099 転生者は異世界で何を見る? -宿-
「やっぱり二人は仲がいいよね。もしかして付き合ってんの?」
宿を手伝う女将さんの娘さんに運ばれてきた本日のおススメをつつきながら瑞樹がそう切り出した。
テーブルに乗っている料理は、肉がメインの料理だった。何の肉かわからないがそれほど固くはなく、豚肉と言われても違和感がないほどだ。
薄い味付けで使われているのは塩のみだろうか。それでもまずいというほどではない。
「付き合ってるというか、まあ……」
この街に向かって長時間歩いている間に瑞樹と会話はしたが、主に瑞樹についての情報を得るための会話が多かった。
フィアはあまり会話に参加していなかったと思う。今は女とは言え、男子高校生としては俺のほうが話しやすかったのかもしれないが。
「マコトは私の婚約者ですよ」
「――は? ……えええぇぇぇぇっ!!?」
「そういや言ってなかったっけ?」
盛大に驚く瑞樹にすっとぼけてみる。
「き、聞いてないよ!?」
フィアは上品に料理を食べながら瑞樹の言葉をスルーだ。
「じゃあなんでおれとフィアさんを同じ部屋にしようとしたんだよ……」
瑞樹が非難の目線を向けてくる。
「いやいや、いくら婚約してると言ってもな。フィアはまだ十七歳だし」
「えっ!? フィアさんって、おれと同い年だったの!?」
驚くところはそこですか。フィアよりも十センチは小さい瑞樹だが、フィアを『さん』付けで呼んでいたことを考えると、フィアは年上に見えていたのかもしれない。
「でもまぁ……、離れ離れにならなくてよかったんじゃない」
三人そろってこの世界に飛ばされたわけだが、俺たち二人が一緒にいることにどこかホッとした表情になる。
巻き込んで無理やり引き裂いたわけではないとでも思ってるんじゃねーだろな。いやむしろこっちのほうが罪悪感が……。
明や穂乃果の場合は元の生活に戻れたが。
――やめやめ。考えても仕方ないことはやめだ。
「あ、そういえば」
明と穂乃果で思い出した。というか気づいた。
むしろなんで今まで思いつかなかったんだろうという感じだ。キサラギ高校の怪しさっぷりに意識が行っていたからか。
「そういや瑞樹はキサラギ高校に通ってたって言ってたよな?」
「ん? そうだけど?」
俺はテーブルへ乗り出し気味にし、若干の間をあけて瑞樹へと尋ねる。
「――西條明と葛梅穂乃果の二人のことは知ってるか?」
一週間くらいだったっけ? 期間は忘れたけど、行方不明になってその間の記憶がないと言う事件だ。
もし知っていれば、瑞樹は俺の世界の人間でほぼ確定なんじゃないだろうか。もちろん日本に戻って確認はするけど。
「え? ああ、あの事件は話題になったな。まさか自分の通う高校の生徒が巻き込まれるなんてな」
やはり瑞樹はあの事件を知っていたようだ。ということは、ほぼ間違いないか……。
俺が考え込んでいると瑞樹も何か考え込んでいたようで、ふと顔を上げてこちらに確認するように口を開いた。
「もしかして、おれみたいな目に遭ってたんじゃ……」
おおぅ、……なかなか鋭いね。
「じゃあ、おれも……、もしかしたら元の世界に……」
そこまで呟いたところで何かに気付いたように目を見開いて動きが止まる。
うん、もしかしなくても戻れるんだけどね。でも瑞樹の場合はその姿のままなんだよね。しかも種族が人間じゃなくなってるし。
無駄に金はあるから日本で暮らすなら援助してやるけど。
「そういやおれ一回死んでるんだった」
若干目が潤んでる気がしないでもないが、そうそう吹っ切れるもんじゃないんだろう。
なんでもないように言っているが、その声は震えていたように思う。
「……瑞樹ちゃん」
フィアが心配そうに声をかける。ってかフィアは瑞樹を『ちゃん』付けするのね……。
「み、みずき『ちゃん』……!?」
落ち込んでたような瑞樹が一気にうろたえたようにおろおろしたかと思うと、顔が真っ赤に染まっていく。
「……ちょっ、『ちゃん』付けで呼ぶのは、さすがに恥ずかしいからやめて……」
「どうして? 瑞樹ちゃんかわいいのに」
フィアがからかうように瑞樹を呼ぶが、恥ずかしがらせるだけである。
沈んだ気持ちが逸れたんならそれはそれでいいか。
「どうした、そんなに真っ赤になって。フィアとまた違って、瑞樹ちゃんも確かに可愛いぞ」
「……可愛いとか言うな!」
俺も調子に乗ってみたらますます赤くなっていた。
うむ。確かにこれは可愛いな。
ほどなくしてお腹を満たした俺たちは、宿のカウンターへと行って女将さんに鍵をもらい、瑞樹をからかいながらも部屋へ向かうのだった。