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思えば、物語は一人の少年が、周囲の人間達に気づいたことから始まった…。
42 「Tip Tips Tip」
………………

「今日から、おまえは、ゼファーナ春日を名乗れ…。私の兄、夏海エヌアルに代わって、シュガーレスを着用してもらう…。嫌だとは言わせない…。死にたいんだろ?どうせ死ぬなら、水の中より、陽の下で死んだらどうだ…」

 金髪の髪の毛の女性と言うよりは、三つ、四つぐらい年上の少女の夏海アルゼから、少年は真っ黒なボディスーツと仮面を渡された。
 その時に、少年の運命は定まった。
 少年は包帯が巻かれた左手で、真っ黒で無機質な仮面に触れた。当然、仮面は冷たかった。無機質で、血が通ってない。
 だけど、仮面を受け取った際に触れた夏海アルゼの手は暖かかった。

「しゅが…、れす…?変な…、名前…」

 どもりながも、少年は口を上下に動かした。
 アルゼは少年の声に、軽く微笑んだ。

「私の兄さんのネーミングセンスを悪く言うな…」


…………………

「はぁ!はぁ!」

 ゼファーナ春日は、夜が明ける前の街を、シュガーレスを纏って駆け抜ける。そして、建物の屋根から屋根を飛び移りながら、周囲を見渡す。

「居ない!居ない!どこ行った、あのワガママ女!!」

 浴室で眠っていると、物音がしたので起きてみると、部屋のベッドには、あの女の姿はなく、テーブルの上にチラシ一枚が置かれていただけだった。『さよなら』の一言だけが、チラシの裏に書かれていた。
 それだけを残して、コルテはゼファーナ春日の前から去った。
 迷惑を掛けられた女が、いきなり居なくなった。気が楽になったはずなのに、ゼファーナの胸に何かが突き刺さる。
 だから、すぐに、シュガーレスに着替えて彼女を探しに出た。

「ふざけるな!まだ、飯代払ってもらってないぞ!ガス代や電気代も!あの女が来てから、支払いが倍になったんだぞ!!間違って、入浴中の姿を見てしまったとき、しこたま、僕のことをぶん殴ったぞ!!」

 そう叫びながら、ゼファーナは屋根から屋根を駆け抜け、彼女を探す。

「頼んでも無いのに、勝手に部屋を掃除するし、勝手に飯作るし…、勝手に部屋に住み着いて…!!なんなんだよ!!」

 何故か、シュガーレスの仮面の奥の瞳からは涙が溢れた。本人にも、わけが解らない涙だった。
 居なくなって、清々したはずなのに、ゼファーナの胸には、なにか変な気持ち込み上がる。
 あの女は、桜花のように恋心の対象にもならなかったし、アルゼのように苦手な異性みたいな感じにもならなかった。本当に、ただ部屋に居るだけの女でしかなかった。
 なのに、すごく寂しく、すごく切ない気持ちに襲われた。
 あの女が作った料理の味を思い出したりすると、涙が更に溢れた。

「人のエロ本、勝手に捨てやがって…、あんた…、なんなんだよ!!」

 そう叫ぶと、ゼファーナの足が止まり、その場に膝を崩して泣いた。
 両親に捨てられ、施設で育てられたが、いつも一人だった。他人に触れることなく、17年間を生きてきたはずだったのに、何故か、たった一人の他人が目の前から消えただけのことが、こんなにも辛かった…。
 ゼファーナは彼女のことが嫌いだった。嫌いになる理由がいっぱいから、嫌いだった。
 だけど、好きだった。
 初めての家族だったから。



「おぅ…、弁当買うのに…、何時間かかってんだ、てめぇ…」
「悪い悪い…、蛇に絡まれて…」
「はぁ?」

 同じ頃、カタナと隼は、公園の前で鉢合わせした。
 カタナは着物がボロボロだったし、ヘルメットを外した隼の目は赤かったが、互いに気にしないことにして会話をする。

「今、何時?」
「午前の4時44分…。ていうか、てめぇ、携帯電話買え」

 隼が携帯電話に表示される時刻を読み上げると、カタナはニカッ…と笑い、彼の肩を掴む。

「あと、数分後に朝食セットの時間だから、牛丼屋行こうぜ」
「てめぇ、頼んでた弁当はどうした?あと、ビール…」
「よし、朝食セット食うぞ!」
「待て、こら!猿!!」

 カタナが逃げるように走り出すと、隼はヘルメットを被って、停車してあった愛車の方へと駆けて行った。



 夏海アルゼは、明ける方に急に目を覚ました。せっかく、ぐっすりと眠っていたのに。
 何故か、ゼファーナ春日と名を預けた少年と、初めて出会った日の夢を見ていた。夢は、彼が初めて笑った場面で終わり、目が覚めた。
 彼が笑ったのは、確か、初めてシュガーレスを渡した時だった。

「なんで、こんな夢を見たんだ…」

 彼女は低血圧で、外は冷え込んでいるはずなのに、何故か、身体がポカポカしていた。
 仕方なく、ベッドから起き上がり、髪の毛を梳かしながら窓を開けると、外では太陽が昇っている。淡いオレンジの光が、冷え込んだ空気に溶け込んでいた。

「綺麗…」

 思わず、アルゼは言った。



 バタン!

 ゼファーナは諦めて、自宅のアパートに帰ってきた。シュガーレスの仮面を外すと、目が赤く腫れぼったくなっていた。
 テーブルの上に置いたメガネをかけ直すと、ゼファーナは、なにかを思い出して冷蔵庫の前に向かう。冷蔵庫には、あの女が好きなアイスクリームがあった。
 ゼファーナは、そのアイスクリームを手に取り、台所にあったスプーンで突いて口に含んだ。

「全然、甘くない…」

 何故か、しょっぱかった。
今回を持って『漆黒のシュガーレス』を終了となります。未熟な文面と物語展開ではありましたが、ご愛読、誠にありがとうございました。 物語そのものは、まだまだ続きます。次回からは、新規で『シュガーレス・ゼファーナ』との新タイトルでの再スタートとなります。今後も、この作品をよろしくお願い致します。
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