私が乙女ゲームに転生した結果
私には前世の記憶がある。
でも変わってるとこといったらそれくらいかな?
とはいえ前世の記憶の恩恵は結構なもので、小学校の頃から優等生として通って、高校は名門といわれる宮苑高校に! でもなんか聞き覚えがあるのよね……。
その謎は教室に入った時に解けた。先生が倉本愛梨――――そう出欠のため呼んだ時、前世の記憶を思い出した。
『ブルー・シーズン』
記憶の中の前世ではそこそこの知名度を誇り、アニメ化もされた乙女ゲーム。そのヒロインが倉本愛梨という名前だった――――。
私は教室で倒れて担架で運ばれた。
偶然かもと思うには、あまりにも共通点がありすぎた。攻略キャラも全員揃ってるし、何より愛梨さんの性格が……。
「倉本さん、ちょっと委員会の仕事変わってくれない?」
「いいですよー」
「倉本さん、そのペン可愛いね! 貸してくれない?」
「はいどうぞ」
「倉本さん、私今日財布忘れちゃったの。お金貸してくれない?」
「大変じゃないですか! どうぞ」
「く、倉本さん、実は訳があって、君の体操服が必要なんだ!」
「え……よく分からないけど、どう」
「やらせるかあああああ!!!!」
ヒロインに個性は設定されてなかった。選択肢もイエスorノーくらいで、『攻略? イエスって言ってればOK』 と揶揄されることもしばしば。そうか、現実になるとこうなるのか……この子今までどうやって生きてきたんだろ。
そんなプレイヤー次第なこのヒロインが、私は――――すごく好きだった。
最初は普通に自分の分身的に思ってました。でもほら、長くプレイしてるとこう、うちの子的な気持ちが徐々に……。このゲームの攻略もカウンセリング系(トラウマ持ちのキャラを慰めて恋愛へ)なせいか「ヒロインマジ聖母」 って思ったり。ふとした行動でプレイヤーのハートを射抜くヒロイン可愛いよ。
でもまっとうな乙女ゲヒロインやれるのは、プレイヤーがいてこそだよね、ヒロインって……。
そうだ、私が愛梨を導こう。
「ええと? 初めまして、倉本愛梨です。あなたは?」
「藤城久美です。……これからよろしくね?」
「はい、よろしくお願いします」
腕が鳴る……百回は軽くプレイしたこの私が、愛梨を必ずベストエンドに導かせてみせる!
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「愛梨、……ん? その子は?」
「真人くん、お友達だよー久美ちゃんっていうの」
思考というものをもたない愛梨と友達になるのは簡単だった。友達宣言してからやるべきことは……メインヒーローと知り合いになっておかねばなるまい。
「初めまして。東堂真人くん」
「初めまして、藤城さん」
東堂真人。ヒロインの愛梨の幼馴染にしてメインヒーロー。の割に地味。デザインも無難。夢は作家で、高校卒業までに真人ルートだと、学生にして大賞を得るという優良物権に成長。ふむ。キープはしておこう。
「愛梨ちゃんみたいな天然と幼馴染やれるだけでも凄いよね。大事にしなよ?」
「うん。久美ちゃんがそう言うなら」
よしよし。まあどーせ強制登場だし……。次はパラメーター上げで登場する各キャラクターかな。
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勉強のパラメーターを上げると、なんと教師が釣れます。中間テストや期末テストで一位をとると、教師直々に褒め言葉が。それが何度も続くとイベントが進行して……というものだけど。
公務員はいいけど、世間体とかねー。教え子云々で愛梨が後ろ指さされるなんて我慢ならないわ。勉強は適当にしておこう。
「午前中は図書館で、午後はショッピングしようよ」
「うん、久美ちゃんがそういうなら」
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運動のパラメーターを上げると、テニスの天才とやらが釣れます。スポーツ特待でここに入って、色んな賞を総なめにする様はなかなか。彼ルートだと、卒業後の告白で海外までついて行くヒロインの姿が。
……ドラマチックで素敵とかプレイ中は思ったけど、現実だとちょっと。海外って治安よくないじゃん。英語で苦労もするだろうしなー。あと有名人の恋人ってことでマスコミに追い回されたりしたら可哀相……。
「私、体育って好きじゃないんだー」
「そうなの? 久美ちゃんがそうなら、私もかも」
ここまで徹底されると何が何でも私が何とかしなきゃという気分になる……。愛梨かわいいよ愛梨。
