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或る魔王軍の遍歴 作者:饗庭淵

三章〈獣娘〉ラプンツェリカ

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(3-3)

 メスィ州・港町ケスラ――。
 貿易の盛んな商業都市は今日も賑わっていた。
 そのなかでも、真っ昼間だというのに酒場の賑わいは格段だった。あらゆる情報が飛び交い、あるいは根も葉もない世間話に溢れ、アルコールの力で熱はさらに増していた。
「ねえ、知ってる? ローレリアのこと」
「ああ。今朝の新聞にも載ってたな。なんでも七魔将が」
「動いていたのは一人だけらしいね」
「小国を落とすくらいならわけないってか」
「そしてその支配権をアイゼルに……」
「どういうことだろうね」
 白熱するうわさ話と、その一方で、そんな酒場にふさわしくない、どんよりと沈み込んだ未成年が三人。飲んでいるのはオレンジジュースだが、端から見れば塞ぎ込んでいる酔っぱらいだった。
「……いつまでそうしてんのよ」
 頬杖をつきながらミナが声をかけるが、ラルフに反応はない。リヒトはどうしていいかわからずにおろおろしている。
「まったく、魔王を斃すだなんて威勢よく言ってたと思ったらこれだわ。最強だと思ってた師匠が負けた? その師匠だって魔族には勝てないことくらいわかってたんでしょ。はじめから師匠を超えるくらい強くならなければ話にならなかった。だというのに、なによ。この落ち込みようは」
 ミナは強い言葉で罵ったが、それでもラルフに反応はない。
「ミナ、ちょっと言い過ぎ……」
 リヒトは力なくつぶやいたが、ミナは態度を変えるつもりはない。
「はあぁ……」
 どんな言葉も通じないと見えて、ミナはいよいよふてくされる。
「やることはあるでしょ、やることは。それはこうしてぼけーっとしてることじゃなくて。たとえばそのクレイモア、だいぶ痛んでるんじゃない? 刃こぼれとかあまり関係のないサイズの剣ではあるけど、打ち直すか買い換えるか……」
「買い換えるだと?!」その言葉にラルフは顔を上げ、机を叩き椅子を倒した。
「いや、だから打ち直すって選択肢も……とにかく、せっかく街まで来たし、武器屋くらい覗いて、ね?」
 思わぬ反応に気後れ。ともかくも、ようやく動く気にはなってくれたらしい。

「いらっしゃい」
 武器屋には様々な商品が取り揃えられていた。短剣・短刀、長剣に大剣。鉾槍、斧、戦鎚、弓矢。そして銃火器が、店内の最も目立つ位置にポップ付きで誇らしげに飾られていた。曰く「螺旋巻きより直輸入! あの冒険屋も、この冒険屋も使っています!」。
「君たち……冒険屋かい?」
 店内を見回るラルフを見て店主は尋ねた。返事はなかったが、質問というより確認だった。客が冒険屋、それもかなり若いと見て、店主は捲し立てるように営業トークをはじめた。
「店まで足を運んでもらった君たちに向かっていうのもなんだが、君たち、魔術さえ使いこなせれば武器の性能なんざ関係ない、そんなふうに考えたことはあるかい? だが、それは大きな間違いだ。魔術なんざ、攻撃手段としてはえらく効率が悪いんだよ。たとえば、魔術を使えば大木を倒すことだってできる。同じことを剣でやろうとしたら一苦労、いや、まず無理だろう。だが、こと対人・対魔物戦闘になると、両者の攻撃力に大差は出ない。なぜって、魔術ってのは、相手が魔力を持ってるとそれで耐性ができちまうんだ。魔力同士がぶつかって威力が相殺されちまうわけだ。耐性装備だって充実してるしな。馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえだろ? 魔術師っつー人種は、このへんどう考えてんだろうな」
「……悪かったわね……」
 ミナはぼそりとつぶやき、拳を震わせていた。
「となると、魔術と剣の違いなんざ、あとはもう交戦距離でしかねえ。そこで、オススメがこいつ、――〈銃〉だ! 螺旋巻きからの輸入品で、値は張るがそのぶん強い! 安定した攻撃力と、魔術以上の射程が得られる。有名どころでいえば、あの冒険屋〈星狂い〉音弥も、〈伝説の冒険屋〉ロジャーも主要武器に銃を採用している。剣の時代は終わったんだ。……まあ、予備として持っておくにはいいだろうがな」
 商品に剣はあるので、その点抜かりなく。
 店主の言葉に乗せられたのか、リヒトは銃器コーナーを眺め、いくらかめぼしい拳銃を手に取っていた。
「お、そっちのお嬢ちゃんはよくわかってるみたいだねえ。しかし〈拳銃〉か……小柄なお嬢ちゃんにはそのくらいがちょうどいいのかも知れないが、威力に不安を覚えたことはないかい? せめてこのくらいのサイズがなければ」
「どうでもいい」低い声でラルフが遮る。「〈銃〉になど興味はない。こいつを見てくれ」乱暴な音を立てながら、大剣クレイモアをカウンターに置いた。
「お、おう……」
 その迫力を前に、武器屋の店主も思わず営業トークを飲み込んだ。
「なるほど、だいぶ痛んでるみたいだな……」
 店主は不本意ながらも、依頼の品の鑑定をはじめる。はじめは渋々眺めていたが、じょじょに顔色が変わっていった。
「こいつ……かなりの業物じゃねえか。いったいどこで……」
「そのはずだ。師匠の形見だからな」
「ほう。なるほど、ただのクレイモアじゃない。で、本日は買い取りで?」
「師匠の形見を売るはずないだろう!」
「し、失礼……では鍛錬で?」
「そうだ」
「了解。ここでは鍛錬も請け負ってる。そうだな……三日、いや七日ほどで仕上がるだろう」
「頼んだ」
 短い言葉だけを残し、ラルフはつかつかと店を去っていく。
 その様子を、荒れてるなーと、ミナは冷や汗をかいて見送った。
「行くわよリヒト。魔術師にふさわしい武器は扱ってないみたいだしね」
 と、店主に聞こえるよう毒を吐いてラルフの後を追った。
「ちょ、ラルフどこ行くの」
 てっきり宿に戻るのかと思いきや、ラルフはあらぬ方向に歩を進める。その先には、重傷を負った冒険屋が倒れていた。
「おい! 大丈夫か!」
 ラルフが声をかけ、抱え上げる。意識を失っているようだった。
「ミナ」
「わかってるって」
 回復魔術を施す。応急手当にしかならないが、それでも一命は取り留めたようだ。
「どうしたものかね。とりあえず……」
「部屋まで運ぼう」
「へ?」
「手伝ってくれ」
「いや、いや」
 と思ったが、宿の部屋は男女別に取っている。この汚らしい男を迎える部屋は当然ラルフの部屋だ。ならいいかと思い、いわれたとおりに手伝う。

