に対して選挙権を付与したことから、平民層からの受けは良かった。ロマリアからも特に抗議らしい抗議もされていない。
しかしながら、やはり外国とはいえ守旧派の貴族層は王権への制限に内心拒否感を持っているようだ。
「なんでもロマノフ公国では、40年前に王制を転覆させようとした・・・なんでも社会主義革命とかいうものが起きたらしくて。幸い革命は封じ込められたらしいのですが、それ以後国民の意思を反映させた政治を行うために現体制に移行したそうです。」
その言葉を聞いて、才人は内心すごく驚いていた。
(おいおい。ロマノフ公国って名前だけでもロシア帝国そのままなのに、さらに社会主義革命だって!?話が上手すぎだろ!!けど、なんで社会主義革命なんか起きるんだ?そのロマノフ公国ではマルクス主義が誕生しているってことか!?)
才人の疑問は大きくなる一方だった。
「それからもう一つ。ロマノフ公国の女王陛下であるアナスタシア様は、メイジではないそうです。」
その衝撃発言に、会議室内は凍りついた。
ハルケギニアでは、王族イコールメイジの方程式は不動のものである。そして人々が持つ王室に対するイメージも同じであった。それを根本から覆したのだから、驚きは先ほどの比ではない。
「メイジではないとは、一体どういうことでしょうか?」
ルイズ自身がコルベールに尋ねた。
「それがロマノフ公国には、メイジがほとんどいないそうです。国民の1パーセントにも満たないそうでして。それに呼び方もメイジではなく、魔導師と呼ぶそうです。」
つまりは、魔法使いが階層を構成するだけの数にもいかないということだ。前提条件がハルケギニアとは違いすぎている。
室内の驚きを他所に、コルベールの説明は続く。
「なお、科学技術についてはハルケギニアより進んでいます。蒸気機関は30年以上前に実用化されているそうですし、鉄道も既に総延長は2000kmを越えているそうです。さらに我々が試作中の各種電気を用いた物品も既に多くが実用化されています。亀山教授、写真をお願いします。」
「はい。スライドを用いて説明いたします。」
それから部屋が暗くされ、亀山教授がデジタルカメラで撮ってきた写真が投影された。
その映像を、全員が食い入るように見つめた。主に写されているのは、「オストラント」号が寄港したリバウという軍港の街の様子であった。建物は地球で言うところのロシア風の建物が立ち並び、服装もロシアの衣装に近いように才人には感じられた。
街の中心部の建物の多くは4,5階建てで、さらに通りには路面電車も走っているのが見えた。街灯も整備されているようで、コルベールの言ったとおり、科学技術はハルケギニアより進んでいるようだ。
また、軍港を写した写真も何枚かあったが、そこに写された軍艦も全て鉄製の蒸気軍艦だった。形からして日露戦争から第一次世界大戦時のものに近い。
その内の一枚の写真が映された時、才人は目を疑った。
「あれは!?」
彼がいきなり叫んだため、会議の参加者が一斉に彼の方に振り向いた。
「あ、すいません。何でもありません。」
全員怪訝な表情になったものの、会議はそのまま続行された。そしてスライドは間もなく終わった。
「以上で終わりです。」
スライドが終わってから数分の間、大臣たちはそれぞれ隣の人間と意見を交わしていた。それを5分ほどしてルイズは鎮めると、コルベールに問いかけた。
「コルベール所長。そのロマノフ公国からの親書も読みましたが、かの国はわが国と是非とも友好的な関係を持ちたいと言ってきております。それについてはどう思いますか?」
コルベールは強い口調で言い切った。
「友好条約を結ぶことに別段問題はないと私は判断します。かの国の人は非常に親切でしたし、何よりこれだけの大国を友人として損することはないでしょう。」
すると、大臣の中から反対意見が出された。
「しかし、魔法も使えない平民が王の国と関係を結んでも良いものか?それにハルケギニアへの野心をその国が抱いていないと言えるのかね?」
その意見に同調するように、数人が頷いた。やはり王宮内で守旧派と呼ばれている比較的老齢の大臣たちだった。最近改革が進んでいるとはいえ、こういう人間もまだ結構トリステインにはいる。
そんな彼らにコルベールが言う。
「少なくとも野心はないと思います。彼らは西の地を未開の地として恐れ、長く近づかなかったそうですから。もし侵略する意図があるならとっくの昔にハルケギニアは侵略されています。」
だが反対派の大臣たちはあきらめきれないらしい。
「しかし、魔法が使えない王が納めている国と関係をもつなど・・・」
だが結局その意見も、マザリーニ枢機卿の意見によって打ち砕かれた。
「皆さん、現実というものを見てみなさい。先ほどの写真でも見たとおり、ロマノフ公国は我々よりも進んだ技術を持っているようです。確かに魔法は始祖より賜った栄誉ある力です。しかしながら魔法ばかりに頼ってはいられないことは昨今の情勢からもお分かりでしょう?我々は先祖代々受け継いだこのトリステイン王国を、ひいてはハルケギニアを守る義務があります。そのためにも、新たな関係を作っていくことも重要ではありませんか?」
結局これが決め手となって、とりあえずロマノフ公国との友好条約締結が方針として決まった。
会議は一端そこで終わりとなったが、ルイズ、マザリーニ、コルベール、そして才人と亀山の5人はそのまま会議室に残った。
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