獅子の心・2
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駅で買った地図を広げて、兎月は電車の座席に一人腰掛ける。学校を自主的に早退――一般的にはサボりと呼ばれる――しての旅は、優雅かつ快適なものだ。学校からそのまま来たので、制服のままなのは少しばかり問題があるが、些細なことだ。
飛ぶように――というには少しばかり遅く流れる景色を横目に、兎月は地図の一点に目を移した。
皆神山。
標高六七九メートルの、上部がひしゃげた、ドーム型をした山である。
知らぬ者にとっては日本各地に存在する山の内の一つでしかないが、知るものにとってはちょっとした意味を持つ名前である。与太話だというのは承知の上で、それでも兎月は気にかけずにはいられなかった。
酒井 勝軍という男が居た。日本人とユダヤ人が同一のルーツを持つという日ユ同祖論を述べたり、かの有名な偽書・竹内文書を見つけて一般に紹介したりした、戦前のお駆るティストである。
彼の様々な胡散臭い功績の中の一つに、日本のピラミッドの『発見』がある。
日本のピラミッドとは、日本に存在する山の中には、完全な自然物ではなく自然の地形を利用しつつ其処に半人工的に石や土を積み上げて作られたものである。後に数千年の時間をかけることによって、自然の山と外見からの判別がつかなくなっており、山頂部に太陽石なるものが存在するのがその共通点とされている。事実かどうかは疑わしい。
皆神山は、日本のピラミッドの一つ――それどころか、世界最古のピラミッドとされている山だ。
この山が一般に知られるようになったのは、一九六〇年代半ばから一九七〇年台始めまでに発生した松代群発地震が原因である。この地震は全て皆神山直下で起こっている。また、その後に行われた通産省の地質調査では、皆神山の中心部では、周囲より重力が若干弱いことが判明している。
こうしたことから、この山にまつわる奇妙な噂は多い。
曰く、地下には巨大な空洞があり、この山がドーム型をしているのはそのためである。
曰く、この山はUFOの発着基地である。
曰く、第二次世界大戦時にこの山の地下に大本営が設営されたのは、この山の力を利用して逆境を跳ね除けるためである。
無論、日本のピラミッドや皆神山の噂などというものは、一般的には与太話として受け取られるし、兎月自身もそう感じている。
しかし、同様にもしかしたら――という考えも捨てきれないでいる。それが愚かしさだと知りつつも、である。
そして、其処から人工物らしきものが出たという。気にならないわけがないのだ。少なくとも――
――今日の残りの授業よりは、よほど面白そうだ。
そんなことを考えていると、窓を流れる景色が動きを止めた。どうやら、もう着いてしまったようだ。道中で食べようかと思って買っていたサンドイッチは歩きながらでも食べることになりそうだ。
荷物を抱えて、座席を立った。そのまま列車を降りて駅構内を歩き出す。
「近場まで行くには……バスが一番だろうな」
そう呟くと、兎月は端末を取り出して、バスの路線図を表示させる。同時にバス停への最も近い道筋も表示させる。思ったよりも、遥かに遠かったが、歩いていけない距離ではない。
「……行くか」
大きく伸びをして、駅構内から兎月は出た。そのまま市街を歩く。午後も半ばの平日の町並みには、茫洋とした気だるさが漂っていた。五月の日中、それも平日となれば、そんなものかもしれない。
しかし、その中の一つに兎月は目を奪われた。それは茫洋とした景色の全ての中で、まるで闇夜の月のように鮮烈だった。
それは、漆黒のドレスを着た女だった。
――なんだ、あれは?
