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045 帰宅

「えええぇぇぇっ!? ナニコレ! えらいことになってんじゃん!」


 ニュースを読んだ明が雄叫びを上げている。


「うわぁ、……でも確かに、私たち行方不明になってるわね……。どうしよう」


 呟いた穂乃果に疑問を抱く。とりあえず素直に帰ればいいんじゃないの?


「心配してくださってる人もいらっしゃるでしょうし、早く帰ってあげればいいと思いますけど……」


 俺の疑問をフィアが代弁してくれた。


「そうなんだけど……。ほら、いろいろ聞かれるじゃない?」


「あぁ……。そうだね……。どうしよう?」


 穂乃果の言葉を聞いて明も急に冷めたように冷静になる。

 いや、うん。確かにそうだな。なんて言えばいいんだろうな? って俺も例外じゃないのか?

 小太郎はいいタイミングで連絡取れてたから大丈夫かもしれないが、妹のさくらには心配かけてるな。

 ずっと充電ケーブルにつながれたままの自分のスマホをテーブルから取って確認すると、そこには小太郎からのメールが一通と、さくらからのメールと着信が十数件たまっていた。


「……見なかったことにしよう」


 ひとまず現実逃避することに決めた。今は明と穂乃果だな。うん、どうしようか。

 本当のことを話したとして信じられるわけもない。『小説の世界に迷い込んでました』と言われて誰が信じるというのか。

 逆に信用されても困ったことになりそうだ。異世界が存在したなどと広まればどうなることやら。……どうなるんだろうね? 想像できんな。まあいいか。でもきっと大変なはずだ。


「あ、そうだ」


 思わず声を出した俺に視線が集中する。


「どうしたの?」


 俺のスマホにたまった着信と一緒だ。説明できないのであれば『見なかったこと』にすればいい。


「覚えてない、で全部通しちゃえばいいんでない? どうせ説明できないだろ?」


 俺の言葉に逡巡する様子であごに手を当てる穂乃果。明は腕を組んで唸っている。


「……それが一番楽、かな?」


 やがて納得したのかうんうんと頷いている。


「でも、お母さんには……黙ってることできないかも……」


 若干肩を落としたように呟く穂乃果。ほほぅ、母親とはいい関係を築けている感じかな。俺にはもう両親がいないからか、親を大事にしたい気持ちはよくわかる。


「親に説明する気があるなら、俺がフォローしてやらんでもないぞ」


「――えっ?」


 俺の言葉に驚いた視線を向ける穂乃果。


「むしろ俺は、一番最初に行方不明の二人に接触して保護した人間ということになる。何もしなくても親御さんと対面する機会はあるんじゃないかな」


「あ……、じゃ、じゃあ、その時はお願いします」


「オレもよろしくお願いします」


「あー、まぁそこまで期待はしないでくれよ。賛同する人間は一人でも多いほうが信じやすいだろうってだけだから」


 頭を下げる二人に対して適当に返事をする。物的証拠である魔法書のことや、実際に魔法を目の前で使ってまで信じさせるつもりはない。


「私もお手伝いさせていただきますよ」


 話を聞いていたフィアもにっこりと微笑みながら一歩前に踏み出してきた。

 いや何言ってんの? この世界に居座る気マンマンか! といかフィアも一回帰れよ!

 つい忘れがちになっているが、そういえば俺には王女様誘拐の疑いがかかっているのかもしれないんだった。はやくなんとかしないと……。


「まあそういうことだ。親も心配してるだろうし、そろそろ帰ってやれ」


「はい、そうします」


「そう……、ですね。

 ……ありがとうございました」


 二人ともスマホの充電ケーブルを引っこ抜くと電池残量を確認してポケットに仕舞う。

 学校の廊下を歩いてるときに召喚されただけあって手荷物はない。召喚されたままの制服姿だ。

 あ、そういや財布持ってんのかな。


「そういやお金ある?」


「――あ」


 ポケットを抑えながら呆然と呟く明。


「……そういえばお金ないわね」


 穂乃果も持ってないようだ。

 しょうがないね。


 テーブルの足元にあるカバンから財布を出すと、二人に五千円ずつ手渡す。


「ほい、こんだけあれば足りるでしょ」


「いや……でも――」


「ありがとうございます。必ず返しますので」


 明は返そうとしたが穂乃果がそれを遮るようにセリフをかぶせてきた。

 受け取らないと帰れないのだから選択肢なんてないよね。


「ほら、あんたもお礼言っときなさいよ。お金なくてどうやって帰るつもりなの」


「あ……、ああありがとうございます!」


「へいへい」


「あ、そうだ。誠さん。私たちと連絡先交換しましょう」


 送り出そうと立ち上がり、部屋のドアを開けたところで穂乃果に声を掛けられる。


「そうだな。これも何かの縁だ」


 テーブルの上に放置されてたスマホを掴むと二人と連絡先を交換して送り出すのだった。


「お世話になりました!」


「駅まで微妙に距離はあるけど、Gooogle先生に聞けば案内してくれるだろ」


「はい、そこは大丈夫です」


「じゃあまたな」


 二人は連れ立って、久しぶりに自宅へと帰るのだった。


「……これで問題が全部片付きましたね!」


 こぶしを握りながらフィアがそう宣言する。

 いや片付いてねーし! むしろ一番大きい問題が残ったままだよ!?

 小太郎とさくらとフィアと、まだ三つ残ってるよ……。


「はあ……」


 手元のスマホを確認すると、相変わらず小太郎のメールとさくらの着信が残ったままだ。やはり気のせいではなかったか。

 幸太郎のメールを開いてみると、そこにはこう書いてあった。


『やっぱり仕事手伝ってくれ。お前がいないとダメだわ。すぐ連絡くれ』

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