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吹雪の子

作者: 牧田紗矢乃

架空の地名やゲームの名前が登場します。これは、かつて書いていたファンタジー小説とリンクするためです。

この童話単体でも理解することができるようになっていますので、安心してお楽しみください。

 昔々のことです。

 クトゥルの村の外れに、ルチカという若い娘が住んでいました。ルチカの家の周りには、他の家は一軒もありません。小さく開けた森の中に、たった一人で暮らしていたのです。

 鮮やかに色づいていた木の葉もいつしか散り、冬の足音が聞こえはじめました。そこで、ルチカは冬ごもりの支度のために町へ出ました。


 町ではどの店も、冬支度の品を買ってもらおうときらびやかな宣伝をしています。キラキラした景色に見とれているうちに、辺りがすっかり暗くなってしまいました。

 暖かな服や、日持ちのする干し肉や、雪にも負けない丈夫な革でできたブーツなど、色んなものを買いました。なので、大きな荷物を抱えて家までの道を急ぎます。


 家までの距離の、半分ほどまで来た頃でしょうか。雪がはらはらと舞い落ち、指先が凍えだしました。

 雪が降り出したのに合わせて、風も強く吹きました。頬を切り裂く風と、花びらのように大きな雪が景色を白く塗りつぶします。


「急がなければ、帰る道を見失ってしまうわ」


 吐き出す息も凍り付いてしまいそうな寒さの中、新しいブーツをはいたルチカはさっきよりも早く歩きはじめました。

 遠くにぼんやりと森の影が見えるばかりで、辺りは闇に包まれていました。

 たまに雲の切れ間から顔を出す月が、雪を白く輝かせます。その日は満月だったので、雲がかかっていても、少しだけ月の光が届くのでした。

 森のすぐ近くに家があるので、ルチカは森の影を頼りに歩き続けました。


 そうして、雪原の真ん中に立ち尽くす二人の幼い子供がいるのを見つけたのです。

 大人でも、こんな時間に森の近くまで来ることはありません。なので、ルチカはたいそう驚いて子供たちの所へ向かいました。

 ルチカは、とても優しい女だったのです。

 子供たちは互いに身を寄せ合い、声を掛け合いながら何とか吹雪をやり過ごそうとしていました。ですが、頭にも肩にもたくさんの雪が積もり、足も吹き付ける雪の中に沈み込んでしまっています。