美しいことに異論は無いが、何故こんなところにこんな格好でいるのかが、全く理解できなかった。
颯爽と裾を翻しながら街を歩く女。彼女は兎月のことなど当然のことのように無視しながら、どこかへ歩き去っていった。
その後姿を目で追いながらも、兎月はバス停に向かった。
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発掘現場――正確には調査現場へは、存外に簡単に着いた。工事をしていた現場自体がバス停から近かった上に、この先工事中の看板がやたらにあって、それを辿るだけで現場までつけたのだ。
しかし時間はそれなりにかかり、今はもう午後三時だ。気だるい午後は、もう少しで鮮烈な夕焼けに焼かれるだろう。
調査現場は両脇を、森に囲まれた道路の行き止まりにあった。斜面の中に作られた道路なので、片側が崖に、もう片方が上り坂になっており、全体的に道が左カーブしている。
行き止まりには数台のワゴン車が止めてあり、数人の男性がその車にまるで砂糖に群がる蟻のように集まっていた。ワゴン車からはケーブルが延びており、そこは行き止まり――崖崩れの跡に繋がっている。そして、そこにそれはあった。
「……凄いな」
地崩れのためか赤茶けた地肌が露出している山肌の中から、まるで岩を削りだして作ったような、猫の前足があった。いや、と兎月は考え直す。猫にしては、それは爪の部分が占める割合が大きかった。ならば、これは猫科の肉食獣――例えば、虎や獅子、あるいは剣牙虎のような――なのだろうか? だとするならば、これが造られた時代が何時の頃なのかは分からないが、その時代には猫科の肉食獣が日本には存在したのだろうか?
その場に立ち尽くし、兎月はその前足をじっと眺めていた。太古から受け継がれてきたものには、圧倒されるものと心を揺らされるものがある。
急に、後ろから声がした。
「兎月君じゃないか。学校はどうしたんだい」
どうやら、見入りすぎていたらしい。後ろに人が近づいていることにも全く気づけなかった。振り返る。
「先生……」
その先にいたのは、千歌の父である高槻 孝祐であった。かけていた眼鏡を外しながら、孝祐は兎月に言う。
「場所に関しては、娘から聞いたんだろうがね……しかし、ここまでするかね」
「授業よりこっちのほうが面白そうだったんで」
「興味だけで何でも決めていると、つぶしの効かん人間になるぞ。私のように」
「それは重畳」
兎月の言に、孝祐は手を頭にやって溜息を付いた。
「君は人の話をだね……まぁもう今更仕方がないか。折角来たのだから、見学でもしていくかね」
「当然です。そのために来たんで」
「では、着いて来るといい。確かに、授業よりは面白いものがここにはあるのだから」
兎月に背を向けて、孝祐は歩き出す。
その後を、兎月は追う。随分と昔から、この背中に着いて面白いものを見てきた。今度も期待通りの――いや、期待以上のものを見せてくれるだろう。
「見つかったのは、君も見ていたあれだ」
「あの、岩を削りだした像ですか」
「と、見えるが、違うんだ、あれは」
「どういうことですか?」
歩きながら、兎月は問う。
「正直な話、分からない――というのが正直なところかな。表面上は単なる岩としか見えないが、年代測定用に持ってきた機材で調べてみたところ違うようなんだよ」
「どう違うんですか?」
「それが分からない。はっきり言うなら、あれが砂やら何やらが固まって出来た代物じゃあないってことは分かるのだけれども、それ以上は今ある機材では手に余る。内部構造を調べようにも、何かが表面をコートしていて、内側とそれは全く別のものだってことぐらいしか分からない」
全く困りものだ、と孝祐は両手を挙げた。
しかし、そんな孝祐とは対照的に、兎月は自分の中でふつふつと何かが湧き出してきているのを感じていた。それは笑いに還元されて外界に出て行こうとするが、兎月は力づくで押さえ込んでいた。
その感情は、喜びなのだろうか? 兎月には容易に判断が出来なかったし、判断してその感情を脳髄の何処かに整理するつもりもなかった。
――もしかしたら、本当にここには何かがあるのか?