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感性パラメータを上げると芸術家肌の美術部員に遭遇します。金髪碧眼でツンデレ。こちらも推薦で入ったから将来有望。あと、イベント中に聞いたけど、「親の名前で作品を判断されたくない」 とのことで偽名で通ってます。なら何で推薦とれたとか乙女ゲームで聞いちゃいけない。日本住まいで顔を知られてなくて将来有望……成長させて出会わせるのもありかと思ったけど、確か彼の登場イベントの第一声が。
「どけよブス」
……実は一目惚れで思わず素直じゃない態度をとったとか、そういう裏事情はいい。愛梨にんな言葉投げかける奴なんかいらん。
「美術の授業、つまんないね」
「そうかも。さっぱり分かんないや」
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優しさのパラメーターを上げると、わんこ属性後輩が釣れます。最初からヒロインにデレデレなのはポイント高いけど……。
エンディング見ると、どうも生き別れの近親者のにおいがした。うん、あかん。
「人間って、時には厳しさも必要だよね……!」
「久美ちゃんが言うならきっとそうなんだと思う」
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こんな感じで高校二年までは愛梨を無事に過ごさせてきた。途中で真人くんと強制デートイベントとかあったけど、携帯から選択肢の指示をして事なきを得た。
だってあれ、夜の自室で、地震のために停電していて、しかも真っ暗闇の中体勢がおかしなことになってるという、どこが全年齢向けなのかというあざといイベントなんだもん。愛梨にふざけた真似はしないでいただきたい。
男を煽るような選択肢①(正解)
可もなく不可もなくな選択肢②(好感度は下がらないがその後のイベント発生しない)
バッドエンド選択肢③(他の男<二番目に好感度高いキャラ>の名前を出して嫌われる)
②をメールで指示して選ばせましたが何か? 愛梨はそんなことしない!
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そんなこんなで迎えた三年。ラスボスが登場する。
「今日のお昼はどこで食べようか? 久美ちゃん」
……ここで「中庭」 と選択すると、金持ちの病弱子息が登場する。転校生が迷っているのかと思って話しかけると、突然怒られ、しかもその後地面に倒れられるという、謎を秘めた隠しキャラである。
その正体は学園の理事長の甥。難病を患い、入退院を繰り返しているというお涙頂戴なキャラだ。ツンギレ。登場の遅さもあって、二、三回イベントを起こせばルート確定する。
お金持ち……看病ならメイドがやるから苦労はそんなしなさそうだけどさ……。私は彼だけは愛梨の婿にしたくない。
何故なら、アニメが黒歴史だったから。
高校三年で会うはずの病弱くんが、なんとヒロインが幼い頃に会っていて結婚の約束までしていたという謎改変。それでもメインは真人くんだったから、ファンサービス的な何かかと思われた。
が、最後の最後でヒロイン豹変。卒業後の真人とのデートをすっぽかし手術に向かう病弱くんのもとへ。「私が本当に好きなのは病弱くんだったの!」
視聴者ぽかーん。私放心。
スタッフに病弱くん推しがいたんだろうけどさ……そりゃあないよ。真人哀れすぎ。ヒロイン悪女すぎ。そういえば、さっきアニメ化したとか言ったけど、やっぱしてなかったかもしれない。うん、ブルー・シーズンはアニメ化してないわ。
「……普通に教室で食べるのいいと思うな!」
私は、愛梨をわざわざ悪評に曝すようなことはしない……!
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そして卒業式。
「どうしてこうなった」
気がついたら攻略キャラが一人もヒロインのところへ来ないという悲劇。あれ? あれれ??? ちょ、こんなはずでは……!
「久美ちゃん、帰ろ!」
「う、うん……」
夕暮れの、高校最後の下校で思うことのありすぎる私は愛梨に聞いた。
「私といて、後悔してない?」
「どうして? 感謝することはあっても、後悔なんて」
「もう……」
女友達との友情エンドの会話まんまだったと気づくのは、ずっと後の話。ともあれ、私の愛梨最強婿計画はまだまだ続くのでした。
数年後、そこには立派な喪女となった二人の姿が!