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異世界召喚編
第1章第4話【異世界召喚】其の3
「き、貴様……」

 亮真の言葉を聞き、ガイエスは覚悟を決めた。
 ガイエスが言いたくなかった事。其の全てを、亮真が知ってしまったからだ、
(もうどうにもならん。ここまで知られてしまったら……ワシが何をどう言おうと、コヤツがワシを生かしておくはずがない)

 召喚直後に関わらず、我々に対して先制攻撃を行う状況判断の早さ。素手で四人もの兵士を殺害できる戦闘能力。情報を引き出すために躊躇無く拷問を加えられる冷酷さ。其の上でガイエスの漏らした情報から、的確に考察する知恵。
(この男を使役出来たならば……我がオルトメア帝国は、西方大陸の覇者となることも可能だっただろう……)
 そんな思いが、ガイエスの心を過ぎる。だが、目の前の男は、完全に帝国と敵対してしまった。
 帝国が彼を呼び出した目的を理解してしまったのだから。
 そして、自分達が異世界人をどのように思っているのかを。
(ワシはここで死ぬのか……いや! ここで死ぬわけにはいかん。王とワシの夢をこんな所で潰される訳にはいかんのだ!幸い、傷は法術で塞げる。機会を窺うのだ……それしか活路はあるまい)
 帰還の手順が無い以上、この冷酷な男が自分を生かしておくとは到底思えない。ガイエスは十分其のこと理解していた。
(コヤツは今、ワシが怪我をしていると油断しているはずだ……なら、コヤツがワシを殺そうとする一瞬に賭ける!)
 ガイエスは一瞬の勝機に全てを掛ける為、亮真の気配を探った。亮真の警戒が緩む一瞬を。

「図星か……参ったな」

 亮真は天を仰いで嘆息した。
 嘘をついていない事は、老人の顔色を見れば疑いようが無い。
 好きでもない拷問をして情報を引き出したのは、嘘をつかれないためだ。だが、出た結果は最悪だった。
 しかし、まだ足りない。直ぐに帰れないのなら尚の事、この老人には色々と聞き出さなくてはならないのだから。
 例えどんな手を使ってでも。自分自身が生き延びる為に。

「あんたら何で俺を召喚したんだ? 生かして帰す気が無いってことは、奴隷か何かにでもして死ぬまでこき使う気か?」

 亮真の問いに対してガイエスは返答に詰まった。

(まただ、また要点を的確に聞いてくる)
 ガイエスは亮真の顔を見上げた。
(ダメだ! この男にはすでに答えが出てる。私がどんな嘘をついても見破るだろう……この男が私に質問をする理由は確認の為だ)
 亮真の揺らぎのない瞳を見た時、ガイエスは悟った。
 彼は亮真を騙すことを諦めて、真実を口にする。

「お主ら異世界人を使って……戦争に勝つためだ」

 それは、最も悪意に満ちた身勝手な理由。
 地球から召喚された人間は、ただひたすらに戦場へと狩り出される。
 だが、ガイエスの言葉を聞いても、亮真の表情は変わらない。ただ、淡々とした表情で事実を確認していくのみだ。

「戦争にねぇ……もうちょいと詳しく説明してくれよ。俺の知る限り、俺の世界では、あそこの鎧の奴らみたいに、剣だの槍だの使って戦うのにな慣れている奴なんていないはすだぜ? それに爺さんみたいに手から雷を出すことが出来るヤツもな。それとも異世界ってのは複数あって、そういう力を持った奴を召喚するのが目的なのか?」

「イヤ。ほかにも異世界はあるが人間が居る異世界はおぬしの世界だけじゃ」

「ふぅん。俺の世界の人間呼んだって戦争なんか出来ないだろうに。何が目的なんだ?」

 この質問に答えるのは危険だった。だが、ガイエスは生きることを諦めはしない。
 彼は帝国を支える柱の一人なのだから。

「それはおぬしら異世界人が、この世界最高の戦士になる可能性があるからじゃ」

 ガイエスの言葉を聞き、亮真の顔に疑問符が浮かぶ。

「最高の戦士……ねぇ? 訓練もしてないやつらが最高の戦士になれるのかね?」

 亮真の疑問は尤もだった。彼と同じく、召喚した人間に武術の心得があるとは限らないのだから。

「ひょっとして召喚される人間には、一定の力を持つ者に限るとかって条件でもつけてるのか?」

 もし、そうで有るならば説明がついた。しかし、亮真の問いにガイエスは首を横に振る。

「どのような者が召喚されるかは完全に運任せじゃ」

 だが、それが本当ならば大多数の人間は、戦う術を知らない人間と言うことになる。
 戦国時代ではないのだ。武術は既に文化になってしまっている。
 現代社会で、武術を戦う為の道具として修練している人間など、ほんの一握りでしかないのだ。
 大多数の人間は、動物を殺す事だって忌避する。果たしてそんな人間達を召喚することに意味があるというのか?

