038 アンデッドになるために召喚されたわけではありません! -進展-
「ちょ……、何でフィアさんが誠さんの部屋に……?」
「もしかして、やっぱりそういう関係だったのかしら……」
狼狽えた様子だがよくわかっていなさそうな明と、微妙な顔をしながらも納得といった感じのセリフを呟く穂乃果。
二日ぶりに見るが特に変わった様子はない。今のこの状況以外では。
しかしそういう関係ってどういう関係ですか、俺にはわかりません。あ、説明はいりませんよ?
「なんかよくわからんが、誤解してるんじゃないかな?」
フィアの後ろから声を掛けると二人の視線がこちらに向く。穂乃果の表情は変わらなかったが、俺を見つけた明は何かに気が付いたようで「ああ……」とか零している。
何を言われているか分かっていないフィアは小首を傾げている。むしろ当事者だろうが。
「何が誤解なのよ。一日中部屋に籠ってたかと思ったらフィアさんを連れ込むなんて……」
腕を組みながら穂乃果の視線をまっすぐと見返す。
「やっぱり誤解してるんじゃないか。俺はちゃんと昨日、ひとりだけで寝てたんだからな。連れ込んでなんかいないからな」
この部屋でのことじゃないが嘘は言ってないぞ。ちゃんと自分の部屋で一人で寝てたし。
あの二人には元の世界に戻れることはまだ言わないように、とフィアには言ってある。
たぶん連れて帰れるであろうとは思うが、百パーセント確信があるわけではないからだが、それが本音ではない。
邪教徒との戦闘に集中してほしいから、と言うのが一番だ。仮にも主人公を殺してアンデッド化させるような相手である。死なないという保証などない。
というわけで当たり障りのない言い訳しかできないのだが。
「じゃあなんでフィアさんがマコトの部屋にいるのよ! 鍵かかってたのは確認してるんだから!」
俺の言葉に明は眉を寄せるのみだが、穂乃果はまだ噛みついてくる。
というかしつこいな。何かあったわけじゃないが、別に何してたとしても関係ないだろうが。
若干めんどくさくなりながらも口を開こうとしたところで主犯からの言葉が入った。
「あの、寝てるマコトの部屋に忍び込んだのは私のほうなので、責めるなら私にしてください」
「――えっ?」
なんとフィアからフォローが入った。にしても自ら夜這いを認めるとかやるな。
自分のせいで他人が責められるのが耐えられなかったのかどうかはわからないが、なんにしろ矛先が俺から逸れるのであればいい。
とは言えだ、この話題はもういいんじゃないかな。
「まぁまぁ、それはもう置いといて、何かあったんじゃないのか?」
ドアを激しく叩きながら起こしに来ることなんて今までなかったし。
「……ああ、そうでした。邪教徒について進展がありまして、朝食を早めの時間にしてその後で手伝って欲しいことがあるそうですよ」
微妙に反応の遅れた穂乃果を遮るようにして明が差し挟んでくる。
ナイスだ、明くん!
「……そうなのよ。昨日の夕方に知らせに来たのに反応ないし。……まったく、どこ行ってたのよ」
ああ、なんか突っかかってくると思ったらそれでか?
しかし進展があったとは……。こりゃ早く決着がつくかもしれんな。
俺たちは黒幕の正体を知ってるけど証拠がなかったから、どう攻めようか悩んでたところがあったからな。
「なので、早く朝ごはん食べに行きましょう」
「ああ」
「行きましょう」
「以前に騎士団長から話は聞いていたかと思うが、昨日闇魔法を用いての尋問が行われた」
朝食後、目の前で説明をつらつらと述べているのは神官長のジョゼだ。手伝って欲しいことってなんだろね?
にしても闇魔法か……。あー、そういえば初めての訓練日にセシルさんが言ってた気がするな。昨日尋問あったんだ。それで進展があったんだな。
でも黒幕が判明したわけではなさそうだな。
「そこで、賊にあなたたちの襲撃を指示した人物が判明した」
ほほぅ。しかしジョゼさんや、初めて会ったときと口調変わってませんかね。あと顔色が悪いよ?
「こりゃ案外あっさり片付くかもな……」
俺のつぶやきは誰にも届かなかったようで反応する者はいない。
「その人物の名は副神官長のレイ・ウルティマイルだ」
――誰ソレ。そんなやついたっけ……。
小説は読んだばっかりだが、レイ・ウルティマイルという名前は記憶にない。
隣のフィアをチラ見してみるが、ふんふんと真面目な顔で頷くだけで特に疑問視はしていないようだ。
……小説を歴史書とか言ってたくらいだし、見知らぬ名前が出てきても何も思わないか。
しかし覚えのない名前の人物が出たということは、もしかすると無実の人を祭り上げようとしているんだろうか。
いやしかし、闇魔法を使って嘘を言わせるとかできるとも思えないし……。ってか尋問者もグルならできるのか。
「これからその人物の捕縛作戦を敢行するんだが、勇者殿――特にマコト殿には手伝っていただきたいと思う」
「ん? 俺ですか?」
不意に名前を呼ばれて顔を上げると、俺を鋭く睨み付けるジョゼと目が合った。
「ああ、マコト殿は自由に動かせる最大戦力だからな。よろしく頼む」
「……わかりました」
まったくもって先を予想出来なくなったが、相手は確定しているのだ。油断せずに行こう。