「すまない……君たちが助けてくれたのか」
 男が目を覚まし、きょろきょろしながら尋ねた。
「なにがあったんです?」
「ああ、そのことを伝えるためだけに生き延びたようなもんだ……ぐっ」
「あまり無理をせずに」
「いや、問題ない。話をするくらいはできるよ。見たところ……君たちも冒険屋か?」
「はい。まだ駆け出しですが」
「都合がいい。聞いてくれるか」
「はい」
「……俺の仲間が、皆殺しにされた」
「!」
「俺たちはある魔鉱山の警備依頼を請け負っていた。俺たちだけじゃない。他にも四組ほど冒険屋グループが雇われていた。魔石に惹かれて魔物が寄ってくることがよくあるからな。そして、やつが現れた。ゴーレムだ。すぐにわかったよ。そいつがなにもので、どこからやって来たのか。警備を増強していたのも、他ならぬやつへの警戒のためだったからだ」
「ゴーレム……」
「そうだ。魔力で動く機械人形。頑強そのもので、並大抵の攻撃は通用しない。俺らもそこそこ腕の立つつもりだったんだけどな。どうにもならなかったよ。なにせやつらの皮膚装甲ときたら、銃弾ですら弾いてしまうんだ」
「それにしてもなぜゴーレムが……やはり、背後に命令者が?」
「そうだ。ゴーレムは自我を持たないからな。やつはゾルティアからやって来た……ゾルティアには、魔王を名乗る男がいる。主はそいつだ。詳しいことはわかっていない。ただわかるのは、やつは多くのゴーレムを従え、魔鉱山を襲い大量の魔石を収集しているということだ。他にも、交易商人を強盗、なんて話も聞く。災厄だよ。あのゾルティアから、とんでもないもんが漏れ出しやがった」
「〈楽園〉ゾルティア……」とミナ。
「そう、あの狂気の園だ。ま、端から見るぶんには面白い国なんだけどな。こうしてアイゼルに進出してくるとなると、まったく勘弁してほしいところだ」
「ちょっと待ってくれ! 魔王、と言ったか……?」
「ああ。そう名乗っているだけ、だと思うがな」
「なぜ魔王などと」
「さあな。魔王と肩を並べるつもりなのかも知れん。あるいは、その名に適うだけの力を持っているという自負か……なんにせよ、魔を名乗るだけの悪意の塊であることはたしかだ」
「そんなやつ、早くなんとかしないと……!」
「そうだな。だが、案ずることはない。ゾルティアにはロジャーさんがいる……!」
「!」
「〈伝説の冒険屋〉マジカル・ロジャー。あの人が、ゾルティアのエセ魔王なんざ斃してくれるさ……ぐふっ」
「え? ちょ、ま、ええー?!」
 死んだ。
 結局こいつの伝えたかったことはなんだったのか。ミナは頭を抱える。
 ゾルティアにロジャーがいるなら、彼を信じればそれで済むこと。代わりに敵を討ってくれと頼むわけでもなく、頼まれても困ったのだけれど。情報提供だけでも有意義だったと思うべきか。
「おかしいなあ……ちゃんと回復したと思ったんだけど……」
 それよりも問題はそこだ。会ったばかりの男が目の前で命を落としてもなんとも思わないが、こればっかりは自信をなくす。
「で、これからどうしよっか。考えてみたら当てがないわよね」
「ゾルティアに向かう」
「はあ?!」
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