019 物語1 -経緯1-
ここは王城の一室。そこに召喚された四人が集まっている。
あれから夕食を挟んで解散し、それぞれ一人に一つの部屋が割り振られたのだが、今は全員が俺の部屋に集まっていた。
今までは成り行きでここまで来てしまったが、ようやく召喚された四人だけが一堂に会することができたのだ。
スキルの詳細や使い方については明日という話だったので、ここで四人そろってやることと言えばひとつだろう。
「オレたちは都内のキサラギ高校の一年だよ。委員の仕事で職員室から教室に戻るところでなんかよくわからん光に包まれたかと思ったら、あそこにいたんだ」
「ええ、そうね。明と同じクラス委員だったから、私も一緒だったわ」
ほほぅ、キサラギ高校ね。聞いたことはないが、ネットで調べれば実在していればすぐ出てくるだろ。……出てこない可能性の方が高いが。
何せここはフィクションの世界だ。実在の人物団体とは一切関係がないはずなのだ。下手に日本という共通の元の世界があるだけに、俺たちが帰れると知られれば一緒に連れて帰れと言われるのは確実である。
だが、そこがこの二人のいた世界であるはずはないのだ。自分のよく知る世界なのに、自分のことを知る者が誰もいないというのはどれほど辛いことになるだろうか。
……何もわからない異世界で生活するよりはマシなのかもしれないが。
そういうわけで、本来であれば召喚された経緯などやお互いの事について話し合うのではあるが、俺は二人にちょっと突っ込んだ地元の話を聞いているのだった。
通ってる学校さえわかれば、近くで行方不明になっている人物がいればすぐにわかるかもしれないしね。
そんなことをしても無駄だという思いはあるんだが……、一応、念のためにね……。
「ふーん。召喚されたときの状況は俺たちと同じだな」
微妙に感じる違和感の正体が掴めず、もやもやした心のまま二人の話に相槌を打つ。
一方俺たちの状況をどう説明したものかと思案する。同じと答えたものの、さすがに俺と王女様とであれば見ただけで歳が離れているのがわかるだろう。
王女様には念のため、本に関することは話さないように言ってある。そうなればどこから来たとかという話もできなくなるので、もうぶっちゃけ何もしゃべらなくていいとは言ったのだが……。
「そうですわね」
さっきからやたらと笑顔でこちらを見つめているのだが、何か嫌な予感しかしない。
会ってまともに会話するようになってまだ一日目のはずなのだが……。
「……大丈夫ですか?」
原因のわからない違和感と嫌な予感に眉を顰めていると、明からこちらを心配する声が上がる。
「えっ? ああ、大丈夫。なんだかえらいことになったなーって……」
「ですよね……」
そう言ってまたもやため息をつく明。特に疑問には思われなかったようだ。
「誠さん達はそのとき何をしてたんですか?」
どう答えようか悩んでる質問を、穂乃果がズバッと攻めてきた。
うーん。何してたか……、っていうのはなんとでもなるんだけど、王女様との関係も考えると何と答えるか悩むところだよね……。たまにコソコソ会話してたし、今更別々の場所から召喚されたまったく無関係の他人ですと言ったところで手遅れだ。
ホームステイ中の外国人ってのは、日本語しかしゃべれない時点でダメだろうし。というかすでに流暢にしゃべりすぎだし、留学生って言った時点で怪しいよね。
「ああ、近所を散歩してて偶然会った彼女と世間話をしてたところだったかな」
結局気の利いた設定が思い浮かぶはずもなく、俺たちの年齢差を考えても無難と思える返しをするしかない。
「へー、ところでフィアさんは、誠さんとどういったお知り合いなんですか?」
穂乃果が興味深そうに突っ込んでくる。できればほっといて欲しいところなのだが、おっさんと美少女の関係というのはやっぱり気になるもんですかね。
「……ただのご近所さんだよ」
さっきまで笑顔だった王女様の表情が、咄嗟の俺の回答に途端になぜか険しくなる。
「……ご近所さん?」
明と穂乃果の表情は眉間にしわが寄っており、なぜか疑問形だ。そんなに俺が信用ならないのか。
「ああ。昔引っ越してきたイギリスの人らしくてね。生まれは向こうだけど、育ちはずっとこっちだって話で日本語しかしゃべれないみたい」
「ふーん。そんなもんなのか……」
俺の説明になんとか納得はしたのか、高校生組の表情は元通りであったが、王女様の表情はますます険しくなるばかりである。なぜだ。
「マコト様。そんな他人行儀な紹介はやめてください」
不機嫌な顔と声音で王女様が不満を漏らす。
ちょっとあなた、何をおっしゃってるんですか? 黙っていていくださいと申し上げたはずですよね? 同意は得られてないですけど、めんどくさいことになるってことはわかりますよね?
「――私はマコト様の婚約者ですわ」
「「「はあっ!?」」」
王女様の投下した爆弾に、俺たち三人が驚きの声を上げるのだった。