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079 ナンパ

「うう……、マコト……、ひどいです」


「ん? 俺のハンバーグはいらなかったか?」


 からかうように問いかけるとフィアは首を左右に振って否定する。


「ち、違います! 急にあんなことされると……、その……」


 何と答えていいのかわからずに言葉を濁し、視線を辺りに彷徨わせる。

 ああもう! もじもじするフィアも可愛いなぁ!

 好きな女の子をいじめたくなる男の子の心境である。


「じゃあ次からは切り分けて、お皿で渡すようにしようか」


「えっ?」


 俺のセリフに一瞬ポカンとする表情になり、直後に少しだけ肩を落とすフィア。


「えっと、あの……、そうじゃなくて……」


「違うのか? あ……そうか」


 何かに気付いたようにニヤリとしてフィアへと言葉を続ける。


「わかったよ。ちゃんと『あーん』して食べさせてあげるから」


 ちょっと落ち着いたと思ったフィアの顔が再び真っ赤になる。

 周囲からはとうとう舌打ちさえ聞こえてくるようになったが、大人の対応であくまで気づかないふりを続ける。


「ごちそうさまでした」


 そうこうしているうちに食べ終わったらしく、取り繕うようにカトラリーをテーブルに置くと両手を合わせている。

 俺も最後の一口を咀嚼して飲み込むと、同じように「ごちそうさま」と口にして、水を口にする。


「あーうまかった」


 椅子の背にもたれかかりながら休憩しているが、フィアは背筋をまっすぐ伸ばしたままの姿勢を保ったままである。

 ……疲れたりしないんだろうか。

 そういえば家にいるときでもだらしない姿を見ることがない気がする。婚約者で一つ屋根の下で寝起きしているとはいえ、まだそこまで素を晒すほど一緒にいるわけではないか……。

 そういうのは時間が解決してくれるよな……、などと思いながら思考を止めた。


「そろそろ行こうか」


「はい」


 俺の言葉に同意して一緒に立ち上がると、伝票を持ってレジへと向かう。


「先に出て待っててくれ」


「あ、じゃあちょっとお手洗いに……」


「わかった」


 頷くと、フィアが先に外へと出ていく。ちょうど夕食の時間帯らしく、レジ前の待合室にはちらほらと人が集まっていた。

 邪魔になると悪いのでフィアには先に出てもらっている。フィアは財布も持ってないしね。

 会計中の先客がいたので財布を出しながらその後ろに並ぶ。しばらくすると順番になったので会計を済ませた。


「ありがとうございましたー」


 店員に送り出されて外に出ると、近くにあったエレベータホール横のトイレへと向かう。

 角を曲がってエレベータホールの前までたどり着くと、トイレへと向かう角の向こう側で壁を背にしたフィアが三人の男に囲まれているのが見えた。


「あ、マコト!」


 真っ先に気が付いたフィアがこちらに声を掛けてきた。特に焦った様子はないので問題はないのだろうか。

 フィアの声につられたのだろうか、男たち三人もこちらに視線を向けてくる。


「ああ、あれがお前の言ってた連れか? ……ってオッサンじゃねーか」


 近寄りがたい雰囲気をした二十歳前後と思われる風体である。茶色い短髪にピアスとかなり着崩した服装だけで、何となくフィアに声を掛けた彼らの目的を察する。

 フィアに手を出そうとはいい度胸じゃないかね。


「どうしたんだ?」


「おいおい、オッサンに用はねえんだよ」


 フィアに声を掛けるが一番手前にいた男に遮られる。


「ああ? 何言ってんだ。俺にだってお前らに用はねえよ」


 当たり前である。自分の方向に向かってくる人間が全部自分に用事があるとか自意識過剰すぎだろ。


「まぁまぁ、お互いが彼女に用があるんでしょう。ここは穏便に順番に行きませんかね?」


 今度は真ん中にいた、頭一つ分とび抜けて背が高い男が割って入る。

 はあ? 何を勝手に話を進めてんだ。言い方が気に入らないが、言ってることに間違いはないのかもしれない。

 フィアがお断りしてそれで済むなら事を荒立てることなく終わるだろう。というかすでに終わってる可能性もあるけど。


「ふーん。で、あんたらは俺の連れに何の用なわけ?」


 存外に『彼女に用があるなら俺にも断りを入れろ』という意味を含めて聞いてみる。


「今からオレたちと遊びに行くんだよ。オッサンは一人で帰れよ」


 俺から一番遠く、フィアに一番近い三人目の男がそう告げると、フィアに触れようとして手を伸ばす。


「やめてください。さっきお断りしたはずです」


 伸ばされた手を振り払ってきっぱりと告げた。

 さすがにフィアも、男の行動には渋面を表情に張り付けている。


「おいおい、つれないなあ」


 振り払われた男はおどけたように肩をすくめると、腕を組んでフィアの側から離れない位置を陣取っている。

 狭い通路なので、手前の男二人にも遮られてフィアはこちら側に来ることができない。


「なんだよ、一回断られてんじゃねーか。

 ……さて、そろそろ帰ろうか」


「はい!」


 奥にいるフィアに聞こえるようにわざとらしく声を掛けると、可愛らしい返事が返ってきた。

 挑発するようにフンと鼻を鳴らすと、フィアをエスコートするために男たちのほうへと歩を進めた。

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