表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/153

035 風呂

「はー、面白かったー。

 ――あれ? マコト、どこ行ってたんですか?」


 風呂の用意をあれこれして戻ってきたら、ちょうどフィアが最終巻を読み終わったところだった。

 しかし読むの早いな。まだ四分の一残ってたと思ったが。

 にしても普通に読み終わったって感じだな。登場人物が知ってる名前だらけでおかしいとか思わないのかな。


「ああ、ちょっと準備をね。

 ……ってか、読み終わった感想がそれか。見知った名前ばっかりで疑問に思わないのか……?」


 俺の問いかけに不思議そうに小首を傾げるフィア。

 と思っていたら急に目をキラキラさせて興奮した様子に早変わりする。


「――そう、そうなんですよ! すごいです!」


 いやいや、何をそんなに興奮してるんですか。そのセリフ今日何回目かね。


「こちらの世界の人々は、他の世界のことまで把握しているんでしょうか! まさに歴史書といった感じですよね! これ!

 子どもに親の名前を付ける事なんてよくあることですし、まさに歴史は繰り返される、とでも言うのでしょうか!」


 椅子から勢いよく立ち上がり、小説を胸元に抱きながら力説するフィア。まさに、遥かなる歴史に思いをはせるといった感じに見えなくもないが。

 しかし、そうくるか! まったくもって予想外だよ!

 なんかこう、不安になったり急に泣きだしたりとか、最悪俺自身が怖がられるかもとか考えたりしてたんだけど、慰めの言葉とか考えてた自分があほらしい。


「いや……、まあ、そんな感じだ。悪い奴らの正体もわかったことだし、さっさと問題解決してこっちの世界で行方不明になってるらしい二人を元の世界に戻してやろう」


「はいっ!」


 力強くうなずくフィア。もともとファンタジー世界の住人だから、人間が召喚されたとかいう話を聞いても不思議に思わないのかもしれないな……。

 というか、フィアが考えていることが世界の本当の姿だっていう可能性だってあるんだ。予想と違う反応だからと言って一蹴するのもよくないな。


 ……そういえば俺もスキルに召喚魔法があった気がするけどどうやったら使えるんだろうな。本当に他の世界から呼び出したりできたりして。

 うーむ。まぁ今はやることあるし保留でいいか。暇になってから研究するとしよう。


「ところで、なんの準備をしてたんですか?」


 おう、そうだった。風呂だ風呂。


「ああ、風呂の用意をしてたんだ。日本人たるもの風呂に入らないと一日が終われないからな」


「お風呂……ですか?」


「そそ、フィアはお風呂って知ってる?」


「ええ、もちろん。貴族階級以上の屋敷や高級宿くらいにしかお風呂はありませんでしたが、ちゃんと知ってます。

 ……って、えっ!? マコトの家にはお風呂があるんですか!?」


 胸元の小説を落としそうになるほどに驚きながら叫ぶフィア。

 そんなに驚くことかね。風呂なんぞどこの家にでも……って、貴族か高級宿ね……。


「マコトって、貴族だったんですか……?」


「はい?」


「だって……、お風呂ってお金のかかる設備なので……」


「ああ、フィアの世界じゃそうなんだったな。こっちだと風呂は一般的だな。むしろ風呂なしの家を探す方が難しいくらいに」


 探せばそんな家もあるが、探さないと見つからない程度には少ないはずだ。


「そうなんですね……。やっぱりこの世界はすごいです」


「とりあえずだ。

 風呂場の使い方でも教えようか」




 トイレで一悶着あったので風呂の説明はどうなるかちょっと不安だったのだが、思ったよりスムーズに終わった。説明だけは(・・・・・)

 洗面台にあるものと共通のものが風呂にあるので、全部説明する必要がなかったのが大きい。シャワーとカランの切り替えや、お湯の出し方などがそれだ。

 あとはシャンプーリンスの使い方だな。男の一人暮らしの風呂なので、トリートメントやコンディショナーなどというものはもちろんない。まあフィアの世界からすると、リンスだけでも髪質は今よりよくなるんじゃなかろうか。

 いやまあ、そんなことはどうでもいい。


「で、今なんて言った……?」


 聞き間違いかと思い再度問いかけるのだが、頬を真っ赤に染めながらもじもじするフィアの口から出るセリフが変わることがなく、先ほどと同じものだった。


「ですから……、責任を取って、一緒に……、お風呂に、入りましょう」


 はあっ!? またそれかよ! いったい何の責任なんだ!

 っつーか普通逆じゃね!? 男湯と女湯が入れ替わるとかいうテンプレあるあるだと、風呂場で鉢合わせて裸を見られた責任を取れとかさ! 普通そっちじゃねーの!

 なんで責任とって一緒に風呂入るのさ!


「……意味わからん」


 フィアの立場や状況がなければぜひ喜んで! と返事したくなるところではあるが、ここは自重しないとまずい。

 ただでさえ誘拐犯になるかどうかの瀬戸際だというのに、追加でレイプやら強姦やらの罪を着せらなんぞすればたまったもんじゃない。

 しかしだな、その恥ずかしそうに誘う様子には抗いがたいものがあるな……。ちょっと、これはやばいぞ……。反則じゃねーかこれ。

 抵抗力が残ってるうちにさっさと退散するしかないな。


「とにかくだ、恥ずかしいなら無理せんでよろしい。先に風呂入ってきなさい」


 諭すようにフィアに告げると、そそくさと回れ右して部屋に戻るのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
↑クリックで投票できます

第六回ネット小説大賞受賞
隣のお姉さんは大学生
もよろしくお願いします!

ホムンクルスの育て方(改)
魔改造されたホムンクルスに転生したお話はじめました。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