書けるときに書かないとまた何時仕事が忙しくなるか判らないので。
まだしばらくは不定期に更新することになります。
異世界召喚3日目【救出】その3:
「取り戻すだって?馬に今から追いつける訳が……」
サーらの言葉を聞き、亮真の視線がはるか彼方を見る。
盗賊の駆る馬は既に150Mは先を駆けていた。
「まだ大丈夫です。」
ローラはそう言うと再び詠唱を開始した。
「風の精霊シルフよ。我が求めに応じ。かの者を切り裂け。疾風斬撃!」
呪文を唱え終わったローラが右手を横に振りぬくと、其の軌跡に風の刃が生まれ盗賊の方へと飛んでいく。
フォン
風斬り音が盗賊耳に響く。
「な・・クソ!。なんで法術が使えるんだ!あのやろうも法術士だったのか?!」
亮真の顔を頭に浮かばせながら必死で馬を駆る。
だが盗賊がいくら悪態をつこうと現実は変わらない。
2発目3発目・・ローラの腕が振られるたびに腕の軌跡に沿って風の刃が生まれ盗賊へ向けて放たれる。
「ち・・畜生!」
次々と放たれる風の刃が遂に馬の後ろ足を薙いだ。
右後ろ足を突然断ち切られた馬は、その場に崩れ落ちる。
「さあ。参りましょう。」
馬を足止めすることに成功したローラは亮真の手を引く。
「おっ。オイ。」
ローラに手を繋がれたまま駆け出した亮真は直ぐに異変に気がついた。
亮真の体もまた羽が生えたかの様に駆け出した。
まさしく10秒程で盗賊の倒れこんだ場所まで駆けつける。
亮真は今駆け抜けた距離を見返して愕然とする。
(こいつは……あの爺が使っていたのと同じ力なのか?さっき彼女が使った風。あれは間違えなく同じ
力だった。なら今のこれはいったい……)
「風の法術の力ですわ。ご存知ありませんか?」
亮真の顔に戸惑いが浮かんでいるのを察してローラに不信感が広がる。
(この人は一体・・・あれほどの武芸の腕を持っているのに法術の知識が無いの?……いいえ、そんなことはありえないわ。でも……)
この世界での強者と法術は密接な関係を持つ。
仮に法術が使えないとしても知識としては誰もが持っていて当たり前のものだった。
亮真は返答に詰まっていた。
(知らないとは言えない。だが余計な事を言えばボロがでる。どうする!?)
沈黙がその場を支配した。
「姉さま。」
サーラが声を掛けてきたことで、2人の間に横たわった微妙な空気が一変した。
「怪我はない?サーラ?」
「ええ!きちんと受身を取ったから大丈夫。」
(受身……確かに可能かも知れないが、あれだけ疾走していた馬から放り出されて無傷で居られるとは……)
この姉妹は亮真の想像通りかなりの使い手らしい。
「そう。ところでサーラ。盗賊は?」
「馬の体に足を潰されて動けないみたい。どうしたらいい?姉様」
「ご主人様に決めていただきましょう。」
二人の視線が亮真に注がれる。
「俺か?」
(まぁ悩む必要は無いんだよな。)
亮真にとって盗賊など生かしておく利点が無い。
「俺が決めていいなら決めちゃうぜ?」
2人が頷くのを見ると亮真は剣を抜いて馬の方へと近づいていく。
「ブルブブブル」
「クソ!足がぁ!どけこのバカ馬が!」
馬の嘶きと共に、盗賊の悪態と馬に蹴りを入れる音が聞こえてくる。
「て・てめえ・・」
亮真が近づいてきた事に気がついた盗賊の顔が引きつった。
「おい!来るな来るんじゃねえ!俺に近づくな!」
だが亮真の足は止まらない。
亮真の手に剣が握られているのを見て盗賊の顔が恐怖に歪む。
「な……なあ?勘弁してくれよ。金か?金ならやるよ!それとも女か?そっちもやる!」
だが亮真は無言で歩みを進めるだけだ。
「て!てめ!下手に出れば付け上がりやがって!俺ら【紅月団】は団員30名だぞ!?」
亮真は盗賊の前でゆっくりと剣を振り上げた。
「ま。待て!俺らはただの盗賊じゃねえ!ザルーダの私掠部隊だ!俺らに手を出せばザルーダ王国が黙ってねえぞ!」
散々盗賊のわめきを聞いた後、無言だった亮真の口が開いた。
「バカか?お前?」
「なに?」
今まで無言だった亮真の言葉に盗賊は思わず聞き返してしまった。
「お前を殺せば誰がお前達を殺したかなんで判らないじゃないか?死んでからそのザルーダ王国とかに知らせるのか?」
亮真の当然の疑問に盗賊の顔が呆けた。
「死人は何も出来ないさ。それにどっちにしろお前達を生かしておく気は無いよ。」
亮真の言葉の意味がわかったのか盗賊の顔色が変わる。
「や……やめろ。止めてくれ。俺には娘が!」
悪党の態度というものは小説も現実も大差が無い。
弱いものには噛み付き、強いものには哀れみをこう。
ライトノベルの主人公なら躊躇するかもしれないが、残念ながら亮真はそんなに甘くなかった。
