090 転生者は異世界で何を見る? -種族-
まぁ予想通りだとは思うが、胡散臭い神に用意されたという瑞樹の肉体は、性別が女だったのだ。
街に向かって歩く瑞樹の足取りは重いままだ。何やらブツブツと呟きつつ、足元に視線を落としたまま歩いている。
うーむ。まさかのTSモノのウェブ小説だとは思わなかったな……。チートを授けてくれる神と、舞台となる世界のスキルしか眼中になかったな……。
なんというか、ご愁傷様としか……。うん、俺のせいじゃないよね? むしろ俺が行動を起こさなかったら瑞樹は死んでそこで終わりだった可能性もあるよね?
「あははは……」
力なく笑いを漏らしていると、フィアが瑞樹へと声を掛けた。
「ミズキさん……、その、気を落とさないでください。人生をやり直せたと思えばラッキーじゃないですか」
肩に手を置いて宥めているが、果たして効果があるかどうか……。
「フィア……さん」
瑞樹が臥せていた顔をフィアに向けて力なく笑う。
ああ、いやもう男には見えんな。小柄で細身の体型でそんな表情をされると、薄幸の少女ってイメージしか沸かない。
女だと認識した今では、つるペタとまでは行かないが、胸のふくらみもあるように見える。
念のために鑑定してみると。
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名前:クラシナ ミズキ
種族:仙化族
性別:女
年齢:17
職業:巫女 Lv1
Lv:1
HP:98/98
MP:240/240
STR:32
VIT:24
AGI:185
INT:214
DEX:153
LUK:280
スキル:
【火魔法Lv1】【水魔法Lv1】【地魔法Lv1】
【風魔法Lv1】【光魔法Lv1】【闇魔法Lv1】
【無魔法Lv1】
特殊スキル:
【成長率増幅Lv1】【全状態異常耐性Lv3】【MP上昇補正Lv1】
【魔力操作Lv1】【魔力感知Lv1】
称号:
【異世界転生者】【魔を統べる者】
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「――ぶふぉっ!!?」
いやいやいや、ちょっと待て! 性別が変わっただけでも衝撃の出来事なのに、種族【仙化族】ってなんだよ!? 人間じゃないってことなのか!?
「どうしたんですか?」
いきなり噴き出した俺にフィアが怪訝な表情で尋ねてきた。
気分の滅入っていた瑞樹も何事かと俺に疑問の表情を向けている。
よく見れば瑞樹の耳の先端が尖っているような気がする。ファンタジーによくいるエルフのように長くはなく、むしろ俺たちとそこは変わらないようだが。
これも【仙化族】の特徴なのだろうか。
「あ、いや、すまん。……瑞樹の耳がちょっと気になってな」
多少形の違う耳程度で噴き出す程かと言われると疑問ではあるが、実際に自分の耳を触ってみた瑞樹にはそこそこ衝撃があったようで。
「な、なんじゃこりゃ!」
自分の性別を確信した時ほどではないが、それでも驚きの声が上がった。
「……ちょっと尖ってるね」
フィアも同じ感想を漏らしている。
その時点で瑞樹がハッとした表情になり。
「もしかして……、エルフとか……?」
残念! エルフではありませんでした!
とは言えそれを口にすることはできない。いや、ある意味俺たちは同じ境遇ではあるので、ある程度瑞樹の人となりがわかれば打ち明けてもいいとは思っているが。
それにこの世界で鑑定のスキルが存在するのかどうかも――って、神にもらったスキルってことにすればいいのか。
「あ、いや……、エルフじゃなくて仙化族っていう種族みたいだぞ。瑞樹」
「はあっ!?」
困惑と驚きの声を上げる瑞樹だが、その表情は自分が女になったと分かった時と違ってなにやら期待感も含まれている気がする。
「な、なんだよそれ……。っていうかなんでそんなことがわかるんだ?」
「ああ……、どうやら例の神からもらったスキルみたいでな。ほら、よくあるだろ。鑑定ってやつだよ」
「そ、そうなのか……」
「ふふ……、なんだか嬉しそうですね」
瑞樹を慰めようとしていたフィアだったが、理由が不明だが元気になった様子を見て微笑んでいる。
「そうだよな……。せっかくの二度目の人生だ。女になろうと人間じゃなくなろうと、おれはおれだ!」
お、おう……。意外と立ち直りが早いな。まあうじうじとずっと陰鬱とした雰囲気を周囲に振りまくよりはマシか。
しかしあれだな。初期スキルとかを思うと、スゲー魔法よりのチートだな……。しかも【成長率増幅】って、スゲーやばい育ち方しそうだな。
俺自身もレベルの割りにありえないステータスしてると思ってるが、成長系のスキルがあるわけでもないんだよな……。うーん、ステータスの伸び方が想像できん。
【全状態異常耐性】ってのは、神が用意した肉体だからってことなのかな。職業の【巫女】って、どこの神様の巫女だよ……。
って【称号】なんてものもあるのか……。いったい誰がこんな称号をつけるんだ。あのうさん臭い神か?
【魔を統べる者】ってもうこれ魔法特化で確定だな。
「それに魔法特化型のステータスとかスキルが揃ってるみたいだぞ」
「ま、マジか!?」
「そうなんだ?」
俺が見たステータスやスキルについて説明していくにつれ、瑞樹のテンションが上がりまくっている。
さっきまで足元を見つめながらため息をついてどんより歩いていた人間と同一人物とは思えないほどだった。