「このままでは、吹雪で凍えて死んでしまうわ!」


 凍える子供たちを可哀想に思ったルチカは、二人を家に迎え入れてやることにしました。


「二人共、私のおうちへいらっしゃい。温かい暖炉とシチューがあなたたちを温めてくれるわ」

「わあ、ありがとう!」


 無邪気に笑う子供たちは、寒さで真っ赤になった頬を更に赤くして喜びます。初めて頭を上げた二人は、そっくりな顔をしていました。

 そう、二人は双子だったのです。

 たくさんの荷物を抱えたルチカと、双子の子供たちははぐれないように体を寄せ合ってゆっくりと歩きました。




 家に帰ったルチカは、子供たちの頭に深く積もった雪を払ってやって目を丸くしました。

 子供たちの髪は、細くしなやかな銀の糸のようだったのです。

 暖炉の火の明かりを受けてキラキラと輝く子供たちの髪の毛を見て、ルチカはすぐに気がつきました。


「この子たちは呪いの子だわ!」


 この国では銀色の髪を持つ子供は『呪いの子』と呼ばれています。昔からの言い伝えで、呪いの子は家に不孝をもたらすのですぐに追い出さなければいけません。

 けれど、心の優しいルチカには子供たちを吹雪の中へ送り出すことができませんでした。


 子供たちは真っ赤になった頬と手をこすり合わせて、小さく震えていました。体中に張り付いていた雪は、暖炉の炎に暖められてあっという間に溶けてしまいました。

 けれど、今度は服がぬれてポタポタと水が滴っています。

 ルチカは子供たちに新しい乾いた服を与え、タオルで体をふいてやりました。


 ようやく明るい家の中で見ることができた双子は、紺色の目をした女の子と、銀色の目をした男の子でした。

 ルチカは二人に名前を聞きましたが、二人には名前がありませんでした。なので、二人に「カレン」と「オズ」という名前をつけてやりました。


 それから、約束していた温かいシチューを作りました。

 温かいシチューをおいしそうに頬張る子供たちを、ルチカも幸せそうな顔で見守ります。鍋いっぱいにあったはずのシチューも、三人で食べるとすぐになくなってしまいました。




 優しいルチカのおかげで、子供たちはすぐに元気を取り戻しました。二人とも風邪をひくこともなく、元気いっぱい走り回ります。二人は、すぐにルチカに懐きました。

 ルチカの家は、町から少し離れた所にありました。なので、冬の間はほとんどお客さんが来ませんでした。


 お客さんが来ない代わりに、家の前には雪だるまがいます。大きいのが一つと、小さいのが二つ。ルチカとカレンとオズです。

 雪が降るたびに顔が消えてしまったり、形が変わってしまったりする雪だるまを、三人は交代で直しました。

 他にも、かまくらを作ってみんなでもぐったり、雪合戦をしたりもしました。


 いつもは一人で過ごしているルチカも、三人だととても楽しい冬になりました。いつもは長く感じる冬も、みるみるうちに春に変わっていきました。




 そして、春になったある日のことです。

 春が来るのと同時に、ずっと守ってきた雪だるまは溶けて小さくなってしまいました。

 けれど、寂しくはありません。

 外では小鳥が楽しげなさえずりを奏で、その歌に合わせるように風で花が揺れていたからです。

 二つの小さなチューリップに、黄色と白のチョウがとまっては飛び、飛んではとまりを繰り返しています。

 カレンとオズは、飽きもせずに窓から小鳥を眺めていました。


 トントン。


 扉を叩く音が聞こえました。お客さんです。

 春になっても姿を見せないルチカのことを心配して、クトゥル村に住む猟師がルチカの家を訪れたのでした。


「はぁい」


 ノックの音に、子供たちが元気よく返事をします。

 しかし、猟師はルチカが家に子供を迎え入れたことを知りませんでした。

 賑やかな家の中に、小さく首をかしげながら猟師は声をかけました。


「娘さん、娘さん。お元気ですか」

「はい。元気ですよ」


 猟師の問いかけに、カレンが答えます。

 聞いたことのない声が返事をしたので、猟師が不思議に思いました。しばらくしてもルチカが出てこないので、二人のことを怪しんでいた猟師が子供たちに扉を開けるようにお願いしました。


