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031 実在

「そ……、それが、遠くの人と連絡を取れる道具なのですか!」


「ああ、そうだよ。……ちょっとだけ試してみるか?」


 とりあえず妹に生存メールだけを送りながらフィアに返事する。長くなりそうなので電話はしない。というかどうせ仕事中だろうし。


「――っ! いいんですか!?」


 フィアはもう大興奮だ。犬のしっぽでもついていればブンブン振り回しているに違いない。

 そろそろ魔法書が使えるようになっているとは思うが、一分一秒を争うほどでもない。すでに一週間近く経っているのだ、一分一秒などとどうということもないだろう。

 実際に誘拐犯が確定したわけでも、指名手配されたわけでもなく、可能性があるというだけの話だと実感が沸かないからかもしれないが。


「――ほいっ」


 とにかく、もうちょっとフィアの反応を楽しもうと思い、自宅に電話をかけたままのスマホをフィアに渡した。


「えっ、あっ! ……っと」


 ビクビクしながら受け取ったフィアが好奇心の目でスマホを眺めるが、


 ――ピリリリリリリリ!!


「――っ!!!???」


 盛大に鳴り響いた自宅電話の音に反応してスマホを取り落としそうになって目を白黒させている。


「あっはっはっは!」


「ななな……! なんですか! これはっ!?」


 しっかりスマホを両手で握りしめながら音の聞こえる方向に顔を向けるフィア。


「フィアが持ってるそのスマホでこの家の電話を呼び出してるからね。

 こうやってスマホを耳に当てて待ってて」


「こ……、こうですか」


 恐る恐るスマホを耳に当てるフィア。

 その間も自宅の電話はずっと鳴り続けている。どうもそちらが気になるようで、スマホを耳に当てながらキョロキョロするばっかりだ。

 やっぱり小動物みたいでかわいい。


「じゃあ呼び出しに出てくるから、そのまま耳に当てて待っててね」


 まるでしゃべれなくなったかのように俺の言葉に首をひたすら縦に振るフィアを部屋に残して、電話のあるリビングに向かう。

 最近鳴らなくなって久しい電話の受話器を取ると耳に当てる。


「もしもし、フィア聞こえるか?」


『……あ、……え、あ……』


 電話越しに呻くようなフィアの声が聞こえる。


「おーい、聞こえるかー?」


 少し大きめの声で呼びかけてやる。


『マコト!?』


「おう、ちゃんと聞こえてるな。これが電話だ」


『はい! 聞こえます! すごいです!』


「今は家の中同士だけどな。海を越えた向こう側の相手とも話ができるぞ」


『――えっ?』


「さてと、そろそろ切るぞー」


 なんだか硬直しているようにも感じるが、返事を待たずに電話を切ると受話器を置いてそのまま自室へと戻る。

 自室の扉を開けるとフィアはまだスマホを耳に当てたまま固まっていた。うむ、まだしばらく放っておこう。

 パソコンの電源を入れて、となりのテーブルの下に潜り込む。

 えーっと確かここら辺に……。


「あったあった」


 テーブルの下にある本棚の一番上にある本を手に取ってタイトルを確認する。


『アンデッドになるために召喚されたわけではありません!』


 それは先ほどまで中に入っていたはずの物語を書いた小説だった。

 やっぱり一番上にあったか。魔法書に一番近い場所に置いてある物語の中に入るという予想は案外間違っていないらしい。

 何気なくページをめくってプロローグを読み進めていると、自分が体験したストーリーが進んでいくが、そこで手が止まる。


「――はあ?」


 どういうことだ? どうなってんだ……。

 何度読み返してみてもそれは変わらない。本を閉じて開きなおしてみても、当たり前だが内容が変わるわけではない。


 さっき電源を入れたパソコンに向かってブラウザを立ち上げると、検索欄に手に持った小説のタイトルを入れる。

 画面に出てくるあらすじを読んでみるが、やはり小説に書かれた内容と変わらなかった。


「……なんだよこれ」


 なんで、主人公の名前が違う(・・・・・・・・・)んだ……。高校の名前も違うじゃねーか。

 さらに読み進めるが、国王や騎士団長、神官長の名前は自分が紹介されたものと一致する。

 真夜中に賊に襲われるのも同じだ。だがやはり、主人公の名前が違っていた。


「……どうしたんですか?」


 いつの間にか復活していたフィアがスマホをしっかり握りしめたままこちらに尋ねる。


「……いや」


 言葉を濁しながらもう一度パソコンに向き直ると、ブラウザの検索欄にもう一度文字を打ち込む。


『キサラギ高校 行方不明』


 まさかそんなことがあるはずはないと思いつつも嫌な予感がしてしょうがない。

 恐る恐るキーボードのエンターキーを押下するも、そこに出てきた検索結果に嫌な予感が的中したことを悟ったのだった。

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