「子供が居ようとどうしようと関係ないね。」
顔色ひとつ変えずに言い放つ。
「やめ……やめろぉぉぉぉ!」
男の顔が恐怖で引きつる。
ザシュ
盗賊の頭上に無慈悲な鉄槌が振り下ろされた。
「よろしいのですか?あっさり始末してしまって。」
「?なにか問題あったか?」
剣を鞘に納めた亮真にローラが声を掛けた。
どうやらこの姉妹で一番交渉事に慣れているのはローラらしい。
「いえ。ですがいろいろと聞くべき事が有ったのではないかと?」
「いや。正直に言ってあまり興味ないな。それにアイツの言葉が本当かどうかの判断材料も無いしね。」
「判断材料ですか?」
ローラの顔に訝しげな表情がよぎる。
亮真は内心人を信じやすい子だなと思いながらそれを口にすることは無かった。
実際亮真の考え方は人間不信に近いものがある。
「あんな盗賊の言葉を信じるほどお人よしじゃないだけさ。まぁ真実を喋っていたとしても関係ないけどね。……ところで妹さん、無事に取り戻せて良かったよ。」
「ありがとうございます。ご主人様。」
そういうと姉妹は深々と頭を垂れた。
亮真は謝意を受け入れながらも先ほどから気になっていた疑問を口にした。
「いや。それはいいけどさ。其のご主人様って何?さっきから気になってたんだけど。」
「先ほど私達と血盟を結んでくださったではありませんか?私達の主人になられたのですからご主人様とお呼びするのは当然ですわ。」
亮真の顔に疑問譜が浮かぶ。
少し考えた後に亮真の脳裏に浮かんだのは先ほどローラの求めで斬った指の血だ。
「血盟ってさっきのヤツ?薬指を切って血を混ぜた。」
「はい。」
するとローラの後ろに居たサーラが前に出てきた。
「ご主人様。私とも血盟を交わして頂けませんか?」
「そうね。ご主人様、サーラとも血盟を結んではいただけませんか?。」
(なんだこりゃ・・・どうなってるんだ?)
次々と話が勝手に進んでしまい、亮真は1人置いていかれたような格好だ。
亮真は思わず天を仰いでしまった。
「悪いんだけど勘弁してくれよ。というかローラも俺に仕えてくれなくていいよ。」
亮真の言葉がよほど予想外だったのか、姉妹の顔に悲しみが浮かぶ。
「そ……そんな。私達がお嫌いですか?」
サーラの目に涙が浮かびローラの表情が曇る。
「いや。そうじゃなくて。」
「そうじゃなくて?」
姉妹が亮真を上目遣いで見上げてきた。
絶世の美女といってよい二人の視線は亮真の心を掻き乱す。
乱れる心を抑え亮真は受諾の言葉を飲み込み尋ねた。
「君達、旦那様を待つんじゃないの?ここで」
「血盟を結んだ以上、アイツの命令を聞く必要はありません。」
ローラがあっさりと言い放った。
「ただサーラは今もアイツの拘束呪で縛られているので、此処から動く事が出来ません。ですからサーラとも血盟を結んで頂きたいのです。」
「?てことは町に向えるの?」
「「はい!血盟を結んで頂ければ。」」
二人の首が盾に振られる。
(しょうがないか。出来ればこの子達を此処においては行きたくないしな。)
追っ手から逃れる身でありながら、色々と厄介ごとに巻き込まれる自分が恨めしくて仕方が無かった。
しかし、助けられる手段があるのに見殺しにも出来ない。
亮真は大きなため息を一つついて言った。
「判った。とりあえず其の血盟ってのを結ぶよ。其の後は馬車の荷物を整理して金目の物を持ってアルーの町へ向かおう。今から向かえば20時頃にはつくはずだし。ただし街に着いたらどういう事なのかきちんと説明してもらうよ?」
「かしこまりました」
安堵の笑みを浮かべた姉妹の声が森に響いた。
亮真はサーラとの血盟の後、馬車まで戻り盗賊達が並べていた品物を点検した。
「おいおい。ずいぶん高そうな物ばかりあるな?」
金貨の詰まった箱の他に、サファイヤやルビーと言った宝石を散りばめた髪飾りや腕輪などが多数見つかった。
「奴隷を売るときに着飾らせるんです。そうすると見栄えが良くなって高値で売れるんです。」
「ふぅん・・・」
襲撃された馬車の大きさを考えれば10人前後は奴隷が居たようだ。
「この金貨は私達の仲間を売り払った代金なんです。」
ローラ達姉妹と同じぐらい美しいのならば、其の代金としてこれほど多量の金を運んでいたことも頷けた。
姉妹の目には売られた仲間を思い出したのか涙が浮かんでいた。
ガサ・・・ガサ・・・パキ・・・
話を遮るかの様に森の奥から木々を踏み分ける音が聞こえる。
「ローラ。サーラ!」
亮真の声に姉妹が用意していた剣を抜いた。
もちろん盗賊の死体から剥ぎ取った剣だ。
即席にしてはかなり効率のよい陣形だ。
(怪物か?それとも盗賊の残りか?)
