114 転生者は異世界で何を見る? -売却-
「大丈夫だろ。裏路地なんかに入り込む気はないし」
何となしにそう零すが、実際に問題になるとは思えない。まぁ裏路地でなくても人気のないところで襲おうと思えばいっぱいあるだろうが。
どうせならなんとか人通りの多いところで襲ってくれないかな。撃退するだけなら簡単だが、今後他の人間にも迷惑をかけないようにしようと思えば、公に捕まってくれるのが一番である。
ってか、誰も見てないところで撃退して、「襲われました」って衛兵に突き出してもちゃんとしょっ引いてくれるのかな。
「いやそういう事じゃねーよ! ……あいつら評判は悪いがそこそこ強いぞ? しかも両手に花状態で二人も守りながらってのは難易度が高いと思ってな……」
「ははっ、心配してくれてありがとよ。だけど大丈夫だ」
ひらひらと手を振りながら問題ないことをアピールするが、俺の軽い口調に信じてくれるものは誰一人としていないようだった。
苦笑いをする者や呆れ顔の者が大半を占めている。
「いくらコボルドキングを倒せる実力があるって言っても、あいつら三人とじゃちょっと分が悪いぞ」
「そうなのか」
ということはあの三人はコボルドキング以上ってことか? だけど俺からするとどっちもそう変わらんだろう。
もちろん俺だけじゃなく、フィアが相手をしても一緒だと思う。まぁそんなことはさせないが。
「マコト殿! 査定結果が出ました!」
そんな中、俺たちの会話をぶった切るように素材カウンターのスキンヘッドの男が割り込んできた。もう三十分たったのか。
顔に似合わずまじめな口調だったが、空気を読めないところは見た目通りなのか。
しかしまぁ無駄な心配をされ続けることから解放されると思えばありがたい。
「わかりました。
すまん。えーっと……、先に受け取ってくる」
「おう、行ってこい」
先にお金を受け取ろうと男に断りを入れようとするが、そういや名前がわからなかったので曖昧に濁して素材カウンターへと向かう。
しかしさっきの悪人面した三人組に比べたら好感が持てる男だな。悪いヤツではなさそうな気がする。
「お待たせしました。非常に状態のいいワイルドボアでした。大きいほうが213万リル、小さいほうが124万リル、薬草が39束で7800リル、合計337万7800リルとなります。
そして、こちらがギルドカードになります。入街税の処理も終わりましたので、あなた方のランクもGからFとなっております」
査定結果が書かれているであろう用紙を素材カウンターのスキンヘッドの男が読み上げ、ギルドカードを返却してもらう。どうせ文字は読めないのでさっさとアイテムボックスへ仕舞う。
一部の人間に査定額を聞かれてしまったが、まぁいいか。すでにフラグは立ってるだろうし。
しかし一気に金持ちになってしまったな。アイテムをドロップするゲームの世界と違って、この世界だとお金を稼ぐのも簡単な気がしてきたぞ。
以前デクストに聞いた素材の話によると、ワイルドボアからは大量の肉が獲れるんだったか。あの大きさならトン単位の肉になっても不思議じゃない。
単価はわからんが、100グラム100リルとしても簡単に100万はいくな……。実際にそうなったけど。
袋の中を確認すると、金貨が33枚、銀貨が77枚、銅貨が8枚入っている。
ということは、銅貨10枚で銀貨1枚になるが、銀貨は100枚で金貨1枚ってことか。くそっ、いろんな世界の通貨を見すぎてきたせいか、覚えられる気がしない。
とりあえず邪魔だからアイテムボックスに仕舞うか……。
「ははっ、大金だな。
……ああ、そういや俺はガングスってんだ。よろしくな」
「ああ、知ってると思うが俺は誠だ」
俺も自己紹介をすると、横にいたフィアと瑞樹も倣って自己紹介をする。
「しかし、さっきの三人組じゃないが、他の人間にも気を付けろよ。
綺麗どころを二人も侍らせた上にそこそこ金持ってるってことが周知されたんだ」
素材カウンターから戻ってきたところでガングスから忠告を受けたが、しゃべってる本人の機嫌がなぜか悪くなっている。
美人と言われたフィアはまんざらでもない表情だが、瑞樹は微妙な表情だ。気持ちはわからんでもないが、実際に瑞樹の見た目はかわいいんだよね。
「くそっ、面白い男だと思ったがまったく面白くねぇじゃねーか」
最後にそんな悪態をついていたが聞こえなかったことにしておこう。
「……まったく、お前らときたら……、また面倒なことになりそうだな」
そこへデクストも混ざり、ため息とともにそんなセリフを零してくる。
っつかこんなことになったのはあんたのせいじゃないの?
「デクストの言う通りに素材売っただけだぞ?」
若干の嫌味を込めてそう言ってやると、「うぐっ」っと言葉を詰まらせるデクスト。
オッサンがワイルドボアの話を出さなけりゃこんなことになってなかったはずだ。アイテムボックスからワイルドボアをその場で出した自分の行為を棚に上げてオッサンのせいにしておいた。