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033 ドライブ

ちょっと短め。

「きゃあああぁぁぁぁぁ!!!」


 甲高い声でかわいい悲鳴を上げるのは車の助手席に座るフィアだ。

 どうやって本屋に行こうかと悩んだ挙句、結局車にしたのだった。


 我が家の近所に本屋なんてものはなく、郊外にある大型ショッピングモールに行くしかない。自転車でも行けないことはないが、三十分もかかる上にフィアは乗れないだろう。

 公共交通機関という手も考えたが、移動だけでフィアにあれこれと質問攻めにされるのも勘弁である。

 車なら問答無用で現地まで行けるはず……、という考えから必然的にそうなった。


 我が家の車はワンボックスタイプの普通車だ。両親が亡くなって妹が嫁いだ今となっては不必要なサイズではあるが、まだ使えるのにわざわざ買い替えるのももったいないだけだったが。

 そんな愛車の助手席でフィアが目を白黒させて口を手で覆いながらも、口から零れる悲鳴とは一致しないワクワクした表情をさせている。


「は、速いです……!」


「ははっ、フィアの世界じゃスピードの出る乗り物って言えば、馬とかになるのかな」


「そう、ですね……」


 フィアは辺りの景色をゆっくり見回しながらじっくりと考え込むように答える。


「一番早いのは馬だと思いますけど、私は馬車にしか乗ったことがないのでここまで早いスピードは初めてです!」


 なるほど。そういやお姫様だったな。乗馬をするかどうかはわからんが、少なくとも全力で走る馬に乗ったことはないのだろう。

 馬車でそんなスピードを出すとも思えないし。


 赤信号で止まったところで助手席に座るフィアに視線を向ける。

 そこには水色の長袖ワンピースを着こんだ一般的な服装の美少女がいた。さすがに異世界の服だと目立ったので、主のいなくなった妹の部屋から放置されていた服を引っ張り出してきたのだった。

 本人の承諾は取ってないが、どうせ放置されてる服だし問題ないだろう。

 好きな服をと言ったが、異世界人であるフィアにはこちらのファッションがわかるはずもなく、試行錯誤しながらも俺が選んだのだが、特にハプニングもなく終わってよかったと思う。

 さすがに実家に残してると思わないが、クローゼットを開けて下着類に出会わなかったのは不幸中の幸いだった。


「……あ、もしかして赤い時は止まるんですか?」


 青信号になって動き出した車に気づいたのか、フィアが予測を立てる。


「ああ、そうだよ」


「へえ、すごいですね……」


 フィアからするとこの世界にはすごいものだらけなんだろう。フィアの言う『すごい』というセリフを俺も何回聞いたかわからない。




 そうこうしているうちに目的地に着いた。各種専門店や映画館まで詰め込まれた大型商業施設である。

 ここの本屋は最上階である四階にあるので、車を停める駐車場の階もそれに合った高さまで登ることになる。


「ど……どこまで上がるんですか……」


「……六階かな?」


 商業施設の店舗と駐車場は隣同士になっているが別棟で、天井の高さがそれぞれ異なるので建物の高さが同じと言っても階層が同じというわけではない。

 そのため本屋のある四階は、駐車場でいうところの六階であった。

 駐車場を駆け上がる螺旋状の通路は壁がないため、助手席に座るフィアの向こう側を見れば外の景色が見える。フィアはその窓に張り付いて外を眺めているので、どんな表情をしているのかはこちらからは窺えない。

 声の調子からすると怖がっているわけではなさそうだが。


「あ……」


 上昇をやめて駐車場建物内に入ったところでそんな気落ちした声が隣から聞こえてきた。景色を見ていたかったんですかね。

 さすがに平日の昼過ぎなので駐車場の空きはそこそこある。適当なところに停めるとエンジンを切ってキーを抜くとポケットに仕舞った。


「はー、到着っと」


 運転席で伸びをしながら到着を告げるが、フィアは周りをキョロキョロするのみで降りようとはしない。

 ああそうか。ドアの開け方わからないのかな。

 苦笑しながら運転席から降りて反対側の助手席へ回ると扉を開けてやる。が、なかなか動き出さないので恭しく手を差し出した。


「どうぞ、お姫様」


 からかい半分で降車を促すと、若干頬を朱に染めながらぷくりと膨らますフィアがそこに出来上がっていた。


「お姫様じゃありません。フィアです! マコト様!」

おかしい。本屋にたどり着かなかった。

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