亮真の予想を裏切り聞こえてきたのは人間の声だった。
「旦那ぁ!此処ですぜ!」
森の木々を掻き分けて男が街道へ出てきた。
男は辺りを見回し、亮真と姉妹の存在に気がついた。
「おお!荷物は?商品はどうなっておる?!」
男の後に続いて鎧姿の男が3人現れた。
声は其の後ろから発せられた。
「どうやら盗賊共は逃げたようですぜ?荷物の方はダメなんじゃ無いですかね?……商品は大丈夫みたいですぜ?此処に居ます。」
「なに!?ローラ達め。生きておったか!どうだ?盗賊共に汚された様子は無いか?傷物にされていれば値が下がってしまう!」
「其の心配は無いみたいですが、ちょいと厄介な事になっているかもしてませんぜ?」
男の視線が亮真達3人に向けられている。
「なに!?どういうことだ?」
「旦那ぁ。とりあえず安全なようですし、いい加減こっちに来て下さいよ。」
「本当に安全なんだろうな?」
そう言いつつ草木を踏みしめる音が聞こえてくる。
(人か?これ)
亮真が思うのも無理なかった。
現れたのは身長170程、体重200Kgを軽く超えていそうな豚だった。
力士に見られるアンコ型といわれるような、筋肉の上に脂肪を纏った体型ではなく、日ごろの運動不足と暴飲暴食でひたすら脂肪のみが蓄積されたような体だ。
上半身裸で袖の無いベストを直接つけ、頭にはターバンを巻きズボンは白いアラビアンパンツとアラビアンナイトに出てくる商人のようだ。
(コイツが奴隷商人か。これならローラ達を置いて逃げたのも納得だな……)
亮真は目の前に現れた豚を見てある意味納得した。
おそらく奇襲を受けて直ぐに、なりふり構わず自分とその周りの護衛だけ連れて逃げたのだろう。
そうでなければこの肥満体で盗賊達の刃から逃げられるとは到底思えない。
「おお!2人共無事であったか。盗賊たちに汚され殺されたか、連れて行かれたかと思ったぞ!」
そう言うと姉妹達に歩み寄ってきた。
「来るな!」
サーラの剣が奴隷商人に向けられる。
「近寄れば刺します!」
だが奴隷商人にも護衛の男達にも嘲りの笑みが浮かぶ。
「旦那ぁ。お嬢様がえらい強気ですぜ?」
「まったく。奴隷としての分際をわきまえぬな。しつけが甘かったかな?」
「なぁお嬢さんよ。忘れちまってるかも知れないが、こちらに居る旦那がお前達の所有者だ。お前達はこ
の方の持ち物。持ち物の分際で主に剣をむけるたぁどういうつもりだ?」
「黙りなさい!もはや私達はお前達の所有物ではありません!」
「ガァハハハ。貴様ら勘違いしておるな?お前達はワシの物よ。大事に5年も掛けて磨き上げた大切な商品よ。」
「貴方は私達を捨てて逃げたではないですか!」
「当然じゃ?商品に固執してワシが死んでは意味が無い。だが捨てた商品がこうして元の場所に落ちて居るんじゃ。再び拾って何が悪い?」
まったく悪びれる様子の無い奴隷商人と護衛に、亮真は怒りより嫌悪感を感じていた。
「まぁまぁ。旦那ぁ。此処は俺達に任せてくださいよ。」
「そうですぜ。いくらあいつらが強くても主の居ない状態じゃ使えやしません。」
どうやら連中はローラ達姉妹が力を使えるようになったとは考えていないようだ。
5対3。
奴隷商人を倒せば、後は何とかなる。
「あそこの若造がなにやら吹き込んだんで調子に乗ってるんでしょうよ。」
そういうと連中の視線が亮真へと向けられた。
