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未知との遭遇 下
「クロンシュタット」と名乗った巡洋艦からやってきたボートは、「オストラント」号のタラップの下に着いた。そしてすぐに乗っていた人間が何人かタラップを駆け上がってきた。

 タラップを上がってきた人間は併せて4人。その内先頭を切ってやって来た50代と思しい男は、服装からして高級士官であるようにコルベールには見えた。また付き従う3人も、少なくとも士官であるようだった。

 彼らが全員甲板へ上がったところで、まずコルベールが前に出た。

「ようこそ、トリステイン王国所属、探検船「オストラント」号へ。私は当船の最高責任者であり、調査団団長を勤めているジャン・コルベールです。」

 コルベールの挨拶に答える形で、最先任と思われる男が敬礼して言った。

「ロマノフ公国海軍北洋艦隊巡洋艦「クロンシュタット」艦長のイワノフ大佐です。」

 この光景を地球出身者が見ていたら、大きな違和感を持つことだろう。何せ数百キロも離れた国の人間が同じ言語で喋っているのだから。

 だがコルベールにとってはそんなことは頭になく、彼らの正体をしっかりと把握することだけを考えていた。

「それでは早速会談を行いたいのですが、艦内の会議室へと入ってもらって宜しいでしょうか?」

 するとイワノフは隣にいた士官と、コルベールたちにはわからないように小声で話し合って相談した。

「良いでしょう。ただし我々に対して武器の携帯を許可していただきたい。」

 彼は腰に提げた拳銃用のホルスターを叩きながら言った。もっとも、相手が全く正体のわからない人間たちであるなら、警戒して当然である。コルベールもかつては軍人であったので、彼らの心境はよくわかる。

「わかりました、許可しましょう。さあ、こちらへどうぞ。」

 コルベールはイワノフらを船内へと案内した。

「オストラント」号は、現在トリステイン海軍に所属している「ビフレスト」級巡洋艦と同型艦である。しかしながら、探検船であるため武装は半減されており、その分乗り組む乗員の数もカットされている。代わりに調査団の人間や、観測用機材を搭載できるスペースが確保されている。

 今コルベールがイワノフたちを案内した会議室も、本来は調査時に収集した物を保管、または研究するためのスペースを兼ねているため、「ビフレスト」級より広めにとられていた。逆に軍艦ではないので、装飾などは一切施されておらず、会談に使うには殺風景とも言えたが。

 とにかくその会議室の長机を挟む形で両者は座った。トリステイン側にはコルベールと船長、そして今回調査団アドバイザー役として義勇軍から同行していた亀山教授が参加した。

 亀山教授は才人の祖父である才蔵の友人である物理学者だ。現在は大学教授を辞して、このハルケギニアで主に次元に関する研究を行っている。

 さて、その彼らと向かい合う形で座ったイワノフが、まず口火を切った。

「それでは、まず聞かせていただくが、あなた方が先ほど信号で伝えてきたトリステイン王国とはいかなる国かな?私はそのような名の国、見たことも聞いたこともないのだが。」

 これはコルベールも予想していた質問であっただけに、すぐに返答することが出来た。

「それについては、後で地図を使うなどして説明させて頂く。こちらからも質問させて頂きたいのだが、ロマノフ公国という国を我々は全く知りません。つきましては、是非ともそちらの国について教えていただきたいのですが。」

 すると、イワノフたちは顔を見合わせた。

「我が国のことを知らない?もしやあなた方は西の地よりやってきたのですかな?だが、西の地に蒸気機関を開発できるほどの文明国があったとは・・・まあ、詳しいことは後ほど聞きましょうか。我が国のことを知らないなら地図をお見せしましょう。おい。」

 彼は部下の一人に命じて地図を出させた。

 広げられたその地図を、コルベールも船長も亀山も覗き込んだ。

「こ、これは!!」

 コルベールはそれを見るなり絶句した。船長も驚きに目が点になっていた。またハルケギニア人ではない亀山も驚きを隠せなかった。

「ハルケギニアの地図には絶対に描かれていないゲルマニアの東側が描きこまれている。その代わりそれより西、さらに南の部分が欠けている。」

 亀山も、この世界が地球にかなり似通っている世界であることは承知していた。そうなると、地球で言うところのアフリカ、アメリカの両大陸や、ハルケギニアから地続きの形で中東、アジアに類する土地があるはずだ。

 しかし見せられた地図に描かれているのは、地球で言うところのロシアに関する部分のみだ。その周りにあるはずの中近東や東アジアに関しては何も記されていない。

「このような地図は初めて見ました。」

 コルベールが唸りながら答えた。一方亀山は質問をした。

「この地図の東側、ならびに南側についてはどうなっているのかわかりますか?」

「一応私の知っている範囲ですと、東の地には秋津州と名乗る島国と、中華帝国という大帝国が存在することは聞いたことがあります。またこの地図からみて南西の地には、我々とは根本から違う異民族の国があります。それらの国々は我が国と交易が始まったばかりや、国交がないので、地図には載っておりません。」

 彼らにもそれ以上のことはわからないようだ。

「良かったら、そちらの地図も見せて欲しいのですが?」

 イワノフの求めに応じて、すぐにコルベールがハルケギニアの地図を用意させた。

 先ほどのコルベールたちと同じように、今度はイワノフらがハルケギニアの地図を食い入る様に覗き込んだ。

「これは・・・」

「西の地はこのようになっていたのか!?」

 やはり驚嘆の声が聞かれる。

「いやはや、西の地に国があることは噂に聞いていましたが、まさか本当にこれだけの国があり、あまつさえ蒸気機関を実用化できるだけの科学力があるとは。」

 その言葉にコルベールは困った顔をした。確かにハルケギニア自身でも科学力向上に努めてきたが、実際のところかなりが地球から移入した技術である。つまりは模倣に近い。だから素直にハルケギニアに科学力があるとは言い難かった。

 しかし、そのことは胸の奥にしまい込んで、コルベールは逆に質問をした。

「ところで、そちらの国にも蒸気機関があおりのようですが、なぜ西への進出を行わなかったのですか?」

 するとイワノフが答えた。

「我が国の海は、冬になると半年ほど結氷して船は身動き出来なくなります。そのため砕氷能力のある船が出来るまで、長きに渡って遠洋航海を行うことが出来ませんでした。それに、西は未開の地であったために、よっぽどの物好きでない限り誰も行こうとは考えませんでした。政府が海軍力を整備したのも、ここ最近のことですし、目的も本来は東や南側の国々に対抗するためです。本艦は一応西側国境の警備任務に就きましたが、これだって極最近始まったばかりのことです。」

 地球とは違う環境が、ここでも地域間の交流を大きく阻んでいるようだ。しかしながら、言語や文字が皆一緒というのは地球では考えられないことだった。

「とにかく、我々があなた方と出会えたのも何かの縁でしょう。是非とも国の上部の方に我々のことを教えていただきたいのですが?」

「そうですか、ちょっとお待ちください。」

 コルベールの提案に、イワノフは部下たちとしばらくの間議論していた。そして。

「わかりました。とりあえずこの船を、最寄の港まで誘導します。我が国における安全については私が保証しますので、とりあえずご安心下さい。ただし、一応そちらの船は武装しているようなので、こちらとしては警戒を解くわけにもいかないことを御了承いただきたい。」

「わかりました。誘導よろしくおねがいします。」

 こうして、「オストラント」号は、巡洋艦「クロンシュタット」に誘導されて、一路一番最寄の港であったリバウに向かって航行を再開した。
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