「なら、異世界からド素人を召喚しても何らかの利益があるってことだな?」

 亮真の言葉にガイエスが頷く。

「この世界では他の生物を殺す毎に其の力の一部が己の物になる。そして異世界人はこの世界の人間よりも力の吸収率が良いのじゃ」

 亮真はガイエスの言葉を理解しようと勤めた。

「なんだそりゃ? て、事は俺がさっき殺した4人の力が俺に宿ってるって事か?」

「その通りじゃ」

 亮真は自分の体を見回した。しかし、別に普段と大差は無い。
 腕が太くなることも、足が長くなることもない。外見上は何も以前と違ってはいなかった。

「実感がないんだがな?」

「人間を殺したところで、吸収される力はたいしたことが無いからじゃ」

「さっぱりわからねぇな?」

 人を殺して力を吸収する。そんな現象を、亮真は聞いたことがないのだから、彼が理解できないのも当然だ。

「具体的に言うならば、1万人を殺して初めて人一人分の力を己の物に出来るといったぐらいじゃ」

 亮真は呆れた。
 何を言い出すかといえば1万人を殺せと来た。人一人分の力を己の物にする為だけにだ。

「効率が悪くねぇか? 正直そんなに大勢を犠牲にしてまでする価値あるのかよ?」

 亮真があきれるのも無理はない。一万人を殺す労力を考えれば、全く割の合わない話なのだ。

「対象が人間ならばじゃ。例えばドラゴンを殺したのな1匹でおそらく10人分ぐらいは力を得られるはず
じゃ」

 ガイエスは必死で話を続けた。
(もう少し! もう少し時間を稼げば、きっと兵士達がやって来る。何時までも戻らぬワシを不審に思いってやって来るはずだ!)
 其の思いが、彼の最後の希望だった。

「ふ〜ん。まぁ、その力を吸収するって話はわかったけどよ。結局なんで異世界からわざわざ召喚するんだ?」

「一つは吸収率が高いからじゃ」

「あん?」
 
 ガイエスの言葉に、亮真は再び疑問の言葉を浴びせた。

「つまり、異世界人とこの世界の人間が同じ種類同じ数を殺したと仮定した時に、明確な力の差が出るからじゃ」

 ガイエスの言葉を聞いた亮真の眼が細まる。

「なるほどな。召喚した後の成長率の差を重視したってことか……訓練経験が無い人間でも、最終的にはこの世界の人間より強くなる。それなら異世界人を育てるほうが良いってことか……」

 突如、亮真のつぶやきが途切れた。そして、針の如き鋭い視線がガイエスに突き刺さった。

「そう言えば爺さんよ……あんたの傷は治ったみたいだな?」

 ガイエスの背筋に冷たいものが走った。
 ガイエスは亮真に殴られた後、腹を抱えて蹲ったときからずっと治癒術を使用していた。
 それを見破られたからだ。

「な!」

 驚きの声を上げるガイエスに、亮真は冷たい笑みを浮かべた。

「そりゃあ気が付くだろうよ。肺にダメージを与える様にアバラを砕いたんだぜ? 話すにも血が絡んでゴホゴホやっていた爺さんが、いきなり流暢に喋ってるんだ。となれば自分で治療したってことだろうよ……腹を抱えて蹲っていた間にな」

「き……貴様! 初めから気が付いていたのか?」

 亮真はガイエスの問いに肩を竦める事で答えた。

「なぜだ……なぜ?」

「なぜ黙ってたかって? あんたが治療の時間が欲しくて色々と喋るだろうと思ったからさ。それにあんた俺が隙を見せないか探っていたな?」

「き……貴様……其処まで判っていたのか!」

「そんなに驚くこと無いだろ? ホントに俺の隙を狙うんなら、ずっと重傷の演技を続けるべきだったな……まぁ、いいさ。とりあえずアンタの話は判った。アンタの言葉がどこまで本当かは知らないけど、とりあえず直ぐに帰る事は出来ないのは確定みたいだな……」

 亮真の口に皮肉な笑みが浮かべガイエスへと近づく。 
 ガイエスは無意識に後ろへと後ずさった。亮真への恐怖が、彼の体を無意識に動かしたのだ。

「ああ。余計なことはしないほうがいいぞ? とりあえずいろいろと教えてくれたからな。苦しまないように殺してやるからさ。代償としてな……どうだ? 悪くないだろう?」

 亮真の言葉を聞きガイエスは最後の賭けに出た。
 勝機は今しかなかった。例え其れが、どれほど0に近い勝機であっても。

「風の……グハ」

 ガイエスの喉に突き刺さる手刀が、彼の詠唱を妨害する。

「言ったろ?」

 再びその場に蹲るガイエスへ、冷ややかな視線を向けながら亮真は言い放つ。
 亮真の下段蹴りが蹲るガイエスの後頭部へと吸い込まれた。

 グシャ

 水気を含む果物を踏み潰すような音が響く。

「余計な事をすると苦しむって」

 この亮真の呟きが、ガイエス・ウォークランドのこの世で聞いた最後の言葉だった。


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