039 アンデッドになるために召喚されたわけではありません! -突撃-
作戦はこうだ。
少数精鋭を従えた俺が、レイ・ウルティマイルの執務室を『襲撃犯について話がある』と訪ねて捕縛する。
うん、馬鹿だろ。証拠は挙がってるのになんでわざわざ話しかけてから捕縛なんだよ。反撃の機会を与えることになっちまうだろ。怪しさ満点じゃねーか。
こうなると後ろの少数精鋭もあんまり信用しないほうがいいかもしれないな。最悪の場面を考えると、袋のネズミなのはむしろ俺の方かもしれない。前後からの挟み撃ちってね。
まあ十分気を付けていくが、ちょっと不安なところもあるな。新たに使えるようになったスキルを自分でもあんまり把握できていないというところがなんとも。
「ここです」
そんなことを考えながら歩いているとどうやら目的の執務室の前に到着した。後ろに控えている少数精鋭とやらは八人だ。
見た目で金属製の鎧に長剣を腰に佩いた騎士が六人、ローブを着こみ杖を握りしめるのは残りの二人だ。
執務室の広さはわからないが、そんなに広いこともないだろう。というのにこの人数は多くないか?
「……ああ、準備はいいか?」
後ろを振り返らずに静かに呟くと、部屋の中の気配を探る。話では副神官長のレイが一人で仕事をしているはずだが……。
なぜか室内にある人の気配は全部で三つだった。
真正面にあるのはおそらく副神官長本人だろう。【空間認識】のスキルも使用してみるが、他の二人はどうも部屋の隅に隠れるように配置されているようだ。
普段からいる副神官長の護衛だろうか……。
――んなわけないよね。
「――問題ありません」
【気配察知】スキルのおかげか、振り向かなくても後ろの人間がそれぞれ頷いているのが感じられる。
さて、状況をもう一度整理しておこう。後ろに八人、前に三人、最悪全員が敵に回る……と。
賊を退治したおかげか、追い詰められた相手の余裕がなくなって一気に攻勢に出てきたってところか。……適当に考えた状況に矛盾がないってところが厄介だな。それだけ可能性があるってことだから。
「じゃあ、行くぞ!」
こっそりと無詠唱で自分に補助用魔法をいくつかかけると、ノックをせずにドアを勢いよく開けると中に飛び込む。
執務机の手前にあった来客用テーブルを足蹴にするとそのまま跳躍し、まだこちらに気づかずに机に視線を向けているレイの頭上を飛び越える。
レイが気づいて出入り口に視線を向ける頃には俺はそこにはいない。
後ろから首に手を添えると、振り向かなくても見える位置に魔法で氷の槍を四本作り出してレイに向けるとひと声かける。
「動くな」
よし、これでひとまず前後からの挟み撃ちは回避できたか。一応作戦通りに確認はしておくか。
「襲撃犯について話があるんだが……、お前がけしかけた犯人だな?」
遅ればせながら執務室に突入してきた精鋭たちも、各々武器を構えてこちらを睨み付けている。
ぐるりと部屋を見回してみるが、レイ以外の気配の姿は視界には見当たらない。
……なんだ? たしかに気配はそこにあるんだが。
「なんだキミたち……、ひいぃぃっ!!」
レイの悲鳴に意識を引き戻される。目の前に迫る氷の槍が目に入ったようだ。
「もう一度確認させてもらう。この間の襲撃事件の指示を出したのはお前か?」
「……くっ、な、なんのことだ」
「犯人が黒魔法でお前の名前を出したらしいからな。言い訳はできないぞ」
「――なっ!?」
驚愕に目を見開くレイ。顔色はだんだんと青くなってきている。
ふむ……。本人に知らされていたわけじゃないのか。
前方にいる精鋭八人もじりじりとこちらに近づいてくる。
「くっ……、くそっ!」
「抵抗するならしてもかまわんぞ」
こちらに一番近い騎士が不穏な言葉を放つ。
なんだよおい、抵抗して欲しいのか。
剣を構えて今にもこちらに飛びかからん勢いだ。
「――ああああぁぁぁぁぁ!!」
緊張に耐えられなくなったのか、首に添えられていた俺の手を振りほどくように左腕を振り上げ、懐に入れた右手を振りかぶりながらこちらへと遠心力とともに叩きつけてくる。
「ちょっ!」
咄嗟に右腕を掴んで防御するが、その右手にはナイフが握られている。
まさか氷の槍が目の前にあるにもかかわらず攻撃を加えられるという想定外の行動に、この先の行動が遅れてしまう。
「貴様っ!」
そこに飛び出してきたのは騎士の四人と、突然視界に現れた二人だった。
気配は感じるだけで見えていなかったが、動き出したからだろうか、その姿が見えるようになっているのを視界の両端で捉える。
「くそっ!」
ローブを着こんだ魔法使いの二人も何やら詠唱をしているが、一番早いのはやはり目の前の騎士だ。
執務机の向こう側から騎士が二人、剣を上段からと横なぎで払ってきた。
俺自身はその間合いの外だが、レイはまともに食らう位置にいる。
また両端の二人が何かを振りかぶって投げると、レイにではなく俺に向かって飛んできた。