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089 転生者は異世界で何を見る? -喪失-

 目を開けるとそこには青空が広がっていた。

 さっきまで神とかいう胡散臭いじじいとちゃぶ台を囲んでいたはずだが、急に光に包まれたかと思ったらこうなっていた。


「うーん……、結局なんの能力をもらえたのか……、というかちゃんともらえたのかわからんな」


 自分自身を鑑定すればわかるんだろうが、特にじじいから何かを授けられた素振りは見られなかったのだ。

 宇宙空間をお茶の間に変えたり、お茶を目の前に出したりするのにも杖を振るという動作があったのだ。

 ましてやそれよりも難易度が高そうな『能力の付与』というものに、何も素振りなく行えるといういことに疑問が残る。


 一応は欲しい能力を要望したが、自分で確かめろと一蹴されて少年も納得したため、それ以上追及するのも憚られた。


 周囲を観察するが、寝転がったままでは草しか見えない。

 上半身だけ起き上がって改めて確認すると、見渡す限りの草原の中で寝転ぶフィアがすぐ隣にいた。相変わらず可愛い寝顔だ。

 見える範囲で見回すが少年はいない。訝しげに思ってちょうど振り返ると発見できた。

 できたのだが……、何かがおかしい。


「う、うーん……」


 違和感の正体がわからないまま考えていると、隣のフィアが目を覚ます。

 ぱちりと開けた瞳を覗き込んで声を掛ける。


「おはよう」


「あ、おはよう……」


 若干と頬を染めながら上半身を起こす。


「問題ないと思うけど、ケガとかはしてないか?」


 念のためにフィアに尋ねると、自分の体を確認するように触れて、あちこちの関節を動かす。


「うん、大丈夫みたい」


「そうか、よかった」


 そこでフィアも周囲を見回してようやく気が付いたのか、少年がいないことを尋ねてきた。


「ああ、後ろにいるよ」


 立ち上がって少年のほうへと近づくと、少年も気が付いたばっかりなのか上半身を起こして辺りをキョロキョロと見回していた。


「気が付いたか」


 声を掛けるとこちらを振り向く少年。

 その動きと共に肩からはらりと背中へ零れ落ちる銀髪が眩しい。

 小さい顔にほっそりとした体つきは少女と見紛うばかりだ。

 しかしあの神とやら、前世の姿とまったく似てない体を用意しやがったな……。


「ああ……、んん……? なんだこれ……?」


 その小さな口から紡がれる声は、神のいた空間で聞いた少年の声とはまったく異なるものだった。

 元の肉体は使えないからと新しく用意されたものだからして、声も異なるのは当たり前か。

 そのはずなのだが、聞こえた声は声変わり前の子どものような甲高い声だ。


「まあいいや」


 疑問があったようだがとりあえず先送りにすることにしたようだ。

 立ち上がって体の調子を確かめるとうんうんと頷いている。


「生きてるって素晴らしい!」


 死んだ実感が本人にあるかどうかはわからないが、自由に動く体に不満はないようだ。

 そのまま俺のほうへと歩いてきたかと思うと、おもむろにこちらの両肩を掴み、腕を掴み、何かを確かめている。


「やった! 触れる!」


 自分の体が透けておらず、触れることができることに感動しているらしい。

 苦笑しながらも同意を求めるようにフィアを見てみるが、なぜか不機嫌そうにしている。


「ははっ、よかったな」


 視線を少年に向けると、喜んでいた顔が疑問形に変わっている。

 何かあったのか尋ねようとして、そういえばお互い名前を名乗っていないことに気が付いた。


「あーそういえば自己紹介がまだだったな。俺は沢野井誠だ。で、こっちがフィア」


 フィアも一緒に紹介すると、軽く頭を下げている。


「フィアです。よろしく」


「あ、ああ……。おれは倉科(くらしな)瑞樹(みずき)だ。……よろしく」


 俺たちの服装はこちらに来る前と変わっておらず、現代日本風の動きやすいパンツに長袖のシャツのままだったが、瑞樹の服装も俺たちに合わせられているようだった。

 魔物のはびこる世界と聞いていたからか、なんとも無防備な装備だと感じてしまうが、幸いにして目視できる範囲に街らしきものが見える。


「まあ、何もない草原でじっとしてるのもなんだし、あそこに行ってみるか」


 と、街らしき方向を示しながら二人を促す。


「そうですね!」


 フィアはワクワクしながら街があるらしき方向を眺めている。


「……」


 瑞樹は話を聞いているのか聞いていないのか、またもや眉にしわを寄せた顔になっているが、若干青褪めている気がしないでもない。

 大丈夫かコイツ。


 青褪めながらも、何かを確かめるように両手で顔にペタペタと触れ、そして次は胸に手を当てるとピクリと体を硬直させる。

 しばらくして恐る恐る手を伸ばして股間に触れると。


「な、なんじゃこりゃーーーーーーーーーーー!!!!!」


 可愛らしい声で全力で叫ぶのだった。

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