「お嬢ちゃん、ドアを開けておくれ」

「私はいいけれど、お兄ちゃんがいいと言わなくちゃこの戸は開けられないわ」


 カレンは、猟師の問い掛けに笑いながら答えます。

 カレンの笑い声は、まるで鈴の音のような愛らしいもので、猟師の不安も一気に消え飛んでしまうようでした。

 けれど、まだルチカの声が聞こえません。姿を見るまで安心できないと、猟師はもう一度ドアをノックしました。


「お坊ちゃん、ドアを開けておくれ」

「僕はいいけれど、お姉さんがいいと言わなくちゃこの戸は開けられないよ」


 オズは、猟師の問い掛けに元気よく答えます。

 オズの元気な声は、弾ける太陽の光のようで、猟師までも走り出したくなるようなものでした。

 それでも、やはりルチカの声は聞こえません。

 次こそはこのドアが開くだろうと猟師はオズに負けないくらい元気な声で言いました。


「娘さん、ドアを開けておくれ」


 猟師の声は、隣の森まで届きました。けれども、まだルチカの返事はありません。


「お姉さん、今日はダメだって」


 残念そうにカレンとオズが声を合わせて言いました。

 ルチカがダメだというのだから、仕方ありません。猟師はしょんぼりしながら来た道を帰っていきました。




 次の日も、猟師はルチカの家にやって来ました。

 そして、カレンとオズに昨日と同じように声を掛けましたが、ルチカはやはりダメだと答えます。

 猟師はしばらく粘っていましたが、仕事があるので帰らなければいけませんでした。




 また次の日になると、猟師がやって来ました。


「今日という今日は、お嬢さんが出てくるまで帰らないぞ」


 猟師は家の前で宣言します。その声は窓を閉めきった家の中にも、何重にも響き渡りました。


 トントン


 扉を叩いて、子供たちの返事を待ちます。けれど、どれだけ待っても子供たちの声は聞こえません。

 その代わりに、空から何かが降ってきました。それは、猟師の頭にコツン、と当たって地面に落ちました。

 不思議に思った猟師は、それを拾い上げます。


 猟師が拾い上げたものは、何かの動物の骨を削って作った手のひらに納まる大きさの札でした。ヘズトトという遊びで使う札によく似ています。

 ヘズトトの札と違うのは、その札に大きなバツ印が刻まれていることでした。


「今日もダメということかい?」


 猟師が問いかけると、さっきとは別の札が降ってきました。その札には、マル印が彫ってあります。

 のどを痛めて、声が出ないのでしょう。だから、言葉のかわりにマルとバツの札を作っていたのです。

 それで昨日と一昨日は出られなかったんだな、と猟師は一人で納得しました。


「娘さん、具合が悪いのかね?」


 コトン、また札が降ってきます。印はマルでした。


「それならわしが看病するよ。だから家に入れておくれ」


 猟師は優しく声をかけますが、降ってきた札はバツの印が刻まれたものでした。


「病気だけれど、看病は必要ないということかね?」


 困ったような猟師の問い掛けへの返事は、マルの札です。

 きっと、病気はもう治ったのだろう。ただ、うつったら困るから会うのを遠慮しているんだ。

 そう考えた猟師は、ホッと胸を撫で下ろしました。


「それじゃあ、また明日様子を見にこよう。明日こそ顔を見せておくれよ」


 猟師が声をかけると、マルの札が返ってきました。

 帰らないと強情を張っていた猟師も、ニコニコ顔になって森の道をクトゥル村の方向へ歩きはじめました。下手くそな口笛まで聞こえてきます。

 その様子をカレンとオズが二階から笑顔で見送っていました。でも、そこにはルチカの姿がありません。




「お嬢さん、こんにちは」


 次の日に猟師がルチカの家の前に来ると、そこにはひとつの髑髏しゃれこうべが置いてありました。

 それを見て猟師は気がつきました。これまで家畜の骨だと思っていたあの札は、ルチカの骨を削って作られていたのです。


 猟師は慌ててルチカの家に飛び込みますが、そこには誰もいませんでした。家にあったはずのルチカの物もなくなり、すっかりがらんどうになってしまっています。

 それだけではなく、昨日まで猟師と返答を繰り返していたはずの子供たちの姿まで、すっかり消えうせてしまっていました。




 真冬の、特に、激しい吹雪の夜に、雪原の真ん中にぽつりと佇む幼い兄妹。

 どんなに可哀想でもこの二人を助けてはいけません。

 彼らが本当は恐ろしい悪魔の子供だからです。二人を迎え入れてしまったら最後、助けてくれた優しい人をぺろりと食べてしまいます。


 そして、彼らを招き入れてくれた優しい人たちを心配する声に、二人の銀の悪魔はこう答えます。


「私はいいけれど、お兄ちゃんがいいと言わなくちゃこの戸は開けられないわ」

「僕はいいけれど、お姉さんがいいと言わなくちゃこの戸は開けられないよ」

作中に登場するゲームは、人生ゲームのようなものだと思って下さい。

元になったファンタジー小説を書き直す日が来たら、詳しい内容が明かされるかもしれません(意味深)

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