皆神山は本当にピラミッドで、だとするならあれはスフィンクスだとでも言うのか。
「本当に面白い」
呟く声には実感が載っていた。本当に、本当に面白い。学校をサボってきた甲斐があったというものだ。
そんなときだった。
「……ん?」
急に、孝祐が足を止めた。
「どうしたんですか」
それに習って足を止めながら、兎月は問うた。しかし、素直な行動とは裏腹に、精神は微かな苛立ちを覚えた。正直な話が、今すぐにでもあの前足に駆け寄って、近くで見て触りたいほどなのだ。足を止めているのももどかしい。
しかし、そんな兎月の感情など知る由もない孝祐は直接的に返答した。
「いや、ね。揺れたような気がしたものだから。ここいらの地盤は相当に緩い。なにせ地崩れであんなものが出てくるぐらいだ。地震なんかがあったら、それはもう不味いことになる」
地震。どうやら自分は焦りすぎているようだ、と兎月は考える。揺れに気づかないなんて、どうにかしている。
「避難――」
と言い掛けて、兎月は止めた。今度は自分も感じたからだ、大地が驚いたかのように一瞬震えるのを。
「今度は君も感じ――」
孝祐の言の途中で、またも揺れた。どうやら、だんだんと間隔が短く、揺れは大きくなってきているようだ。
「避難するとしよう。私は彼らの元まで行く。兎月君はここで待っていてくれ」
そう続ける孝祐を他所に、どんどんと揺れは頻度と大きさを増していた。まるで巨人が貧乏ゆすりをしているかのように、大地が小刻みに揺れる。
孝祐がワゴン車の元に着くころには、大地は既に音を立てて揺れていた。
「車で帰れるのか、これ?」
そう兎月が呟いたときだ。
轟音と共に、地球が反転した。少なくとも、兎月にはそう感ぜられるほどの大揺れが一瞬きた。バランスを崩して、思わず兎月は尻餅をつく。
その一際大きな揺れで、地震はまるで今までのことが嘘だったかのようにピタリと収まった。
「なんだ、収まったじゃねぇか」
尻餅までついたのが馬鹿らしい。痛みはあるが、立てないほどではない。さっさと立ち上がるか。そう思ったときだった。
ぴしり、という音が真下から聞こえた。音のしたほうに視線をやると、道路にまるで雲の巣のような亀裂が縦横無尽に走っている。
体温が急に下がるのを感じた。
さっさと立ち上がって別の場所に行こう。
立ち上がろうとして、右手を地面に着こうとした。その瞬間、もう一度世界が揺れた。今度は今までのように横にではなく、縦に。まるでシェイカーで掻き混ぜられるかのように。
「え――?」
そして、大地が消失した。先の縦揺れの際に、地が割れていたのだ。右手が着こうとした地面はそこには無かった。視線は宙に上がり、空が何処までも昇っていく。
違う。自分が地の底に向かって、落下しているのだ。
浮遊しているかのような感覚と、何か圧倒的な非現実感に身を苛まれていた。まるで電子と情報で出来た温い泥に身を浮かべているかのような幻想。
心地よさと気持ち悪さがない交ぜになった感覚。
このまま、感覚に身を委ねてしまってもよいだろうか?
否。
そんなことがあるわけが無い。
「死んでたまるか……っ!」
兎月は声を搾り出す。この先にあるのは死――虚無だ。何処までも何も無い、闇ですらない。そんなところに落ちたくは無い。
右手を、天に向けて伸ばす。何かが掴めるはずも無い。分かっていても伸ばさずには居られない。
「死んで――たまるかっ!」
脳内に、一つの光景がフラッシュバックする。黒い額縁に入れられた写真。泣いている母、血管が浮き出るほどに拳を握り締める父。灰色の印象。線香の匂い。ぶれる視界。泣いている高槻 千歌。何も理解できない自分。額縁の中に居たのは――死んだのは、誰だった?
