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066 小金持ち

実家から帰ってきました。

「はじめまして。フィアと申します」


 ここは小太郎の事務所である。着いて早々に部屋に入ると電話相手の小太郎がソファに座っているのが見えたので、先制攻撃のごとくフィアが挨拶をしたのだ。

 対する小太郎はと言うと、立ち上がることもなく座ったまま目を見開いて眉間にしわを寄せているが反応がない。


「……おーい」


 目の前で手を振ってみるがやはり反応がない。

 フィアも首をかしげている。


「……もしかして電話の後ろにいた女……か?」


 ようやく絞り出すように出てきたかと思ったセリフは核心を付いたものだった。


「はい」


 反応があったためか安堵の笑顔で返すフィア。

 見事いい当てられたはずだが特に驚きはないようだ。事前に伝えていたとか思っているのかもしれない。


「えーと、コタロウさん……ですよね?」


 小太郎に尋ねるがまたもや反応がない……、と思ったが今回は少し早く我に返ったようだった。

 ……と思ったのは一瞬だった。まだ我に返っていなかった。


「あ、ああ……。さ、(さかき)……小太郎です。よ、よろしく……」


「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」


 笑顔で返したとほぼ同時に小太郎が勢いよく立ち上がると、ボーっとした表情のままふらふらとフィアの前まで来てその両手を取った。


 はあ……、いつもの病気が発症したか……。

 この後に起こる出来事についてため息をつきながら額に手を当てると、事の成り行きを見守ることにする。


「あ、あの……! ほ、惚れました! オ、オオ……、オレと結婚してください!!」


 予想通りいつものセリフが吐かれ、いつものように見守ろうと思っていたのだが今回だけはなぜかできなかった。

 イラついた気持ちを抑えられずに小太郎に近づくと、右拳を目いっぱい振りかぶってストレートをお見舞いする。


「ぶべらっ!?」


 どこかの秘孔を突かれた後のような悲鳴を上げて小太郎が吹っ飛んでソファへと背中から着地する。

 うおおおい! かなり手加減したはずだけどぶっ飛び過ぎじゃね!? ちょっとこれは気を付けないといけないかも……。

 仮にも空手有段者だ。これくらいのことで死にはしないだろう。

 さっきまで小太郎に手を取られていたフィアは、俺たちのやりとりに即反応ができなかったようだが、小太郎がぶっ飛んだあとにようやく反応を見せる。


「あわわわ、だ……、大丈夫ですかっ!?」


 慌てて小太郎に駆け寄ると、殴られたであろう頬に手を添えている。微かに光って見えるのは【ヒール】でも使っているのだろうか。


「マコト! いきなりなんてことするんですか!?」


 いきなり強硬な手段を取った俺に非難を向けているフィアであるが、怒りながらもその頬が緩んでいるように見えるのは気のせいだろうか。


「くっそ! いきなり何しやがるんだ!」


 何が起こったのかようやく理解した小太郎も俺に文句を言ってきた。


「すまん。なぜかイラッとしたんだ。許せ」


 確かにいつもであれば傍観して成り行きを見守るだけなんだが、今回だけは無理だった。……いや、正確には二回目か。確か一回目は妹のさくらに同じことをやらかしたときだったか。


「んだよ! そういうことか!? 引きこもってばっかりだと思ってたがリア充になりやがったのか! ……爆発しろ!」


「はあっ!? 誰が引きこもりだ! こうやって事務所に来てやってるじゃねーか!」


 引きこもり呼ばわりには断固抗議させてもらう。食料調達やたまにある仕事で家を空けることもあるのだ。


「俺が仕事の手伝いを頼んだ時だけだろうが!」


 はあ? んなわけあるかい。

 お前から誘われなくても外出くらい……、えーと……、あー、そういえば、暇つぶしとか遊びでは外に出ない気がするな。

 ……マジか。

 必死に最近外出した目的を思い出すが、小太郎の仕事の手伝いと飯を食いに出る以外に思いつかないことに愕然とする。マジで俺は小太郎に言われなければ外出しないのか?

 いやいや、誘われてたまに外に出ているから満足しているのであって、きっとそれがなければ自ら外に出てるはず……。

 一人で凹んでいる間に治療を終えたのか、フィアが寄り添ってくる。


「マコト……? どうしたんですか?」


 必死に「そんなことはない」と自分に言い聞かせているところにフィアの心配する声が届く。

 なぜか慰められている気分になってさらに凹む。


「はっはっは! ようやく自覚したか。

 ……いやそんなことは後でいい。聞きたいことはあるがとりあえず座れ。先に本題を済ませよう」


 ちらりと隣に座ったフィアに視線を投げかけるが、後で問い詰められるのは間違いない。

 凹んだままの俺も言われるがままにソファへと座るとため息をついた。と同時に小太郎が懐から二枚の書類をテーブルに出す。


「これは?」


「鑑定結果だ」


 渡した金貨が二種類だから紙も二種類なのだろうか。

 三十枚渡した俺の金貨のほうを見ると、1/2オンス、K20と記載があった。もう一枚のほうには1/2オンス、K14と記載がある。

 えーと、なんだコレ。何かの単位かな?

 よくわからないが、きちんとした結果が出てるということは期待してもいいのだろうか。

まさかの自己紹介でほとんど終わってしまうとは。

というか今回の話のタイトルこそ「鑑定結果」にしたほうがよかったかと思わなくもないです。

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