「なるほどな、貴様が余計な事を言ったのか。白馬の王子様って訳だ。まぁいい。盗賊の襲撃でこっちもだいぶ損害を出したしな。奴隷は1人でも多いほうが良い。オイ!お前らあの若造も生け捕りにしろ。なかなか良い体格をしておる。労働奴隷としてなら売れそ……グフ。」
奴隷商人の首にいつの間にか銀色に輝く輪が突き刺さっていた。
無言のままに亮真の手から放たれた戦輪が、奴隷商人の喉を切り裂いて其の言葉を途絶えさせる。
周りの護衛達に動揺が走る。
(バカが。しゃべり過ぎだ。)
相手に明確な敵意を見せていながら喋り続けるなど亮真から見れば愚かとしか言い様がない。
(わざわざ攻撃される隙を作るようなものだろうに……)
亮真の心の片隅に死んだ豚に対しての嘲りが広がる。
だが今は戦闘中だ。
亮真は侮蔑の心を押し殺し今やらねば成らないことを行う。
「今だ!」
亮真の声に反応して横の2人が前に飛び出す。
ローラとサーラが亮真の脇をすり抜けると、動揺し臨戦態勢を取っていない護衛たちに襲い掛かった。
(思ったとおりだな。)
亮真の想像したとおりの結果が目の前に広がる。
姉妹の剣にはそれぞれ特徴があった。
ローラの剣は力の剣。
高速で振るわれる剣が振りかぶった相手の剣と激突した瞬間、相手の剣を根元から折れ飛ばし、そのままの速度で男の頭部へと吸い込まれる。
サーラの剣は技の剣。
突きかかってくる相手の剣を巻き込んでそのまま相手の喉を貫く。
「な、なんだテメエら……なんで力が!」
一瞬の隙を突いた攻撃を受け瞬く間に護衛達は姉妹の剣に切り捨てられる。
一番初めに街道へ出てきた男だけが亮真の前に残っていた。
「フンッ!」
姉妹の目が冷酷な光を放ち生き残った護衛を貫く。
「ま、まてよ……オイ。」
ようやく自分の置かれている状況が理解出来たのだろう。
男の顔に焦りが浮かんだ。
「待てよ、なんで?なんで力が使える?……主の無い貴様らには使えるはずがないんだぞ!?」
護衛の言葉に姉妹が嘲りを含んだ笑みを浮かべた。
尤も全く油断していない。
全身に気が満ち、護衛が攻撃をしてくれば即座に反応出来る様に態勢が整っている。
「こちらの方が私達の主ですわ!」
姉妹が亮真に視線を注ぐ。
「馬鹿な。奴隷が勝手に主など……血盟を結べるはずが……」
「私達は幼い頃から血盟の結び方を知っていたわ。私達のお父様から伝えられていたのよ。」
サーラの言葉に護衛の顔色が変わる。
「なに!ならなぜ今まで!?」
「あなたに説明する必要など無いわ。」
ローラの言葉を聴きながら亮真はゆっくりと男に近づいていった。
「クッ。クソ!覚えてやがれ!」
男は最後の賭けに出た。
形勢不利と見て逃げ出したのだ。
(判断は悪くない……だが失敗したな。)
逃げ出した男の背を見ながら亮真は心の中で呟いた。
男は森へ飛び込まず街道を走り出した。
森の中には怪物が居る。
それを恐れてのことだろうが其の判断が男の命を消し去った。
亮真は戦輪を取り出し男の後頭部へと投げつける。
フォン
グシュ
戦輪の風を斬る音に続いて、骨を切り裂く鈍い音が続いた。
「さてと。色々と聞きたい事が有るんだけどとりあえずアルーの町まで行こう。話は其の後だな。」
亮真は戦輪を回収して2人へと言った。
「「かしこまりました。」」
亮真へ頭を下げると、2人は金目の物を整理しに散らばる。
(ちょっとした人助けのつもりがめんどくさい事になりそうだな……)
亮真を主と慕う2人の後ろ姿を見ながら亮真は嘆息した。
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