墜落の衝撃は、思ったよりもずっと軽かった。それでも、兎月が自分の意識を手放すには十分すぎた。
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眼が覚めた。どうやら気絶していたらしい。ここは地の底なのだろうか? よくもまぁ死なずにすんだものだ。そう思いながら、兎月は眼を開けた。
そこに広がっているのは、灰一色の見知らぬ光景だった。
「何だ、ここは?」
シートがあって、そこに腰掛けている。全体的に空間は手狭で、まるで棺桶か何かのようだ。だとすると、自分はとうに埋葬されているのか? 馬鹿馬鹿しい。
シートが在るという所為なのかもしれないが、ここは戦闘機のコクピットなどに似ているような気もする。但し、そうだというのならばここには一つおかしいことがある。余りにも単純すぎるのだ。カラーリングは灰色一色で、外界を見渡すことも出来ないし、計器の一つも着いていない。
シート以外に何か無いだろうか、そう思い、兎月は内部を見渡した。一つ気にかかるものが見つかった。それは、丁度シートの手の位置だった。両手を乗せるであろう部分がカウルのように保護されており、中には暗闇が広がっているのである。この中に手を突っ込むのだろうか。
「他にどうしようもないか」
呟くと、躊躇することもなく兎月はそこに手を突っ込んだ。ぞぶり、という丸で生肉の海に手を入れたかのような嫌な感触が伝わってきた。手を差し入れた先は奇妙に生温く、それもまた、生物の肉を感じさせた。
「なんだこれ……」
――プレイヤーの使用言語を解析完了。
「は?」
何処からか声がしたような気がして。兎月は視線を後ろにやる。無論、其処には誰かの影も形も無かった。気のせいだろうか?
――当機・レオンは該当者を生体認証によるプレイヤーと認識。以降、プレイヤーの指示に従うものとする。AIのステイシスを解除。
気のせいではない。声がする。しかし、これは通常に存在する音としての声ではなく、まるで声を思い返しているときのような、そんな印象だ。
――こんにちは。我が主、七瀬 兎月。私は当機の支援AI、名前は当機と同様にレオンといいます。
急に、声はこちらに語りかけてきた。落ち着いていて抑揚の少ない、成人男性の声だ。
「誰だ、お前は」
――先ほども説明したように、当機の支援AIであり、名前は当機と同様にレオンです。
「それ以前に、ここは何処だ? それに――当機だと? どういうことだ! 説明しろ!」
――認識しました。直接に情報を脳内に転送します。
声――レオンがそう言うと同時に、兎月は理解した。いや、させられた。
理解/知覚/認識。そういったものが、納得という過程を跳躍して直接兎月の脳内に刻み込まれた。ただ、既知の情報として。あまりにも奇妙な感覚に、一瞬気が遠くなった。洗脳を受けるとは、もしやこういう感覚なのかもしれない。
「なんだこれは……」
――貴方が両手を触れている部分は演算能力を持った流体金属――マテリアル・サイと言って、一種のナノマシンの塊です。貴方の皮膚表面を透過して、神経と同期して情報流通の簡便化を行っています。
「勝手に人の体の中に入りやがったのか」
――健康上での問題はありません。
「そういう問題じゃねえだろうが」
手をナノマシンの沼――マテリアル・サイから抜きたい衝動に駆られながらも、兎月は自分の脳内に叩き込まれた情報を参照する。
叩き込まれた情報はこうだ。
レオンとは、兎月が見ていたあの前足のことで、あれはどうやら全身が残っていたらしい。全体像は猫でも虎でもなく、獅子。兎月が地割れに落ちた際に、レオンも一緒に落ちた。そしてここはその――レオンの中である。
「つまりは、一緒に地面の底に落ちた俺をお前が拾ったのか」
――そうなります。
「一応礼は言っておくが……何のつもりだ。お前が何故俺を助ける必要がある」
兎月は問う。全てが事実だとしても、それが腑に落ちない。レオンが何故地の底で死ぬ筈の自分を助けたのか。感謝する気持ちが無い程、兎月は恩知らずではない。しかし、返答次第では――
――その問いに対する回答として最も適切なものは、自衛です。当機は自己防衛のために、支援AIである私をステイシス解除し、プレイヤーである貴方を受け入れました。
「自衛? 一体何から身を守る必要があるって言うんだ?」
その問いに、レオンは最も分かりやすく、恐らくは兎月にとっては最悪ともいえる答えを返した。
――当機は、敵機による攻撃を受けています。
「敵――って、どういうことだ?」
――質問の多い人ですね、貴方は。
「放り込まれた状況が意味不明すぎるんだよ。俺の所為じゃねぇ、むしろお前の所為だ」
――では、外部状況をモニターします。それが貴方には最も理解しやすいかと。
レオンが言い終わると同時、兎月の見ている光景が一瞬で変質した。今までの、まるで灰色の棺桶のような光景ではなく、緑溢れる山間の光景に。
何が起こっているのか、と問うよりも早く、脳内にその答えが認識される。人間が認識している現実というものは、目や耳といった感覚器官という名のセンサからの情報を脳内で再構成したものに過ぎない。ならば、先の脳内への情報強制転送と同じ理屈で、レオンの外部センサであるカメラの映像をマテリアル・サイ経由で、目からの情報の代わりとして送ることも可能なのである。
つまり、今兎月の目に映っている光景は、レオンの外部センサの一つであるサブカメラが、地上に出て感知している映像なのだ。
その山間の光景には、異様なものがあった。
「なんだ、あれは……」
それを容易に表現する言葉を、兎月は知っている。しかし、それは現実に存在するというには余りにも馬鹿げた代物というほか無いものだ。現実に存在するものに対して投げかける言葉ではないものだ。
しかし、そこに存在するものは、それ以外の何物でもなかった。
山を越えるほどではないとはいえ、巨大な全長。
大地を踏みしめる二本、胴らしき部分より突き出た二本。
紛れも無い金属の質感。
それは所謂――巨大ロボットだった。
しかしそれは力強い巨人というよりは、何かぬるりとして人形――特に、糸繰り人形じみた姿をしていた。全体的に突起の少ない、脱力しているかのようになだらかな外見がそういう印象を与えるのかもしれないし、顔の部分につけられたマスケラがそう見せるのかもしれない。
それが、山に向かって攻撃を仕掛けていた。攻撃に使われているのは、両腕に付けられた巨大な円錐。それが回転することによって螺旋を描き、砂山をスコップで削るかのように山を崩していた。
ロボットは唸りを上げて回転するドリルで、山を掘っていたのだ。
「さっきの地震の原因は、あいつってことか」
――肯定します。根拠として、アンノウンとその採掘器が地下を採掘しながら通った跡が、存在しています。
「……何が狙いだってんだ」
あんなものが存在しているわけもわからなければ、それが山を掘っているわけも全く分からない。
――アンノウンの目的は、当機の破壊であると推察されます。
「なんで分かる」
――ステイシス解除されたデータの断片から推察される事実です。
「あてずっぽうってことかよ」
――私はAIです。勘や当て推量とは無縁の存在です。
「そうか」
どうだか、と思いながらも、そんなことは問題ではないことも分かっていた。あのロボットがドリルを使って山を掘っているのは事実なのだ。このままでは何が起こるか分かった物ではない。
だが――
「戦えるのか、レオン? このライオンは?」
そうでないのならば、全てが御破算だ。
その問いに、レオンは静かに答える。
――当機の戦闘能力ならば、問題はありません。あとは、貴方次第です。
そうこうしている間にも、ドリルによって山肌は削られ、土砂はまるで洪水のように下方を押し流そうとしていた。先生――高槻 孝祐達はもう逃げただろうか。
迷っていては、時間を無駄にするばかりだ。
ならば。ならば、やることは決まっている。
ふ、と息を一つ吐いた。
「こいつはどうすれば動く?」
――貴方に情報を送り込んだのと逆の方法で、動かせます。つまり、貴方の思考/感覚を機体に同調/フィードバックさせれば良いだけです。
小難しいことは必要無い、ようは念じろということだろうか。
問題は無い。
「細かい設定は頼む」
そう言うと、兎月はロボットを睨んだ。何者かは分からないし、目的も分からないが、放っておくわけにはいかない。
今、あいつをどうこう出来るのは、きっと自分だけだ。
「あいつを――倒すぞ」
――認識しました。地上に飛び出した後に、マスティコアフォームより戦闘形態であるゴーレムフォームへ変形、後に当機のコントロールを貴方に移します。
「よし、行け!」
――了解。
レオンの言葉と同時に、兎月の全身に、一瞬まるで力士に圧し掛かられたかのような加重がかかった。
獅子が地上に向かって跳躍した証だった。
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